ルチ・フォナ外伝 第7話「巨大な人食いサメが砂漠を泳ぐ話」

ワラ・ドネバ、ヌン! ダナラ・アルバガソ・フェメルリ・タルダイ!

……と言われたところで、ヒルチヒキ族を含めたピョルカハイム保護区諸部族の言語体系を知らないとさっぱりわからないと思うので、いわゆる標準語に翻訳しよう。せっかくタルダイ族の縄張りに来たのに、このまま帰るのはもったいない。せっかくだから少し遊んで帰りたい。
というわけで私、ルチ・フォナの趣味のひとつに釣りがある。私は釣りをしている時の穏やかでのんびりとした時間が好きなので、隙あらば釣りをしたいと思っているのだ。

「せっかくの砂漠、釣りする」
「釣りって、どこで……ああ、オアシスですか?」
ヒルチヒキ族が客人兼捕虜兼同盟者として預かってるノルンが、いつものように少しズレた返事を返してきた。このノルン、少々疑わしいところがあるものの基本的には善人で、ただし世間知らずなのか時々よくわからないことを言い出すところがある。例えば今みたいな。
「釣り場、砂の上。オアシス、そもそも入れない」
ノルンは知らないみたいだから教えておくと、貴重な水源であるオアシスはタルダイ族にとって命よりも大事な生命線。交流のあるヒルチヒキ族といえど易々と立ち入らせるわけにはいかないし、今回みたいにノルンのような外部の客がいる時は論外だ。普段私たちが踏み込めるのはオアシスではなく、ぐるっと周囲に築かれた防壁や塹壕辺りまで。オアシスにもオアシスの手前に建てられた砦にも近づけさせてもらえない。
オアシスに立ち入れるのは基本的にタルダイ族だけで、特別に許可を与えられるのはタルダイ族に嫁いだ女、傭兵として仕事を運んでくる交渉役、物資と装備を運ぶ砂漠の商人だけ。
それと例外的にタルダイ族の中でも地位の高い戦士たちの同行者。ちなみに私が前に右腕の蛇の刺青を入れた時は戦士長に同行してもらった。

「随分えらい方と知り合いなんですね」
「タルダイの戦士長、釣り仲間。釣り友、年齢、立場、関係ない」
タルダイの戦士長は釣り好きで、彼がヒルチヒキ族の集落を訪れた時に仲良くなった。私ほどじゃないけど中々の腕前で、ちょっと大物を狙い過ぎるところがあるけど、どうせ釣るなら大物を狙いたいというのは誰しも同じだ。
そういう点でも気の合う釣り仲間だ。魚を捌くのも上手だし。
「なるほど。では今日も戦士長さんに頼めば……」
「戦士長、しばらく留守。傭兵に出てる、半年は帰ってこない」
オアシスにも珍しい魚がいるので、釣りが出来ないのは残念だ。そっちは今度の楽しみに取っておこう。
「カラさんでは駄目なんですか?」
しばらく一緒に行動する私の親戚、カラ・ネハシュはタルダイの戦士であるけれども若手。まだまだ立場は下っ端、私もヒルチヒキ族の中では下っ端なので、お互い頑張ってえらくなろうじゃないか。その時はお祝いとして私たちをオアシスまで連れて行くといい。
そういうわけで釣りも、ついでにオアシスにある商品や装備も今後の楽しみにしておく。

「だったら、なおさら釣りなんて無理じゃないですか」
ノルンがまたしても変なことを言い出した。先日も川にタコがいると驚いていたし、もしかすると釣りのことを何も知らないのかもしれない。
「釣り、出来る。砂漠、大物狙う」
「はぁ……」
ノルンが疑うような目を向けてくる。疑われる筋合いはないけど、釣りを知らないなら仕方ない。予備の釣り竿を持たせて、私の動きをよく見ておくように助言しておいた。
「砂漠の釣り、コツがいる。川の釣り、水の中に投げ込む、かかるの待つ。砂漠、先に見つける」
ゆっくりと砂漠を見渡す。見極めるのは砂の表面のわずかな変化だ。砂の中を泳ぐ時は、固い地盤を避けたいのか獲物も深くまでは潜らない。なので獲物が通る瞬間、砂の表面がわずかに振動するように動く。
……見たところ変化はない。砂漠は広い、今はこの辺りにいないのかもしれない。

