もぐれ!モグリール治療院 第27話「支配者は通り雨のように訪れる」
ドラゴン……オルム・ドラカの支配者であるらしい。一部頑なに従わない種族もいるものの、住民たちからは神のように崇められ、かといってリザードマンを除いて、そこまで妄信しているわけでもないので、神というよりは王の方が近いかもしれない。ここウイベルベイという小さな漁村集落では、もう少し砕けた、村の人気者くらいの感覚で慕われているので、意外と王よりもずっと身近な存在なのかもしれない。
「ドラゴン様? うーん、そうだなあ……ドラゴン様はドラゴン様だからなあ」
ウイベルベイで暮らす人魚たちは言葉にするのが下手なのか、ドラゴンについて尋ねても、なるほどって膝を打つような答えは返ってこない。何人かの漁師に訊いたけど、ドラゴンはドラゴンという種族で、ドラゴンはドラゴンという存在なのだ。
でもまあ、ドラゴンといえば人間の国で語られる姿は巨大なトカゲで、翼が生えてたり首が複数あったりして、火を吐いて強い、そんな感じだ。スルークハウゼンの冒険者ギルドで語られるドラゴンも、おおむねこんな感じで、禁域を調査した連中が持ち帰ったドラゴンの情報もそんな感じだったらしい。
さらにリザードマンはドラゴンを自分たちの祖先と考えて、熱心に信仰しているので、もしかしたら彼らに近い立って歩き回るトカゲに近い姿のドラゴンもいるのかもしれない。
なんてことを考えながら、祭りに現われると噂されるドラゴンを待っていると、村の入り口からわあっと歓声が沸き起こった。
「ドラゴン様だ! ドラゴン様がおいでになった!」
「ドラゴン様だ! よーし、もう1回祭りをやるぞ!」
「ドラゴン様だ! 仕事なんかしてる場合じゃねえな!」
さっきまで網を直したり、獲った魚を仕分けていた漁師たちは仕事の手を止めて、大雑把に魚をひとまとめにして生け簀に放り込み、酒瓶を手にして村の入り口へと駆けていく。漁師たちは人魚なので、下半身は魚の形をしてるのだけど、よくもまあそんな速さで跳ねられるものだって感心するくらい、ぴよんぴよんと動いている。人間やれば出来る、なんてよく言うけど、人魚もやれば馬並みに走れるみたい。
ドラゴンは支配者で神で王なので、走っているのは人魚だけでなく、ゴブリンやオークたちもそうで、みんな笑顔で楽しそうに駆け出している。
「私も見てこよっと」
「同感。ドラゴン、確認」
私も相棒のルチを連れてドラゴンを一目見てやろうと走り出した。
◆❖◇❖◆
ウイベルベイを訪れたドラゴンの一団、私の目に飛び込んできたのは予想していたのとは違う面々だった。私よりも少し小柄な少女を先頭に、同じく小柄でドワーフっぽい骨格をした少女、リザードマンの竜戦士を倍程に大きくして頭に鋭い角と背中に大きな翼を生やした生き物、フォーモリアっていう獣頭を持つ大柄な種族や戦士の気配を持つライノサロスやライカンスロープが数名。この中のどれかがドラゴンだ。
って、見たらすぐわかる話だ。真ん中にいる竜の騎士とでも呼べそうな甲冑を纏った翼付き、これがドラゴンに間違いない。先頭の少女は見るからに戦えそうな雰囲気が無いし、ドワーフっぽい女はそもそもドワーフだ。獣頭の種族はそういう種族だし、ライノサロスやライカンスロープもそれでしかない。
「あれがドラゴン……」
確かに強そう。強そうというか確実に強い。腰の左右に提げた二本の剣は見るからに上質な逸品だし、板金を何枚も重ねて作られた甲冑は弓矢程度では簡単に貫けそうにない。佇まい以上に身に着けている使い手が厄介そうで、全身に纏う雰囲気は抑え込めない威圧感を含んでいて、少しでも敵意をぶつけたら、その瞬間に斬りかかってきそう。
