ワラ・ドネバ、ヌン! ダナラ・アルバガソ・フェメルリ・タルダイ! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。せっかくタルダイ族の縄張りに来たのに、このまま帰るのはもったいない。せっかくだから少し遊んで帰りたい。 というわけで私、ルチ・フォナの趣味のひとつに釣りがある。私は釣りをしている時の穏やかでのんびりとした時間が好きなので、隙あらば釣りをしたいと思っているのだ。 「せっかくの砂漠、釣りする」 「釣りって、どこで……ああ、オアシスですか?」 ヒルチヒキ族が客人兼捕虜兼同盟者として預かってるノルンが、いつものように少しズレた返事を返してきた。このノルン、少々疑わしいところがあるものの基本的には善人で、ただし世間知らずなのか時々よくわからないことを言い出すところがある。例えば今みたいな。 「釣り場、砂の上。オアシス、そもそも入れない」 ノルンは知らないみたいだから教えておくと、貴重な水源であるオアシスはタルダイ族にとって命よりも大事な生命線。交流のあるヒルチヒキ族といえど易々と立ち入らせるわけにはいかないし、今回みたいにノルンのような外部の客がいる時は論外だ。普段私たちが踏み込めるのはオアシスではなく、ぐるっと周囲に築かれた防壁や塹壕辺りまで。オアシスにもオアシスの手前に建てられた砦にも近づけさせてもらえない。 オアシスに立ち入れるのは基本的にタルダイ族だけで、特別に許可を与えられるのはタルダイ族に嫁いだ女、傭兵として仕事を運んでくる交渉役、物資と装備を運ぶ砂漠の商人だけ。 それと例外的にタルダイ族の中でも地位の高い戦士たちの同行者。ちなみに私が前に右腕の蛇の刺青を入れた時は戦士長に同行してもらった。 「随分えらい方と知り合いなんですね」 「タルダイの戦士長、釣り仲間。釣り友、年齢、立場、関係ない」 タルダイの戦士長は釣り好きで、彼がヒルチヒキ族の集落を訪れた時に仲良くなった。私ほどじゃないけど中々の腕前で、ちょっと大物を狙い過ぎるところがあるけど、どうせ釣るなら大物を狙いたいというのは誰しも同じだ。 そういう点でも気の合う釣り仲間だ。魚を捌くのも上手だし。 「なるほど。では今日も戦士長さんに頼めば……」 「戦士長、しばらく留守。傭兵に出てる、半年は帰ってこない...