おはようございます。朝の陽射しは何処にいても優しいといいますが、荒野で人食い部族に囲まれたい状態で照らされると、さすがにそうは思えませんね。陽射しは目がくらむように眩しく、どちらかというと残酷に見えてしまいますし、テントの外では人食い部族……ヒルチヒキ族のみなさんが朝も早くから起き出して、原始的な石器槍を研いだり、簡素な桶を持ち出しだりしています。あまり見たくはないですが、昨日まで同じ調査団にいたスコットさんその他数名だった物体の名残が残っていたりして、なるほど残ったお肉は煙でいぶして燻製にするんですね。夜は毛布が欲しくなる荒野ですが、朝は日傘が欲しくなるような暑さになりますからね、そのまま放置するわけにもいかないでしょう。野生生物を狩りにも出るのでしょうが、毎日新鮮なお肉が手に入るとも限りません、保存を試みるのも当然でしょう。 失礼、ちょっと吐いてきますね。 ……げええっ。 ふう、昨日は捕まってから何も食べてなかったので胃液くらいしか出ませんでしたが、吐けばすっきりするというか、覚悟のひとつも決まるものです。スコットさんたちだったものは口にしたくないので、そこはなるべく避けるとして、少しでも彼らとの友好度を高めて信用を得て、どうにかしてピョルカハイム保護区から逃げ出さないと……! そうと決まれば仕事のひとつでも手を貸すべきですよね。なにかお手伝い出来ることはないですかね? 男性陣は槍や弓矢を担いでいるので今から狩りに行くようです。子どもたちと若い女性は水汲みですかね、木製の簡素な水桶を手にしています。高齢、といっても私たちの社会ではせいぜい中年といった方々は、干し肉作りや祭壇の掃除をしていますね。これは選ばれた方々の仕事でしょうから、手を貸すのはやめておきましょう。 「おはよう。えらい、ひとりで起きた」 背後から声を掛けてきたのはルチさんという少女で、この集落の中では唯一の標準語話者です。お姉さん方のような恐ろしい骸骨の化粧ではなく、左右の頬に1本ずつ白い横線を引いているだけなので、あまり部族感はありませんが、頭に獣の頭蓋骨を被っているのでやはり立派に部族の姿をしています。 どうやら一晩で価値観が彼ら寄りになってしまっているのかもしれません。目の前の少女が獣の頭蓋骨を被っていることに、もはや何の違和感も覚えませんし、むしろ頭蓋骨くらいなら安心してしまうくらいです。...