聞いて聞いてFFT面白いよプレイ記小説「ダーラボンの娘は話が長い」



この物語はファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズを買った途端に日々ゲーム三昧になってしまった私が、小説書いてない後ろめたさを隠すために記したプレイ記代わりの二次創作小説である。

≪登場人物≫
アリサ
明日のために働く元骸旅団の少女。アイテム士だったり弓使いだったり。小柄で非力な体格を、生き意地汚さと姑息な立ち回りで乗り切るのが得意。

マルガリータ・ダーラボン
ボーアダム・ダーラボン教官の娘。ナイトだったり話術士だったり。父親の従軍経験が薄い反動か、やたらと前線に出たがる。そしてよく喋る。

ラムザ・ベオルブ
物語の主人公。名門ベオルブ家の三男。特に出番はない。

ディリータ・ハイラル
物語のもう一人の主人公。主な役割は全裸腹パン。


◆❖◇❖◆


私の名前はアリサ。スラム街出身で、ちょっと前まで骸旅団(※1)でアイテム士をやっていた。元々は前線要員として人買いに売り飛ばされたけど、ろくな物を食べてこなかったからか、年の割にチビで非力なので後方支援に回された。生まれた場所が場所なら、小さくてかわいい村のマスコット的な存在としてチヤホヤされたかもしれないけど、現実は非情である。汗臭い男たちに混じって盗賊家業に励む日々。ところが肝心の骸旅団本隊がかなり追い詰められてしまい、隙をみて仲間数人と一緒に夜逃げして、その足でガリランド(※2)まで落ち延びたのだ。
元々流れで兵隊になった程度の付き合い、地獄まで一緒に連れ添ってやる義理は無いのだ。
※1【組織:骸旅団】
五十年戦争(終結済み)で恩賞を貰えなかった平民の義勇兵たちで結成した革命組織。中には元騎士もいるものの、見習い戦士だの盗賊だのといった面々がうろうろしている辺り、構成員の大半は職にあぶれた市民や反貴族的な思想を持つ農民だの売られた孤児だので形成される。のちのち頭目のウィーグラフと副団長のギュスタヴが内ゲバ的な争いをして滅ぶ。
※2【地名:ガリランド】
士官アカデミーや魔法院のある魔法都市。ラムザ一行が最初に訪れる町で主に軽装備が売られている。なんかすごい魔法が学べるとかそういうことはない、魔法はJPを溜めて自力で学ぶしかないのだ。あと一部ラーニングで覚える類の魔法もある。

というわけで、せっかく生き延びても仕事がなくては話にならない。こんな状況下で盗賊になっても骸旅団と間違われて騎士団を派遣されるだけなので、地道に働こうと仕事を探すことにした。
「うちも余裕がなくてね」
「知るか、花売りでもやってろ」
「仕事? なにそれおいしいの?」
当たり前だけど仕事などない。貴族やアカデミーに通うようなそれなりに裕福な平民ならいざしらず、無職の孤児がありつける仕事など選りすぐってもどぶさらいか靴磨きか花売り。無学で財のないの民なんて体か命を張るくらいしか出せるものがないので、あとは傭兵にでもなるくらいだ。
ゴブリンか人間かわからないような野郎に体を売るほど安くはないので、傭兵になって稼ごうと戦士斡旋所(※3)に登録することにした。なあに、人なら骸旅団時代に何人かやってる。その辺の無職よりは一日の長があるというやつだ。
※3【施設:戦士斡旋所】
各地に点在する傭兵斡旋団体。紹介手数料として1500ギル払うことで見習い戦士を雇える。手数料の3分の1は装備費となり、3分の1は胴元の懐に入り、残り3分の1のうち雇われるまでの食費が生産された後、結局胴元の財布の足しになる。貴族から兄弟姉妹から昨日まで畑を耕していた農夫まで、人材は様々。

「おう、男手を何人か紹介してくれ。そうだな……おい、そこのお前だ。目が気に入った、お前を連れていく」
部屋の隅に座っていたラッドとかいう目つきの悪い青年が、ガフだのゴフだのそんな名前のヒゲの傭兵に連れられて旅立っていった。こんな具合に戦士斡旋所では運が良ければ、もしくは佇まいでわかる強さみたいなものがあれば傭兵として雇ってもらえるし、
「はぁ、今日も仕事がない……畑でも耕してればよかった」
「魚でも釣ってた方がマシだ」
このワインバーグさんやイジュランさんのように、斡旋所の部屋主みたいになってしまうケースも在り得る。このまま斡旋所に住み着くこと何十年、なんてことになってたまるものか。私もさっさと雇い主を見つけないと……。
ちなみに斡旋所の胴元は元部屋主、なんて噂もあったりする。真相は不明だ。


