ルチ・フォナ外伝 第21話「塹壕の中から月に手を伸ばす者たちの話」
このピョルカハイム保護区には多様な個性を持つ部族が大勢いますが、その中でも特に奇異なのがウェデワン族です。彼らはヒルチヒキ族のみなさんよりも険しい断崖絶壁を縄張りとしていて、わずかな突起さえあればどんな場所でも容易く登ることが出来るそうです。その姿は蜘蛛やトカゲのようだなどと記されていますが、こればかりは文章から想像してもよくわかりません。 「ルチさん、ウェデワン族に会ったことはあるんですか?」 「ウェデワン族、腕、長い。足、長い。伸ばしてる」 なるほど、さっぱりわかりません。百聞は一見に如かず、実際に見た方が早いでしょう。 「そういえばウェデワン族の方々は、ジェンリィン族とは手を組まなかったんですよね? なにか事情があったんですか?」 「ウェデワン族は戦の部族だ、自分たちより強い者でなければ耳を貸さん。俺たちジェンリィン族は肉体労働は苦手だ、あとは解るよな?」 ジェンリィン族のゾ・ルルガさんが眉をひそめながら説明してくれました。彼らはどちらかというと頭脳派で手先の器用さが売りで、直接戦うような真似は不得手ですからね。話し合いのテーブルにすら座れなかったのでしょう。 まったく、これだから野蛮な人たちは困ります……もちろんヒルチヒキ族のみなさんは例外ですよ、あれはもう野蛮とかそういう範疇ではありませんので。 「ウェデワン族、この辺のはず」 しばらく歩いていると、荒野を二つに割るような巨大な渓谷が見えてきました。ろくな足場さえも見当たらない険しい崖に落ちたら死を免れない深い谷、乾いた風が通り抜けるだけの赤茶けた大地は人の営みからは程遠い世界にしか見えません。ヒルチヒキ族のみなさんも崖に集落を築くこともありますが、さすがにここまで険しい場所は選びません。 「おかしい、見当たらない」 「ウェデワン族は以前は崖にへばりついて暮らしていたが、外敵の襲撃に備えて下に住むようになった」 下? この渓谷の底ってことですか? 確かに人狩りや調査隊もこの崖を降りる危険を冒してまで接触しようとは考えないでしょうが、不便過ぎではありませんかね。それとも彼らの登攀能力からしたら問題ないのでしょうか。 「用事があれば狼煙で報せて欲しいそうだ」 そう言ってゾ・ルルガさんは妙な色をした枯草を燃やし始めて、青色の毒々しい煙を立ち上らせました。便利ですね、その煙。他の色もあるなら色んな合図に使えそうです...