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もぐれ!モグリール治療院 第38話「再会、旅の再開」

まだドラゴンと竜騎士が居座っている。 ドラゴンは普段、王都の中心地区の大して広くもない平屋の一軒屋に住んでいるそうで、酒場とか漁船とか学校とか建設現場とか、基本的には労働者に混じって働いている。そこに加えて各地の祭りに出向いたり、戦闘があると前線まで赴いたり、とにかく働き者だ。 周りから働かなくてもいいのにと言われながらも働くのは本人の主義らしく、このポルトデールでも託児所とか食堂とか道具屋とか、連日そういうところに出向いている。この国の王であるドラゴンの人気はそれはもうすさまじいもので、公園の鳩に餌をやっている時でもこんなに集まらない、ってくらい大勢に取り囲まれる。なので店側からしても、無制限に客を連れてきてくれる便利な招き猫のようなものとして歓迎されているのだ。 「じゃあ、仕事行ってくる。聞いて驚け、今日はなんと門番だ」 「ドラゴンがやる仕事じゃないと思うけど、いてらー」 朝からドラゴンを見送って、私は私で自分の仕事へと取り掛かる。パーティーの長たる私の仕事は強くあることだ。私たちは冒険者なので先々で遭遇する猛獣や魔物、モンスター、野盗、蛮族、その他いろんなものを相手に戦える力がないと話にならない。知識面やお金の面はでっぷりたちに任せてもいいけど、最前線で体を張るのは誇り高きノルドヘイムの戦士たる私の役目なのだ。 というわけで、せっかく竜騎士がいるのだからと、毎日のように訓練に付き合ってもらっている。おかげで最近は並の竜戦士では相手にならない程度には腕も上がってきたし、竜騎士とでも互角とまではいえないけど、腕力や俊敏さではちょっと上回るようになってきた。 ゴブゴブズも得意分野を伸ばしてきているし、他のみんなも積極的に訓練に参加しているので、かなり逞しくなってきた。腕力、結局最後にものをいうのは腕力なのだ。 このまま竜騎士を使って鍛えれるだけ鍛えて、私はこのパーティーをヤミーちゃんと最強武闘派集団に変えてやろうと思っている。 「オヤブン、ソロソロ昼ゴハンノ時間!」 「オナカスイタ! モウ動ケナイ!」 「休憩ダイジ! 強クナル秘訣!」 訓練用の案山子を殴り続けて、足下に水溜りが出来そうなくらい汗だくになったゴブゴブズが休憩を要求してくる。君たちねえ、そんなすぐにへばってたら私みたいになれないよ。 って言いたいところだけど、確かにお腹も空いてきた。目の前の竜騎士もさす...

もぐれ!モグリール治療院 第37話「竜の騎士と闇医者と」

収穫祭も終わり、ポルトデールにも普段の日常が返ってきて、私たちも近場を探検したり用心棒みたいなことをして過ごしていたある日のこと、 「……あれ? なんでこんなとこいるの?」 ギルドハウスの前に竜騎士が立っていた。 竜騎士、本当の名前は知らないけど、その姿から誰しもがそう呼んでる。リザードマンの竜戦士を倍程に大きくして、頭に鋭い角、背中に大きな翼を生やし、全身に頑強な甲冑を纏ったドラゴンに従う生物。オルム・ドラカの王であるドラゴンから授けられた二本一対の長剣、刃から高熱を発するエルタニンと刃に冷気を宿したアルタイスを携えて、王の剣となって戦う騎士だ。 その竜騎士がどういうわけか、私たちの暮らすギルドハウスの前に佇んでいて、小金稼ぎに構えた治療院の看板をじっと見つめている。 「怪我でもした?」 竜騎士は言葉を発しない。その口と喉は炎や電撃を発するためにあり、意思の疎通を図るためには使われない。使う気がないのか使えないのかわからないけど、とにかく会話が成り立たないのだ。そして残念なことに私はまだ文字がいまいち読めないので筆談というわけにもいかない。 なので喋れない者同士でどうにかしてもらおうと、うちのパーティーの古参のひとり、タコを連れてきた。 「ブシャアアア……!」 「……」 「ブシュルルルル」 「……」 なるほど、まったくわからん。このままじゃ埒が明かないので、主に来てもらおうかな。 竜騎士がいるってことはドラゴンもきっと近くに来てるだろうし。 ◆❖◇❖◆ 「よう、お邪魔してるぞー」 まずは腹ごしらえをしようとギルドハウスの食堂に足を運ぶと、そこにはドラゴンがいて、当たり前のようにワニのステーキなんかを頬張っていた。このワニは近くの川で獲れて、近くの森にいる猪と並んで私たちの主食のひとつに成り上がっている。食べられるから成り下がってるなのかな、どっちでもいいや、おいしいことに変わりないんだし。 ワニのステーキは塩で食べても甘辛いソースで食べてもおいしく、私としてはピリッと辛いマスタードを添えるのがお気に入り。ちなみにドラゴンは鼻にツーンと抜けるワサビとかいうもので食べている。さては通ぶってるな! 「ねえねえ、表に竜騎士がいるんだけど」 「あー、なんかここの話したら来たがってたから連れてきた。人間の頃のことでも思い出したんだろ」 え? 竜騎士って人間なの? でかいリザー...