◆❖◇❖◆


数日後、私は運よくなのか悪くなのか、ラムザ・ベオルブという見習い騎士の一行に雇われた。運がよい点は彼が名門べオルブ家の三男だということ、私みたいな孤児に恩賞が与えられるような時代ではないけど、このまま信頼を勝ち取ればべオルブ家の使用人になれる可能性が高い。運が悪い点は彼の任務が骸旅団の討伐だということだ。一緒に落ちる義理はないとはいえ、元同僚を手にかけるのは少々忍びない。というより「あ、お前、この前までうちにいた奴!」なんて指でも差されて叫ばれようものなら、スパイかなにかと疑われてしまう可能性がある。もし目の前に顔見知りが現れたら、まず目か喉を狙おう。そう心に強く誓って、ダガーの刃を熱心に研いだ。

「うちの親父、ダーラボンっていうんだけど、あの人の話、長くて寝ちゃうのよね」
「へー、そうなんだ」
ちなみに雇われたのは私だけではなく、育ちの良さそうな貴族の美人娘も一緒だった。この娘、名前はマルガリータ・ダーラボン。なんとガリランド王立士官アカデミーの教官、ボーアダム・ダーラボン(※4)の娘なんだとか。いわゆる大貴族というやつだ。
※4【人物:ボーアダム・ダーラボン】
アカデミーの老教官。物腰の柔らかさと性格の穏やかさで生徒からの人気は高いものの、その長所を帳消しにするくらい話が長いことで有名・ガリランドでは酒場で相席したくない人物第1位として名を轟かせる。千騎士長という武官でもあるが、従軍経験は参謀として遠征に参加した一度だけ。

「その点、このマルガリータは心配無用! 手短に簡潔に、最短最速最高効率で君たちを鍛えてみせよう!」
「あー、うん、よろしく」
どう見ても実践経験などほとんど無さそうな女だけど、家柄が家柄なので私やその辺の元農民だの猟師だのよりは、ずっと知識が多いのは事実。闇雲に棒切れ振り回して鍛えるよりか、積み重ねられた騎士団やアカデミーの知識の下、訓練に励んだ方が効率は良さそうではある。
どのみち雇われたから将来安泰なわけではない。傭兵なるもの腕がなければ死ぬし、まともな働きが出来なければ除名されるのだ。鍛えて手柄を上げるのは最優先事項なのだ。


「というわけで色々めんどくさい本筋は横に置いて、私たち傭兵部隊は徹底的に鍛えることとする!」
ガリランド近くに広がるマンダリア平原(※5)、その一角では私とアカデミーの生徒数名、明け方から眠い目をこすりながら大量の石を拾い集めさせられていた。太陽がだいぶ高くなった頃には、塵も積もればなんとやら、巨大な石灰岩と並ぶように石が積み上げられ、ちょっとしたおぞましいオブジェクトみたいな感じになっている。
※5【地名:マンダリア平原】
獣ヶ原とも呼ばれる平原。主にチョコボとゴブリンとパンサーが生息するものの、場所としての危険度は低め。ただしチョコボには凶悪なメテオを使う赤い希少種もいるため、遺書の準備は前もってしておくに越したことはない。死人に口なしは、どこの世界でも同じなのだ。

「さて、鍛えるといっても闇雲に鍛えて無駄に怪我をするほど馬鹿馬鹿しいことはない。そこで重要なのが投石(※6)であーる。この投石、最弱にして最小限のダメージを与えることしかないから、あーん、敵に攻撃したいけど届かないよぉ、しゃあねーなー、石でも投げとくかー、みたいなその場しのぎにしか使い道が無いと思いきや、こと仲間同士で投げ合って経験値を稼ぐには持ってこいの技なのだ! なんせ当たったところでダメージは1桁、よくて10ちょっと! 軽傷! 最低でも3回投げてポーションひとつで全回復できる低威力、相性が悪い者同士だと実に30回近くぶつけ合えるのだ。おまけにJP90で獲得できる低コスト、この石投げをいかに長く続けてJPを稼げるかが序盤の肝といっても過言ではない! もちろん根拠のない机上の空論止まりの絵空事ではない。かつてアカデミーの裏庭には、日夜石をぶつけ合ってはポーションを飲ませ合い、そうして愛と友情と経験値とJPを育み合った結果、1度も戦場に出ることなくレベル99にまで達した算術士とものまね士の夫婦も実在していて、彼らは最終兵器的な意味でファイナルファンタジーと呼ばれていたとかいないとか。そう、君たちも目指すべきはそこ! ラムザ君たちがめんどくさい本編で頭を抱えている間に、私たちはこつこつこつこつと石をぶつけ合って研鑽を積み、序盤から算術士だの踊り子だの、それ終盤のジョブじゃーんみたいな立場を目指すのだ。石の上にも三年ということわざもある、石は投げるから足下と目の前にあるけれども!」
※6【特技:投石】
見習い戦士の基本技のひとつ。最小ダメージの中距離攻撃で、主にレベル上げと瀕死の敵へのとどめなんかに使われる。あと混乱・魅了・睡眠の回復にも使えたりと用途は幅広い。まれにノックバックが発動するので、味方同士で投げ合う時には崖の際は避けるべし。

