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モグリール治療院外伝 ― ルチ・フォナ ―

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モグリール治療院外伝 ―ルチ・フォナ― < 部族の少女と部族の人たちが物騒な冒険を繰り広げるサイドストーリー > ▶ 第1話「人食い部族に囲まれて生贄に捧げられそうになった話」 ▶  第2話「族長が夢に出てきた話」 ▶  第3話「ウミガメのようなスープを食べる話」 ▶  第4話「勇敢なヒルチ戦士と臆病な人間の話」 ▶ 第5話「紙と筆で理想を語り、鉄と火薬で現実を綴る話」 ▶ 第6話「広いようで狭い荒野と砂漠の話」 ▶ 第7話「巨大な人食いサメが砂漠を泳ぐ話」 ▶ 第8話「暴れ牛と挑む泥んこ奇祭の話」 ▶ 第9話「大地を駆ける鉄の馬車と田舎のおのぼりさんの話」 ▶ 第10話「鉄道の隣では烏賊が走っている話」 ▶ 第11話「部族の少女が“人間”の町に踏み込む話」 ▶  ≪データフェチに送るルチ・フォナ外伝データ集≫ ▶ クラス表 ▶ クラスチェンジ表 ▶ アイテムリスト(武器編) ▶ アイテムリスト(防具・装飾編) ▶ アイテムリスト(消費アイテム編) ▶ 部族図鑑 ※モグリール治療院本編はこちらから もぐれ!モグリール治療院 ※その他の小説はこちら 小説一覧

ルチ・フォナ外伝 第11話「部族の少女が“人間”の町に踏み込む話」

冒険者の町スルークハウゼン、と名前だけ聞くと、いかにも牧歌的で田舎めいた集落のような姿を想像してしまいますが、その実態はまるで正反対です。こんな騎士団の中枢からもラステディン教会の本拠地からも遠く離れた地に、よくもまあこれほど巨大なものを築いたと驚かざるを得ないほど巨大な都市は、人の背丈の優に数倍はある石壁で周囲をぐるりと取り囲み、壁の上には見張り櫓を兼ねた監視塔と軍勢に向けて使うような野戦砲が並ぶ、まさに要塞のような佇まいをしています。こういうのを城塞都市と呼ぶのでしょうか。南のフィアレアド王国との国境線が遠くないとはいえ、これでは最前線の要衝のようではありませんか。 そういえばハルトノー諸侯連合とフィアレアド王国は交戦中でしたね。必然的に守りにつぎ込む予算も増えたのでしょうか、それとももっと強大な別の勢力との衝突に備えてでしょうか。まあ防衛力は高いに越したことはありませんからね。外敵からの脅威が減ってくれる分には文句もありません。 大陸中西部の要所にして冒険者たちの集う町、スルークハウゼンですが、教会で学んだ知識では元々は耕す家の名前の通り、小さな開拓者たちの集落だったそうです。数十年に渡る人間同士の勢力争いと、たまに発生する亜人種族との戦闘の中で大量の移住者が入り込み、増えた人数分だけ土地を開拓して、増えたトラブルの数だけ大地を踏み固めて、いつの間にやらここまでの規模になったのだとか。 ハルトノー諸侯連合の誕生と共に一帯が平定され、シェーレンベルク騎士団の統治下となってからは重要拠点のひとつとなり、オルトア商業連合と教会の影響力も強く及ぶ交易都市として完成しつつあります。 当然ですが騎士団の駐屯地もありますし、開拓者から活動範囲を拡げた冒険者たちを束ねるギルドもあります。商業ギルドや石工ギルド、果ては盗賊ギルドなどもあり、市民生活に深くかかわる類のギルドは行政機関として組み込まれています。 そして教会の支部と大聖堂とまではいきませんが相応に立派な建物もありますし、魔道士育成機関も置かれています。教会支部としての規模としてはかなり大きな部類に数えてもよいでしょう。 「私はノルン・マイグラード、ラステディン教会の研究機関に所属する調査員です。レオーニ・ベルフ教授の調査隊に編入され民族調査の任務に当たっていましたが、ピョルカハイム保護区に入り込んだ無法者の襲撃を受け...