「ルチさん、あれ!」
ノルンが指さした砂漠の彼方では、巨大な塊が嵐のように大量の砂を巻き上げていた。その先には駱駝に乗った、おそらくタルダイ族の集落に向かう商人の一団が、そいつから逃げるように走り回っている。
どうやら砂漠を泳ぐ怪物が商人たちに食らいついたらしい。しかもかなり大きい、相当な大物だ。
「大物、砂漠の旅人、襲う。捕まえる、ついでに助ける」
私は反射的にルェドリア銃を握り締めて砂の上を走り出した。ほどよく熱い、土地柄でヒルチヒキ族はしないけれど、タルダイ族には砂風呂という、熱された砂に浸かることで疲れを癒す風習がある。今日の砂の温度だと、さぞ心地よいだろうな。砂の中の怪物も気持ちよかろうよ。


◆❖◇◇❖◆


砂漠の怪物、その中でも人を食らうほどに巨大なものは3種類。
ひとつは巨大なミミズだ。地下の水脈に棲みつき、地中奥深くから巨大な穴を開けながら地上まで這い出てきて、人間や駱駝、サソリやトカゲなんかを見境なく飲み込んでいく。肉は臭くて食えたものじゃないけど、その悪食ゆえに高価な財宝なんかも腹の中に溜めていることがある。
ひとつは巨大なサソリだ。石斧や弓矢ではびくともしない頑強な殻で覆われていて、わずか一滴で三日三晩まともに立っていられなくなるような猛毒を持つ。常に地上に姿を現しているから避けやすいものの、タルダイ族はサソリを悪魔だとしているので見かける度に挑んでいるらしい。
最後に巨大なサメだ。いうまでもなくサメは砂漠にもいる。砂の中、浅い範囲を泳ぎ回り、砂漠を移動するあらゆるものに食らいつく。人間くらいの大きさから、人間や駱駝なら丸呑みにしてしまうくらい大型なものまで棲息していて、大型のものは巨大ミミズと同様に腹の中に財宝を溜めていることがある。

砂漠の商人を追いかけている怪物はサメ、それも一等大きな巨大ザメだ。

「助けて! 助け、たたたた、たす、タスケテー!」
「そのまま、まっすぐ走る!」
私は砂漠の商人たちとは別方向に進んで、臓物の入ったボトルを岩場めがけて投げつけた。砂漠のサメは血の臭いに敏感で、ほんのわずかな臭いでも嗅ぎ取って執拗に獲物を追いかける。なのでサメから逃れるために、家畜にわざと怪我をさせて囮に使ったり、怪我人を犠牲にして時間を稼いだり、時にはサメ自体を攻撃して共食いを誘発したりする。
ヒルチヒキ族が武器として使う臓物ボトルは、ガラス瓶や陶器に生贄に捧げた後の人間の余り物を詰め込んだものだ。標的に投げつけて病気にしたリ、毒で傷口を腐らせたりするのが本来の使い方だけど、サメや獣相手にはこういう使い方が出来る。その強烈な血と腐臭にサメはらんらんと目を輝かせて、るんるん気分で食らいつくのだ。
「キシャアァァァァァ!」
サメは狂人のような叫び声を発しながら砂の中から姿を現し、岩場の何倍もの高さまで跳び上がる。砂漠のサメは獲物として鳥を食べる時もあるので、その跳躍は岩場や防壁、さらには鳥の生息域にまで到達する。しかもその高さを活かして地面に転がる得物に噛みついたりもするので、狙われる方は堪ったものじゃない。
サメの体重に落下速度が上乗せされて、臓物で汚れた岩場は跡形もなく砕け散った。

時間はそれなりに稼げた。砂漠の商人たちは私の後方にまで移動して、ノルンから水を受け取っている。無事に保護は出来たので、あとで商品を見せてもらおう。お礼に銃か弓の1本くらい貰えるはず、だって私は命の恩人。命の恩人には命と同等のお礼を渡すのが正しいお礼だから。
「釣り、始める」
執拗に砂上の瓦礫を食らうサメに向けて、ルェドリア銃を構える。サメの全身は石のように硬く、牙のように鋭い鱗で覆われている。遠間から銃で撃っても胴を貫くまではいかないし、かといって充分な距離まで近づくのは危険が伴う。なので狙うなら目か口だ。目もそれなりに厚い膜で覆われているけど、鱗ほどの硬さはない。口はいうまでもなく中の肉が剥き出しになっている。
当てやすいのは口だけど、安全に狙えるのは目だ。ゆっくりと側面に回り込んで、サメの小刻みな動きを先読みして弾丸を放った。上下左右に揺れ動くサメの目が射線上に飛び込んで、目玉の中心を直撃とまではいかなかったものの、膜に覆われた目を傷つけることは出来た。
サメが痛みを感じるかは知らないけど、視界を奪われたサメは驚きと怒りで思考を乱されて、当てずっぽうな方向に向かって泳ぎ始めた。

