ルチ・フォナ外伝 第32話「強弓と猟銃の競演と世界を揺るがす古大蛇の話」
冒険者であれ教会の僧兵であれ、人間は依頼された任務を忠実に果たそうと頑張るものではありますが、それもすべて命あっての物種というやつです。大怪我を負った仲間たちがいる中で差し伸べられた善意の手を振りほどけるような人たちであれば、もしかしたら信仰心が命を上回る僧兵であれば拒むこともあり得るのでしょうが、生存と帰還に重きを置く冒険者であればそのてを握り返すでしょう。
その背中に故郷の村だとか恋人の住む家だとか、そういったものがあれば話は変わってきますが、むしろそういったものを背にしているのは私たちの側です。故郷でもなければ恋人も今のところいませんが、日々暮らしている拠点がありますからね、ここは敵と手を組んででも乗り切るべきでしょう。
「みなさん、ここはひとつ助け合いませんか?」
予測していなかった跳弾で顔を撃たれて気を失った隊長に、大地を引き裂くイェムホキエムの古大蛇が放った岩で腹や足や押し潰された仲間たち、半数もの負傷者を抱えてしまっては名のある冒険者パーティーでも救いの手に縋らざるを得ません。
ランシア狩猟隊、冒険者の町スルークハウゼンを拠点とする弓使いの名門です。その名からもわかるように緑豊かな森を抱えるランシア領の狩人たちで、7人と少数ながらも全員が凄腕の精鋭パーティー、弓の腕は先の戦闘で見せつけられた通りです。ルチさんはリーダーのマティアス・ヘイルワードを見事倒してみせましたけど、古大蛇が頻繁に彼らの妨害となる行動を起こしたことと、偶然と運が左右したことが大きいでしょう。もちろんルチさんの銃の腕があっての話ですが。
とはいえ勝ちは勝ちです。向こうからしたらパーティーは半壊状態、こちらは負傷した上に疲労困憊とはいえヘイルワードを倒したほどの狙撃手が残り、私含めて他のみんなも無傷に近い状態です。分が悪いと飲み込んでくれればそれで良し、感謝の気持ちを抱いていただければさらに良し、共に手を取り合って古大蛇の討伐に協力してもらいたいものです。
「俺たちにも冒険者としての誇りがある。依頼には背けない」
まったく、これだから堅物な人は……いや、そもそもそんな仕事に忠実な人たちでも無いでしょうに。命と天秤に掛けて依頼に傾くなら、端から教会に所属すればいいわけですからね。
「あなた方の受けた依頼は古大蛇の偵察と邪魔者の排除ですよね? どうですか? あの蛇が本当に人間が制御出来て、教会に都合よく動いてくれると思いますか?」
もちろんそんなことは無いでしょう。仮に狙い通りに荒野の奥に向かってくれたとて気分次第で戻ってくる可能性もありますし、教会の面々に対して襲い掛かってくる可能性の方が大きいでしょう。野戦砲を抱えた騎士団に誘導してもらいますか? そう上手くいくとは思えませんが。
「……まあ、無理だろうな」
「でしょうね。だとしたら蛇は使い物にならないと報告するだけの話ですよ、あんなものより無事に生還して
次の楽しい冒険に備えて休みましょう」
ここまで言えば私たちが追い撃ちをかけるつもりがないことも理解してくれるでしょう。そしてどう振る舞った方が得なのかも……。
「わかった、君の提案に乗らせてもらおう。俺はブルーノ・トールヴァルツ、リーダー不在時の代理を任されているが、腕は他の連中と大差ない。化け物はあの人だけだ、今は天国の階段を上りかけているがね」
ブルーノさんは親指を立てたまま腕を持ち上げて、地面に転がっているヘイルワードさんを背中越しに指差しました。やはり彼は別格の弓の使い手のようで、わざわざ言葉には出していませんがルチさんが彼に勝ったのも大きいのでしょう。
疲労困憊のルチさんがランシア狩猟隊の面々に勝てるかは、仮に1対1で臨んだとしても怪しいところですが、もしかしたら彼らなりの勝者への敬意も含まれているのかもしれませんね。ここは素直に受け取って、仲良く力を合わせましょう。
◆❖◇◇❖◆