ルチ・フォナ外伝 第10話「鉄道の隣では烏賊が走っている話」

ワラ・ネルゲ、ドゥエ! タンヌフ・ペリベルテ・プランドーラ、ジョムア・キーニ・ホルメス! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。私ルチ・フォナと愉快な仲間たちは、プランドーラ交易道を南下する鉄道とやらに乗っている。歩かなくて済むのは楽だけど、一日中座っているだけというのは体が石のように凝るし、固いだけの板の上で尻が割れるくらい痛くなるし、不安定に揺れ続けるから油断するとすぐ気持ち悪くなるし、おまけに嫌になるほど煙を浴びせられる。 贔屓目に表現しても乗り心地は崖を転がり落ちる藁の塊以下、つまりは最悪だ。大陸縦貫鉄道は一定の区間を往復している鉄道同士を繋げているので、乗り換え場所でしばらく休めたり、運が良ければ1日2日のんびり過ごせたり出来るものの、こんなものに乗っていると頭がおかしくなると思う。 「気分転換、必要」 煙を防ぐために張った天幕の下でノルンに訴えかける。この天幕のせいで景色もわずかな隙間と後ろ側しか見えず、かといって天幕を外すと全身真っ黒に汚れてしまう。不快感と一緒に旅の楽しみを捨てるか、煤を浴びながら解放感を感じるか、最悪の選択肢しかないのはどうかと思う。 「そうですねー、私もさすがに気が滅入ってきましたよ」 ノルンがただでさえ半眼になりがちな瞳をさらに重たくしながら、うんざりした気持ちを顔全体で伝えてくる。確認するまでもなくカラとヤクシ兄さんも同じような感情を抱いているはずなので、次の乗り換えの時にでも思い切った気分転換を提案したい。 「でも駅逓街で気分転換といっても……お金も正直心許ないですし」 「気分転換に金、要らない。必要、餌だけ」 「まさか釣りとか言わないですよね?」 ノルンが疑うような目を向けてくる。もちろん気分転換なのだから釣り一択だ。犬を撫でるとかそういうのでもいいんだけど、噛みついてこない賢い犬がいるとは限らない。しかし釣りは何処でも出来る。町があるということは、そこには必ず川があるはずだし、そもそも森の中なんだから。 「イカ、釣れる」 「冗談はサメまでにして下さいよ。タコが川にも棲んでるのはわかりましたし、サメが砂漠にいるのも事実だったので受け入れましょう。でも、イカが森にいるのは明らかにおかしいですよ」 ノルンはどうやらイ...

ルチ・フォナ外伝 第9話「大地を駆ける鉄の馬車と田舎のおのぼりさんの話」

プランドーラ交易道はただの道ではありません。開拓者たちが切り拓いた森の中に、煉瓦と石畳を敷き詰めた大街道とでも呼ぶべきもので、片側には果てしなく伸びる鉄のレールと等間隔に並べられた枕木が、もう片側には鉄道従業員たちや商人、旅行者を相手に栄える駅逓街が要所要所に築かれています。駅逓街は利用者向けの宿と飲食店、酒場、材木屋、修理屋、道具屋、服屋、買取屋や加工場といった需要のある施設が一通り揃っていて、大きな駅がある町にもなると教会や学校、住宅地なんかもあったりします。 私たちが抜け出た森の近くにある駅逓街はそれほど大きなものではありませんが、この先の旅路を怪しまれないように仕立て上げる道具は一通り揃っていそうです。 「道具、必要。銃弾、矢、刃物、色々」 「違います。まずはみなさんの服です」 言うまでもなくピョルカハイム保護区で暮らす部族の皆さんは、外の町……保護区外に出た今となってはこちらの町では異分子扱いされます。文化的な違いから服装もかなり異なりますし、それこそヒルチヒキ族の骨のような化粧やタルダイ族の蛇のタトゥーは、否が応でも目立ってしまいます。 幸いなことに一番隠すのが難しそうなヒルチヒキ族の戦士のおふたりは、他にやることがあるからと森を出たところで別れ、ヤクシさんの乗っていた水牛と一緒にピョルカハイム保護区の内側へと戻ってしましました。元々タルダイ族との交渉のための護衛でしたし、外にまで付き合う筋合いはないのでしょう。もしくは本当に他に役割があるのか、その辺りは私にはわかりませんが……。 「服の方はどうにかなるとして、ヤクシさんの頭は……とりあえず帽子と布でなんとかしましょう」 カラさんの体格は一般的な男性と大差ありませんし、顔にも少々タトゥーが入っていますが、それほど目立つものでもありません。普通のシャツでも着ておけば、ごくごく一般的な青年を装うのも難しくありません。ヤクシさんも全体的に厚めとはいえ人間離れするほどではなく、肉体労働者だとよく見かける体型です。帽子と布で顔の怪我を隠せば、元負傷兵や元労働者風に仕上げることも出来なくはありません。 ルチさんに至っては元の素材が良いため、頬の白い染料を落として獣の頭蓋骨を脱ぎ、町娘風の長袖のシャツとスカートでも着せてしまえば、それだけでどこに出しても問題ない美少女に仕上がるでしょう。むしろこれだけの素材、勝手に服...

