もぐれ!モグリール治療院 おまけ「牢屋を襲撃してみよう」
ワニ・ドネバ、ベネ! ナラワ、ヌダ・テヌマ、バシ・テーヌ、スルークハウゼン、サベミャ・ホツヌ!
……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。私たちはスルークハウゼンの城壁を抜けて、荒野の下で歓声を上げている。なんでかって? それは今から説明する。
まず私の名前を名乗らせてもらおう。私の名はルチ・フォナ、誇り高きヒルチヒキ族の戦士で、今は仲間を助けてもらった恩を返すため、ノルドヘイムからやってきた狼毛皮の冒険者ヤミーと行動を共にしている。ヒルチヒキ族の戦士は受けた恩はどんなに小さくても忘れない、同時に借りはどんな些細なものでも返さないわけにはいかない。
先日、私とヤミーはカストリとシケモクとかいう無頼の輩と対峙し、あろうことか貴重な虎の子のルェドリア銃を壊されてしまった。それどころか大怪我まで負ってしまう失態を犯してしまい、私の怒りは静まる術を知らない炎と化して、私の胸の奥で燃える続けている。
なんとしてでも奴らの皮を剥いで、精霊への生贄として捧げなければ気が済まない。そういうわけで私は、奴らが投獄された牢屋を襲撃することに決めた。スルークハウゼンは規模が大きい町なので、どこの牢屋に捕まっているのか定かでないけれど、だったらすべての牢屋を襲えばいい話だ。
幸いにもすべての牢屋は下水道で繋がっているという。私はパーティーの愛玩動物的な地位に納まりたくても治まれないでいるオクトパスを引き連れて、スルークハウゼンの下水道へと忍び込むことに成功した。
「……牢屋、着いた。タコ、待ってる、ここで。戻る、私、動かない」
残念ながらオクトパスには標準語しか通じないので、たどたどしい拙い言葉で指示を与える。牢屋の中に巨大なタコの怪物がいたら怪し過ぎる、下水道にいたら怪しくないかと言われたら、そこは下水道なので下水道だからなーで納得してもらえるはず。根拠はないけど、下水道にはタコ以外にもモンスターが棲息してたりするから、オクトパスの1匹や2匹は見逃すと思われる。
私だったら水場にいるオクトパスなんて、危険極まりないから見なかったことにして逃げる。人はそれを臭いものに蓋という。下水道の臭さを蓋で抑え込めるとは期待できないけれど。
オクトパスの頭に乗って移動したから、幸いにも下水の臭いは沁みついていない。私も17の女だ、下水を泳いで渡るほど人間性は捨てていない。
「なんか臭い気がするけど、どうせ牢屋の中の連中も臭いからいいか」
汚水に浸からなくても髪や服に臭いが沁みつくのか、全身にほんのりと豚の糞と死臭を混ぜたような、絶妙に吐き気を催す悪臭がまとわりついてくる。それもこれも、あのカストリとシケモクの二人組のせいだ。生贄に捧げた後の残りの肉は下水道の肥やしにしてやる。
「見張りはいない、ザルな警備だな」
スルークハウゼンの牢獄は基本的に地上部分が面会室と看守の詰め所になっていて、牢屋そのものは全て地下に配置されている。なので地下に降りる階段を鉄扉で閉じてしまえば脱走の心配はなく、囚人が病気になろうと怪我しようと放置することになっているため、夜の間は看守のひとりも歩いていないらしい。まさか下水道から来るとは思わないのか、仮に下水道から来たらもう仕方ないと諦めるのか、とにかく下からの侵入への備えは皆無だ。
「これは貰っておくか」
地下の看守質にも人はおらず、その代わりというわけでもないのだろうけど、暴徒鎮圧用なのか囚人への虐待のために使うのか、単に間抜けが忘れてっいたのか、性能の高い狙撃銃が1丁、壁に立てかけてあった。ベリニャ式狙撃銃と呼ばれる銃で、騎士団では標準的に運用されているものの、市場に出てくることは稀だ。銃としての性能は、破壊されたルェドリア銃よりも、猟師たちが好んで使うアンゴディア式散弾銃よりもずっと高い。こいつは良い物を手に入れた、これならカストリとシケモクの頑丈な肉体も弾き飛ばせるだろう。
私は曇天のような気持ちを少し和らげて、再び牢屋の捜索に向かうことにした。
「奴らはどこだ? ここじゃないのかな……?」
