もぐれ!モグリール治療院 第32話「ギルドハウスはなるべく頑丈に」
「ところでヤミーちゃん、寝泊りはどうしてるんです?」
晴れてでっぷりたちと合流できたので、早速冒険者ギルドでの追加登録を済ませていると、受付のエルフのお姉さんからそんなことを聞かれてしまった。どうやらギルドの裏庭で毛皮を干させてもらって、ついでに荷物も置かせてもらってるからだと思うけど、私のような美少女がどんな暮らしをしているのか心配になる気持ちもわからなくもない。
なので素直に、
「その辺の橋の下とか、建物と建物の間とか、屋根の上とかで寝てるよ」
正直に答えておいた。ガルムは早々に住み込みで出来る仕事を見つけて、キダルちゃんは酒販店組合の宿泊所に泊めてもらってるけど、あとはみんな似たようなもので、アディラと熊は町の外の適当な森で、人魚隊はその辺の川の中で夜を過ごしている。
「生活が野生児過ぎる……!」
「まあ、そういう反応にもなるよな。むしろなんで野生適応が上がってんだよ」
私がえへへっと声を出して笑い、ルチが誇らしげに笑みを浮かべる。どこでも生きていけるというのは大したものなのだよ、でっぷり君。私の強さに恐れおののくといい。
「いや、褒めてねえから」
褒めではなかった。まったく久しぶりなのに紛らわしい子分だ、褒める時はもっと素直に褒めるように!
「ヤミーちゃん、ギルドハウスを構えてみてはどうでしょう」
「ぎるどはうす?」
この建物と何か違うのかな? 私とルチが合わせたような体を傾けると、受付のお姉さんは優しそうな笑顔に若干の驚愕とか戦慄みたいなものを滲ませた。
【ギルドハウス】
どうやら世間に詳しくないヤミーちゃんのために説明しておきますと、ギルドハウスというのは冒険者たちの拠点のひとつです。ここポルトデールで活動する冒険者の3分の1は安宿を、3分の1は自宅を拠点として活用していますが、ヤミーちゃんたちのような大所帯のパーティーは節約も兼ねてギルドハウスを活用します。
ギルドハウスの形態は多様で、砦のような頑強なものから酒場のような商売色の強い店舗型、畑や牧場を備えた郊外の民家型、見晴らしに全振りした灯台型、芸術家のアトリエ型、地下シェルター型、趣向を凝らせてお化け屋敷や迷路のようなものまでパーティーの自由です。
ヤミーちゃんは熊とか羊とか動物系のメンバーが多めなので、郊外の民家型を個人的にはおすすめします。
ちなみにパーティーという名称を使った方が適確なのですが、不思議なことに妙な軽薄さが醸し出されてしまうので、ギルドハウスもしくは各自がつけた建物名で呼んでいます。
「なるほど。ねえ、ルチ、どんなのがいい?」
「城、広い、強い。兼ねる、大は小」
「いや、まず参謀である俺に相談しろよ」
さすがに城は無理だと思うけど、私は優しい親分でもあるので、折角だしみんなの希望も聞いてみることにした。
ちなみに土地は遊ばせるよりは活用した方がいいということで、郊外の空き地ならタダで使わせてもらえるらしい。オルム・ドラカ、太っ腹だな。うちのでっぷりもお腹はかなり太めだけど。
◆❖◇❖◆
「というわけで、ここにギルドハウスを建てようと思う」
ギルドが提示してきたのは元々トロールのおじいさんが畑かなにかやってた川べりの土地で、少し前に持病の腰痛が爆発して動けなくなり、そのままオルム・ドラカに土地を返したという。作業小屋とか物置はすぐに撤去されたから残ってないけど、それに引っ張られてしまうのも不本意だし、壊す手間が省けたと思えばむしろありがたいくらい。とりあえず生え散らかした雑草は羊とコカトリスとタコを放って、餌代わりに食べてもらってる。
「倉庫と寝床は必要として、あと何がいるかなあ?」
「まず牧場というか家畜小屋でもいいんだけど、そういうのじゃないか」
これはガルムの意見。確かにうちには熊と羊とコカトリスがいるので、動物を飼う場所は必要だ。