「カラ! そっち向かった!」
サメが近づかないよう防壁の前で構えていたカラに呼びかける。カラが右腕を掲げて合図を出すと、防壁の中から次々と矢が放たれて、近づいてくるサメに鏃を突き立てていく。タルダイ族の守り手たちが使う弓矢は私たちが使う狩猟用のものと違って、台や覗き窓に固定したまま撃てる弩と呼ばれる代物。障害物の多い場所で使うなら弓の方が便利だけど、壁の隙間や狭い場所なら弩の方が扱いやすい。
幾つもの矢で怯んだサメ目掛けて、カラが腰にぶら提げた蛇腹剣を振り回した。
蛇腹剣は複数の刃を束ねて内部から紐や鋼線で繋げた特殊な仕組みを持つ剣で、近い間合いでは鈍器に近い剣として、離れた間合いでは切れ味と重さを持った鞭のように戦える。蛇を守り神と崇めるタルダイ族は扱いの難しい蛇腹剣を好んで使い、特にカラは持って生まれた体の柔らかさを活かして、足を限界まで広げて踏み込みながら、上半身と腕を極端に前に突き出して剣を振るう。
遠心力で外れた刃は槍のように長く伸びながら鞭のようにしなり、サメの頭を一撃した。カラはそのまま勢いを利用して上半身を捻り、踏み出した足を一気に引き寄せて遠ざかる。他のタルダイ族よりも遠くまで届き、離れる時には地を這う蛇のように素早く遠ざかるこの動きは『砂蛇の舞』と呼ばれているとかいないとか。

決定打とまではいかなかったけど怯んだサメに向けて、私も次の弾丸を撃ち込む。蛇腹剣で打ち砕かれた鱗の隙間を弾が抉り、これがサメにとっての致命傷となった。サメはしばらく暴れ回ったものの、さらに何発も弾丸と蛇腹剣、他にも矢とか石槍をこれでもかと撃ち込まれて気を失い、陸に打ち上げられた魚のようにビタンバタンと尾ビレを叩きつけて力尽きた。
「絵に描いたような泥仕合でしたね」
「砂漠、泥はない。砂仕合」
「どっちでもいいですけど、誰も怪我しなくてなによりです」
ノルンからの称賛の言葉は無視して、息絶えたサメへと近づく。防壁から何人かのタルダイの戦士たちが出てきて、全員で両手を掲げて巨大なノコギリのような刃を運んでくる。巨大ザメは死してもなお硬く、おまけにぐずぐずしていると近くのサメが集まってくる危険もあるので、早急に解体する必要がある。
そこで登場するのがタルダイの大鋸刃だ。言い伝えを語ると長くなるので簡単に説明すると、かつて大地を引き裂きながら現れた巨大な蛇を鎮めるために、当時のタルダイ族の祖たちが7種類の獣たちの牙を選り集めて作った巨大なノコギリで、祈りと共に大蛇の首を落とすと砂漠にオアシスが生まれたのだという。
今でも巨大ザメや巨大ミミズの解体、巨大サソリの討伐などに用いられるタルダイ族の伝統的な武器であり象徴的な祭具だ。

「よいしょぉーい!」
タルダイ族がサメの腹を切り開くと、大量の血や胃液と一緒にサメが飲み込んでいた物が転がり落ちてくる。つい先ほど飲み込んだ砂岩、砂漠でたまに見つかる星形の砂、この辺は持っていても仕方ないので、商人に引き取ってもらう。あとは……表面に妙な模様の刻まれた金属製の古い杯、商人によると古代ルシッタ文明のものだそうで、収集家の間ではそれなりの値で取引されているらしい。ノルンの鞄にでも放り込んでおいて、外の町に行った時に金に換えてしまおう。
ちなみに巨大ザメのヒレからはフカヒレという貴重な食材も取れる。私たちは好んで食べたりもしないけど、食通の間で意外と高く取引されている。これも乾燥させて外の町で売ることにする。
「どうせなら武器、欲しかった……」
残念そうな顔を命拾いした商人に向けると、私の考えていることが通じたのか、恐る恐る荷物を広げて商品を並べ始める。
「あの、よろしければお礼におひとつどうぞ」
「ひとつ……まあいい。貰える、感謝」
本当は3つ4つ貰いたかったけど、欲張りすぎるのもよくない。商人が運んでいた品物は、柄を板金で覆ったナイフに盗掘にも使えそうなピッケル、草刈り用の鎌、タルダイ族の守り手たちも使ってるクロスボウ。それにアルマジロの外皮を貼りつけた木製の盾、鉱石を結び付けたお守り、身に着けていると体力が湧いてくる指輪、鮮やかな藍色の染料。あとは強めの酒と獣の足を絡めとるボーラ。

