もぐれ!モグリール治療院 第34話「屋根裏部屋からこんにちは」
ギルドハウスの女子宿舎の2階の角部屋、そこが私の部屋なんだけど……雨風凌げるのはありがたいし、夜中に眠るだけの部屋にしては十分な広さだし、なんなら窓の外には服と毛皮を干せるベランダもあるし、概ね文句はないよ? そこは無いって言い切りたいところなんだけど、天井裏に一見さんのネズミかコウモリでも入り込んじゃったのか、時々ガタガタと鳴るのだけはちょっと不満がある。
いっそ天井を剥がしてしまおうかなって思わなくもないけど、せっかく作ってもらったばっかりだし、それもちょっと勿体ない。
「燻す、出ていく、虫、ネズミ、コウモリ、侵入者」
「よし、ちょうど魚も食べたかったし、煙攻めにしよっか」
同じく隣の部屋でやかましさに悩まされている相棒のルチと一緒に、すぐそこの川で釣ったばかりの魚を網に乗せて、焚き火台の中に詰め込んだ枯れ木に火を点ける。もちろん火種が落ちても大丈夫なように、台の下には石板を敷き、その横には水の入ったバケツを用意してある。そもそも部屋もベランダも床自体が石敷きなので、そう簡単には燃えないんだけど、用心に越したことはない。
「こういう時に水とか氷の魔法が使えたら便利なのに」
「ヤミー、無い、才能、魔法」
この間、でっぷりの書庫兼研究室で魔法を教わろうとしたけど、どうやら私には絶望的に魔法の才能がないみたいで、持てるすべての魔力を最大限に使った結果、ちっちゃーい掌ほどの氷を出すに終わった。一応ノルドンパンチっていう姉に教わった技があるので、魔法も出来そうなもんだけど、あれと魔法はそもそもの原理が違うのだ。どう違うのかはちょっと感覚的過ぎて説明できないけど、強いていえばあれは身に纏った闘気を冷気に変換していて、体内から絞り出す魔法とは正反対な感じだ。
「大丈夫。無い、あんまり、私も」
一応ルチも魔法を習ってみたものの、拳大の石をそこそこの距離に飛ばす程度の代物。ついでにいうと教えてくれた当のでっぷりは、自信満々に目も眩むような雷を放ってみせた。よくわかってないけど魔法は生まれた場所とか育った環境とか、あと種族とかが大いに関係するみたいで、私の属性は氷、ルチは土、でっぷりは雷の他にも何種類かの素質があるっぽい。
属性以外の魔力の量とか質とかは、かわいそうになるくらい結果が物語ってる。ルチはまだ磨けば光るかもだけど、私なんかは魔法を使うくらいなら石ころでも拾って投げた方がマシな有様。
いいけどね、どてっぱらに穴が開くような剛速球投げてやるから!
「魚、焼けてきた、すごい、煙」
「私たちはベランダにいるから大丈夫だけど、天井裏のネズミだかなんだかは大変だろうね」
もくもくと立ち昇る煙を見上げながら、たまに魚を裏返したりしていると、天井裏からげっほげっほとむせるような音が聞こえてきて、さらにガタガタと天井板が外れたかと思ったら、そのまま真っ直ぐに人間大の何かが落ちてきた。
「でっかいネズミだね……いや、ネズミじゃないな」
「人間、たぶん、恰好、妙」
普段狼の毛皮を被ったり獣の頭蓋骨を頭に乗せたりしてる私たちに言われたくないだろうけど、落ちてきた生き物は確かに妙な恰好をしている。黒一色の上下は爪先から手の先、首元までしっかりと隠していて、喉元から肩にかけて丈の長い黒の首巻、腰には連ねた道具袋を提げて背中には鞘に入った直剣。あとなんの自己主張なのか、頭には犬っぽい獣を模した耳付きの面を乗せている。
そしてよくよく見るまでもなく、かわいらしい顔をした人間、それか人間にかなり近い種族の女だ。見た感じ私やルチと似たようなものだと思うけど、もしかしたらエルフみたいに長寿かもしれないから年齢はわからない。
「げぇっほ、うぇっほ、ごふぉっ!」
そしてむせ方はかわいらしくない。
「ぐぇっほん。ひどいじゃない、急に煙攻めなん……さかなぁ!」
黒ずくめの少女は魚を見るや否や、おなかを空かせたかわいそうなタヌキみたいな顔でじりじりとこっちに近づいてきて、あぁーとかんあーとか言葉にならない声を漏らし始めた。
「おなか空いてるの? あげないよ」
「魚、権利、無い、食べる。奪う、撃つ、敵」
私とルチが魚の鱗を剥ぐのに使った包丁や鉈を手にすると、黒ずくめは薄っすらと目に涙を浮かべて、
「ご無体な!」
両手を床に押し付けて、土下座の一歩手前みたいな姿勢へと移行した。
ゴムタイ? そんな魚はいない! ……いないよね?
