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モグリール治療院外伝 ― ルチ・フォナ ―

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モグリール治療院外伝 ―ルチ・フォナ― < 部族の少女と部族の人たちが物騒な冒険を繰り広げるサイドストーリー > ▶ 第1話「人食い部族に囲まれて生贄に捧げられそうになった話」 ▶  第2話「族長が夢に出てきた話」 ▶  第3話「ウミガメのようなスープを食べる話」 ▶  第4話「勇敢なヒルチ戦士と臆病な人間の話」 ▶ 第5話「紙と筆で理想を語り、鉄と火薬で現実を綴る話」 ▶ 第6話「広いようで狭い荒野と砂漠の話」 ▶ 第7話「巨大な人食いサメが砂漠を泳ぐ話」 ▶ 第8話「暴れ牛と挑む泥んこ奇祭の話」 ▶ 第9話「大地を駆ける鉄の馬車と田舎のおのぼりさんの話」 ▶ 第10話「鉄道の隣では烏賊が走っている話」 ▶ 第11話「部族の少女が“人間”の町に踏み込む話」 ▶ 第12話「せっかく都会に来たから下水道のワニを捕まえる話」 ▶ 第13話「交渉という名の机下の殴り合いの話」 ▶ 第14話「命乞いをしながら葡萄酒を飲む聖人の話」 ▶ 第15話「カメを捕まえようとしたら豚が捕まった話」 ▶ 第16話「平和と労働に満ちた素晴らしい日々の話」 ▶ 第17話「知恵の民と荒野の技師の話」 ▶ 第18話「最初に文明の始まった地の話」 ▶ 第19話「地平の果てで歌い踊る獣の話」 ▶ 第20話「実に珍しい奇妙で奇特な病魔の話」 ▶ 第21話「塹壕の中から月に手を伸ばす者たちの話」 ▶  ≪データフェチに送るルチ・フォナ外伝データ集≫ ▶ クラス表 ▶ クラスチェンジ表 ▶ アイテムリスト(武器編) ▶ アイテムリスト(防具・装飾編) ▶ アイテムリスト(消費アイテム編) ▶ 部族図鑑 ▶ ルチ・フォナ外伝 拠点情報 ▶ モブチヒキについて ▶  16話時点でのステータス ※モグリール治療院本編はこちらから もぐれ!モグリール治療院 ※その他の小説はこちら 小説一覧

ルチ・フォナ外伝 第21話「塹壕の中から月に手を伸ばす者たちの話」

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このピョルカハイム保護区には多様な個性を持つ部族が大勢いますが、その中でも特に奇異なのがウェデワン族です。彼らはヒルチヒキ族のみなさんよりも険しい断崖絶壁を縄張りとしていて、わずかな突起さえあればどんな場所でも容易く登ることが出来るそうです。その姿は蜘蛛やトカゲのようだなどと記されていますが、こればかりは文章から想像してもよくわかりません。 「ルチさん、ウェデワン族に会ったことはあるんですか?」 「ウェデワン族、腕、長い。足、長い。伸ばしてる」 なるほど、さっぱりわかりません。百聞は一見に如かず、実際に見た方が早いでしょう。 「そういえばウェデワン族の方々は、ジェンリィン族とは手を組まなかったんですよね? なにか事情があったんですか?」 「ウェデワン族は戦の部族だ、自分たちより強い者でなければ耳を貸さん。俺たちジェンリィン族は肉体労働は苦手だ、あとは解るよな?」 ジェンリィン族のゾ・ルルガさんが眉をひそめながら説明してくれました。彼らはどちらかというと頭脳派で手先の器用さが売りで、直接戦うような真似は不得手ですからね。話し合いのテーブルにすら座れなかったのでしょう。 まったく、これだから野蛮な人たちは困ります……もちろんヒルチヒキ族のみなさんは例外ですよ、あれはもう野蛮とかそういう範疇ではありませんので。 「ウェデワン族、この辺のはず」 しばらく歩いていると、荒野を二つに割るような巨大な渓谷が見えてきました。ろくな足場さえも見当たらない険しい崖に落ちたら死を免れない深い谷、乾いた風が通り抜けるだけの赤茶けた大地は人の営みからは程遠い世界にしか見えません。ヒルチヒキ族のみなさんも崖に集落を築くこともありますが、さすがにここまで険しい場所は選びません。 「おかしい、見当たらない」 「ウェデワン族は以前は崖にへばりついて暮らしていたが、外敵の襲撃に備えて下に住むようになった」 下? この渓谷の底ってことですか? 確かに人狩りや調査隊もこの崖を降りる危険を冒してまで接触しようとは考えないでしょうが、不便過ぎではありませんかね。それとも彼らの登攀能力からしたら問題ないのでしょうか。 「用事があれば狼煙で報せて欲しいそうだ」 そう言ってゾ・ルルガさんは妙な色をした枯草を燃やし始めて、青色の毒々しい煙を立ち上らせました。便利ですね、その煙。他の色もあるなら色んな合図に使えそうです...