イェムホキエムの古大蛇、地下に隠れている胴や尾を含めれば全長数百メートルにも及ぶ巨大なグローツラングです。ドラゴンの血肉を得てここまで大きくなったと聞きましたが、確かに尋常ならざる化け物です。鱗は岩のように硬く、胴から生えたムカデのような足を用いて放り投げられる岩は飛距離・破壊力共に攻城兵器そのものです。体を動かすだけで地面が揺らぎ、暴れれば巻き上げられた土砂や石礫が雨のように降り注ぐ、なのに自身はそんなものは意に介さない、まさに存在そのものが破壊のためにある生き物です。
私たちの作戦はこうです。まず主力となるのはゾ・ルルガさんの攻城兵器バリスタ、さすがにあれだけ巨大な矢が突き刺されば古大蛇にも通用するでしょうし、それに怯んで今までと違う動きを見せてくれれば、より確実に倒すための情報が増えます。
さらに隙を突いてヤクシさんやネム・ピヒャさん、ヌン・ドゥガさんにも攻撃に参加してもらい、ランシア狩猟隊のみなさんには追撃を担ってもらいます。相手が怪物であれど命ある生き物ですし、どれだけ頑丈であろうとも休みなく攻め続ければ倒れるのも道理です。ルチさんとヘイルワードさんが戦えれば多少は楽になるのでしょうが、贅沢は言ってられません。ルチさんは充分に働いてくれましたし、ヘイルワードさんは……ポーションを浴びせておいたので傷は塞がっていますが、しばらくは目が駄目でしょう。弾丸は眼球への直撃こそ免れていますが、左目の下、頬骨を容赦なく砕いています。骨が再生仕切るまでは決して無理はさせられません、安静にしておくべきでしょう。
「でも、起きてもらった方がいいですかね? 指揮や助言くらいは出来るでしょうし」
「いや、起こさないでくれ。きっと大騒ぎになるから」
それはそうでしょうね、弓と銃の違いがあるとはいえ自分の半分以下の少女に負けたんですから。
「うちの隊長、技術に対して気が狂ってるところがあるから。さっきの技どうやったんだ教えろって借金取りよりしつこく付きまとうだろうな」
「弓馬鹿っすからね、この人」
「ちなみに最高記録は1週間で、その時は根負けして相手の頭を射抜いちまった」
このまま眠っておいてもらいましょう、想像しただけでも邪魔で仕方ありません。
「やっぱり戦う? 銃撃つ、それくらい出来る」
「だったらあれでも使ってみるか? 蛇退治用に運ばせたんだが、ヒルチヒキ族の素人に撃たせるよりはお前が使った方がいいだろう。ちなみに一度設置し終えたら分解するまでは動かせん、射程と位置をよく考えておけよ。弓砲台は俺が使うから、もう1基を使え」
ゾ・ルルガさんが指差した先では大型の見張り櫓がふたつ、砂煙を上げながらこちらに向かってきていました。普段は拠点に設置してある固定砲台で、通常のバリスタよりも張力が強く太い弦が使われていて、飛距離も破壊力も大きく上回ります。この弓砲台以外にもより大きな岩を飛ばす投石砲台、口径が大きく砲身も長い野戦砲台、同じく口径が大きく銃身の長い銃座があるのですが、今回運んできたのは弓砲台と野戦砲台のふたつのようです。
「ノルン、俺とルチは長距離から撃つのに専念する。もう1度言っておくが砲台は設置し終わったら動かせない、くれぐれも蛇を近づけないでくれよ」
「野戦砲、撃ったことある。任せる」
そう言ってルチさんとゾ・ルルガさんはヒルチヒキ族のみなさんやジェンリィン族の技術者が運んできた砲台へと走っていきました。蛇の進行方向はどうにも出来ませんが、なるべく近づけないように努力はしてみましょう。
「さあ、私たちも蛇退治といきましょう。みなさんは岩に気を付けながら攻撃を繰り返してください、ランシア狩猟隊のみなさんは援護をお願いします!」
私の掛け声を合図に扇状に拡がりながら蛇に挑みました。これは岩の投擲や石礫、蛇の移動に巻き込まれた時に全滅しないようにするためですが、結果として蛇を左右から挟むように撃てて攻撃するのにも都合のいい形をしています。ちなみにゾ・ルルガさんは扇の取っ手に位置する辺りに、ルチさんは大きく右側に迂回した場所に砲台を置いたようです。
「みなさん、くれぐれも命だけは気をつけて! 攻撃開始します!」
私は精一杯の強気を纏ったがなり声を発して、蛇と仲間たちに向けて鬨の声を上げました。
