ルチ・フォナ外伝【部族図鑑】

 執筆者 ルチ・フォナ (※標準語に翻訳して記述したものである)


【ヒルチヒキ族】
ルチ・フォナ(ヒルチヒキ族)
ピョルカハイム保護区に拠点を持つ部族で、誇り高き戦士の部族だ。小さくて数名から大きくて50名ほどの集落を築き、荒野や岸壁にテントを張って暮らしている。朝は夜明けと共に動き出し、男は獣を狩りに、若い女と子供は川まで水を汲みに行く。集落に残る年老いた老人は食事の準備をし、太陽に照らされた大地と向き合って精霊への感謝を祈る。昼には捕らえた獣を解体し、干し肉を作ったり毛皮をなめしたりして過ごし、夜になると獣や野盗といった外敵に備えながら交代で眠る。

そうやって日々精霊に感謝し、自然のありがたみを噛みしめながら生きる私たちヒルチヒキ族は、最も特徴的な風習として精霊への生贄を捧げる儀式がある。
生贄は基本的に部族以外の人間、敵対者、獣などから選ばれ、中央に立てた丸太に縛り付け、その下に枯れ木や枯れ葉を積み重ねて燃やし、仕上げに円周上に獣の骨を置くことで祭壇を形成する。祭壇の作り方は集落によって流儀が異なり、丸太ではなく精霊の宿る岩を使ったり、括り縄で吊るしたりもするが、基本的に中央に主たる生贄、周囲に従たる生贄を配置する点は共通している。

儀式では主たる生贄となる人間と、従たる生贄となる人間たちの頭の皮を剥ぐことで、彼らの頭蓋に閉じ込められた霊性を解放する。空気中に放たれた霊性は煙と共に空気の中に流れ込み、大地や水や火、さらには私たちや獣たち、植物、あらゆる生き物の中へと溶け込んでいく。感謝の祈りは精霊へと捧げられ、精霊は私たちに力を授けてくれる。その媒介となるのが生贄となる人間の霊性なのだ。
魂そのものは精霊が増える糧となり、肉体は供物の形を取って感謝の気持ちを伝え、精霊の許しを得て食物とする。ピョルカハイム保護区の中には人を食らう部族があり、我らヒルチヒキ族は人間を信仰の儀式としても用いるし、食物としても頂く。肉は食糧や家畜の餌に、血や臓物は腐らせて戦いで用いる毒に、骨や皮は道具や装飾となる。まさに人間に捨てるところなしだ。

ヒルチヒキ族は外見的な特徴として顔に白い染料を塗ったり、髑髏を模した仮面を身につけたりする。立場の低い未熟な、あるいは若いヒルチヒキ族は頭に獣の頭蓋骨を乗せたり、牙や骨を加工した装飾を髪に括りつけたりする。これは霊性が頭から抜けて突然死んだりしないようにとのおまじないも兼ねていて、立派な戦士として逞しく育つことで外すことが出来る。ちなみに眠る時は枕元に骨粉を詰めた布袋を置くことで、抜け出そうとする霊性を留めている。

一般的なヒルチヒキ族の男女。男は髑髏を模した仮面を被り、女は骸骨の化粧を顔に施す。

ヒルチヒキ族の戦士には槍を持って戦うヒルチスピアー、弓矢を操って狩りを行うヒルチハンター、祭祀として儀式を取り仕切るヒルチシャーマンがいる。また敵対部族やピョルカハイム保護区に閉じ込める人間との戦いが激化したことで、硬度の高い木となめし革で作った盾を手にしたヒルチシールドという役割も生まれた。
もちろん槍や弓や以外にも斧や鎚を振るう戦士もいれば、武器を失っても素手で殴り合う勇敢な闘士もいる。私のように銃の使い手は滅多にいないけれど、安定した銃火器の入手ルートが作れたら、いずれ選択肢のひとつにもなるだろう。

誇り高きヒルチヒキ族は受けた恩も借りも必ず返す。どんな小さな恩でも忘れず、どんな些細なものでも報いる。反対にどんな小さな怨でも返さないわけにはいかない。恩人は身を呈してでも守るし、裏切者や敵対者は地の果てまで追い詰めてでも仕留める。



≪ピョルカハイム保護区の主な部族≫

【タルダイ族】
タルダイ族の戦士。蛇を象徴とする。
ピョルカハイム保護区の部族のひとつで、砂の民と名高い戦士たちだ。
蛇を砂漠の守り神として崇め、サソリを砂漠の悪魔と見做して憎んでいて、蛇腹剣という鞭のように伸びてしなる特異な武器を扱う。平均的に背丈が大きく武に名高く、特徴として左右非対称の革製或いは石や骨を加工して作った仮面を被っている。