微妙……あえて選ぶならクロスボウか盾だけど、自前の弓と銃を持ってる私にはありがたみが薄いし、かといってお守りや指輪もあまり欲しくない。染料もヒルチヒキ族としては白いものを使いたいし、じゃあどれにするかとなると……酒? いや、酒は嫌いじゃないけど飲んだらそれまでだから。
「他、もっといいもの。私、銃使う、銃ないか?」
「銃はないですけど、こういうのはどうでしょう?」
商人が取り出したのは一振りのナイフだ。ナイフにしては少々長めで、刃と柄の間のヒルトの端っこに紐でも括りつけるのか丸い穴が開いている。さらに柄の下にも折り畳み式の金具がついていて、なんていうか余計な機能がありそうな一振りだ。
「ナイフ、妙な穴、金具ある」
「そいつは銃剣っていって、こんな風にルェドリア銃の銃口に取り付けて、槍みたいに使うって具合でさあ」
商人は金具と柄で銃口を挟み、さらにヒルトの穴に通して固定してみせた。どうやらこのナイフは接近戦の間合いまで近づかれた時のための武器で、そのまま振り回すよりは銃身の分だけ長く、もちろん外して使うことも出来るようだ。
「これにする」
私が選んだのは銃剣だ。あまり使うことは無さそうだけど、銃の尖端にナイフがあるだけでも近づくのを躊躇してくれそうではあるし、威嚇と護身用くらいにはなると思う。素材も鉄製で、今使っている石器のナイフよりは切れ味も鋭い。タダでもらえる分には文句のない品だ。


今回はあまり旨味のない釣りだったけど、釣りは一期一会なところがあるのでこういう日もある。運を残したと前向きに捉えて、次の釣りに期待しておこう。そうだな、次は森に行ってイカでも捕まえてみようかな。


▶▶▶「暴れ牛と挑む泥んこ奇祭の話」


≪入手アイテム≫
銃剣装備(スキル習得:銃剣)×1、フカヒレ×1、ルシッタ紋様の杯×1


≪NPC紹介≫
砂漠の商人
種 族:平民(男、44歳、属性:火)
体 格:170cm、74kg
クラス:砂漠の商人(レベル5)
移 動:4↑2↓3(歩兵)/移動4↑1↓2(騎馬・砂上)
    HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力
現在値 20  3  3  5  4  7  7  2 10 10 

【スキル】
【個人】商売繁盛(売買成立時、HP30%回復)
【種族】投石(射程3、0~3ダメージの間接攻撃を行う)
【兵種】売買(マップ上で所持アイテムの売買が可能)
【習得】冒険者の鞄・大(アイテム所持数+8)
【習得】駱駝(移動4↑1↓2/騎馬・砂上)
【??】
【??】

【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 鞭術:E 弓術:E 銃砲:E
体術:E 探索:C 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:B

【装備】
鉄の剣 威力6(3+3)

【所持品(11)】
マンゴーシュ、グレイヴピッカー、草刈り鎌、クロスボウ、アルマジロの盾、鉱石のお守り、体力の指輪、藍色の染料、ボック酒、ボーラ、銃剣装備


≪エネミー紹介≫
スナザメ
種 族:巨大ザメ(男、年齢不明、属性:土)
クラス:巨大ザメ(レベル7)
移 動:5↑2↓3(万能)
    HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力
現在値 40 14  1  9  5 11  3 16  2  0

【スキル】
【個人】砂食み(砂漠限定、毎ターンHP20%回復)
【種族】シャークダイブ(攻撃時に標的との高低差を無視する)
【習得】すり抜け(敵ユニットをすり抜けて移動する)
【習得】チャージ(力を溜め、次のターンに威力1.5倍の攻撃を行う)
【??】
【??】

【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 鞭術:E 弓術:E 銃砲:E
体術:E 探索:C 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:E

【装備】
なし

【所持品(3)】
ルシッタ紋様の杯×1、砂岩×1、星の砂×1

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