もぐれ!モグリール治療院 第33話「マンドラゴラ畑で捕まえて」
「ヤミーちゃん、拠点建てたんだって? これ植えるといいよ」
朝からギルドハウスの周りを散歩をしていると、近所の農家のおじさんから変な野菜の苗を貰った。パッと見は大根みたいな姿をしてるけど、途中から足のように枝分かれしてそれがぐるぐると絡まって、ついでに顔みたいな模様が浮かび上がっている。
お世辞にもおいしそうには見えないけど、薬草としては効果が高いのかもしれない。農場の隅っこに植えるといいらしいので、一番端っこの適当な場所に適当に植えておいた。
「ギャアアアー!」
翌朝、畑の方からけたたましい叫び声が聞こえてきたので、朝っぱらから騒がしいなあって顔をしかめながら外に出ると、
「……あば……あばばば……」
口から泡を吹いて白目を剥いているサイ頭の獣人が、ぴくぴくと痙攣しながら地面に転がっている。
その手には例の変な形の野菜が握られていて、変な野菜の方も顔みたいな模様が大口を開けているように変わっている、ように見える。
血も流れていないし、殴られた形跡もない。でもサイ頭は倒れているし、野菜は引っこ抜かれている。
こいつは事件だ。原因はわからないし、何が起こったのかもわからないけど、こいつは事件だ。
「事件だ!」
気絶しているサイ頭は事件の参考人として一旦ぐるぐる巻きにして、信じられないことにあんな叫び声を聞いておいてまだ寝ているみんなを起こして回った。
◆❖◇❖◆
「事件だ!」
「事件だ、じゃねえよ。なんなんだよ、朝早くから」
「朝どころかまだ夜じゃねえか」
眠い目をこすりながら起きてきた農場担当のガルムと、妙な事件にも詳しそうな本好きサイクロプスのでっぷりが大きな欠伸をひとつふたつ浮かべる。ちなみに女子宿舎の方は相棒のルチが起きてくれたものの、サイ頭を生贄にするって言い出したのでもう1回寝てもらった。サイ頭はまだ参考人だから、事件が解決するまで生贄にしては駄目なの。
「……それで叫び声が聞こえたと思ったら、このライノサロスが倒れていたと」
「そう! でも出血も怪我も見当たらない! こいつは事件だ!」
でっぷりが再び欠伸を浮かべてサイ頭と野菜を見比べて、
「事件でもなんでもないな。マンドラゴラを抜いたんだろ」
あっさりと答えを導きだした。なんだこいつ、探偵気取りのつもりか。
「マンゴラドラ?」
「マンゴラドラじゃない、マンドラゴラだ」
「マンドラゴラ?」
「マンドラゴラ」
【マンドラゴラ】
まさか知らない奴がいるとは思わなかったが、引き抜かれた時に死の絶叫を上げる魔法の植物だ。
根の部分が人の顔のようになっていて、枝分かれした部分が手足のように見えるのが特徴。ちなみに発声器官らしきものは見当たらないが、事実として声は出ているので、大陸七不思議のひとつにも指定されているとかいないとか。
葉っぱ部分は普通の野菜とあまり違いがなく、泥棒に悩まされる農家が罠として植えることもある。結果はそこのライノサロスを見ての通りだ、一定範囲内の生物を気絶、最悪の場合はショック死させる。
素材としての価値が高く、大きく育ったマンドラゴラは高値で取引されるので収入源としては中々に優秀だ。
「ちなみに引っこ抜くときは、根っこの地面から出ている部分に縄を掛けたり、楔を打ち込んで縄で引っ張ったり。とにかく遠く離れた場所から抜くのがコツだ」
でっぷりが本で読んだだけに違いない知識をえらそうに語ってみせる。でっぷりがこの体型で畑仕事とかするはずがないから、絶対にマンドラゴラを引き抜いたことなどない。美少女探偵ヤミーちゃんの推理が間違いないと言ってる。
「農家によっては犬に掘らせる奴もいるそうだが、動物愛護団体の抗議で今はほとんどいない」
「犬の命は人間より重いもんね」
「まあ犬だからな」
世間ではたまに命は平等だなんて気が狂ったような主張を叫ぶ人もいるけど、どう考えても命は平等ではない。市民よりは貴族や王の方が高いとされるし、物乞いなんかは市民より明らかに低い。奴隷はさらに低い。
命の価値は基本的に権力とか財力とか、あと個人の能力とか、見た目の愛らしさなんかで上下する。犬はかわいいから貴族と市民の間くらいに位置するけど、私の中では貴族よりも高い。なぜなら犬はかわいいし、貴族は頭を叩き割ったら死ぬから。
ちなみに私の仲間たちの命は、みんな平等に価値がある。なぜなら私の仲間たちだからだ。
「命の重い軽いはともかくとして、このサイ頭は泥棒ってことか?」
元奴隷だけどちゃんと命の価値があるガルムが、ぐるぐる巻きに縛られたサイ頭を見下ろす。