このマルガリータ、ダーラボンの娘だけあって、なんていうか話が長い。眠くならないように言葉の強弱を巧みに操っているけど、これに話が長いと言われてしまうダーラボン、いったいどれだけの長さなのやら。
いや、そんなことより石投げをしようとしている平原では、味方と逸れたのか味方が全滅させられたのか、ひとりの若い騎士見習いが骸旅団に囲まれていた。
「ねえ、あっちでラムザたちと敵に囲まれた騎士がなんかわちゃわちゃやってるけど、あれは放っておいていいの?」
「かまわん! と言いたいところだけど、折角だからあのぼっちゃん騎士にも協力してもらおう。目標は奴! 石投げ開始!」

この日、平原で敵に囲まれていた没落貴族の騎士アルガスは通算10発以上の石飛礫を浴びて気を失い、目を覚ますと瀕死の敵ひとりを残して延々と石を投げつけ合う一団の流れ弾に当たり、再び気を失ったのだとか。

「ディリータさん、経験値のためだから。恨まないでね」
「おい、ちょっと待……ぐえっ!」
ちなみに私は、全裸で草原に放り出されたディリータの腹をひたすら素手(※7)で殴っていた。許せ、これもひとえにみんなで強くなるため、延いては骸旅団壊滅の為なのだ。すべては明日のために今日をがんばって乗り切る、これが私の生き方なのだ。
※7【状態:素手】
武器を持っていない状態。モンクにジョブチェンジ、もしくは格闘をセットすることで凶悪な武器となるが、基本的には弱い状態。ダガーでも持っていた方がマシ。全裸のディリータはひたすら敵から逃げるため、画面端に追い込んで殴り続けることで経験値を稼げる。また弱らせておくと、うっかり敵を倒してしまうごっちゃんゴール的な事故も防げて一石二鳥。石は投げてないけど。


◆❖◇❖◆


色んな意味で気の遠くなるような石投げの果てに、マンダリア平原の名産品が無数に転がる赤石になりつつある頃、私たちは就けるジョブの種類も増えた。私はアイテム士から弓使いになり、マルガリータは見習い戦士からナイト、そこからあれこれ寄り道して話術士になった。成長すれば出来ることが増える、選択肢の幅が拡がれば、自然と訓練は次の段階へと進む。そう、私たちは勧誘(※8)による人攫いに手を染め始めたのだ。
※8【特技:勧誘】
話術士の特技で、成功すれば敵を自軍に引き入れることが出来る。人間だけでなくモンスターを仲間にすることも出来、人間は主に追い剥ぎの対象として店売りされていない装備をひん剥かれて、モンスターは養殖の末に戦力として使われたり素材にされたりする。ちまちま装備を盗むよりは効率的で手っ取り早い。

「ちなみに現段階では毛皮骨肉店(※9)がまだ開かれてないから、モンスターを引き入れて養殖する必要はないけど、出来ることは全てしておくに起こしたことはないわ。そもそもモンスターっていうのは地域性というか出没しやすい場所があるわけだから、行動範囲が拡がれば拡がるだけ種類も増えるのよ。そんなねえ、何匹も何種類も同時に面倒見切れるかって話なわけ! 猫の手、もといパンサーの手も借りたいってなる前に、素材はなるべく溜めておくべきよ。というわけで我々は、骸旅団の雑兵を拉致……もとい勧誘して敵の弱体化を図りつつモンスターも隙あらばて手懐け、ついでに装備も剥ぎ取ってお金も手に入れちゃう、名付けて『敵の戦力丸々奪えば三度おいしいじゃん作戦』を実行する!」
※9【施設:毛皮骨肉店】
のちのち貿易都市に出現する密猟したモンスターを買い取ったり、種類に応じたアイテムを売ってくれたりする店。希少種を狩れば店売りしていないような装備も売ってくれるため、仲間にしたモンスターは実質装備引換券である。なんという非情、モンスターに神はいないのか? 人間でさえ家畜に神はいないと言われるような世界、モンスターに神などいない。

