ルチ・フォナ外伝 第6話「広いようで狭い荒野と砂漠の話」

人狩りに遭遇したペペミカ族のみなさんを、それなりに安全な場所まで送り届けた私たちは、改めて他の部族との同盟交渉に向かうことにしました。向かうことにしたのですが、
「ノルン、様子おかしい。うんこ、我慢してる?」
「ルチさん、若い女子がうんことか言わないでください。ちょっと考え事をしてただけです」
私たちがこうやって移動している間にも、先日のような人狩りも現れているわけです。かといって毎回人狩りをどうにか出来る程の戦力はありません。前回は奇襲と地の利で勝ったに過ぎず、運が良かっただけともいえます、ろくな戦力にもなっていない私が言うことでもないですが。

人狩りは教会や騎士団から直接派遣された正規兵ではなく、あくまで非合法的な生業を得意とする商人ですが、部族側の抵抗が続くと、それこそ鉱山労働者を集める時のように騎士団が護衛に就くでしょう。そうなったら私たちには手も足も出ません。一般人が持てる武装はせいぜい鉄製か鋼、銃もルェドリア銃かアンゴディア式散弾銃のどちらかですが、騎士団の装備となると遥かに高価で性能の高いロンダリア鋼やランバール銀、ベルマー鉱石で作られた武具に、銃器も射程と威力どちらにも優れるベリニャ式狙撃銃になるわけです。
部族側と騎士団が戦った場合の結果は、先の大地の解放事変で示されています。装備に優れる騎士団に対して、部族側は勝ち目がありません。対抗するには外部からの協力、それこそ対等に戦うための武具、資金的な援助が不可欠となるわけです。
そのためにも部族側がまとまって、外部の協力者を募らないといけないわけですが……ジレンマですね。問題が大き過ぎるために、徒労に終わるかもしれない小さなことを進めざるを得ません。

徒労といえばで思い出しましたけど、再びあの移動をしないといけないんですよね。砂漠のタルダイ族の勢力下まで、なにもない荒野を延々と歩き続けるのはまさに徒労です。あの辛さと虚しさを味わってしまった今となっては、徒労というよりも苦痛が近いかもしれません。わあい、辛さと虚しさと疲れに苦しさと痛みが加わりましたよ。牛さんやお馬さんが代わりに歩いてくれた馬車が恋しいです。
「馬っ! 1頭だけでも貰っとけばよかった!」
急に大声を出したからか隣を歩いているルチさんや、前を進んでいた戦士のおふたりが怪訝そうな目を向けてきます。気が狂ったわけではないのですよ、ちょっとお馬さんが恋しかっただけで。
「馬、確かに欲しい。肉、おいしい。たてがみ、尻尾、糸にも服にもなる」
「欲しい動機は随分と異なりますが、わかっていただけてなによりです」
私は移動手段、あと精神的な安らぎのために欲しいんですけどね。

戦士のおふたりも馬肉の旨さについて話しています。
あれ? 私がおかしいんですかね? 馬って食べる用の家畜でしたっけ?


◆❖◇◇❖◆


ヒルチヒキ族のみなさんが暮らす集落の端から歩いて七日七夜、砂漠化した地域に点在する貴重なオアシスと、外からの侵入者を阻むように築かれた分厚い岩と砂の防壁、砂上都市とも砂上の要塞とも呼べる一帯がタルダイ族の縄張りです。
戦士として育てられ傭兵として生きるタルダイ族は敵対者も多く、彼らに接触するには特別な許可が必要になるともいわれています。といってもこれは外で学んだ知識なので実態はまた別なのかもしれませんが、目の前に拡がる塹壕や防壁を見ていると実際にそうなんだろうなあとは思ってしまいます。

「ルチさん、いきなり撃たれる……なんてことはないですよね?」
タルダイ族は外部に出て傭兵稼業もしているので、ルチさんと同様に銃を持っている可能性もあります。もしかしたら人の頭ほどもある砲弾を撃ち出す野戦砲や、さらに巨大な岩や金属の塊を飛ばす攻城兵器なんかもあるかもしれません。
「ヒルチヒキ族、タルダイ族、特別な関係ある。大丈夫」
本当ですか? ルチさんが嘘を吐くとは思いませんが……本当に大丈夫なんですよね?
「タルダイ族、滅多に女、産まれない。他の部族、嫁もらう。ヒルチヒキ族、嫁ぐ、何度かある」
その話は聞いたことがあります。砂漠の戦士であるタルダイ族は血統的な要因があるのか、極端に女性の誕生率が低く、彼らだけでは種を存続できないため他の部族から妻を娶り、子を産んでもらうのだとか。そういう理由があるなら特別扱いしてもらえるかもしれません。