「食堂! パン焼き窯!」
これはウストムィの意見。別に外でもよくないって思うけど、まあ雨とか雪とか考えたら中にそういう場所があってもいい。あとパンは焼けた方がいい、お肉も。
「だったら酒場も置いていい? ここを海の家ぺったんこ2号店とする!」
これはキダルちゃんの意見。酒場には大賛成だ、町のみんなとも手っ取り早く仲良くなれるかもしれないし、お金も稼げるならなおよし。
「そんなことより書庫だ、これは絶対に譲れん。折角オルム・ドラカに来たんだ、珍しい本はなるべく手に入れておきたい」
「へいへい、でっぷり君。個室はわがままが過ぎるんじゃない?」
とはいえオルム・ドラカの技術は人間の国より数段上。その恩恵に預かれるんだったら書庫を用意してもいいのかもしれない。
「訓練場はあった方がいいでしょう。正直、我々とオルム・ドラカの戦士との間にはかなり差があるようですし」
「訓練、ガンバル!」
「一緒ニオヤブンモ鍛エル!」
「殴ルヨウノ案山子ホシイ!」
ピギーとゴブゴブズは訓練場を提案してきた。確かに、私もドラゴンに挑んだ時にものすごく後れを取った。力の差は少しでも埋めないと命を落としかねない。
「祭壇! 捧げる、生贄、必要!」
「……いいけど、捧げてもいいのは悪党だけね」
急に血生臭さが高まるけど、ルチや部族のみんなが必要というなら祭壇も置いておこうかな。敷地の隅っこのなるべく目立たないところにでも。
といった具合で色んな意見が出たので、ちょうど暇になった職人の兄弟も仲間になったことだし、ギルドハウスを建ててもらおう。どのくらいかかるかわからないけど、ここまでに手に入れたもの全部換金したらどうにか足りる……のかなあ?
◆❖◇❖◆
翌朝、改めて郊外の空き地に来てみると、やたらと頑丈そうな石造りの建物が姿を現した。
「おお、さすが無職兄弟、仕事が早い!」
「拠点、強そう、頑丈」
確かに強そうだ。特に頑丈さは寝床としては重要、せっかく雨風を凌げる場所で眠るのだから、ちょっとやそっとの突風で壊れるような場所では意味がない。なんで壁から犬の頭が生えているのかは不思議だけど、もしかしたら狼のつもりなのかもしれない。狼はいうまでもなく私の象徴、つまりあの壁から生えている頭は私への忠誠心といったところか。
無職兄弟が描いた図面によると男子宿舎と女子宿舎、食堂兼酒場、倉庫、設備をなるべく集めた建物がひとつずつ。そこに牧場と畑、訓練場、見張り櫓、桟橋、儀式用の祭壇がくっついて、一応ぐるっと柵で囲んであるみたい。
「ああ、愛しのルチさん! 見てくれ、この頑強さ。俺が一晩かけて君のために作ったんだ……なんだ、ヤミーちゃんもいたのか」
「兄貴、抜け駆けは駄目だぜ! ルチさん、素晴らしい造形だろう。俺がデザインから施工まで手掛けて……なんだ、ヤミーちゃん来てたのか」
オーガの職人兄弟が徹夜明けのふらふらの姿で現れて、目の下にしっかりとした隈を浮かべながら、ルチに向けて尻尾を振る犬のように手柄自慢を始めた。なあ、お前らの親分は私なんだけど?
「早速案内させてくれ。まず今目の前にある石造りの2階建てが宿舎。撤去されたケルベロス像を惜しみなく使った頑丈仕上げ、さらに不埒な輩がやってこないように男女で建物ごと分けているから、扉から侵入しない限り物理的に近づけない。さらに女子宿舎の周りに張ってある鋼線、これは地中に埋めた放電鉱石と繋げてあるから、触れた瞬間に体内に電流が走る」
兄のヴォラックが弟グレイグの体を掴んで鋼線に押し付けると、一瞬バチンと物騒な音を響かせてグレイグの体が揺れて、ぷすぷすと焦げ臭いにおいを発しながら悶絶する。
「これで泥棒も敵対者も変質者も一網打尽だ。希望なら地雷も追加しよう」
防犯は完璧だけど、これ使う側も触れたら死んでしまうのでは……?