相変わらずいちいち話が長いけど、マルガリータの教官ぶりは中々に様になっている。教官をしている父親の蔵書と学問をふんだんに与えられた兄たちの背を見て育ち、おこぼれ的とはいえしっかりと噛み砕いて学びつつ、人道とか騎士道とかそういったものは一旦横に置くことで完成させた独自の理論、それを全開で注ぎ込んで全力でこなすことで育つ屈強な戦士たち。
とかなんとか自慢気に長々だらだらと説明してたけど、要するに効率よく鍛えたら人間強くなるものなのだ。最初は世間知らずなところもあったアカデミーの面々も、だいぶ世間を知ったというか、世間からはみ出したというか。背後からの奇襲、武器破壊、毒や混乱の魔法、クリスタルによる継承(※10)などを経て、すっかり歴戦の殺人鬼といった風貌に変わってしまった。それもこれもすべて戦争が悪い、そういうことにしておこう。
※10【育成:継承】
戦死した人間及びモンスターは一定時間経過するとクリスタルとなり、人間からは特定の技能を継承できる。そのためJPが大量に必要な特技や魔法だけを習得させ、クリスタル化させた後に継承するという裏社会的な手法も存在する。ただし、クリスタルに残る特技にはランダムで、なかなか狙った特技や魔法は出てこない。いったい何人ホーリーやフレアを覚えたアカデミー生がクリスタルにされたことか。この世に神はいない。いたとしても邪神に違いない。

さて、今日も今日とてマルガリータが勧誘を試みているわけだけど、
「いいかい、そこの君。そう、そこの真っ当に生きたら素敵な男性に貰われそうな白魔道士のお嬢さん、そう君だ。君たちは世の中を変えたくて骸旅団に入って活動していると思うけど、世の中はそう簡単には変わらない。もし変わることがあるとすれば、それは小規模な抵抗運動ではなく、もっと大規模な革命のレベルでなければ不可能だ。ならば革命を起こせばいいって? よく考えてごらんなさい、内部で意見は割れて分断し、おまけに領主や貴族たちからの評価はせいぜい盗賊の亜種。ゴブリンに毛が生えた程度の扱い、いや、ゴブリンはそもそも毛が生えているけどね。まあ、ゴブリンみたいなものだよ。そんな盗賊団みたいな連中の言葉、どうして領主や貴族に届くと思う? 見てごらん、民衆からの支持だってあるんだかないんだか、いや、実際反乱や暴動に巻き込まれて家を焼かれたりした無垢の民からは、怒りしか買えてない有り様だ。そして怒りしか買えてないということは、君たちが民衆に売れるものは怒りしか無いということになる。もし怒られる度に100ギル貰えるなら、君は今頃大金持ちだね。しかし残念ながら怒りでは腹も膨れないし、ポーションひとつだって買えやしない。であるならば、世の中をどうやって変えるか。王の下で、具体的には騎士団とか街の警備や治療院なんかで働き、雇い主からの信頼を勝ち取り、おうおう連中も使えるじゃないか、って思わせて存在感を示す。そして雇い主と割と気軽に意見を交換できる立場にまで上り詰めて、自分たちの代表として主に政治に参加してもらう。結局それが最短かつ最良なのだよ。もちろん君のような美人であれば、貴族の嫁になる、なんて手もあるけどね。私の父はアカデミーの教官で貴族にも顔が利く、とりあえず嫁の貰い手に困ってる貴族なら何人か用意できるから、そっちの道も選べないこともないけど、どうかな? 私たちと一緒にベオルブ家に媚びてみない……ぶへぁっ!」
勧誘というのは意外と難易度が高い。なんせ相手は敵対勢力かつ人生を踏みにじられたような面々、平民の言葉が届いてくれないように、貴族の言葉が届かないのも無理はない。ちなみに最後のは激昂した白魔道士に殴られた際の悲鳴だ。

