ヒルチヒキ族の集落で寝泊まりしだして10日ほど経ちました。慣れない食べ物に何度かおなかを下したり、夜な夜な幻聴に苦しめられたりしましたが、ここのみなさんとも少しは打ち解けてきました。 最初はルチさん以外には完全に疑いの目で見られていたものの、今ではまだ小さな子供たちと一緒に水を汲みに行ったり、お姉さんたちと一緒に狩りに出向いたりする程度には信用されているみたいです。信用というよりは、居るのを許してやるって程度ですけど。 個人的にはこのまま情が深まってしまう前に商人と接触して、どうにかピョルカハイム保護区から出たいところですが、商人とはいつ交易を行うのでしょう? 「ルチさん、次に商人と会うのはいつ頃ですか?」 ルチさんは矢で射抜いた獣と物置として使っているテントを見比べて、少し目を細めて考え込んで、 「毛皮、まだ少ない。この調子だと、1ヶ月、2ヶ月、もう少しかかる」 そう答えながら獣に石器ナイフを突き立ててとどめを刺して、解体の得意なお姉さんたちに渡しました。どうやら商人との交易はしばらく先のようです。 私は無事に元の生活に戻れるんでしょうか? さすがに月単位での暮らしには不安を感じますよ。 「……不安わかる。ノルン、証明したい。同盟、部族解放?」 「そうなんですよ。私としてもみなさんへの支援を早く取り付けたいわけです」 もちろん嘘です。そもそも諸部族解放同盟なる組織は存在しません。いざとなったら適当に人を集めてでっち上げる覚悟もありますけど、基本的にはルチさんたちに限らず、ピョルカハイム保護区の部族のみなさんを助けようという人はかなり奇特な部類でしょう。 しかし私は嘘を貫いてでも生き残りたいので、そういう組織があると偽りますし、自分さえも騙すくらいの勢いで実在すると言い張りますよ。 「毛皮売る前、出来ることある。他の部族、味方してくれる、増やす」 ……ルチさん、もしかして私の嘘に気づいてます? それとも良かれと思って提案したことが、逃げ道を塞いでいく形になっているだけですかね? その提案には首を縦に振りづらいですが、今の私の立場と状況を考えると返せる返事はひとつです。 「いいですね。支援者側も同志を募っているわけですから、こちらも同盟を作っておきましょう」 そう、首を縦に振る一択です。どうせこのまま何ヶ月も過ごすよりは、なにかしら動いておいた方が脱出の可能性も増える...