「次にあっちにあるのが食堂兼酒場。あえて木造、板張りで仕上げた古き良きオールド・ポルトデール・スタイルに、晴れた日には川や牧場を眺めながら過ごせるオープンテラスも設置。さらにパンでも肉でも焼き放題な石窯を複数設置、ついでに地下に安定して涼しい貯蔵庫も造っておいた」
「ちなみに隣の食糧庫と倉庫には渡り廊下で直結させてあるから、雨の日でも安心して食材の補充が出来るって寸法だ」
これに関しては全く文句ない。キダルちゃんもウストムィも満足してくれるだろう。
「その隣にある一番でかい建物、ここにはその他屋内設備をなるべく詰め込んだ。サイクロプスに書庫だけあてがうのは不公平なので実験設備付きの研究室。格闘技術を磨けるように屋内武道場。怪我してもすぐに治せるように治療院、これは外来診療用の受付も用意した。さらに防音設備を施した好きなように大声で騒げる娯楽室。急な故障にもすぐ対応できるように製材所と加工所もある、雨漏りなんか見つけたらすぐに教えてくれ」
「あえて空き部屋を何室か用意してあるけど、これは今後増えるかもしれない仲間用だ。そいつの技能に合わせて改造出来る」
これを一晩で建てるとは、このふたり、やっぱり腕はいいんだな。性格とこだわりが強すぎただけで。
「あとは案山子に的に鍛錬器具も備えた屋外訓練場に、手抜きではなく素材をそのまま再利用した農場、同じく自然を活かした何の手も加えていない牧場、不要かもしれないけど見張り櫓、せっかく川べりにあるから桟橋とウーズの増産場も用意しておいた」
「でもそんなものより見てくれ、俺たちの一番力を入れた箇所を! ルチさんの希望通り、生贄を捧げる祭壇を造った!」
兄弟が指さした先には白い紋様が描かれた柱が数本そびえ、真ん中にはドクロを模した像が佇んでいる。さらに生贄を括りつける鋼鉄製の柱と、手早く皮を剥ぐための作業台も設置し、外周には儀式用の獣の頭蓋骨がぐるっと並んでいる。
デーモンでも召喚しちゃいそうな不気味さがあるけど、よくこんなものまで造ったなあって感心する。愛ってすごい。
「祭壇、素晴らしい、捧げる、生贄、精霊」
ルチが鼻息を荒くしながら、キラキラした瞳で祭壇を眺めている。満足しているようでなによりだけど、後でうっかり悪魔とか現れないように清めの酒でも撒いておこう。
というわけで無事にギルドハウスも完成したことだし、足りない部分は後々付け足していくとして、名前どうしようかな。オルム・ドラカの冒険者たちはギルドハウスに好きな名前を付ける、それこそ個人名をつけたり、パーティーの名前をつけたり、突拍子もないヘンテコな名前を付けてみせたり。
「名前、大事。わかりやすい、重要、一番」
「そうだね、わかりやすい名前」
そういえば後でやってくるはずのモグリールたちが見つけやすいように、パーティー名をモグリール治療院と名乗ってたんだった。ギルドハウスの出来が思いのほか良かったから、すっかり忘れてた。
よし、ここをギルドハウス【モグリール治療院】とする!
▶▶▶「マンドラゴラ畑で捕まえて」
≪NPC紹介≫
ザナフィア・クローヴィア
種 族:エルフ(女、197歳)
クラス:受付嬢(レベル39)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 32 7 19 9 19 23 51 10 19 41 4↑2↓3(歩兵)
成長率 35 10 30 20 35 40 35 25 30 40
【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 弓術:C 体術:E
探索:B 魔道:B 回復:B 重装:E 馬術:E 学術:B
【装備】
オービット 威力29(10+19/魔法武器)
魔道士のマント 回避+25、魔力+1
【スキル】
【個人】大人の魅力(魅力+10)
【基本】精霊の加護(MAP上の精霊と隣接した際にHPを30%回復する)
【受付】天使の微笑み(金では買えないレベルの微笑み、特に効果はない)
【受付】励ましの言葉(金を積みたくなるような励まし、特に効果はない)
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