血統的な原因があるのか極端に女が生まれてこないため、他の部族から妻を娶る風習がある。そのため周囲の部族との仲は比較的良好で、縄張りが近いこともあって私たちヒルチヒキ族とも友好関係にある。

彼らは蛇から毒を抽出して自らの武器に塗りつけて戦うため、戦士としてだけでなく暗殺者としても名を轟かせている。傭兵としてピョルカハイム保護区の外に稼ぎに行くこともあれば、外の町まで出向いて貴族や権力者の暗殺に手を貸すこともある。
ちなみに毒を扱うけれど耐性があるわけではないので、仕留めた相手を食したりはしない。



【ヴァッカレラ族】
ヴァッカレラ族。角兜が特徴。
川べりを移動して暮らし、牛の角を象徴とする部族だ。
川に産まれ川に還ることで生涯を終えるためか、泳ぎの得意な者が多く、指の間に水掻きのような膨らみを持つ。また仲間同士をすぐに認識するために、飼育した水牛の角を両側に添えた特製の兜を身に着けている。
どちらかというと温厚で性格も穏やか。戦士とは呼べない部族ではあるものの、水牛を飼い慣らす腕力と川で暮らす中で鍛えられた頑丈な足腰を持つので、体の強さは戦士の部族にも劣らない。

私たちヒルチヒキ族とは活動範囲が重ならないため縁深くはないものの、川べりを拠点として豊かな水と作物に恵まれた彼らとは仲良くしておくに越したことはない。

水耕栽培の知識と技術を持ちながら遊牧民としての一面もあり、頑丈で壊れにくいテントを簡単に作る器用さも持つ。馬にこそ乗らないものの牛には乗るので馬術の心得もある。私も馬が欲しい。出来れば水牛の頭蓋骨も欲しい。



【ズゥ・モー族】
ピョルカハイム保護区の中でも、かなり特異な体型をした部族だ。
生物の強さは突き詰めれば体重、重いことこそが強いことだという独自の信仰を持っていて、身長に対して異常に横幅が大きく、他の部族の倍以上重たい。不毛の地と呼ばれるピョルカハイム保護区で、贅沢にも成長期に腹がはち切れそうになるまで食べて、血反吐を吐くまで鍛えるを繰り返して、大人になる頃には屈強な筋肉と、それを覆う鎧のように分厚い脂肪を手に入れた。
とにかく太いズゥ・モー族。比較対象としてヒルチヒキ族のルチ。

戦い、こと格闘においては腕力と重さが物をいうのは確かにそうなので、鍛え方としては間違いではないと思うものの、体が重すぎるせいで足が遅く、すぐに息切れしてしまうので一長一短でもある。

足を大きく上げて、鎚を振り下ろすように地面を踏みつける『四股踏み』という儀式を行う。これには地面を汚す邪気を払う意味があると同時に、自らの魂を大地に根付かせる効果があるらしい。戦士ともなると言葉通り大地を揺らす程の衝撃を発生させるため、敵対者への威嚇や牽制にも用いられる。
それにしても大きい。特に羨ましくはない。



【ジェンリィン族】
ジェンリィン族。車輪を発明した。
人類で初めて車輪を発明したとされる部族だ。
文化的で争いを好まず、そのために騎士団や教会から度重なる弾圧を受けてきた苦い歴史を持つ。現在は部族の血脈を残すため、かなり過激な戦闘行為も行えるように鍛えているようで、秘かに弩や火薬を製造しているとの噂もある。製錬や鍛冶の研究もしているなんて話もあり、彼らの信用と協力を得られたら飛躍的に戦力を増強出来るかもしれない。

特徴として男女問わず、背中と胸元に車輪を模した輪を描いた刺青を彫っている。また顔に細かい装飾品を付けていることが多い。

彼らの発明は車輪に留まらず、梯子、バネ、敷網、猟具、錠前、鏡、義手とかなり種類が多い。そう遠くない内に銃火器や爆弾も開発してしまうかもしれない。
その時はぜひ私専用の銃を作ってもらいたいものだ。




【ドンガドンタ族】
ドンガドンタ族。獣面が強そう。
歌と踊りを精霊へと奉げる部族で、ヒルチヒキ族と通ずる部分も多い。
戦士ともなると精霊をその身に降ろし、人並み外れた力を発揮するともいわれているけど、実際にこの目で見たことはない。歌と踊りを嗜むからか、基本的に陽気で隙あらば踊りたがるとも聞いたことがある。

特徴として獣を模した大きな面を被っていて、どうやらその獣が彼らの守護獣であるらしい。精霊を降ろす媒介は、姿がはっきりしているほど身に着けた時間が長いほど降ろしやすくなるそうで、物心ついた頃から獣の面を被って過ごし、成長するにつれて外側を徐々に大きいものに取り換えていく。

