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モグリール治療院外伝 ― ルチ・フォナ ―

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モグリール治療院外伝 ―ルチ・フォナ― < 部族の少女と部族の人たちが物騒な冒険を繰り広げるサイドストーリー > ▶ 第1話「人食い部族に囲まれて生贄に捧げられそうになった話」 ▶  第2話「族長が夢に出てきた話」 ▶  第3話「ウミガメのようなスープを食べる話」 ▶  第4話「勇敢なヒルチ戦士と臆病な人間の話」 ▶ 第5話「紙と筆で理想を語り、鉄と火薬で現実を綴る話」 ▶ 第6話「広いようで狭い荒野と砂漠の話」 ▶ 第7話「巨大な人食いサメが砂漠を泳ぐ話」 ▶ 第8話「暴れ牛と挑む泥んこ奇祭の話」 ▶ 第9話「大地を駆ける鉄の馬車と田舎のおのぼりさんの話」 ▶ 第10話「鉄道の隣では烏賊が走っている話」 ▶ 第11話「部族の少女が“人間”の町に踏み込む話」 ▶ 第12話「せっかく都会に来たから下水道のワニを捕まえる話」 ▶ 第13話「交渉という名の机下の殴り合いの話」 ▶  ≪データフェチに送るルチ・フォナ外伝データ集≫ ▶ クラス表 ▶ クラスチェンジ表 ▶ アイテムリスト(武器編) ▶ アイテムリスト(防具・装飾編) ▶ アイテムリスト(消費アイテム編) ▶ 部族図鑑 ※モグリール治療院本編はこちらから もぐれ!モグリール治療院 ※その他の小説はこちら 小説一覧

ルチ・フォナ外伝 第13話「交渉という名の机下の殴り合いの話」

半ば異端者扱いされているとはいえ腐っても教会の高位の司祭、拝謁の機会を得るのは困難だと思っていたのですが、意外にもあっさりと許可が貰えました。懐が大きい方なのでしょうか、それとも豪胆な性格なのでしょうか。まさか油断しがちな間抜けということはないでしょうが、なんにせよお目通りが叶うのは私たちには好都合です。 すんなりと支援を受けられるとは思いませんが、交渉のテーブルに着く姿を見せればルチさんたちから信頼を得られるでしょうし、仮に支援まで辿り着けなくても誠意は汲んでもらえるでしょう。理想をいえば資金や武器の調達、そこまで行けなくとも活動のための後ろ盾……最悪ヨアヒム・ヘイルワード氏の名前を借りれるだけでも価値はあります。ラステディン教会はシェーレンベルク騎士団と並ぶ権威の巨頭ですからね。 「ルチさん、そろそろ行きますよ」 「ノルン、交渉の服……これ?」 ルチさんがひらひらしたスカートを不満そうに摘まんでいます。私だって普段の冒険者風ではなく見栄張って令嬢みたいな格好してるんです、ルチさんも我慢してください。大丈夫、どこからどう見ても育ちのいいお嬢様ですよ。 「ヒルチヒキ族の服、着たい」 ルチさんの言うことも一理あります。今回は私は諸部族解放同盟の使者として、ルチさんはヒルチヒキ族の大使として赴くわけですから、部族の伝統的な装束を纏うのも悪い手ではありません。しかしヘイルワード氏からの印象を少しでも良くするためにも、ヒルチヒキ族は決して野蛮な部族ではなく、文化的で友好的な部族だと思わせる必要があります。公式の場ではこちら側の文化を受け入れる度量を見せる必要があるわけです。 それにヘイルワード氏と顔を合わせる前に、教会の衛兵や僧兵に摘まみ出されては意味がありませんからね。獣の頭蓋骨を被って無駄骨になってしまうなんて、それこそ笑えない冗談ですよ。 とはいえ話の流れではヒルチヒキ族である証明も求められるかもしれません。 手荷物の中にルチさんの普段着といつも顔に塗ってる白い染料、それと頭に被っている獣の頭蓋骨、向こうの暮らしで使っていた石器のナイフや道具、この辺りは用意しておきましょうか。 「着ていった方が早い」 「そこは臨機応変にお願いしますね。その干し肉はやめておきましょう!」 どさくさに紛れてルチさんが干し肉を入れようとしたので、しっかりと制しておきました。さすがに人間の肉...