もぐれ!モグリール治療院 おまけ「どっちが強いの?」

それは私の些細な疑問から始まった。 竜戦士たちを束ねる戦士長にして火竜というドラゴン種族のヴァルカンとマール。短髪でギョロリとした目の背の高い男がヴァルカンで、荒野の枯草を乗せたような四角い顔をした分厚い男がマール。オルム・ドラカの王ドラゴンによると、火竜というのはドラゴン種族の中でも純粋な戦闘種族で、人間に近い姿を取るような現在においても腕っ節や吐く炎の温度、体の頑丈さ、そういう強さこそが最も重要だと考えているらしい。 わかる、ノルドヘイムでも大事なのは強さだ。かわいさや知恵も大事だけど、それもこれもまず最初に強さを持っていてのこと。弱い者は獣の餌になるしかないように、強さというものはなによりも重要だ。 そこで私はさらっと聞いてしまったのだ。 聞いてしまった、というよりは口走ったって感じだけど。 「で、どっちが強いの?」 ふたりの火竜は当然のように、一切悩むこともなく自分の方が強い。もっというと自分こそが現存する火竜の中でも最上位、ドラゴン同士の戦争に生きのこった火竜の王とその娘を除く第1位、さらに王のドラゴンも含めたら4位なのだと。 4位自慢かーって一瞬思ったけど、私もノルドヘイムの家族と比べたら10本指に入るか入らないか。そう考えたらドラゴン種族で4位は大変に立派だと思う。すごいことだ。 「もちろん俺の方が強い! それに比べてこいつは塩漬けのマールなんて呼ばれて、強いことは強いが、ひたすら地面に寝かせて判定なんてつまらない勝ち方ばかりしてる、塩試合しか出来ない野郎だ!」 「ふん、よく言ったもんだ! そういうお前こそ威勢の割にはカウンター待ちの、後手後手な打撃戦なんて見世物にもならん勝ち方ばかりのくせに!」 ちなみにふたりとも馬鹿みたいに声が大きい。隣同士に立っているのに、通りの端と端で呼びかける時の大きさで話すから単純に迷惑だ。 「いいんだよ! 俺は判定なんてしょっぱいことしねえから! お前と違って糖分高いんだよ、塩漬け野郎!」 「はっ! ろくに寝技も出来ないくせに、関節全部バキバキに折ってやろうか、雑魚が!」 そして当然、ふたりとも負けず嫌いだ。 「上等だ、今から試合してぶっ潰してやるよ!」 「おうおう、やってやるよ、ごらぁ!」 そんなわけで収穫祭も終わったばかりのポルトデールで急遽、火竜の戦士を交えた格闘大会が始まったのだ。 ◆❖◇❖◆ 「大会、出る、ヤミ...

