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ルチ・フォナ外伝 第15話「カメを捕まえようとしたら豚が捕まった話」

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ワラ・ドムネルメ、ビビャ! テルバ・ペモーネ・ボンジャ・ノッソ、ベルデロック! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。非の打ち所のない正当で穏便な交渉の結果、思いのほか多くの支援を取り付けた私ルチ・フォナと愉快な仲間たちは、たくさんの荷物を積んだ馬車と一緒にスルークハウゼンを出発し、なんやかんやあってピョルカハイム保護区の目と鼻の先、ベルデロック崖道を進んでいる。 なんやかんやというのは主に野盗や山賊の襲撃で、連中もピョルカハイムの部族と教会の僧兵が一緒に行動しているのが不思議だったのか、戸惑っている隙を突いたら簡単に倒れてくれた。護衛としてついてきたふたり、小柄な魔道士リヒャルド・ウーノと背の高い女僧兵シャリル・ドヴァはそれほど腕が立つわけでもないけど、ふたりの扱う魔法や回復の杖はとっても便利だ。回復の杖は説明するまでもなく、魔法も簡単に火を起こせたり水や酒を冷やしたり出来て、こんな使い方が出来るなら支援物資に魔道書も入れておいてもらえばよかった! そんな風に苦々しく思っていたら、街から離れて元の牛頭を被っているヤクシ兄さんが、これ見よがしに魔道書をかざしてみせた。アルマンダル魔術書という初歩的な魔道書で、私が下水道を探索したり司祭を脅かしている間に手に入れたんだとか。さすが兄さん、出来る牛は一味違う。 ちなみに教会のふたりは初めこそ兄さんの牛頭を見て悲鳴を上げたり、カラの蛇のタトゥーと蛇腹剣を見て怯えたりしてたけど、さすがに見慣れてきたようで今では驚きも怖がりもしなくなった。 「ヤクシ殿、カラ殿、斜め右方向、野盗が近づいてる!」 「ノルンさん、私たちは馬車と荷物を守ることに専念しよう」 ついでに返り血にも慣れてきたようで、最近では野盗が現れても冷静に対処してくれる。 「全員、捕まえる。生贄、いっぱい捧げる」 「ルチさん、そいつはやめておかないか?」 「そうだよ、野盗にも人権はあるんだから」 でも生贄を捧げるのには、未だに抵抗があるらしい。根本的な価値観の相違というやつだ、彼らはヒルチヒキ族じゃないから仕方ない。特に外の人間は生贄を野蛮だのなんだのと言ってくれるけど、私からしたら命を奪っておいて生贄にも捧げずに野晒しにする方がずっと野蛮だと思う。 解り合...

ルチ・フォナ外伝 第14話「命乞いをしながら葡萄酒を飲む聖人の話」

「支援を約束しよう、元々断る気は無かったからね」 ルチさんとのおおよそ交渉とは呼べない交渉を終えたヨアヒム・ヘイルワード氏は、さすがに疲れたのか杯の中のハーブ水を飲み干しながら言葉を溢しました。私も緊張と驚きで喉がカラッカラです、ルチさん、今後は心臓に悪い発言はやめてくださいね。 「……って、断る気は無かったんですか?」 「ああ、そうだよ。ピョルカハイム保護区内の部族に権利を付与するべきだ、なんて論文を世に出しておいて断るのは、それはそれで変な話だろう?」 確かにそうですけど、あんな脅迫みたいな交渉で首を縦に振るのも変な話ではありますよ。 ヘイルワード氏が言うには、そもそもピョルカハイム保護区内の部族を同じ人間と考える者自体が少なく、さらには彼を訪ねてくるような変わり者など、これまで居なかったそうです。つまりここに来た時点で、彼からすれば既に幾つものハードルを超えているわけで、嘘でなければ合格だったということです。 「3点とは言ったが、支援をしないとは一言も口にした覚えはないよ」 「言われてみればそうですけど……少々意地が悪くないですか?」 「ああ、こいつらにもよく言われるよ。私は司祭としては異端者だからね」 ヘイルワード氏は自虐的に苦笑してみせながらゆっくりと立ち上がり、棚に並べてある年代物の葡萄酒を手にしました。酔わなければ話せないような内容でも語るのでしょうか。 私たちは交渉に来ているのでお断り……ルチさんは飲むんですね。どうぞどうぞ、お疲れでしょうから好きにして下さい。酔っぱらって生贄に捧げるのだけはやめてくださいね。 「とはいえ、このままでは解せないだろうからもう少し説明してあげよう。ノルン君、ルチ君、君たちはこの国、ハルトノー諸侯連合が戦争状態にあることは知っているかね?」 ルチさんがどうかわかりませんが、私は当然知っています。ハルトノー諸侯連合は大陸南部の強国と境界線を面していて、何年も前から一進一退の争いを続けています。南部の国境はシェーレンベルク騎士団の中枢からもラステディン教会の本拠地からも遠く、このスルークハウゼンでもそれなりに離れているため、あまり多くの情報は伝わってきませんが、それでも時々『国境線を何メートル押し上げた!』だとか『敵部隊の損害〇〇名、圧倒的勝利を収める!』といった真偽不明な戦果は伝わっています。 「フィアレアド王国との戦争で...