薄暗い廊下で目を凝らして牢屋を覗いて回っていると、
「……その姿、タルダイ族か?」
ピョルカハイム保護区に追いやられた部族のひとつ、タルダイ族の男が捕らえられていた。
わざわざ説明するまでもないけど念のため説明しておくと、タルダイ族は砂の民と名高い戦士の部族で、蛇を砂漠の守り神として崇め、サソリを砂漠の悪魔と見做して憎む部族だ。平均的に体が大きく武に名高く、特徴として左右非対称の革製の仮面を被っている。血統的な原因があるのか極端に女が生まれてこないため、他の部族から妻を娶る風習がある。そのため周囲の部族との仲は比較的良好な場合が多く、我らヒルチヒキ族とも友好関係にある。
「私はヒルチヒキ族のルチ・フォナ、ここで会ったのも何かの縁だ。待ってろ、すぐに出してやるからな」
「ありがとう、ありがとう……!」
友好な部族を助けるのに理由は必要ない。ヤミーの寝床からこっそり拝借してきた鉄の斧を振るって鍵を壊し、囚われの砂の民を救い出した。
「この恩は絶対に忘れない! なにか手伝えることがあったら、なんでも言ってくれ!」
「カストリとシケモクという二人組を探してる。心当たりはない?」
砂の民の男は首を横に振った。どうやらこの牢獄にはいないようだ、命拾いしたな、でもそれもこの牢獄で費やしたほんの少しの時間だけどもな。
「その姿、ヴァッカレラ族か?」
わざわざ説明するまでもないけど一応説明しておくと、ヴァッカレラ族は川べりを移動して暮らし、牛の角を象徴とする部族だ。川に産まれ川に還ることで生涯を終えるためか、泳ぎの得意な者が多く指の間に水掻きのような膨らみを持つ。また仲間同士をすぐに認識するために、水牛の頭蓋骨で作った兜を身に着けている。我らヒルチヒキ族とは活動範囲が被らないため縁深くはないが、特に敵対する理由もないので当然助けておく。
「助かった! 俺が力になれることがあったら、なんでも言ってくれ! ……ん? カストリとシケモク? 悪いが知らないなあ」
また空振りか。まったく悪運の強い連中だ。
「その姿、ジェンリィン族か?」
わざわざ説明するまでもないけど仕方ないので説明しておくと、ジェンリィン族は人類で初めて車輪を発明したとされる部族だ。文化的で争いを好まず、そのために騎士団や教会から度重なる弾圧を受けてきた苦い歴史を持つ。現在は部族の血脈を残すため、かなり過激な戦闘行為も行えるように鍛えている。特徴として男女問わず、背中と胸元に車輪を模した輪を描いた刺青を彫っている。
「騎士団め、絶対に許すものか! カストリとシケモク? 知らん名前だが、騎士団なら喜んで手を貸すぞ!」
三度空振りだ。奴らの悪運が強すぎるのか、それとも私の勘が悪いのか。やはりもっと普段から精霊への祈りを捧げておくべきなのかもしれない。
「その姿、ドンガドンタ族か?」
わざわざ説明するまでもないけどもしかしたら知らない人がいるかもなので説明しておくと、ドンガトンダ族は歌と踊りを精霊へと奉げる部族で、ヒルチヒキ族と通じる部分も多い。戦士ともなると精霊をその身に降ろし、人並み外れた力を発揮するともいわれているけど、実際にこの目で見たことはない。歌と踊りを嗜むからか、基本的に陽気で隙あらば踊りたがると聞いたことがある。
「助かった! ひとつ感謝の踊りをあなたに捧げたい! ……カストリとシケモク? それは歌の名前かね?」
またしても……! いったい私が何をしたと言うんだ!? やはり生贄が足りないのか!?
「その姿、ウェデワン族か?」
わざわざ説明するまでもないけどお約束的に説明しておくと、ウェデワン族は断崖絶壁で暮らす部族だ。遥か祖先から断崖に生きてきたため、総じて腕が他部族よりも長く、指の力も強く、わずかな突起さえあれば容易く壁さえも登ることが出来る。更なる人体の可能性を探るために手足を伸ばす金輪を幾重にも嵌め、強引に体を改造している者が多い。戦いともなればその長さを活かした独自の技を振るう武の民でもある。
「まさかこんな場所でヒルチヒキ族の戦士と会うとは……カストリとシケモク? すまんが、知らんなあ」
なんなんだ! 本当に牢屋に入ったのか! 嘘なのか! どうなってるんだ!?