◆❖◇◇❖◆
イェムホキエムの古大蛇がなにを考えているのか、突然攻撃してきた私たちにどんな思いを抱いたのか、それは蛇でない限り理解出来ないでしょう。しかしそれはこちらとて同じことです。蛇に私たちの気持ちを少しでも理解出来るならこんな集落の近くには現れないでしょうし、誰もいない無人の地で、それこそ砂漠の真ん中辺りで一生過ごしていてもらいたいものです。
実際にそうすればよかったのです。もし現れたのが蛇を守り神と崇めるタルダイ族の暮らす砂漠で、誰にも迷惑をかけない場所に居座ってしまうなら、蛇もまた違った末路を迎えることが出来たのかもしれません。守護神のように遠く離れた地の民から崇め奉られ、もしかしたら供物としてサメや駱駝の肉を捧げられていたかもしれないでしょう。
しかし蛇が現れたのは私たちの拠点からそう遠くない場所です。すっかり元の形がわからないくらい破壊された荒野の上で無数の矢が行き交い、古大蛇が塔のように伸ばした首を揺らしました。
「怨むなら変な場所で死んでたドラゴンを恨んでくださいね」
私が指差したのと同時にヤクシさんの鎖付きの碇とヌンさんの手投げ斧が蛇に突き刺さり、さらに獲物に襲い掛かるハイエナの群れのようにランシア狩猟隊の矢が次々と放たれました。
そしてとどめとばかりに遥か後方から撃ち込まれた巨大な矢と砲弾、この2発が無慈悲な猛禽のように蛇の頭を捉え、その怪物の動きを完全に静止させてみせました。
「さすがに倒れてくれますよね?」
「わからんぞ。魔獣の中には頭や心臓を失っても5分10分は平気で動けるのもいるからな」
「そもそも全体像が見えてないからなあ。あの頭が擬態の可能性もあるし」
「実は首が複数ありました、なんてのはやめてくれって思うが、大体そういう嫌な想像に限って裏切ってくれないんだよな」
ランシア狩猟隊がベテラン冒険者らしい警戒心を以って、次々に希望を打ち砕くような仮定を打ち立ててきます。しかし彼らの経験値がそう言わせるのであれば、本当にそうなのでしょう。
油断せずに蛇の動きを観察していると、蛇の頭から首、腹にかけて外皮が裂けていき、そのまま抜け殻だけが大地に残りました。
「脱皮!? 本体はどこに行きましたか!?」
しばらくの間、地面が僅かに揺れて、そのまま平穏を取り戻すかのように静まり返ってしまいました。辺りにはなにか置きそうな兆しも見られませんし、蛇の外皮の中身を覗いてみても既にもぬけの殻です。逃げられてしまった、と考えるのが自然でしょう。
「逃げた? 揺れ、なくなった、気配もない」
「そのようですね。私たちの苦労はなんだったんでしょう……」
「蛇、食べ損ねた! くやしい!」
ルチさんはこの期に及んでまだ蛇を食べる気だったようです。豪胆といいますか意志が強いといいますか、そこは褒められるべき長所だと思いますよ、少々呆れてしまいますが。
「あの蛇食うつもりだったのかよ!? おたくの隊長も変な子だなあ!」
「うちのと同じくらい、いや、もっとヤバい奴じゃねえか。隊長が負けちまうわけだ」
「冒険者なんて頭のネジが外れてるほど優秀だからな、あんた向いてるよ。どうだ、うちに入らないか?」
ランシア狩猟隊のみなさんが残りのポーションを飲んだり傷口にかけたりしながら、次々に笑いながら軽口を溢していきます。どうやらルチさんは冒険者向きで、彼らからしても有望株なのだそうです。
「まあ冗談はさておき、あの蛇について大体の偵察は出来た」
確かブルーノ・トールヴァルツさん、リーダー不在時の代理の方が抜け殻を眺めながら口を開きました。
ブルーノさんの分析結果だと、蛇は人間が制御できるものではなく、しかし打倒できないものでもないのだそうです。というのもランシア狩猟隊は狩りや探検には秀でていますが、戦闘に関しては卑下するようなレベルではありませんがあくまでも対人レベルなのだそうです。人間や弓矢でどうにか出来る生物を想定していて、巨大なモンスターの類は専門外らしいです。