一流の戦士や祭祀ともなると精霊の声を聴くだけでなく、精霊と言葉を交わすことも出来る。集落の長や部隊の長は精霊の声に従って自分たちの行く末を決め、敵と対峙した時にはその身を捧げてしまわんとばかりに精霊にすべてを委ねるという。
そのうち私たちヒルチヒキ族の宴にも参加してもらいたい。共に生贄を捧げて精霊に感謝し、私たちの儀式をその歌と踊りで彩って欲しい。



【ウェデワン族】
ウェデワン族。出足が倍程も長い。
私たち以上に険しい断崖絶壁で暮らす部族だ。
遥か祖先から断崖に生きてきたため、総じて腕が他部族よりも長く、指の力も強く、わずかな突起さえあれば容易く壁さえも登ることが出来る。その姿は人の形をした蜘蛛のようで、道具無しで断崖を移動する姿は人間よりも猿に近い。

更なる人体の可能性を探るために手足を伸ばす金輪を幾重にも嵌め、強引に体を改造している者が多く、他の部族と比べて異常に背が高い。人体改造が極まった者ともなると、手足が常人の倍近く長い。

戦いともなればその長さを活かした独自の技を振るう武の民でもあり、剣を槍よりも遠くまで届かせながら、一足飛びで馬のように遠くまで離れることが出来る。もちろん長いだけでなく、その長い腕に上乗せした遠心力は驚くような破壊力を生み出す。
ただでさえ長い槍を持った時には手のつけようがない戦士と化すかもしれない。



【シカリオ族】
シカリオ族の幹部。
黄金の三角地帯と呼ばれる麻薬の密売を牛耳る部族だ。
ピョルカハイム保護区にありながら、唯一外部の人間勢力との交易を行っている。彼らは強い幻覚作用や錯乱効果のある植物を育て、それを濃縮して麻薬という非常に中毒性の強い毒物を作り出せる。その麻薬は騎士団や教会の統治地において高額で取引され、貴族や富豪だけでなく聖職者や領主をも蝕んでいるのだとか。
そういう生業も関係してか、部族社会には珍しい組織的な上下関係を形成し、裏切者や背信者を屈服させるための過剰な暴力や拷問の技術も身に着けている。

過去に人間の骨粉や臓物を素材にした薬物を作っていたことがあり、ヒルチヒキ族とは商売相手として友好的な関係にあったりする。ただ実際に取引を行うのはヒルチヒキ族の中でも限られた一部、私は当然として私の集落の中にも彼らと直接会ったことのある者はいない。
そういった意味では利用は出来ても信用できない、そんな風に考えておいた方がいい。



≪ピョルカハイム保護区のその他の部族≫

【ドゥローミー族】
泥の仮面を被った部族。
泥を押し固めて焼いた大きな仮面を被り、全身にも泥を塗りたくっている。その姿から騎士団や教会、外部の勢力からはマッドマン(人間の言語で泥人間)と呼ばれ、死を恐れず常に集団で行動する。不気味な仮面を被って集団で襲いかかる姿は、確かに怖いというか奇異なものに見えるだろう。
ヒルチヒキ族とは縄張りが近いものの特にこれといった関わりはなく、彼らの文化や信仰については詳しくない。襲撃してくる気配もないので、触らなければ戦うこともないと思う。

【アルバディー族】
巨大な殻と三角錐状の頭が目立つ部族で、とち狂った駝鳥のように暴れ回り、言葉も道理も一切通じない。
過去に幾つかの部族が交渉を試みたものの、なにが気に障ったのか突如として発狂を始め、いきなり鉈や斧を振り回して襲いかかってきたらしい。
とち狂った駝鳥という例えは侮辱でも侮蔑でもなく実はかなり適確で、彼らは駝鳥さながらの突進力と移動力を発揮して、目に映るものを片っ端から攻撃していく。敵対勢力の殲滅後は、どうして戦っていたのかも忘れたように縄張りに戻っていき、また突如として砂嵐のように現れる。
絶対に関わり合いになりたくない部族の最たる例だ。

【ヴァルアリ族】
猛禽と共に暮らし、頭に羽根飾りをつけた部族だ。
ピョルカハイム保護区では絶滅寸前で、生き残りは100人に満たないと思われる。もしかしたら他の土地で生き延びている同胞がいるのかもしれない。
彼らは同族以上に猛禽と意思の疎通が図れるようで、空から大地を見下ろす猛禽から得た情報を狩りや戦いに組み込んでいる。また猛禽自体にも狩りを手伝わせて、射抜いた得物に追撃を仕掛けたり、逃げる得物を誘導したりもする。