もぐれ!モグリール治療院 第36話「ドラゴン暗殺計画」

秘密結社オルム・ドラカ解放同盟は、いわゆる反ドラゴン主義を掲げる連中だ。オルム・ドラカをドラゴンの支配から解放して、独自に崇める神を頂点とする真に平等な国を作ろう、というのが目的らしい。 「ふーん、そういうのもいるんだね」 「世の中そういうもんだぞー。たとえ完璧な王であっても、それに忠誠を誓ったり支持したりする者たちはどれだけ増やしても7割、反感を抱く者はどれだけ減らそうとしても1割、そもそも興味を持たない層が最低2割は存在する。この7対1対2の割合から、私はナイフの法則って呼んでるんだけど、今度こいつを学会で発表しようと思ってるんだ」 目の前のドラゴンは地面に大雑把に数字や民の絵を書き記しながら適当に答えて、やれやれだとでも言いたげな顔を向けてくる。ドラゴンは普段は人に近い姿を取っていて、それはそれは私と比べても中々にかわいらしい顔をしてるのだけど、そんなドラゴンでも1割から嫌われてしまうらしい。本当かどうかは知らないし、私のことじゃないからどっちでもいいんだけど。 「で、そのオルム・ドラカ解放同盟がドラゴン暗殺を企んでるんだって」 「正直まったく記憶にない連中だが、思い切ったことを考えるもんだな」 ドラゴンが他人事みたいに言い放ち、せっかくだから狙われてやるかーと気楽に言ってのけた。 解放同盟にどれだけの手練れが揃ってるか知らないけど、実際にドラゴンと手合わせした私の感覚だと、この生き物を正攻法で倒すのは無理だ。人に近い姿でさえ膂力はまるで巨人のようで、それこそ完全に油断しているところに死角から奇襲して最強の一撃を食らわせるとか、そんなのでもしないと。それが通用するのかも疑問が残るけど。 もし自分だったらいつ狙うか……それこそ呑気に道端を歩いてるところとか? 楽しい雰囲気で油断させておいて、背後からグサーって刺すと思う。 辺り一帯は収穫祭の準備中で、あちこちで屋台を組み合ってたり、食糧を運んだり、鉄板や炭に火を入れたりと忙しない。竜戦士たちも見回りをしながら目を光らせているけど、いつものポルトデールよりも確実に慌ただしく、往来の流れも目まぐるしい。 それこそ不穏分子なんかが混じってもわからないような、そんな雰囲気が漂っている。 警戒心を強めて周囲を見回していると、ドラゴンの手にいつの間にか焼き立ての豚串が握られていた。 「どしたの、それ?」 「そこで貰った。おっ...

もぐれ!モグリール治療院 第35話「簡単にふらっと遊びにくる支配者」

「やあ、ヤミーちゃん。ちょっといいかね?」 こっちでの暮らしにも結構慣れてきたので、ギルドに冒険の許可を貰いに行ってみると、いつもの受付のお姉さんの他に町の偉い人……といっても人間でも人間に近い種族でもなくデーモンがいた。 デーモンはいわゆる魔物らしい魔物の種族で、人間の国では悪魔の象徴として恐れられているものの、オルム・ドラカでは割と珍しいけど普通に町にいる種族で、その魔力の高さや知識の量、あとエルフと並ぶ寿命の長さから町の運営に携わっていたり、議会に席を置いていたりする。あと赤黒くて威圧感のある顔は、オルム・ドラカでも子供から怖がられがちで、言いつけを守らないとデーモンが来る、なんて脅し文句があったりする。 そんなデーモンが陽気で気さくな挨拶を終えると、 「今度ポルトデールで収穫祭があるんだけど、ドラゴン様が来るんだよ。そこでギルドでも護衛を構えることになってね、ヤミーちゃんたちも参加してみるかい?」 なんて提案を投げかけてきた。 護衛? あのドラゴンに護衛なんているの? っていうのが正直な感想だ。私は以前、ドラゴン、それもオルム・ドラカの王の座にいるドラゴンと会っているし、その強さも本来の姿も目にしている。あれはもはや生物というより自然災害とかそんな種類のもので、海や山脈を守りたいかって訊かれると、いやー、あんまり、ってなるのが普通だと思う。 「言いたいことはわかるよ。ドラゴン様に護衛が必要なのか、というのは誰しも思うところだ。しかし倒される心配がないからといって護衛を付けないというのも、ちょっと蔑ろにしてる感が強いということでね、形だけでも護衛を用意してるんだよ」 なるほど。確かに王様をほったらかしにするのも失礼ではある。 「それにドラゴン様への忠誠心、これを言葉以外で示すには護衛というのは非常にわかりやすい。なんせ護衛だからね」 「でも私たちみたいな余所者の冒険者を、そんなのに誘っていいの?」 もちろんドラゴンと敵対するつもりも、ポルトデールの住民たちと対立するつもりもないけど、私たちをそんな簡単に信用してもいいの? もしかしたら刺客かもしれないよ? もちろん刺客じゃないんだけど。 「正直な話、君たち冒険者はオルム・ドラカの開拓や探索という点では大いに役立ってくれているけど、住民たちからしたら物騒な上に変な連中、という印象は免れなくてね。ギルドとしても、こ...