見た感じカルフ兄ちゃんと同じくらい、もしかしたら単純な力比べでも凌ぐかもしれない。少なくとも今の私では歯が立たなさそう。
とはいえだ、ドラゴンといえども生物、ついでにカルフ兄ちゃんも生き物だ。戦いようによっては付け入る隙もひとつやふたつはあるかもしれない。
「……ちょっと手合わせしてみようかな」
「無謀。無理、強敵」
「まあそうなんだけど、でも無理にでも接点を作らないとドラゴンのお墨付きが貰えないでしょ」
そう、私たちがドラゴンと合う理由は今後の旅をしやすくするため。ドラゴンに一目置かれるともなれば、各地の竜戦士やドラゴン信仰者に協力してもらえるし、もしかしたら私本来のかわいさなんかとも合わせて、かなり贅沢な接待なんかもしてもらえるかもしれない。
ついでに後から追いかけてくるモグリールたちも動きやすくなるはずだし、もしあいつらがオルム・ドラカと敵対しちゃった時には私たちだけは見逃してもらえる可能性が高まる。
ドラゴンと仲良くなって損はない。そして手っ取り早く仲良くなるには、昔から力比べだと決まっているのだ。特に今日は祭りの日だ、ドラゴンに挑むっていう余興があってもいいと思うのだ。
「というわけで、たのもーう!」
私はドラゴンとその一団の前に躍り出た。もちろん物騒な武器なんかは持たない、今の私は狼の毛皮を被った普通の体格の、普通じゃない強さとかわいさを持っただけの少女だ。
「真ん中にいる竜の騎士、この地を統べるドラゴン様と見た! 今日は祭りの日、余興としてドラゴン様との力比べをしたい!」
特にドラゴン信仰者じゃないけど一応、呼び捨てではなく様をつけておいた。ドラゴンに向かって、おい、ドラゴンなんて呼んだら、私は村中の猟師から袋叩きにされるに違いない。そんな危険を回避する柔軟性は持ち合わせてるのだ、なぜなら私は意外と世渡り上手だから!
「……余興? そもそもお前、どこの誰だ?」
一団の先頭にいる少女が、首を傾げながら問い掛けてくる。間近で目にして気づいたけど、この少女は人間種族ではない。金色の瞳は瞳孔が爬虫類みたいに縦筋に伸びていて、暗めの紫がかった髪の毛の間からは槍の穂先みたいな形状の角が2本伸びているので、リザードマンの血を引いた混血種とかかもしれない。人間の国ではまず見ないけど、ここはオルム・ドラカで、ドラゴン信仰者が多い土地ならそういう子がいても不思議ではない。
「私はヤミーちゃん、ノルドヘイムの戦士!」
「ノルド……あー、カルフの妹か。確かそんな名前だったな」
「私の故郷では祭りの日に力比べをする風習があるの。ドラゴン様と力比べをして、このヤミーちゃんのすごさを轟かせたい!」
私はそう言ってみせて、改めてドラゴンの姿を瞳に捉える。なぜか角付きの少女が左右に体を揺らしながら、私の目の前をうろちょろしてるけど、悪いけど用があるのはドラゴンであって君ではないのだ。
「どう!? 余興としては悪くないでしょ!」
私を見据えるドラゴンの瞳は、冷たくて鋭くて、正直なに考えてるかさっぱりわからない。意思の疎通が図れるとは思えないけど、みんなこれが支配者でいいの? よく親しみをもってドラゴン様って呼べるなあ……ちょっと、いや、かなり怖い。そもそもさっきからずっと黙ってるし、トロール並みにでかいし、なに考えてるかちっとも読み取れないし。
「おーい、聞いてるのかー?」
少女が私とドラゴンの間に割り込んでくる。さっきから邪魔だなあ、なんだろう、この自己主張の強い女の子は。自己主張が強いのは私の専売特許なんだから、そういうのは私だけでいいのに。
「さあ、ドラゴン様! 勝負だ!」
といってもお互いに武器を持つと死にかねない……私が。あっちが死ぬ可能性も無くはないけど。