「フィアレアド王国だと泥棒は見せしめに鞭打ちにしてたけど、オルム・ドラカではどうなんだろうな」
「前にオルム・ドラカの住民は本来すべてドラゴンの所有物だって聞いたけど、どうなんだろ? 勝手に打ち回したりしてもいいのかな?」
どうなの、でっぷり先生。とでもいわんばかりに私たちが顔を向けると、
「オルム・ドラカにも司法や刑法はあって、それこそ衛兵にでも突き出すのが一番だな。俺たちは冒険者登録はしていても、住民登録はしていない不安定な立場だ。余計なトラブルは避けるに越したことはない」
そういってライノサロスをその辺の荷車に乗せて、逃げ出せないようにしっかりと荷台に括りつけた。
◆❖◇❖◆
「おーう、こいつはテンケーテキな泥棒だナー! マンドラゴラに引っ掛かるとはマヌケな奴ダ! ミセシメにその辺に吊るしておこうカナ!」
ライノサロスを引き取った衛兵は妙に陽気な片言喋りでケラケラと笑いながら、『私はマンドラゴラに引っ掛かったマヌケな泥棒です』と書かれているらしい看板を泥棒の首に提げて、そのまま衛兵詰め所の壁にぶら下げ始めた。
オルム・ドラカの一般的な刑法では、泥棒は被害金額と迷惑料を含めた罰金刑で、払わなければ危険な鉱山労働に回される。その場合は被害金と迷惑料を所管の町が肩代わりにして、鉱山労働で得た報酬から取り立てるのだという。
「罰金払えナイ! 鉱山に労働力回せル、肩代わりの利子貰えル、イッキョリョートクってやつだナー!」
ちなみにオルム・ドラカの犯罪率は、ドラゴンという絶対的な王の存在とドラゴンへの信仰のおかげで、人間の国に比べてかなり少ない。それでもドラゴンにさえ立て付くような病気、この病気っていう表現は目の前の衛兵がしたものだけど、まさに病気としか例えようのない異常者が発生するらしい。
ドラゴンにさえ従わず、法や秩序の外で生きようとする頭の病気、それがだいたい数百人にひとりくらいの確率で自然発生してしまうのだとか。
「野良犬のウンコみたいなものだから仕方ないナー!」
衛兵はケラケラと笑いながら、吊り下げられたマヌケにぶつけるための石を見物客たちに配っていった。どうやら罪人への石投げは大陸共通の娯楽みたい。
「というわけで引き抜かれたマンドラゴラ代に加えて迷惑料も手に入った! これからもどんどんマンドラゴラを植えて泥棒を捕まえて、黙っていてもお金が手に入るし育ったら育ったで出荷してお金に換えよう作戦を決行したいと思う!」
「別に反対する理由もないが、間違えてマンドラゴラを抜かないようにしろよ」
農場に戻って高らかに宣言する私に、未だに畑仕事をする気配を見せないでっぷりが水を差す。へいへい、でっぷり君、たまには汗水たらして土と戯れてみたらどうだ? 土いじりは楽しいよー、畑を耕すのは体を鍛えるのにも役に立つし。
「マンドラゴラの世話は俺がするんだよな……金になるなら全然いいけど」
ガルムが溜め息を吐きながら引っこ抜かれたマンドラゴラを植え直し、ぱんぱんと手で叩いて土を押し固める。さすが色んな仕事をこなしてきた元奴隷、農作業姿も様になってる。
「じゃあ、俺は書庫に戻るからな。オルム・ドラカの知識に追いつくのに忙しいんだ」
でっぷり君、読書もいいけどガルムを見習って土を触りなさい、土を。
ちなみに育ったマンドラゴラが勝手に歩き始めて、みんなの寝床でギャアーって叫んだ事件はまたそのうち話そうと思う。
▶▶▶「屋根裏部屋からこんにちは」
≪加入ユニット紹介≫
作物5号
種 族:アルラウネ(無性別、0歳)
クラス:アルラウネ(レベル25)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 22 8 9 10 6 11 2 2 3 4 2↑2↓3(山岳)
成長率 30 25 20 30 20 25 10 10 15 10
【技能】
短剣:E 剣術:D 槍術:E 斧鎚:D 弓術:E 体術:E
探索:E 魔道:D 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:E
【装備】
大ナタ 威力12(4+8)
【スキル】
【個人】ダイ棍棒(射程1、腕力+技能レベル×3の物理攻撃、技能は斧鎚)
【固有】死の絶叫(攻撃を受けた時、周囲2マスの範囲に低確率で即死付与)
【固有】死の反響(死の絶叫の範囲+1)
【固有】死の連鎖(死の絶叫で即死したユニットがいた場合、次の絶叫で付与率アップ)
【??】
【??】