「……うぅっ、かたじけない。私はアヤメという、はぐっ、狐狗狸の三忍の、もぐぅっ、東の大陸から、むしゃあっ、こっちまで、んぐぅっ」
黒ずくめは分けてあげた魚を齧りながら、時折喉に詰まらないように胸を叩き、説明しては食べ、食べては語りを繰り返す。いや、めんどくさいからどっちかにして欲しい。
「……というわけなの、ごちそうさまでした」
「さっぱりわかんないから一から説明して」
「不明、出来ない、理解」
黒ずくめは戦慄を走らせたような顔を一瞬浮かべて、ごほんと咳払いをひとつ繰り出すと、背中を縦に伸ばして膝を折り畳む窮屈そうな座り方に直ってみせた。
「私はアヤメと申す。東の大陸から来た狐狗狸の三忍の一角、狸の忍者の端くれ。忍者とはこちらの大陸でいうところの諜報員と盗賊とアサシンを合わせたような仕事です。故郷には外洋航海術は残されていないんだけど、小舟に乗って釣りに出掛けたところ沖合まで流され、幸いにもこちらの大陸まで流れ着き……されどこちらにも外洋航海術はないようで、仕方なく放浪の旅をしていたわけで。そして先日、形容しがたい奇妙な色のキノコを食べて死にかけて、ここの天井裏で回復するまで休ませてもらっていたのです」
説明を終えると深々と頭を下げて、感謝の気持ちを形で示してみせた。どうせならお金とか武器とか道具とかそういうので示して欲しい。
「故郷では受けた恩は盾になってでも返せ、やられた借りは首を落とされても返せ、という言葉があり、この恩、しっかりと返させてもらいます。出来るだけ早く返したいので、今からちょっとそこの遺跡に行ってみない?」
おなかも満たされて元気になったのか、すぐにでも恩を返したいという。恩っていうのは、なんていうか窮地に陥った時とか怪我で動けない時なんかに返すからいいのであって、元気な時に返してもらうものでもないと思う。
「郊外の森の奥に半分沈んだような遺跡があったの。きっとすごい宝があるに違いない、そのお宝で恩は返すから。ねっ、どう? あなたたち冒険者みたいだし、そういう場所好きでしょ? ねっ?」
すごいぐいぐい来るなあ、今日はのんびり魚を食べて、昼酒とか飲んで過ごすつもりだったのに。
「……どうする?」
「宝、ある、興味」
ルチはどうやら行ってもいいみたいなので、仕方ない、ここはひとつ休日返上してお宝探しに行こうじゃないの。ギルドハウス建てるのにお金も使い果たしてたとこだし。
◆❖◇❖◆
「でもさあ、町の近くの遺跡なんて荒らし尽くされてるんじゃないの?」
「違うんでござるよー、ヤミーちゃん殿。その遺跡、私が調べてみたところ、入り口があったであろう部分は完全に地中に埋まっていて、地面から上には入れそうな場所が見当たらない。辺りを見ても掘り出された形跡もないし、魔法で守られていて爆薬やツルハシでもビクともしないの」
すごいな、この忍者。おなか空いて死にそうだったのに、目先のお宝に誘われて爆弾とか試してみたんだ。そのお金で薬を買えばよかったんじゃないかなあ?