そんなことになったら祭りの余興としては大失敗。そもそも祭りどころではなくなっちゃうので、この場は武器ではなく、その辺に立てかけてある訓練用の木剣とか八角棒を使うことにする。
ドラゴンが放り投げた八角棒を掴んだ瞬間、私は身を低くして腰を屈めながら走り、懐に潜り込んで木剣を鋭く突き出す。甲冑のない、とはいえ硬そうな腹部に木剣を突き立てると、岩盤に杭を突き立てた時のような反発が腕に戻ってくる。めちゃくちゃに頑強で、しかも図体以上に重たい。
木剣程度が通らないのは最初からわかってたけど、想像以上に硬くて強い。鉄の武器くらいではとてもじゃないけど貫けない、鋼でも難しい。ロンダリア鋼あたりを持ってこないと無理だ。
「さすがドラゴン……強い!」
硬いだけじゃない。振り下ろされた八角棒の一撃は、受け止めた木剣越しに強烈な衝撃が伝わってきて、指から肘の辺りまでが痺れて動かなくなる。切り返しで放たれた一撃をかろうじて避けて、手をプラプラと揺らしながらダメージをなるべく外へと逃がす。
さらに何度か木剣を打ち合わせてみたものの、技量は完全にあっちの方が上、腕力そのものも私より少しばかり上。身のこなしは体格の小ささで私にちょっとだけ分があるけど、防御力の差を考えたらどっちが立っていられるかなんて言うまでもない。
となれば奇襲だ。手合わせしてみてわかったけど、このドラゴンという生き物は、人間の剣術や槍術とかなり近い技を使う。基本に忠実で手堅い、騎士なんかが使いそうな武術だ。
(だったら……こういうのはどうだ!?)
ドラゴンの八角棒とぶつけ合わせた瞬間、弾き合う力を利用して木剣を滑り落とす。そのまま空中に残された木剣の柄を蹴り抜いて、ドラゴンの喉元へと飛ばし、一気に跳躍して木剣に追いつく。いわゆる奇襲だ、騎士の剣術が基本にあるなら、それが馴染んでいるほど一瞬反応が遅れる。
もちろん奇襲が上手くいったところで、あの硬さは打ち抜けない。でも、いくら頑丈だからって腹と喉が同じ硬さとは思えない。喉であれば木剣でも通じる可能性はある、ちょっとあるかなー、わずかにあるかなー程度だけど。
でも所詮は万が一の分の悪い賭けだ。私の奇襲なんてすぐに見抜かれたようで、木剣を片手で薙ぎ払われて、八角棒が目の前を通り抜けた。顔の前で強い風が巻き起こって、勢いと一緒に突進する動きが制される。
こうなっては勝負は決したも同然だ。木剣は遥かに遠いし、目の前には八角棒の先端が迫っている。
「勝負あり!」
空気を読んだのか、さっきの少女が一声発して力比べという余興は終了した。
「いやー、もうちょっとやれるかなーって思ったんだけど、さすが支配者だけある。強い」
素直に負けを認めて、ぺこりと頭を下げる。ドラゴンは相変わらずなに考えてるのかわからないし、なにも喋らないどころか唸り声も溜め息もひとつとして発さない。
怒ってるのか呆れてるのか、多少は認めてくれたのかさっぱりわからないけど、観戦していた漁師たちからの評判は上々。惜しかったなーとか勇気あるなーとか、そんな称賛と慰めの言葉が投げかけられる。
「それでさ、私は冒険者をやってるんだけど」
ドラゴンは無表情のまま私に向き合っている。もしかして言葉が通じない? でもオルム・ドラカの住人たちと私たちの言葉は同じ、ドラゴンが作ったものだって聞いてるけど。
「おい、いつまで見当違いを続けるつもりだ?」
再び少女が私とドラゴンの間に再び割り込んでくる。まったく、なんて自己主張が激しい子だ。きっとみんなの中でわいわいしてるのが好きに違いない、そしてその真ん中にいつも居座っていたいに違いない!
そういうの直した方がいいと思う。私は直さないけど!