ルチ・フォナ外伝 第8話「暴れ牛と挑む泥んこ奇祭の話」

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ピョルカハイム保護区の外、普段ドワーフの商品との取引が行われる外界との境界線は川向こうの崖の先、深く広がる森を越えた辺りにあります。森を避けるように崖道を北に迂回するか、反対に南に迂回して沼地を進むか、それとも森の中を突っ切るように獣道を進むか。ルートは三通りに分かれますが、どう進んでも目的地は同じ、大陸北部から中西部を繋ぐ大陸縦貫鉄道を有する大規模交易道、通称プランドーラ交易道です。 さらに南で大陸横断鉄道とも交差する交易道は、ハルトノー諸侯連合内の物流、鉱物資源の輸送、騎士団の行軍などあらゆる人と物の移動を支えています。 人が動けば物が動き、物が動けば金も動きますので、当然ピョルカハイム保護区との地下交易も行われるわけです。 「崖から先はヒルチヒキ族の縄張りではないんですよね?」 「そう。ヒルチヒキ族、荒野、川、崖まで。向こうの森、緩衝地帯」 緩衝地帯? 部族同士のでしょうか、それとも外の人間と部族側とのでしょうか。なにやら罠や危険が多そうな響きに聞こえますね。 「毒虫、毒鳥、毒蛇、いっぱいいる。普段暮らす、ちょっと不便、でも侵入者防ぐから便利」 なるほど、そこで生活してしまうと有害な、見方によっては有益な毒持ちの生物たちを排除する必要があります。部族側は外界からの侵略を妨げるためにそのままにしているようです、彼らはそうするべきと判断すれば森のひとつやふたつ簡単に焼くのでしょうけど。 「管理する人、いる。ヴァッカレラ族、はぐれ者」 「はぐれ者ですか」 いわゆる村八分的な風習があるのでしょうか。私としては同じ部族同士は仲良くしてもらいたいのですが。 「ヴァッカレラ族、牛の角、兜に着ける」 前もって教えられた知識が正しければ、ヴァッカレラ族は家畜化した水牛と一緒に移動しながら川べりで暮らす遊牧民的な部族です。革と銅板で固めた兜の左右には巨大な角を携えていて、それが彼らの誇りであり象徴なのだそうです。 見た目は蛮族めいていますが、彼らはどちらかというと穏やかな生活を望む気質の持ち主です。無闇に内輪揉めのようなことをするとも思えませんが。 「はぐれ者、牛の頭被る。かっこいい、でも度を越した」 「はぁ……」 基準はよくわかりませんが、ヴァッカレラ族の装飾として牛の角は有りで、牛の頭そのものを被ってしまうのは無しのようです。生活を共にする水牛、もっというと牛という動物種その...

ルチ・フォナ外伝 第7話「巨大な人食いサメが砂漠を泳ぐ話」

ワラ・ドネバ、ヌン! ダナラ・アルバガソ・フェメルリ・タルダイ! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。せっかくタルダイ族の縄張りに来たのに、このまま帰るのはもったいない。せっかくだから少し遊んで帰りたい。 というわけで私、ルチ・フォナの趣味のひとつに釣りがある。私は釣りをしている時の穏やかでのんびりとした時間が好きなので、隙あらば釣りをしたいと思っているのだ。 「せっかくの砂漠、釣りする」 「釣りって、どこで……ああ、オアシスですか?」 ヒルチヒキ族が客人兼捕虜兼同盟者として預かってるノルンが、いつものように少しズレた返事を返してきた。このノルン、少々疑わしいところがあるものの基本的には善人で、ただし世間知らずなのか時々よくわからないことを言い出すところがある。例えば今みたいな。 「釣り場、砂の上。オアシス、そもそも入れない」 ノルンは知らないみたいだから教えておくと、貴重な水源であるオアシスはタルダイ族にとって命よりも大事な生命線。交流のあるヒルチヒキ族といえど易々と立ち入らせるわけにはいかないし、今回みたいにノルンのような外部の客がいる時は論外だ。普段私たちが踏み込めるのはオアシスではなく、ぐるっと周囲に築かれた防壁や塹壕辺りまで。オアシスにもオアシスの手前に建てられた砦にも近づけさせてもらえない。 オアシスに立ち入れるのは基本的にタルダイ族だけで、特別に許可を与えられるのはタルダイ族に嫁いだ女、傭兵として仕事を運んでくる交渉役、物資と装備を運ぶ砂漠の商人だけ。 それと例外的にタルダイ族の中でも地位の高い戦士たちの同行者。ちなみに私が前に右腕の蛇の刺青を入れた時は戦士長に同行してもらった。 「随分えらい方と知り合いなんですね」 「タルダイの戦士長、釣り仲間。釣り友、年齢、立場、関係ない」 タルダイの戦士長は釣り好きで、彼がヒルチヒキ族の集落を訪れた時に仲良くなった。私ほどじゃないけど中々の腕前で、ちょっと大物を狙い過ぎるところがあるけど、どうせ釣るなら大物を狙いたいというのは誰しも同じだ。 そういう点でも気の合う釣り仲間だ。魚を捌くのも上手だし。 「なるほど。では今日も戦士長さんに頼めば……」 「戦士長、しばらく留守。傭兵に出てる、半年は帰ってこない...