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モグリール治療院外伝 ― ルチ・フォナ ―

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モグリール治療院外伝 ―ルチ・フォナ― < 部族の少女と部族の人たちが物騒な冒険を繰り広げるサイドストーリー > ▶ 第1話「人食い部族に囲まれて生贄に捧げられそうになった話」 ▶  第2話「族長が夢に出てきた話」 ▶  第3話「ウミガメのようなスープを食べる話」 ▶  第4話「勇敢なヒルチ戦士と臆病な人間の話」 ▶ 第5話「紙と筆で理想を語り、鉄と火薬で現実を綴る話」 ▶ 第6話「広いようで狭い荒野と砂漠の話」 ▶ 第7話「巨大な人食いサメが砂漠を泳ぐ話」 ▶ 第8話「暴れ牛と挑む泥んこ奇祭の話」 ▶ 第9話「大地を駆ける鉄の馬車と田舎のおのぼりさんの話」 ▶ 第10話「鉄道の隣では烏賊が走っている話」 ▶  ≪データフェチに送るルチ・フォナ外伝データ集≫ ▶ クラス表 ▶ クラスチェンジ表 ▶ アイテムリスト(武器編) ▶ アイテムリスト(防具・装飾編) ▶ アイテムリスト(消費アイテム編) ▶ 部族図鑑 ※モグリール治療院本編はこちらから もぐれ!モグリール治療院 ※その他の小説はこちら 小説一覧

ルチ・フォナ外伝 第10話「鉄道の隣では烏賊が走っている話」

ワラ・ネルゲ、ドゥエ! タンヌフ・ペリベルテ・プランドーラ、ジョムア・キーニ・ホルメス! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。私ルチ・フォナと愉快な仲間たちは、プランドーラ交易道を南下する鉄道とやらに乗っている。歩かなくて済むのは楽だけど、一日中座っているだけというのは体が石のように凝るし、固いだけの板の上で尻が割れるくらい痛くなるし、不安定に揺れ続けるから油断するとすぐ気持ち悪くなるし、おまけに嫌になるほど煙を浴びせられる。 贔屓目に表現しても乗り心地は崖を転がり落ちる藁の塊以下、つまりは最悪だ。大陸縦貫鉄道は一定の区間を往復している鉄道同士を繋げているので、乗り換え場所でしばらく休めたり、運が良ければ1日2日のんびり過ごせたり出来るものの、こんなものに乗っていると頭がおかしくなると思う。 「気分転換、必要」 煙を防ぐために張った天幕の下でノルンに訴えかける。この天幕のせいで景色もわずかな隙間と後ろ側しか見えず、かといって天幕を外すと全身真っ黒に汚れてしまう。不快感と一緒に旅の楽しみを捨てるか、煤を浴びながら解放感を感じるか、最悪の選択肢しかないのはどうかと思う。 「そうですねー、私もさすがに気が滅入ってきましたよ」 ノルンがただでさえ半眼になりがちな瞳をさらに重たくしながら、うんざりした気持ちを顔全体で伝えてくる。確認するまでもなくカラとヤクシ兄さんも同じような感情を抱いているはずなので、次の乗り換えの時にでも思い切った気分転換を提案したい。 「でも駅逓街で気分転換といっても……お金も正直心許ないですし」 「気分転換に金、要らない。必要、餌だけ」 「まさか釣りとか言わないですよね?」 ノルンが疑うような目を向けてくる。もちろん気分転換なのだから釣り一択だ。犬を撫でるとかそういうのでもいいんだけど、噛みついてこない賢い犬がいるとは限らない。しかし釣りは何処でも出来る。町があるということは、そこには必ず川があるはずだし、そもそも森の中なんだから。 「イカ、釣れる」 「冗談はサメまでにして下さいよ。タコが川にも棲んでるのはわかりましたし、サメが砂漠にいるのも事実だったので受け入れましょう。でも、イカが森にいるのは明らかにおかしいですよ」 ノルンはどうやらイ...