ルチ・フォナ外伝 第12話「せっかく都会に来たから下水道のワニを捕まえる話」

ベメ・ゲミュビハ、ドゥイ! ルーオ・デモフ・スェボミ・リベレルテ、ドゥン・モラ! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。冒険者ギルドから町内清掃の仕事を紹介されたので、郊外の大きめなどぶ川に来ている。 本当はみんなで来るつもりだったけど、ノルンはヘイルワードとかいう教会の偉い人と面通しが出来るように忙しそうにしてて、カラは掃除なんてしてられるかと教練を受けに行った。ヤクシ兄さんは変に目立つと気の毒なので、宿で留守番ついでに洗濯や武器の手入れをお願いしてある。 そういうわけでこの場は私ひとり、正確には他の冒険者たちもいるからひとりではないけど、実質私ひとりといった状況だ。 町内清掃は文字通り市街地や郊外の掃除だ。普段乱暴者や不審者に思われがちな冒険者たちが、ゴミを拾ったり雑草を刈ったりして住民たちからの印象を良くして、ぼくたち危ないものではないですよーと猫を被るのだという。実物の猫を頭に乗せた方が話が早い気もするけど、世の中には致命的に猫に好かれない人間もいる。なにを隠そう私もその類で、不思議と昔から猫にはよく唸られるし、犬にもよく吠えられる。他のヒルチヒキ族は血の臭いのせいって言ってたけど、血の臭いなら仕方ない。精霊に生贄を捧げないのは、飼い猫に餌をあげない以上の大罪だ。大事にしていこう、精霊も、猫も。 「ふしゃぁー!」 そんな風に思っていても、通りすがりの猫は私を見た途端に牙を剥いて威嚇してくる。懐かれないものは仕方ない、そこまで無理して好かれようとは思わないし、頭に猫は被れない。 そんなことより今は掃除だ。この町内清掃、受付のお姉さんが言うには結構おいしい仕事だったりするらしくて、街路の掃除でもお金を拾えたりするし、酒場街なんかだと酔っ払いが落とした財布が見つかったりする。河川清掃、いわゆるどぶさらいだと交易船がうっかり落とした積み荷とか、誰が落としたのか美術品や骨董品、果ては武器なんかも拾えることがある。さすがに下水道にはうんこと生ゴミくらいしか落ちてないけど、スルークハウゼンには開発途中に勝手に作られた秘密の地下道や隠し部屋もあるらしくて、運が良ければそういう場所が見つかるかもしれない。巧妙に隠された場所ならお宝のひとつもあるに違いない。 というわ...