「そしておなかの痛みと度重なるうんっに耐えながら情報を集めた結果、あの城は千年ほど前までドラゴン種族が使っていたもの、そして中に入るためにはドラゴンたちが作った鍵、もしくは内側から開ける必要があるとわかったの」
「ふーん、それで鍵は?」
「無いよ!」
無いのかよ。だったら城に入れないじゃんか、さあ、帰ろう帰ろう。帰って昼酒だ。
「待って! 待ってってば! そこは忍者の力でどうにかするから!」
私の腰にしがみついて、細身の割に思いのほか強い力で引っ張ってくる。この忍者、見た目に反してかなり強いと見た。まあ、見た目でいえば私も強そうに見えない方だけど。
「わかった。わかったから邪魔」
そのまま腕を伸ばして忍者を押し返すと、勢いを利用してくるくると宙に浮いたまま3回転してみせて、華麗な着地を決めた。いや、見事なもんだけど今その動きをする必要ある?
「ヤミーちゃん殿、私にはとっておきの術があるの。この術は大したもんよ、そんじょそこらの忍者じゃあ使えない! そういう秘伝の術があるってわけ!」
「ふーん、その術とやらで鍵を開けるってこと?」
忍者は人差し指を立てて左右に動かしながら、違うよって態度で示してくる。この忍者、見た目は黒ずくめで控えめなくせに、性格といい動きといい、なんかいちいちやかましいな。
「もっとすごい術だから、腰抜かしたって知らないよ」
「移籍、見えてきた。奇妙、確かに」
やかましい忍者を遮るようにルチが森の奥を指差す。その先にそびえ立つというか転がってるというか、半ば埋まっているというか、とにかく地面に突き刺さるような形で円柱状の建物が埋まっていて、その周りにはびっしりと木の根や植物の蔓が絡みついている。
「これが遺跡?」
「そう。ちなみに見てたらわかるけど、攻撃しても表面で弾かれるし、地面を掘ってもすぐに復元されちゃうの」
忍者が取り出した爆弾は遺跡に衝突して弾けたものの、表面を焦がすどころか周りの根や蔓を吹き飛ばすだけで遺跡そのものには傷ひとつ付けられず、周りの地面をスコップで掘ってみても土を除けた先からすぐに元通りに埋まってしまう。
遺跡の表面にはよく見ると細かく文字のような模様がびっしりと描かれていて、触るとその周囲がほんのりと青白く光って模様が浮かび上がり、遺跡そのものに触れないように邪魔をしてくる。感触は硬くないけど貫くことも出来ず、なにをどうやってもそこから先に進めないような、そんな不思議な感じだ。
「ね! お手上げって感じでしょ! しかーし、この忍者たる私の力を持ってすれば……」
忍者が壁の表面、正確には壁の表面に浮かんだ模様に両手を押し付けながら、ふんっと大きく息を吐いてみせた。その直後、忍者の体から白い霧が溢れ出して、霧が晴れた頃には滝のような汗を流す忍者が立っていた。
「じゃじゃーん、どう!?」
いや、どうと言われても?