ルチ・フォナ外伝 第20話「実に珍しい奇妙で奇特な病魔の話」

次の目的地であるウェデワン族の集落に移動していたのですが、突如として大地が引っ繰り返り、靄の中に包まれたように色を失ってしまいました。どういうことでしょうか、陽射しは刺すように強く肌を焦がすように熱いはずなのに、裸で雪山に放り出されたような寒さが襲い掛かってきていますし、歯の根が合わないくらい小刻みに震えています。頭が割れるように痛い上に世界はぐるぐると上下左右に揺れたまま、もしかしてこれは変な病気にでも罹ってしまったのでしょうか……。 「ノルン、風邪ひいた。荷台乗っていく」 テントや食糧と一緒に馬車の荷台に乗せてもらいましたが、状況は一向に改善する気配がありません。体の節々に激痛が走っていますし、顔と頭は蒸したように熱を持ってしまっています。このままでは死んでしまうのでは……そんな不安が頭を過ぎる程度には状況は最悪です。水を含ませた布を顔に貼りつけて、ぜえぜえと掠れた空気を吸い込むのが精一杯です。 「……ルチさ……まずい……解毒薬……ポーショ……」 言葉もどうにか絶え絶えに発するのが限界ですが、おそらく通じてくれたでしょう。解毒薬やポーションがどこまで病気に効くのかわかりませんが、解毒薬には体内の毒素を分解する働きが、ポーションにも解熱作用と体力回復の効果があります。特定の病に対する特効薬ではありませんが、飲むのと飲まないのとでは生存率は大きく変わってくるでしょう。 唾を飲むだけで喉に激痛が走る状態ですが、どうにか解毒薬とポーションを飲み干すと、さすがに戦場でも使われている治療薬です、随分と楽になりました。骨折が打撲になったくらいのものですが、骨が折れたままよりは遥かにマシでしょう。 「……ルチさん、これは何なのでしょう?」 疲れなのか悪いものでも食べたのか、それとも病気なのか、心当たりがあり過ぎます。体の疲労は説明するまでもありません、荒野の生活は町よりもずっと過酷ですし移動だって大変です。食べ物も怪しいところです、さすがに人肉を食べるのは全力で避けていますが、他の食べ物も基本的に野生の獣と保存食ですからね。 病気は一番可能性があります。ピョルカハイム保護区に騎士団や教会が攻めきれなかったのは、戦いでの人的被害もありますが、未知の風土病や疫病の危険性もあったからです。当初こそ外の病人が使っていた毛布や衣類を提供して病を流行らせるなんて畜生以下の戦術を取っていた騎...