「ヒルチヒキ、ルチ・フォナ!」
ルチさんが右腕を掲げて防壁に向かって呼びかけました。ルチさんの右腕には、肩の少し下から手首の上辺りまでにかけて、赤茶色の蛇のタトゥーが彫られています。タルダイ族は砂漠の守り神として蛇を崇めているので、腕に彫られた蛇は彼らとの友好の証であり、同時に縄張りに立ち入るための鍵の役割を果たしているのかもしれません。
ルチさんのことなので、単純にかっこいいからとかそんな理由かもしれませんが。
「ルチさん、そのタトゥーですが……」
「タルダイ族の集落、入れてもらった。かっこいい」
そんな理由でした。左腕には群青がかった黒い髑髏のようなタトゥーを入れていますが、多分こちらも同じ理由なのでしょう。ちなみに背中や胸や腹には入れておらず、ルチさんが言うには見えない位置に彫ると損した気分になるからだそうです。
ヒルチヒキ族のみなさんは一人前と認められると、全身に骨を模した白い化粧を施すので、基本的にタトゥーを入れる習慣はないそうです。ルチさんは少々変わり者の部類になるのでしょうか……私はいいと思いますけどね!

なんてことを考えながら防壁を眺めていると、岩と砂のわずかな隙間から仮面を被った戦士がひとり、まるで蛇のように這い出してきました。タルダイ族の基本的な格好なのか、戦士は顔を丸々覆う仮面を被っていて、裸の上半身には赤茶色と深い緑色の蛇のタトゥーが、下半身には簡素な布製の腰巻きを身に着けています。腰には等間隔に幾つも切れ込みの入った妙な形をした剣を、鞘にも入れずに剥き出しのままで提げています。これが彼らの武器なのでしょうか、外の町では目にしないような代物です。
「タルダイの戦士、カラ・ネハシュ。私の父親、カラの母親、親戚」
ルチさんのお父さんとカラさんのお母さんは親戚だそうで、先祖を辿ると同じ血が流れているそうです。詳しく聞くと、ルチさんの父方のおじいさんとカラさんの母方のおじいさんが従兄弟に当たるのですが、言葉だけだとよくわからくなってくるので親戚ということにしておきましょう。
カラさんは年齢は20歳になったばかり、タルダイ族の戦士としては新人ではないけれど若手。主に防壁での見張りやベテランの方々の補佐的な働きをしているとのこと。華奢なルチさんとは違って背はどちらかというと高く、細身ながらもしっかりとした肉付きをしています。

「こっち、ノルン。諸部族解放同盟、一員。部族の支援してる、らしい」
「諸部族解放同盟? 知らない組織だナ、実在するのカ? 本当カ?」
どうやらカラさんはかなり標準語が喋れるみたいです。傭兵として働くタルダイ族が外の言葉を話せても不思議ではないのですが、久しぶりにまともな、少々訛りは強いですがまともな標準語を聞いたので、少し感動してしまいました。そして非常にまずいことに、どうやら外の知識もある程度持っているようです。
もちろん諸部族解放同盟なんて組織は存在しません。しませんが、もしかしたら名前は違えど理念を同じくする団体が、奇跡的にどこかに実在するかもしれませんし、世間にはごく一部ではありますがピョルカハイム保護区に自治権を与えるべき、彼らも同じ人間であるので平等に扱うべき、といった声もあります。1万人にひとりとか10万人にひとりくらいの声を『ある』とすればの話ではありますが。
「私たち諸部族解放同盟は、いわゆる地下組織です。公に活動できるほどの力はまだありませんが、ピョルカハイム保護区のみなさんに微力ながら支援をしたいと活動しております」
もちろん嘘なのですが、それこそ当初こそ命乞いのための嘘でしたが、今は少し違います。ルチさんとしばらく過ごした今では、食べ物や武器の支援をしてあげたいという気持ちを本当に抱いています。
本当ですよ? 嘘じゃないですよ?