ルチ・フォナ外伝 第9話「大地を駆ける鉄の馬車と田舎のおのぼりさんの話」

プランドーラ交易道はただの道ではありません。開拓者たちが切り拓いた森の中に、煉瓦と石畳を敷き詰めた大街道とでも呼ぶべきもので、片側には果てしなく伸びる鉄のレールと等間隔に並べられた枕木が、もう片側には鉄道従業員たちや商人、旅行者を相手に栄える駅逓街が要所要所に築かれています。駅逓街は利用者向けの宿と飲食店、酒場、材木屋、修理屋、道具屋、服屋、買取屋や加工場といった需要のある施設が一通り揃っていて、大きな駅がある町にもなると教会や学校、住宅地なんかもあったりします。 私たちが抜け出た森の近くにある駅逓街はそれほど大きなものではありませんが、この先の旅路を怪しまれないように仕立て上げる道具は一通り揃っていそうです。 「道具、必要。銃弾、矢、刃物、色々」 「違います。まずはみなさんの服です」 言うまでもなくピョルカハイム保護区で暮らす部族の皆さんは、外の町……保護区外に出た今となってはこちらの町では異分子扱いされます。文化的な違いから服装もかなり異なりますし、それこそヒルチヒキ族の骨のような化粧やタルダイ族の蛇のタトゥーは、否が応でも目立ってしまいます。 幸いなことに一番隠すのが難しそうなヒルチヒキ族の戦士のおふたりは、他にやることがあるからと森を出たところで別れ、ヤクシさんの乗っていた水牛と一緒にピョルカハイム保護区の内側へと戻ってしましました。元々タルダイ族との交渉のための護衛でしたし、外にまで付き合う筋合いはないのでしょう。もしくは本当に他に役割があるのか、その辺りは私にはわかりませんが……。 「服の方はどうにかなるとして、ヤクシさんの頭は……とりあえず帽子と布でなんとかしましょう」 カラさんの体格は一般的な男性と大差ありませんし、顔にも少々タトゥーが入っていますが、それほど目立つものでもありません。普通のシャツでも着ておけば、ごくごく一般的な青年を装うのも難しくありません。ヤクシさんも全体的に厚めとはいえ人間離れするほどではなく、肉体労働者だとよく見かける体型です。帽子と布で顔の怪我を隠せば、元負傷兵や元労働者風に仕上げることも出来なくはありません。 ルチさんに至っては元の素材が良いため、頬の白い染料を落として獣の頭蓋骨を脱ぎ、町娘風の長袖のシャツとスカートでも着せてしまえば、それだけでどこに出しても問題ない美少女に仕上がるでしょう。むしろこれだけの素材、勝手に服...

ルチ・フォナ外伝 第8話「暴れ牛と挑む泥んこ奇祭の話」

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ピョルカハイム保護区の外、普段ドワーフの商品との取引が行われる外界との境界線は川向こうの崖の先、深く広がる森を越えた辺りにあります。森を避けるように崖道を北に迂回するか、反対に南に迂回して沼地を進むか、それとも森の中を突っ切るように獣道を進むか。ルートは三通りに分かれますが、どう進んでも目的地は同じ、大陸北部から中西部を繋ぐ大陸縦貫鉄道を有する大規模交易道、通称プランドーラ交易道です。 さらに南で大陸横断鉄道とも交差する交易道は、ハルトノー諸侯連合内の物流、鉱物資源の輸送、騎士団の行軍などあらゆる人と物の移動を支えています。 人が動けば物が動き、物が動けば金も動きますので、当然ピョルカハイム保護区との地下交易も行われるわけです。 「崖から先はヒルチヒキ族の縄張りではないんですよね?」 「そう。ヒルチヒキ族、荒野、川、崖まで。向こうの森、緩衝地帯」 緩衝地帯? 部族同士のでしょうか、それとも外の人間と部族側とのでしょうか。なにやら罠や危険が多そうな響きに聞こえますね。 「毒虫、毒鳥、毒蛇、いっぱいいる。普段暮らす、ちょっと不便、でも侵入者防ぐから便利」 なるほど、そこで生活してしまうと有害な、見方によっては有益な毒持ちの生物たちを排除する必要があります。部族側は外界からの侵略を妨げるためにそのままにしているようです、彼らはそうするべきと判断すれば森のひとつやふたつ簡単に焼くのでしょうけど。 「管理する人、いる。ヴァッカレラ族、はぐれ者」 「はぐれ者ですか」 いわゆる村八分的な風習があるのでしょうか。私としては同じ部族同士は仲良くしてもらいたいのですが。 「ヴァッカレラ族、牛の角、兜に着ける」 前もって教えられた知識が正しければ、ヴァッカレラ族は家畜化した水牛と一緒に移動しながら川べりで暮らす遊牧民的な部族です。革と銅板で固めた兜の左右には巨大な角を携えていて、それが彼らの誇りであり象徴なのだそうです。 見た目は蛮族めいていますが、彼らはどちらかというと穏やかな生活を望む気質の持ち主です。無闇に内輪揉めのようなことをするとも思えませんが。 「はぐれ者、牛の頭被る。かっこいい、でも度を越した」 「はぁ……」 基準はよくわかりませんが、ヴァッカレラ族の装飾として牛の角は有りで、牛の頭そのものを被ってしまうのは無しのようです。生活を共にする水牛、もっというと牛という動物種その...