ルチ・フォナ外伝 第11話「部族の少女が“人間”の町に踏み込む話」

冒険者の町スルークハウゼン、と名前だけ聞くと、いかにも牧歌的で田舎めいた集落のような姿を想像してしまいますが、その実態はまるで正反対です。こんな騎士団の中枢からもラステディン教会の本拠地からも遠く離れた地に、よくもまあこれほどのものを築いたと驚かざるを得ないほど巨大な都市は、人の背丈の優に数倍はある石壁で周囲をぐるりと取り囲み、壁の上には見張り櫓を兼ねた監視塔と軍勢に向けて使うような野戦砲が並ぶ、まさに要塞のような佇まいをしています。こういうのを城塞都市と呼ぶのでしょうか。南のフィアレアド王国との国境線が遠くないとはいえ、これでは最前線の要衝のようではありませんか。 そういえばハルトノー諸侯連合とフィアレアド王国は交戦中でしたね。必然的に守りにつぎ込む予算も増えたのでしょうか、それとももっと強大な別の勢力との衝突に備えてでしょうか。まあ防衛力は高いに越したことはありませんからね。外敵からの脅威が減ってくれる分には文句ありません。 大陸中西部の要所にして冒険者たちの集う町、スルークハウゼンですが、教会で学んだ知識では元々は耕す家の名前の通り、小さな開拓者たちの集落だったそうです。数十年に渡る人間同士の勢力争いと、たまに発生する亜人種族との戦闘の中で大量の移住者が入り込み、増えた人数分だけ土地を開拓して、増えたトラブルの数だけ大地を踏み固めて、いつの間にやらここまでの規模になったのだとか。 ハルトノー諸侯連合の誕生と共に一帯が平定され、シェーレンベルク騎士団の統治下となってからは重要拠点のひとつとなり、オルトア商業連合と教会の影響力も強く及ぶ交易都市として完成しつつあります。 当然ですが騎士団の駐屯地もありますし、開拓者から活動範囲を拡げた冒険者たちを束ねるギルドもあります。商業ギルドや石工ギルド、果ては盗賊ギルドなどもあり、市民生活に深くかかわる類のギルドは行政機関として組み込まれています。 そして教会の支部と大聖堂とまではいきませんが相応に立派な建物もありますし、魔道士育成機関も置かれています。教会支部としての規模としてはかなり大きな部類に数えてもよいでしょう。 「私はノルン・マイグラード、ラステディン教会の研究機関に所属する調査員です。レオーニ・ベルフ教授の調査隊に編入され民族調査の任務に当たっていましたが、ピョルカハイム保護区に入り込んだ無法者の襲撃を受けて、隊...

ルチ・フォナ外伝 第10話「鉄道の隣では烏賊が走っている話」

ワラ・ネルゲ、ドゥエ! タンヌフ・ペリベルテ・プランドーラ、ジョムア・キーニ・ホルメス! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。私ルチ・フォナと愉快な仲間たちは、プランドーラ交易道を南下する鉄道とやらに乗っている。歩かなくて済むのは楽だけど、一日中座っているだけというのは体が石のように凝るし、固いだけの板の上で尻が割れるくらい痛くなるし、不安定に揺れ続けるから油断するとすぐ気持ち悪くなるし、おまけに嫌になるほど煙を浴びせられる。 贔屓目に表現しても乗り心地は崖を転がり落ちる藁の塊以下、つまりは最悪だ。大陸縦貫鉄道は一定の区間を往復している鉄道同士を繋げているので、乗り換え場所でしばらく休めたり、運が良ければ1日2日のんびり過ごせたり出来るものの、こんなものに乗っていると頭がおかしくなると思う。 「気分転換、必要」 煙を防ぐために張った天幕の下でノルンに訴えかける。この天幕のせいで景色もわずかな隙間と後ろ側しか見えず、かといって天幕を外すと全身真っ黒に汚れてしまう。不快感と一緒に旅の楽しみを捨てるか、煤を浴びながら解放感を感じるか、最悪の選択肢しかないのはどうかと思う。 「そうですねー、私もさすがに気が滅入ってきましたよ」 ノルンがただでさえ半眼になりがちな瞳をさらに重たくしながら、うんざりした気持ちを顔全体で伝えてくる。確認するまでもなくカラとヤクシ兄さんも同じような感情を抱いているはずなので、次の乗り換えの時にでも思い切った気分転換を提案したい。 「でも駅逓街で気分転換といっても……お金も正直心許ないですし」 「気分転換に金、要らない。必要、餌だけ」 「まさか釣りとか言わないですよね?」 ノルンが疑うような目を向けてくる。もちろん気分転換なのだから釣り一択だ。犬を撫でるとかそういうのでもいいんだけど、噛みついてこない賢い犬がいるとは限らない。しかし釣りは何処でも出来る。町があるということは、そこには必ず川があるはずだし、そもそも森の中なんだから。 「イカ、釣れる」 「冗談はサメまでにして下さいよ。タコが川にも棲んでるのはわかりましたし、サメが砂漠にいるのも事実だったので受け入れましょう。でも、イカが森にいるのは明らかにおかしいですよ」 ノルンはどうやらイ...