冒険者の中にはそういった相手を専門に狩るパーティーもいるそうで、その人たちなら充分に対処できるレベルの生物だと判断したようです。確かに砲台や武器を沢山使いましたが、私たちもピョルカハイム保護区の中で強さを売りにしているわけではありません。タルダイの戦士長は疑うまでもなく、私たちより腕の立つ実力者なんて両手足で足りないほど存在しているでしょう。
古大蛇は巨大で驚異的ではありますが、あくまでも装備と頭数を揃えれば追い払えるレベル、騎士団を投入すれば鎮圧可能な怪物……そう考えると厄介なだけで大したことないのかもしれません。そういった専門家の目から見ればの話ですが。
「さすがに土の中まで追いかける友人はいないがね。あの蛇は数百年ぶりに現れたんだろう? もしかしたら次に現れるのはまた数百年後かもしれないな」
ブルーノさんは自嘲気味に笑ってみせましたが、確かにその可能性も捨てきれません。なにせ私たちは古大蛇のことをなにも知らないに等しいわけです。彼……もしかしたら彼女かもしれませんが、一体どうして目を覚ましたのかも、この後どこに行って何をするつもりなのかも知る由がありません。
出来れば地中を掘り進んで保護区の外、なんならハルトノー諸侯連合領の外にでも引っ越ししてもらいたいものです。
「蛇、食べたかった!」
ルチさんは気の毒ですが、危険など無いに越したことはありません。このまま平穏が続いてくれることを祈っておきましょう。
ちなみにこの後、目を覚ましたヘイルワードさんが想定通りにルチさんに質問攻めを始めて、絶対安静なのに銃を撃たせてもらいたがるわ、お礼にと弓を教えたがるわで平穏はあっという間に壊されるわけですが、それもまた平和のひとつの形とでも考えることにします。
▶▶▶「幻のピンクカバの話」
≪エネミー紹介≫
イェムホキエムの古大蛇
種 族:グローツラング変異種(年齢・性別不明、属性:土)
クラス:グローツラング(レベル30)
移 動:5↑2↓3(水兵)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力
現在値 80 25 3 20 15 20 5 16 3 1
【スキル】
【個人】大地の蛇(地中移動可能、移動経路上と隣接マスにスタン発生)
【種族】うわばみ(攻撃時、与ダメージの半分量のHP回復)
【特殊】岩投擲(射程8の物理攻撃)
【特殊】石礫雨(周囲9マスに5~10ダメージの物理攻撃)
【特殊】大地震(マップ全体に地震発生、スタン+地形破壊)
【??】
【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 鞭術:E 弓術:E 銃砲:E
体術:C 探索:C 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:E
【装備】
なし
【所持品(3)】
なし
≪NPC紹介≫
ランシア狩猟隊員(ブルーノ・トールヴァルツ、他3名)
種 族:人間・平民
クラス:狩人(レベル23)
移 動:4↑2↓3(歩兵)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力
現在値 34 17 2 7 3 35 12 11 7 7
【スキル】
【個人】ランシア狩猟隊(弓射程内で味方が攻撃時、少ダメージの追撃発生)
【種族】投石(射程3、0~3ダメージの間接攻撃を行う)
【兵種】追撃の矢(弓・弩・吹き矢命中時、威力50%の追撃発生)
【習得】足削ぎ(攻撃命中時、移動封じを付与)
【??】
【??】
【技能】
短剣:C 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 鞭術:E 弓術:B 銃砲:E
体術:E 探索:C 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:C
【装備】
ロングボウ 威力22(6+16)
鋼の短剣 威力21(5+16)
ワークブーツ 守備+1、移動封じ無効化
【所持品(3)】
ポーション×1