ルチ・フォナ外伝 第19話「地平の果てで歌い踊る獣の話」

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歌い踊る戦獣、それがドンガドンタ族という部族です。獣のような仮面を被り、祈りや供物の代わりに精霊に歌と踊りを捧げ、戦士ともなるとその身に精霊を降臨させるといわれています。教会の調査では、戦闘部族としてタルダイ族やドゥローミー族、アルバディー族などが危険視されがちですが、真に危険であるのは外の世界での神に値する精霊、それらと深く繋がる者なのかもしれません。そういう意味ではドンガドンタ族こそが荒野の戦士といっても差し支えないでしょう。 精霊への信仰心でいうとルチさんたちヒルチヒキ族と似た部分がありそうですが、どの世界でも隣人と仲良く出来ないように、同じものを信じている者同士こそ仲違いしやすいものです。教会が同じ神人バスコミアナを信じているはずの別の宗派をどれだけ手酷く執拗に弾圧してきたかを考えれば、嫌な未来予測だって容易に想像出来てしまいます。 なるべく穏便で平和的にやり過ごしたいものですね。 「見えてきた。ドンガドンタ族、集落」 ドンガドンタ族の集落は荒野から外れて徐々に緑濃くなる森林の中にあり、普段は他の部族や外からの人狩りを避けるように暮らしています。共同体構想を考えていたジェンリィン族が誘っても首を縦には振らず、外敵と戦うよりは隠れてやり過ごすことを選んだようです。もしかしたら他の部族に戦わせて、自分たちの人数はなるべく減らさないよう立ち回ると考えているかもしれませんが、騎士団や教会と事を構えるリスクを考えると避けるのは当然の選択肢です。 支援を受けたヒルチヒキ族が騎士団と対等な装備を手に入れて仲間を取り戻したという話は、まだ彼らにまで届いていないでしょうし……逆にいえば支援という手札を見せれば首を縦に振る可能性もあるわけです。もちろん勝ちが確定した争いではないですが、おそらく騎士団も教会も殲滅戦を仕掛けることは無いでしょう。隣国フィアレアドとの国境線上で続く泥沼の戦争、ピョルカハイム保護区周辺の地権を巡る闘争いわゆる大地の解放事変での際3桁にも及ぶ戦死者……互いに野心を抱える隣国とはさておき、基本的には保護区の中から出てこない部族との争いでは落としどころが肝心です。仮に土地や資源を得られるとしても、そのために費やされる人命の数と釣り合っていなければ貴族や領主からの支持を失ってしまいます。 戦争の勝利条件としてこれ以上引けない限界のラインは、一説には総兵力の3割...

ルチ・フォナ外伝 第18話「最初に文明の始まった地の話」

ナシャ・デデレピャ、ホウェ! ワサハ・レベチェ・ジェンリィン・ノワレム! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。ジェンリィン族と同盟の約束を取り付けた私たちは、ドンガドンタ族との交渉の前に、とある場所への巡礼を済ませておくことにした。 そこはジェンリィン族の祖先が作ったと伝えられる、この地上で最初に生まれた文明が築き上げた遺跡スカラ・エストゥラパだ。おおよそ1万年以上前に作られたそれは、現在の技術でも不可能に等しい深さのを荒野のど真ん中に、しかも四方の壁はどれも寸分違わぬ幅でさらに完璧な垂直に彫られているのだ。その壁を更に刳り抜いて52層にも渡る階段が鱗状に、上下左右すべて同じ幅、同じ角度で底まで敷き詰められている。そんな果てしないほど長く深い階段を降りた底には、やはり現在の技術でも難しい余りにも精巧な装飾の施された石彫りの玄室が鎮座していて、中にはかつてのジェンリィン族の長が眠る石棺が封じられているのだとか。 私はそれほど遺跡に興味があるわけでもないけど……ここまで来ておいて自分を偽るのはやめよう。なにを隠そう、私は趣味の釣りと同じくらい遺跡巡りが好きなのだ。遺跡はいい、歴史そのものには別に興味はないけどヒルチヒキ族の集落や縄張りでは見ないような建物もあるし、盗掘目的のけしからん連中を後腐れなく全滅させて生贄に捧げることだって出来る。 ありがとう昔の人、今日も精霊に感謝、泥棒は皮剥いで残りはお肉! というわけで逸る気持ちを一切抑えずにスカラ・エストゥラパへと向かうのだ! 「着いた! でっかい、素晴らしい!」 遺跡は大きければ大きいほど良い。もちろん小さい遺跡にだって他のものに換えがたい魅力があるけど、やはり遺跡は大きい方がいい。大抵のことは大は小を兼ねるというけど、移籍と魚に関しては大は小を兼ねない。大きいことが正義なのだ。 「ルチさん、鼻息荒くしているところすみませんが、本当にこれを降りるんですか?」 ノルンが果てしなく続く階段を見下ろしながら、私に物言いたげな眼差しを向けてくる。最短で真っ直ぐ降りるにしても52層、1層につき14段あるから500段? 600? もうちょっと多い? ただ降りるだけでも楽しむ時間はたくさんある。私なんて隅々まで歩き倒してや...