「……出た? 無罪、なんで?」
もうすっかり夜も明け、何箇所目かの牢獄に忍び込んだ私は、愕然とせざるを得ない真実を告げられた。
どうやらカストリとシケモクは騎士団長とやらの指示で無罪放免となり、既に夜明け前には釈放されていたのだ。私が必死にオクトパスの頭に乗って下水道を渡り歩いている間に、標的はまんまと外に解き放たれていた。
「いったい私は何をやってるんだ! 敵への借りも返せず、精霊への生贄も捧げられず、ただただくさい臭いばっかり集めて……もう先祖や部族のみんなに顔向けできない……!」
「いや、そんなことはないぞ! お前のおかげで我らは再び自由を得たのだ!」
「そもそも言葉が通じないからって牢屋に入れるとか、ふざけた話ではあるんだけどな!」
「まったくだ! これだから非文化的な連中は困る!」
「でも俺たちは自由だ! よし、適当にその辺の家でも燃やして踊るか!」
「いやいや、一旦城壁の外に出よう。わしが壁に登って抜け道を見つけてくる」
がっくりとうなだれる私に、牢屋から逃げ出した部族の長たちが優しく声をかける。いや、長かどうかは知らないけど、わざわざ保護区の外に出て捕まってるんだから、相応に地位が高い首長に近い人物に違いない。私みたいにただの下っ端の戦士かもしれないけど、その可能性はあえて今この場では投げ捨てておく。首長級に慰めてもらった方が私の心の傷も浅くて済むからだ。
「そうだ! 私のおかげでみんなは自由を得た! 私のおかげで!」
「その通り! さあ、精霊への感謝を捧げる宴を始めよう!」
「うおおおー!」
……なんてことがあって、私たちは城壁の外で歓声を上げながら朝っぱらから大騒ぎしていたのだ。
ちなみに彼らのことは当然、まだヤミーには話していない。このまま話さずにピョルカハイム部族連合とでも名付けて、切り札としていざという時に活躍してもらおうかな、なんて思わなくもない。
カストリとシケモクがヤミーの傘下に加わったと聞いて、寝ているところを縛り上げて頭の皮を剥ごうとした話は、いずれまた語ることにしよう。
NEXT「酒場に繰り出してみよう」
≪加入ユニット紹介≫
トヴナ
種 族:タルダイ族(男、36歳)
クラス:タルダイ族(レベル16)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 29 14 3 9 2 15 12 11 4 7 3↑3↓3(砂上)
成長率 40 35 15 20 10 35 30 20 20 15
【技能】
短剣:E 剣術:C 槍術:E 斧鎚:D 弓術:E 体術:E
探索:C 魔道:D 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:E
【装備】
鉄の剣 威力21(7+14)
【スキル】
【個人】タルダイ族の誇り(砂上での戦闘時、腕力+2)
【固有】蛇毒(攻撃した相手に毒を付与)
【固有】蛇牙(攻撃した相手に麻痺を付与)
【固有】蛇縛(攻撃した相手に移動封じを付与)
【??】
【??】
ザイ・フニ
種 族:ヴァッカレラ族(男、29歳)
クラス:ヴァッカレラ族(レベル14)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 25 10 4 7 3 14 10 7 5 6 3↑3↓3(水兵)
成長率 30 30 15 25 15 20 30 20 20 25
【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:D 斧鎚:C 弓術:E 体術:E
探索:C 魔道:E 回復:E 重装:D 馬術:E 学術:E
【装備】
手斧 威力18(8+10)
【スキル】
【個人】水牛の加護(未行動で待機時、毒・麻痺を回復)
【固有】簡易テント(川・湖・沼地限定、毎ターンHP20%回復するテントを設置)
【固有】川べりの砦(川・湖・沼地限定、回避を+20する砦を設置)
【??】
【??】
【??】
デ・ルルガ
種 族:ジェンリィン族(男、45歳)
クラス:ジェンリィン族(レベル17)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 22 6 8 2 8 10 9 11 11 3 3↑3↓3(歩兵)
成長率 25 20 25 10 30 30 25 10 15 10
【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 弓術:D 体術:E
探索:D 魔道:D 回復:D 重装:E 馬術:E 学術:C
【装備】
鉄の弓 威力11(5+6)
【スキル】
【個人】天才的頭脳(発明使用時、次ターンまで回避+20)
【固有】輪車の発明(輪車を設置する、踏んだ者を5マス先まで移動させる)
【固有】梯子な発明(梯子を設置する、触れた者を壁の上に移動させる)
【固有】発条の発明(バネを設置する、踏んだ者を5マス強制的に移動させる)
【??】
【??】
ドドンゴ
種 族:ドンガドンタ族(男、30歳)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 24 10 3 5 6 11 19 10 3 4 3↑3↓3(山岳)
成長率 35 30 10 20 15 30 40 15 10 15
【初期技能】
短剣:D 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 弓術:E 体術:C
探索:D 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:E
【初期装備】
蛮勇なる者の籠手 威力15(5+10)
【スキル】
【個人】戦闘舞踏祭(民族舞踏を使用時、隣接するユニットに次ターンまで同じ効果を与える)
【固有】精霊降臨歌(次のターンに民族舞踏を使用可能になる、またはその効果を解除する)
【固有】武闘演舞曲(解除するまで腕力・魔力+2)
【固有】防御演舞曲(解除するまで守備・魔防+2)
【??】
【??】
イェホー・シュア
種 族:ウェデワン族(男、39歳)
クラス:ウェデワン族(レベル16)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 24 9 3 4 11 13 11 7 7 5 3↑7↓8(山岳)
成長率 40 30 10 20 15 35 15 10 20 20
【技能】
短剣:D 剣術:D 槍術:C 斧鎚:D 弓術:E 体術:E
探索:D 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:E
【装備】
鉄の棒 威力16(7+9)
【スキル】
【個人】双腕防陣(未行動で待機時、次ターンまで守備+2)
【固有】長手武技(3ターンの間、直接攻撃の射程を1伸ばす)
【固有】剛腕武法(3ターンの間、腕力+3)
【固有】硬体護身(3ターンの間、守備+3)
【??】
【??】