これだから貴族の娘は。そんな頭でっかちな理屈に。学のない平民が揺れ動くわけがない。どれ、ここはひとつ私が勧誘を、なんて考えてたら、
「わかった、あなたについて行くわ」
「安心しなさい。悪いようにはしないから」
あの流れでどうやって成功したのか、白魔道士の女はマルガリータにべったりとくっついて、そのまま他の加入に応じた面々と共にラムザ一行の仲間入りすることとなった。
「ねえ、なにをどうやったらこうなるわけ?」
「……顔」
なるほど、美人というのは同性にも通用するのか。戦場での女の扱いなんて粗雑で乱暴なのが基本だから、男を嫌悪する余り女に転ぶ女も珍しくはない。それが実家の太そうな貴族であれば、転ぶのなんて獣道を進む老人よりも容易い。

まあ結局、大したスキルを持ってないということで装備だけ剥ぎ取られて、そのまま除隊。きっとそのうち戦士斡旋所にでも流れ着くか、教会にでも拾ってもらうか、その辺りに落ち着くのだろう。いや、実家の使用人にくらいしてやれよ。


◆❖◇❖◆


「話が違うじゃないか!」
「嘘つき女め! 地獄で罪を償え!」
「騙したな! なにが未来の北天騎士団員(※11)だ!」
※11【組織:北天騎士団】
領主ラーグ公が擁する国内最大級の戦力を有する騎士団。ラムザの兄が団長を務め、ラムザやディリータは将来的には北天騎士団に入るはずだった。が、世の中うまくいかないもので、ディリータは離反、ラムザは半ば家名を捨てる形で出奔してしまったため、ラムザ本人はともかく末端の傭兵たちが戻れることはないと思われる。

私たちが徹底的に鍛えてる間に事態はあれよあれよと悪い方向に転がり、いつの間にかラムザは傭兵に身をやつしてしまった。勧誘した元骸旅団の兵隊の中には、正規の騎士団に入れるぞって甘い言葉で釣られた甘い考えの奴らも多く、そういった面々はマルガリータを散々に罵って出ていってしまった。もちろん装備は剥がされているので、彼らは裸一貫で一から出直すわけだけど、私たちの卑怯で卑劣な鍛え方を経験した連中を野に放っていいものだろうか。
「算術! ハイト! 3の倍数! カ~エ~ル~の~き~も~ち~! トード!」
私たちの背後で算術(※12)を会得するまで鍛えたマチルダさんという苦労人の女が、彼らを全員カエル(※13)にしてしまい、そのまま野生のカエルとしてモンスターの跋扈する草原に放ってしまった。きっとカエルとして人生を終えることになるだろうけど、帰ってくるならこっちも戻さないこともない。明日のためにも禍根は根こそぎ断て、というのはどの世界でも共通する暗黙の了解というやつだ。
※12【ジョブ:算術士】
あらゆる魔法を特殊な条件で使いこなす魔道士。算術の名の通り、3・4・5の倍数と素数に高さやレベルなどの条件を掛け合わせて、一致する対象者に詠唱時間無し・MP消費無しで魔法を発動させる。特に算術×ホーリーや算術×トードなどは一撃で戦場のバランスを壊しかねないため、あえて禁止する者たちもいるとかいないとか。
※13【魔法:トード】
人間やモンスターを無力なカエルに変えてしまう魔法。カエルになると戦闘力を奪われる上、自力で戻ることも出来ず自然回復することもないため、誰かに治してもらうかない。しかしこの世界では、凶悪な罪人や影響力のある貴族なんかをカエルにしてしまう独特な刑罰を与える者もいるため、見知らぬカエルに癒しのキスをするような乙女は実在しない。そのままカエルとして野に帰るのだ。

「さて、平和になったことだし今日もがんばって訓練やっとく?」
「そうだね。とりあえず一騎当千の実力者になれば、のちのち解雇されても悪いようにはされないでしょ。まあ、私はいざとなったら実家に帰ればいいんだけど、アリサともそこそこ長い付き合いになってきたし乗り掛かった舟というやつだ。傭兵として独り立ちできるレベルにまで、この私が鍛え上げてみせようじゃない。なあに礼なんて必要ないよ、私と君の仲だからね。ちなみに異国の神話では箱舟に動物をたくさん乗せて世界の崩壊を生き延びた、なんて話があるけど、この乗り掛かった舟から私を落とすような真似だけはしないように」
いや、そんなのどうでもいいから、いっそダーラボン家の使用人にでもしてくれ。私は別に人の頭蓋骨を射抜いて恍惚に浸る変態じゃないのだ、ただ明日のために賢明に慎ましく生きているだけで。


(気が向けば続く~)

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