「今ちょっとドラゴン様と話してるから」
少女をどかせようと肩を押した瞬間、まるで大岩を押したかのようなびくともしない重さが手に伝わってくる。少女の体が重たいわけではない。少女の頭から地面に向けて1本の棒が伸びているとして、それが地面の底の底まで貫いていて、その先っぽを押しても動くわけがない、みたいな感触だ。
「なんで?」
「ちょっとした力加減だな。それは別にいいとして」
少女が私の伸ばした腕の手首辺りを握って、
「見当違いもここまで続くと不敬だぞ」
私の体を片手で軽々と、まるで落ちているゴミでも捨てるように易々と宙へと放り投げた。そのままふわりと一瞬重さを失ったところに、少女の掌から放たれた球体のようなものが向かってくる。
「……なんかわかんないけど、やばい!」
球体はよくよく目を凝らしてみると、真ん中に真っ直ぐ飛んでくる球状のものがあって、その周りを小型の円月輪みたいな刃がぐるぐると動き回っている。あんなものまともに受けたら、皮どころか肉を抉られて骨まで持っていかれてしまう。
無理矢理空中で全身を捻って体勢を変えて、腰に提げたナイフをぶつけて強引に軌道を逸らす。ロンダリア鋼で作られた硬くて頑丈なはずのナイフが、一瞬でバラバラに刻まれて目の前から消えてしまう。
その代わりに目の前に現れたのは、いつの間にかすぐ真横にまで飛び込んできた少女の繰り出す、細くて頼りなさそうな脚だった。
「……うぐぅ……ぐえぇっ……!」
少女の足が私の横腹に突き刺さると体の内側からとんでもなく鈍い音が響き、外側からは雪崩にでもさらわれた時のような暴力的な圧力が加わって、私の意識は体と一緒に彼方まで吹き飛ばされた。
その書き消える意識の中で、一瞬だけ確かに、オルム・ドラカの王の言葉を聞き取った。
「ヤミーとかいったな。もし私に挑みたいんだったら力を付け直して出直してこい。もし仲良くしたいんだったら、目が覚めたらすぐ来ていいぞ。他の奴らはともかく、私はすごく寛大なドラゴンだからな」
なんとも情けない結果だけど、これが私とドラゴンの最初の遭遇になってしまった……。
▶▶▶「マリネッリさんと学ぶドラゴン講座」
≪NPC紹介≫
????(ドラゴン)
種 族:魔竜(女、??歳)
クラス:ドラゴン(レベル50)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 66 40 44 34 54 47 42 44 47 54 4↑2↓3(歩兵)
成長率 75 60 65 50 80 60 50 55 65 70
【技能】
短剣:C 剣術:C 槍術:C 斧鎚:S 弓術:C 体術:A
探索:B 魔道:S 回復:A 重装:B 馬術:C 学術:S
【装備】
四界蛇竜の杖 55(15+40/固定装備、魔竜の術具)
ヴェリタス 63(19+44/氷属性、魔法武器)
【スキル】
【個人】竜を統べる王座(隣接するドラゴン系ユニットの命中・回避・必殺+15)
【固有】重装竜戦士の雇用(竜戦士・重の傭兵を呼び出す)
【固有】支配種族(HP20%以下のモンスターを服従させる)
【固有】竜の祝福(指定したユニットのレベルを戦闘終了まで+10)
【固有】竜の血(毎ターンHP25%+状態異常回復)
【固有】逆鱗(HPが100%でない時、必殺+30)
竜騎士
種 族:竜騎士(男、年齢不詳)
クラス:竜騎士(レベル45)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 57 27 25 26 20 29 26 21 5 14 5↑5↓6(飛行)
成長率 55 40 40 35 30 40 40 35 0 20
【技能】
短剣:D 剣術:A 槍術:B 斧鎚:B 弓術:E 体術:C
探索:B 魔道:D 回復:E 重装:B 馬術:C 学術:C
【装備】
エルタニン 40(13+27/炎属性、固定武器)
アルタイス 40(13+27/氷属性、固定武器)
竜騎士の鎧 属性ダメージ半減/固定防具
【スキル】
【個人】竜の騎士(ドラゴン系ユニットと隣接時、与ダメージ+3、被ダメージ-1)
【固有】双剣使い(腕力%で2本目の剣で追加攻撃)
【固有】竜の双翼(未行動で待機時、回避+20)
【固有】火炎(射程4、炎属性魔法攻撃)
【固有】冷気(射程4、氷属性魔法攻撃)
【固有】雷撃(射程4、雷属性魔法攻撃)