ルチ・フォナ外伝 第13話「交渉という名の机下の殴り合いの話」

半ば異端者扱いされているとはいえ腐っても教会の高位の司祭、拝謁の機会を得るのは困難だと思っていたのですが、意外にもあっさりと許可が貰えました。懐が大きい方なのでしょうか、それとも豪胆な性格なのでしょうか。まさか油断しがちな間抜けということはないでしょうが、なんにせよお目通りが叶うのは私たちには好都合です。 すんなりと支援を受けられるとは思いませんが、交渉のテーブルに着く姿を見せればルチさんたちから信頼を得られるでしょうし、仮に支援まで辿り着けなくても誠意は汲んでもらえるでしょう。理想をいえば資金や武器の調達、そこまで行けなくとも活動のための後ろ盾……最悪ヨアヒム・ヘイルワード氏の名前を借りれるだけでも価値はあります。ラステディン教会はシェーレンベルク騎士団と並ぶ権威の巨頭ですからね。 「ルチさん、そろそろ行きますよ」 「ノルン、交渉の服……これ?」 ルチさんがひらひらしたスカートを不満そうに摘まんでいます。私だって普段の冒険者風ではなく見栄張って令嬢みたいな格好してるんです、ルチさんも我慢してください。大丈夫、どこからどう見ても育ちのいいお嬢様ですよ。 「ヒルチヒキ族の服、着たい」 ルチさんの言うことも一理あります。今回は私は諸部族解放同盟の使者として、ルチさんはヒルチヒキ族の大使として赴くわけですから、部族の伝統的な装束を纏うのも悪い手ではありません。しかしヘイルワード氏からの印象を少しでも良くするためにも、ヒルチヒキ族は決して野蛮な部族ではなく、文化的で友好的な部族だと思わせる必要があります。公式の場ではこちら側の文化を受け入れる度量を見せる必要があるわけです。 それにヘイルワード氏と顔を合わせる前に、教会の衛兵や僧兵に摘まみ出されては意味がありませんからね。獣の頭蓋骨を被って無駄骨になってしまうなんて、それこそ笑えない冗談ですよ。 とはいえ話の流れではヒルチヒキ族である証明も求められるかもしれません。 手荷物の中にルチさんの普段着といつも顔に塗ってる白い染料、それと頭に被っている獣の頭蓋骨、向こうの暮らしで使っていた石器のナイフや道具、この辺りは用意しておきましょうか。 「着ていった方が早い」 「そこは臨機応変にお願いしますね。その干し肉はやめておきましょう!」 どさくさに紛れてルチさんが干し肉を入れようとしたので、しっかりと制しておきました。さすがに人間の肉...

ルチ・フォナ外伝 第12話「せっかく都会に来たから下水道のワニを捕まえる話」

ベメ・ゲミュビハ、ドゥイ! ルーオ・デモフ・スェボミ・リベレルテ、ドゥン・モラ! ……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。冒険者ギルドから町内清掃の仕事を紹介されたので、郊外の大きめなどぶ川に来ている。 本当はみんなで来るつもりだったけど、ノルンはヘイルワードとかいう教会の偉い人と面通しが出来るように忙しそうにしてて、カラは掃除なんてしてられるかと教練を受けに行った。ヤクシ兄さんは変に目立つと気の毒なので、宿で留守番ついでに洗濯や武器の手入れをお願いしてある。 そういうわけでこの場は私ひとり、正確には他の冒険者たちもいるからひとりではないけど、実質私ひとりといった状況だ。 町内清掃は文字通り市街地や郊外の掃除だ。普段乱暴者や不審者に思われがちな冒険者たちが、ゴミを拾ったり雑草を刈ったりして住民たちからの印象を良くして、ぼくたち危ないものではないですよーと猫を被るのだという。実物の猫を頭に乗せた方が話が早い気もするけど、世の中には致命的に猫に好かれない人間もいる。なにを隠そう私もその類で、不思議と昔から猫にはよく唸られるし、犬にもよく吠えられる。他のヒルチヒキ族は血の臭いのせいって言ってたけど、血の臭いなら仕方ない。精霊に生贄を捧げないのは、飼い猫に餌をあげない以上の大罪だ。大事にしていこう、精霊も、猫も。 「ふしゃぁー!」 そんな風に思っていても、通りすがりの猫は私を見た途端に牙を剥いて威嚇してくる。懐かれないものは仕方ない、そこまで無理して好かれようとは思わないし、頭に猫は被れない。 そんなことより今は掃除だ。この町内清掃、受付のお姉さんが言うには結構おいしい仕事だったりするらしくて、街路の掃除でもお金を拾えたりするし、酒場街なんかだと酔っ払いが落とした財布が見つかったりする。河川清掃、いわゆるどぶさらいだと交易船がうっかり落とした積み荷とか、誰が落としたのか美術品や骨董品、果ては武器なんかも拾えることがある。さすがに下水道にはうんこと生ゴミくらいしか落ちてないけど、スルークハウゼンには開発途中に勝手に作られた秘密の地下道や隠し部屋もあるらしくて、運が良ければそういう場所が見つかるかもしれない。巧妙に隠された場所ならお宝のひとつもあるに違いない。 というわ...