「私は具体的な支援計画を立てるためにピョルカハイム保護区に入ったのですが、不覚にも反対勢力に囚われてしまい、窮地に陥ったところをルチさんとヒルチヒキ族のみなさまに助けていただきました。その恩に報いるためにも、外から支援物資を運び込もうと考えています。しかし一部の方々だけが支援を受けると不平等、さらには部族同士の対立を生むことになります。そこで部族間で同盟を募り、支援物資の窓口を作っていただけたらと思っているのです」
支援物資の方は後でどうにかしましょう。いざとなれば別の理由、例えば恵まれない貧民への援助であるとか孤児院への支援であるとか適当な理由で寄付を募って、集まった物資やお金を横流ししてしまえばいいでしょう。教会がよくやっていることです、私がやっても神の罰は当たりません。神はそもそもいませんからね。
聞いていないのか、聞いているけど疑っているのか、特に反応も示さずに黙ったままの相手に向けて、私は更に言葉を繰り出していきます。
「もちろん支援物資を渡しても、力を持たない部族では奪われてしまいます。しかし戦士と名高いタルダイ族のみなさんが同盟に加わっていただければ、その心配もありません。むしろ外でも活躍するみなさんがいれば、我々が協力を募る際の説得力にもなってくれるでしょう」
私は一気に捲し立てました。そろそろ詐欺師にもなれそうな気がしなくもないですが、私の命が懸かっているのです。ルチさんとはそれなりに親しくなったと思いますが、もし嘘とバレたら躊躇なく全身の皮を剥がされてしまうでしょう。

「もちろん今すぐに返事を求めたりはしません。みなさんでゆっくり考えていただければと思います。では、私はこれで。よいお返事を期待しております」
ボロが出てしまう前に退散してしまいましょう。もしかしたらルチさんは親戚同士、積もる話もあるかもしれませんが、時間が積もるほど嘘がバレてしまう可能性も高まりますから。あとは蛇を彫っている者同士、ごゆっくりどうぞ。
「カラ、決定権、無い。もっとえらい相手、話す」
くるりと踵を返した私の首根っこをルチさんが掴んで、もっと地位の高い人と話せと言ってきます。なに言ってるんですか、そうしたら嘘だってバレるじゃないですか! この場は彼に伝言してもらうくらいでいいんですよ!
「タルダイ族、言葉だけの相手など信じナイ。支援が本当なら、形で見せロ」
カラさんはカラさんで、信じて欲しければそれなりに物を持ってこいと言い出しました。受け取る前から疑うなんて良くないですよ、私が同じ立場ならおそらく同じことを提案しますけども。

いや、待ってください。これは素晴らしい案かもしれません。私は言葉の証明のために物資を、つまり外に出て食糧なり武器なりを集めなければなりません。そのためにはピョルカハイム保護区から出ないといけないわけです。
当初は定期的にあるドワーフの商人との交渉の場に立ち会わせてもらい、適当な理由をつけて外に出してもらおうと思っていましたが、これで堂々と外に出られるじゃないですか。カラさん、実に気の利いた提案ですね。きっと近い将来、いい事が起きたりしますよ、根拠はありませんが。

「そうですね、言葉だけ信じろというのも虫のいい話です。わかりました、支援を募って私の言葉を証明してみせましょう」
ルチさん、ヒルチヒキ族のみなさん、短い間でしたが大変お世話になりました。みなさんは最初こそ恐ろしい人食い部族だと思いましたが、話してみると意外と穏やかでしたし……その穏やかな気質で人の頭の皮を剥ぐんだと逆に怖くなったりもしましたが、みなさんとは良好な関係を築けたと信じています。両手いっぱいにお土産を持ってきますので、しばらくの間お別れになりますね。
嘘がバレないように真剣な表情で、笑みなど決してこぼれないように気を付けながら答えてみせると、
「確かに。外の町、一緒に行く。カラ、着いてくる」
ルチさんが余計なことを言い出しました。おそらく私の心配をしてくれてるのでしょう。わかりますよ、私なんてろくな戦力にもならない非力な小娘ですから。護衛としてカラさんを連れて行くのもわかりますよ、ルチさんだけでは多勢に無勢もあるでしょうから。
しかしこの場は、私をもう少し信用してもらいたいのですが……。