【ヌダルグ族】
生まれた時から犬と共に暮らす部族だ。
犬の躾と扱いに長けている上に足が速く、犬に負けず劣らぬ速さで駆けることが出来る。幼い頃から家族のように育った犬とは固い絆で結ばれていて、猟犬のように狩りを手伝うこともあれば身を呈して守ってくれることもある。
犬を模した魔物の仮面を顔の上半分に嵌めていて、犬のように暮らしているからか種族的に犬歯が鋭く発達している。遠吠えのような声を発する様子も見られているので、中身も人間より犬に近いのかもしれない。

【ハタカプァ族】
薬草に用いた儀式を行使する治癒術に優れた部族だ。
体が細く非力で、狩りや武術よりも知性と治療に長けている。そのためピョルカハイム保護区での勢力は非常に小さく、他の部族と争いにならないように森の中でひっそりと暮らしている。
私たちヒルチヒキ族は特に警戒対象らしく、以前他の集落の者が遭遇した時には薬草をひとつかみほど地面において、そのまま彼方まで逃げていったらしい。貴重な回復技能の持ち主だけど、仲間にするのは難しいかもしれない。

【イリンジャヤ族】
体の半分近くもある奇妙な大型の仮面を被る狩人の部族だ。
体を無数の円模様で染めていて、狩りの際には鳥のような鳴き声で吠え立てる。ピョルカハイム保護区の中では珍しく精霊ではなく、空を舞う猛禽を崇めているらしく、基本的には地を駆ける獣を狙う。
私たちヒルチヒキ族との交流はない。信仰が違い過ぎるために仲良く出来る気もしない。

【ズァルアン族】
唇や耳に皿や鈴を埋め込む独特な風習を持つ部族だ。
元々はピョルカハイム保護区の中でも外界に最も近い場所に住んでいたため、騎士団や教会による人狩りの被害が多く、その対象から外れるために独自の装飾を施すようになった。やがて人体改造そのものが誇りに変わり、成人の際には手足の1本を切り落とし義手や義足に取り換える。
最近では戦闘用の義手を作製し、人狩りの襲撃に備えているという。

【イェンパ族】
顔や全身に黄色い塗料を塗りたくり、派手な羽根や植物で着飾った部族だ。
戦いや争いを好まず音楽と快楽を愛する集団を形成し、日がな一日ドラムを叩きパイプを燻らせて過ごすことから、周囲の部族からは『堕落の民』なんて呼ばれ方もしている。
それも生き方なので口出しするつもりはないけど、ろくに狩りもせずによく存続できるなと不思議に思わずにはいられない。

【ペペミカ族】
外見的に大きな特徴のない少数部族だ。
勢力が小さく人数も少ないため、他の部族や外部の人間と争うのを良しとせず、ささやかに農耕と採集を行って暮らしている。また、敵意が無いことを示すために、他部族が訪れた時には相応のもてなしを施して返すという習わしがある。

【スクーラリン族】
ピョルカハイム保護区の中でも北部の雪が多い地域に住む部族だ。
大陸北部の蛮族のように獣の皮を纏い、特に大きな獣を身につけた者は集落の中でも秀でた勇士と讃える風習がある。見た目に反して穏やかな気質を持っているようで、狩り以外の時間はもっぱら詩を綴って過ごしている。

【ウィルニル族】
ピョルカハイム保護区の中でも最北の地に住む部族だ。
すべての自然物に精霊が宿っていると信仰し、生贄を捧げないものの火を起こして感謝を伝える儀式を行う。またセイウチを神の化身として崇拝している。
文字を持たないため失われた呪文や秘宝がある、という当人たちには嬉しくない噂も流れている。気の毒に。

【ヒッポペル族】
最悪な部族と呼ばれる異常者の集団だ。
ピンク色のカバを神として崇め、カバを崇拝しない者はどれだけ友好的であっても異端として攻撃する独自の価値観で生きている。異端者に対しては、地の果てまで追いかけ回して足首を切り落とし、それを成し遂げるためにはどれだけ犠牲が出ても構わないと考える。そのため戦いを好む部族であっても彼らとは接しようとしない。
当然、私たちヒルチヒキ族も関わりたくない。

【その他の部族】
ピョルカハイム保護区には少なくても数十、おそらく数百の部族が生活している。中にはコウモリの翼のような飛行器具で飛んだり、モグラのように地面に潜ったり、股間に巨大な象牙を嵌めていたり、一見すると外部の農民にしか見えなかったりと様々な部族が暮らしている。
部族としては違うけれど、姿も生活もほとんど同じような集団もいるので簡単に見わけることも出来なかったりする。まさに十人十色というやつだ。
ちなみにヒルチヒキ族のように生贄を捧げる風習を持つ種族はそんなに多くない。

このブログの人気の投稿

もぐれ!モグリール治療院

モグリール治療院外伝 ― ルチ・フォナ ―

三界廻って碗