私の普段暮らしている田舎町からさらに奥へ入ったところに、まるで山中にぽつんと取り残されたような集落がある。厳密には集落ではなく村らしいのだけど、それは人が勝手に決めた区分けなので、神の身である私には関係ない。村と呼ぼうと集落と呼ぼうとどっちでもいいのだ。 その山奥の集落は例に漏れずちょっとうるさくて、入り口に突き刺さった立札には、余所者への警告かのように村の決まりを書き連ねてあるのだ。こういう山中や離島にあるような集落は、都会と違って生活の場が土地に縛られていることもあって、独自の決まり事や風習のひとつやふたつはあるものだ。なんせ衣食住から仕事まで、生活のすべてがその土地で完結するのだから、おいそれと出ていくわけにも揉めるわけにもいかない。子どもが生まれたり世代が変わったりする都度、自然と決まりごとも増えていくし、たまに理由が失われたりもする。集落とはおおむねそういうものだ。 とはいえ、このようにわざわざ明文化している場所は珍しい。集落の決まりや掟などは暗黙の了解になっていて、知らずに移住してきた都会の若夫婦なんかが嫌な気持ちになって、そのうち出ていってしまうのがよくある話だ。 もしかしたら集落の中では親切な場所なのかもしれない。 ― ― ― ― ― ■■村にお越しの皆さま 入村の際には以下の決まりに従ってください 1.坂の上より先に許可なく立ち入るべからず 2.村外から神を招いてはならない 3.祭りの日は女は外に出てはならない 4.村内で生まれた子を占有してはならない ― ― ― ― ― △ △ △ 私は元人間とはいえ今では神の身であるので、わざわざ招かれざる土地へ行くつもりはないのだけど、さほど遠くない場所にあるからか数年に1度くらいは集落の入り口を通りがかる。最近はあちこちの交通の便も良くなって、こういう山奥では過疎化が著しいけれど、集落はまだ残っているようで、掟を記した看板も古びつつもしっかりと残っていた。 ― ― ― ― ― ■■村にお越しの皆さま 入村の際には以下の決まりに従ってください 1.坂の上より先に許可なく立ち入るべからず 2.村外から神を招いてはならない 3.祭りの日は女は外に出てはならない 4.村内で生まれた子を占有してはならない 5.祭りの日は7歳以上の男子は全員参加すること 6.〇〇池での釣りは当面の間禁止とする ― ― ― ― ― △ ...