「俺が? なんでダ?」
ほら、カラさんも嫌そうな顔してますよ。表情は仮面のせいでさっぱりわかりませんが、言葉からして同行するのは拒否したい感じを漂わせています。
するとヒルチヒキ族の戦士のひとり、ネム・ピヒャさんがずかずかと歩み寄り、カラさんの頭を掴んですごいい剣幕で捲し立てました。ちょっと早口過ぎて聞き取りにくいですが、要するに『お前は今すぐ出発する許可を取ってこい』『えらい人に伝えてこい』『お前は半人前なんだから人と話す時は仮面を外せ』と言っているみたいです。それにしてもすごい剣幕です。戦士のおふたりは標準語を学んでいないため、ルチさん越しにしか喋ってなかったのですが、どうやら思った以上に圧が強い気質のようです。
人狩りとの戦闘を見るからに、好戦的で暴力に躊躇のない方々だとは知っていましたが。
「ネム・ピヒャとカラ、姉弟、種違い」
どうやらネムさんとカラさんは同じ母親から生まれた姉弟なのだそうです。つまりふたりともルチさんとは親戚に当たります。渋々仮面を外して現れたカラさんの顔は、確かにネムさんと似た顔つきををしていますし、ルチさんとも似た部分があるような気がします。血縁者と言われて疑わしい要素はないですね。
ヒルチヒキ族自体、決して人数は多くないのでそういうこともあるのでしょうが、まさか4人中3人が血縁関係とは……。

もしかして残りのひとり、ヌン・ドゥガさんもそうなんですか!? だったら私だけ仲間外れみたいで悲しいのですが! いや、ヒルチヒキ族じゃない時点で仲間外れなんですけども。
「……?」
ヌン・ドゥガさんに目線を向けると、髑髏の仮面の奥から不思議そうな目を向けてきました。もしかして彼もそうなんですかね?
「ヌン・ドゥガ、違う。勇敢な戦士、親戚ではない、残念」
私の疑問を察したのか、ルチさんが教えてくれました。どうやら血縁関係はないようです、ものすごく世代を遡ると同じ祖先に行き当たるかもしれませんが、少なくとも祖父母までなら赤の他人です。
赤の他人同士、仲良くしましょう。標準語も離せないですし、あまり思考も読めないですし、私もこれでも一応うら若き乙女の端くれなので、仲良くするのは難しそうですが。

「仕方ないナ、同行スル。少し待ってロ、許可をもらってクる」
そうこうしている内にカラさんが説得に応じたようで、やれやれといった雰囲気で防壁の向こうへと戻っていきました。
いやいや、そんな悪いですよ。ルチさんも無理に着いてきてくれなくても大丈夫なんですよ、そうですね、ピョルカハイム保護区の端っこ、その辺りまで送っていただければ……あ、もう帰ってきました。日よけ用のマントを羽織って、両手に水や食糧なんかを抱えています。
行く気満々じゃないですか。さすが傭兵の部族といったところでしょうか……断ってくださってもいいんですよ?
「改めて、カラ・ネハシュ。見ての通り蛇腹剣を使えル。一流には程遠いガ、それなりに戦える自信はアル」
ご丁寧に自己紹介までして下さいましたよ。ああ、もう、そんなことされたら断れないじゃないですか。
「改めまして、ノルン・マイグラートです。では、ご厚意に甘えて、みんなで一緒に外の町に行きましょう」
こう答えるしかないじゃないですか。断る理由がないですし、もし断って疑いを強めたら外に出るどころか、この場で全身の皮を剥がされかねません。
ええ、これからも一緒に旅しましょう。ルチさん、改めてよろしくお願いしますね。カラさんもよろしくお願いします。


遺書とか書いておいた方がいいですかね……?


▶▶▶「巨大な人食いサメが砂漠を泳ぐ話」


≪加入ユニット紹介≫
カラ・ネハシュ
種 族:タルダイ族(男、20歳、属性:風)
体 格:175cm、69kg
クラス:タルダイ族(レベル5)
移 動:4↑2↓3(砂漠)
    HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力
現在値 25 10  2  5  2 14 11 12  4  6
職補正
装補正     1                 5
成長率 40 30 25 35 15 35 50 40 15 20

【スキル】
【個人】砂蛇の舞(蛇腹剣の射程+1)
【種族】四牙(攻撃した標的の隣接マスにHP5%のダメージを与える)
【習得】毒攻撃(攻撃時に低確率で毒付与)
【??】
【??】
【??】

【技能】
短剣:E 剣術:D 槍術:E 斧鎚:E 鞭術:D 弓術:E 銃砲:E
体術:E 探索:D 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:D

【装備】
蛇腹剣   威力16(6+10/射程1は剣術準拠)
牙のお守り 腕力+1、必殺+5

【所持品(3)】
干し肉×1、解毒薬×1

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