ルチ・フォナ外伝 第7話「巨大な人食いサメが砂漠を泳ぐ話」

ワラ・ドネバ、ヌン! ダナラ・アルバガソ・フェメルリ・タルダイ! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。せっかくタルダイ族の縄張りに来たのに、このまま帰るのはもったいない。せっかくだから少し遊んで帰りたい。 というわけで私、ルチ・フォナの趣味のひとつに釣りがある。私は釣りをしている時の穏やかでのんびりとした時間が好きなので、隙あらば釣りをしたいと思っているのだ。 「せっかくの砂漠、釣りする」 「釣りって、どこで……ああ、オアシスですか?」 ヒルチヒキ族が客人兼捕虜兼同盟者として預かってるノルンが、いつものように少しズレた返事を返してきた。このノルン、少々疑わしいところがあるものの基本的には善人で、ただし世間知らずなのか時々よくわからないことを言い出すところがある。例えば今みたいな。 「釣り場、砂の上。オアシス、そもそも入れない」 ノルンは知らないみたいだから教えておくと、貴重な水源であるオアシスはタルダイ族にとって命よりも大事な生命線。交流のあるヒルチヒキ族といえど易々と立ち入らせるわけにはいかないし、今回みたいにノルンのような外部の客がいる時は論外だ。普段私たちが踏み込めるのはオアシスではなく、ぐるっと周囲に築かれた防壁や塹壕辺りまで。オアシスにもオアシスの手前に建てられた砦にも近づけさせてもらえない。 オアシスに立ち入れるのは基本的にタルダイ族だけで、特別に許可を与えられるのはタルダイ族に嫁いだ女、傭兵として仕事を運んでくる交渉役、物資と装備を運ぶ砂漠の商人だけ。 それと例外的にタルダイ族の中でも地位の高い戦士たちの同行者。ちなみに私が前に右腕の蛇の刺青を入れた時は戦士長に同行してもらった。 「随分えらい方と知り合いなんですね」 「タルダイの戦士長、釣り仲間。釣り友、年齢、立場、関係ない」 タルダイの戦士長は釣り好きで、彼がヒルチヒキ族の集落を訪れた時に仲良くなった。私ほどじゃないけど中々の腕前で、ちょっと大物を狙い過ぎるところがあるけど、どうせ釣るなら大物を狙いたいというのは誰しも同じだ。 そういう点でも気の合う釣り仲間だ。魚を捌くのも上手だし。 「なるほど。では今日も戦士長さんに頼めば……」 「戦士長、しばらく留守。傭兵に出てる、半年は帰ってこない...

ルチ・フォナ外伝 第6話「広いようで狭い荒野と砂漠の話」

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人狩りに遭遇したペペミカ族のみなさんを、それなりに安全な場所まで送り届けた私たちは、改めて他の部族との同盟交渉に向かうことにしました。向かうことにしたのですが、 「ノルン、様子おかしい。うんこ、我慢してる?」 「ルチさん、若い女子がうんことか言わないでください。ちょっと考え事をしてただけです」 私たちがこうやって移動している間にも、先日のような人狩りも現れているわけです。かといって毎回人狩りをどうにか出来る程の戦力はありません。前回は奇襲と地の利で勝ったに過ぎず、運が良かっただけともいえます、ろくな戦力にもなっていない私が言うことでもないですが。 人狩りは教会や騎士団から直接派遣された正規兵ではなく、あくまで非合法的な生業を得意とする商人ですが、部族側の抵抗が続くと、それこそ鉱山労働者を集める時のように騎士団が護衛に就くでしょう。そうなったら私たちには手も足も出ません。一般人が持てる武装はせいぜい鉄製か鋼、銃もルェドリア銃かアンゴディア式散弾銃のどちらかですが、騎士団の装備となると遥かに高価で性能の高いロンダリア鋼やランバール銀、ベルマー鉱石で作られた武具に、銃器も射程と威力どちらにも優れるベリニャ式狙撃銃になるわけです。 部族側と騎士団が戦った場合の結果は、先の大地の解放事変で示されています。装備に優れる騎士団に対して、部族側は勝ち目がありません。対抗するには外部からの協力、それこそ対等に戦うための武具、資金的な援助が不可欠となるわけです。 そのためにも部族側がまとまって、外部の協力者を募らないといけないわけですが……ジレンマですね。問題が大き過ぎるために、徒労に終わるかもしれない小さなことを進めざるを得ません。 徒労といえばで思い出しましたけど、再びあの移動をしないといけないんですよね。砂漠のタルダイ族の勢力下まで、なにもない荒野を延々と歩き続けるのはまさに徒労です。あの辛さと虚しさを味わってしまった今となっては、徒労というよりも苦痛が近いかもしれません。わあい、辛さと虚しさと疲れに苦しさと痛みが加わりましたよ。牛さんやお馬さんが代わりに歩いてくれた馬車が恋しいです。 「馬っ! 1頭だけでも貰っとけばよかった!」 急に大声を出したからか隣を歩いているルチさんや、前を進んでいた戦士のおふたりが怪訝そうな目を向けてきます。気が狂ったわけではないのですよ、ちょっとお馬...