『よっしゃー、さすが私! 天才! 侵入成功ってなもんよ!』
目の前の遺跡の壁から、反響するような忍者の声が聞こえてくる。
「これが忍者のとっておきの秘術、分身の術でござるよー、ヤミーちゃん殿! もうひとりの自分を作り出して、なんとふたりになっちゃう恐るべき忍術! さらに分身したら4人、8人と倍々に増やすことも不可能ではなーい! ね!? すごいでしょ!?」
そう言って壁のこちら側の忍者はさらにふたりに増えてみせて、それぞれが額からとんでもない量の汗を流す。どうやらめちゃくちゃ疲れるみたい、その代わり単純に戦力は2倍、4倍と増えることになるから、確かに恐ろしい術だ。
『……ひゃあっ! うわぁっ! なにこれ!? そんなことより! よし、開いたぁーっ!』
壁の向こう側の忍者が慌ただしく騒いだ後に、遺跡の壁の一部がガコンとわかりやすい音を立てて開き、そこから自信満々な顔を覗かせながら私たちを手招きしてくる。
すごい、やかましさも倍々だ。このままバイバイして欲しい。
「それで、お宝はありそう?」
「いやー、それがさあ、まあ見てみてよ。百聞は一見に如かずってやつだから」
遺跡の中を覗き込んでみると、そこには途方もなく広大な草原が広がっていた。遺跡の大きさは外から見た限り、せいぜい小型の砦程度のもので、ちょっと走れば軽く1周出来そうなものだった。なのに内部は端が見えないほど広くて、上を見上げるとまるで空そのもののように天井が高い。
「どういうこと?」
「追いつかない、理解。不思議」
「わかんないけど、もっとヤバいのがアレ!」
忍者が指さした先にはとてつもなく巨大な、ちょっとした建物くらいはありそうな、3本の角の生えたトカゲに近いようで遠い、もっと強力で強大な生き物が何頭も歩き回っている。他にも同じくらいの大きさの首の長いトカゲや頭の大きなトカゲ、他にも何種類かそんな怪物みたいな生き物がうろうろしている。
もちろん真っ向から挑んだら簡単に吹き飛ばされるだろうし、踏み潰されたら一撃でぐっちゃぐちゃにされてしまう、それくらい巨大だ。
前に見たドラゴンよりは遥かに小さいけど、熊や虎なんかより遥かに大きい。海辺で見たクジラとかいう生き物、あれの数倍は大きい。話に聞いた小型のドラゴン種族、それに当てはまるか知らないけど、それが一番しっくりくる。
「ヤミーちゃん殿、ここは逃げるの一手でござる! にんにん!」
「賛成! 宝、命、ならない、比べる!」
「そうだね、襲いかかってくる前に帰ろう!」
私たちはお互いの顔を見回して、一目散にポルトデールの町まで逃げ帰ったのだった。
中への入り方はわかったし、調査はまたでっぷりたちと一緒にすることにしよう。それこそモグリールたちと合流してからでもいいかもしれない。
なんていうか、あれは私たちにはまだ早い! そんな場所だって本能が告げている。
ちなみに忍者は恩を返しそびれたので、そのまま私の部屋の天上裏に住み着くことになった。
夜中に寝返りを打つ度にガタガタとうるさいので邪魔で仕方ない。今すぐ出て行って欲しい。
▶▶▶「簡単にふらっと遊びにくる支配者」
≪加入ユニット紹介≫
アヤメ
種 族:人間(女、18歳)
クラス:忍者(レベル31)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 33 22 12 6 5 26 56 19 12 17 5↑3↓4(歩兵)
成長率 35 40 35 15 15 35 40 30 25 30
【技能】
短剣:C 剣術:C 槍術:E 斧鎚:E 弓術:E 体術:B
探索:B 魔道:C 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:D
【装備】
忍刀 威力30(8+22)
苦無 威力27(5+22)
鉤爪 威力26(4+22)
忍装束 回避+20、狙われ率ダウン
【スキル】
【個人】お調子者(回避が成功する度にHP5%回復)
【基本】首実検(戦闘不能にするごとに報奨金を得る)
【下級】隠密(敵から隠れる、攻撃するか隣接されるまで気づかれない)
【中級】分身(現在HPを半分消費して自分との同性能の分身を作り出す、数制限なし)
【??】
【??】