もぐれ!モグリール治療院 第12話「必殺技を会得しよう」

禁域調査に参加するにあたって、さすがにこの私、ヤミーちゃんにも足りないものがある。なんせ挑む場所は過去に何人もの冒険者が命を落とした禁域、いくら私が強くてかわいいからって、今のまま禁域に踏み込むほど怖いもの知らずでも思い上がったりもしないのだ。
というわけで早速拠点に戻って、みんなに私に足りないものを聞いてみた。
「知能だな」
「慎重さですね」
「食べ物!」
「おっぱいやな」
「ケツも足らんのう」
外野の意見はその辺にでも置いといて、私に足りないものは聞くまでもない。そう、必殺技だ。といってもなんか凄まじい破壊力の一撃とかに限らず、例えばモグリールの義足部隊みたいな秘密の切り札とか、七王のひとり、ムゥムゥさんの繰り出したハメ技みたいなのとか、そういうのでもいい。
とにかく普段、斧を振り回したり投げたりする私が、ここぞという時に繰り出す隠し武器みたいな必殺技が欲しいのだ。

「必殺技、教わる、一番。強い冒険者、知ってる」
確かにルチの言う通り、ベテランの武闘派パーティーなら必殺技のひとつやふたつ覚えてるかもしれない。ちなみにヒルチヒキ族に伝わる必殺技とかないのかな。
「族長、使える、首狩り捻じり捥ぎ取り」
ルチが言うには、ヒルチヒキ族には一瞬のうちに首を刃物で刈りながら、さらに頭を掴んで捻じり、捥ぎ取ってしまう匠の技があるそうで、精霊に百の生贄、つまり百人分の剥ぎ取った皮を捧げた首長だけが使えるのだとか。
「精進、がんばる」
「そんなに頑張らなくていいよ、ギルドに睨まれるから」
別に睨まれたところでなんだけど、私はなるべく無駄な争いをせずに生きたい。なぜならいちいち殴って追い返すのがめんどくさいから。なので必要以上に生贄を捧げるのは控えて欲しい。
でも悪党とか死刑囚の皮だったらいいのかな。いっそルチが死刑執行人とかになれたらいいんだけど、部族としての生き方を変えたくないからそういう仕事には就けないのだ。なら仕方ないね、仕事より生き方の方が大事だもん。

「たのもーう」
生贄の件はさておき、必殺技の方はちっとも片付いてないので冒険者ギルドに立ち寄ってみた。パンはパン屋、武器は武器屋、ならば必殺技はベテラン冒険者。ギルドに出入りするベテランの中には、必殺技を教えてくれそうな匠とかいるに違いない。
「というわけで必殺技が欲しいの」
「なにがどういうわけかわかりませんが、必殺技? 戦力増強や形勢逆転に繋がる方法はいくつかあります」
一部の髪の毛がいつもよりくちゃっとなってる受付のおねーさんが、私とルチの前に紙を置いて、さらさらっとペンを走らせた。もちろん私にはなに書いてるのかさっぱりだけど、ルチはそれなりに文字が読めるので、この場は任せた。米は米屋、薬は薬屋、文字を読むはルチの出番なのだ。
「その1、雇う、兵隊、傭兵」

傭兵の雇用は中級職以上に就いた者が得られる権利で、あらかじめ傭兵と契約して、相応のお金を払ってパーティーに参加してもらう仕組み。基本的には海賊系のハスカールだったら海賊、重装兵だったらパイク兵、神殿騎士だったら騎士みたいに同系列の基本職や下級職の傭兵を雇用するのだけど、世の中には人間以外の、それこそゴブリンとかオークとか、その他モンスターとも契約を結ぶアイテムもあるのだとか。
金額は契約書で決まっているので、すごい儲かった場合でも料金を増やす必要はないし、なにも得られなくてもお金は払わないといけない。報酬と対価をよく考えて呼ぶべし。
「傭兵かー」
私もルチも傭兵の雇用は習得していないけど、掘り出し市を覗いたらモンスターを呼ぶ道具が手に入るかもしれない。確かに頭数を増やせるのは戦力増強としてもわかりやすい。のだけど、私は契約とかで他人を縛るのが嫌いなので、あんまり興味をそそられない。それとお金はなるべく払いたくない。
世の中には他人から縛られるのが好きな変わり者もいるらしいけど、縛られる大好きって人をわざわざ雇うのも気持ち悪い。あと、お金払いの好きじゃない!
「却下! ルチ、次!」
「その2、英雄、職能、祠」

スルークハウゼンも含めた各地の冒険者ギルドには、その町とギルドを象徴する職業に就いた英雄を祀る祭壇があって、そこで強力な奥義を授かることが出来る。スルークハウゼンの開拓公エルベの祭壇は、この町を作る時の最初に鍬が振り下ろされた場所にあって、普段は立ち入り禁止になってるけど開墾祭とか収穫祭とか、そういう節目節目にお参りできる。そして奥義、開拓公エルベの剛撃はまさしく大地を揺るがす程の破壊力があるらしい。
ただし、ひとりの冒険者が授かれる英雄の技はひとつという決めごとがあるそうで、他の土地のギルドに行った時に悔みたくないから、まだ手を付けてませんっていうベテラン冒険者もいるのだ。
って、さっき通りがかった親切なおじさんが教えてくれた。
「必要資格、等級、銀。私たち、まだ銅」
「じゃあ選択肢にもならないじゃん! 次!」
「その3、奥義、習う、ベテラン」

残る選択肢としては、ベテラン冒険者とか武術の達人が自ら編み出した奥義を教えてもらう。例えばムゥムゥさんの仰天羊返しみたいな、ムゥムゥさんなら頼んだら教えてくれそうだけど、あいにく私もルチも牧羊杖は使わないし、今後もその予定はない。
なので、他に教えてくれそうな親切な人を探さないといけない。でもまあ、私みたいな美少女のお願い、聞いてくれないわけがないのだ。
「ねえ、そこのおじさん。なにかすごい奥義を教えて」
「俺かい? うちのパーティーに入ってくれるなら考えてもいいが、一応門外不出ってことにしてるんでね」
このおじさんはクィンリィ大盾の会という最大規模のパーティーの一員で、親切そうな顔をしてたけどさすがに易々と教えてはくれないみたい。かといって私は自分のパーティーがあるし、レイドという形でも既にモグリールやヤーブロッコと組んでるので、もう残された手段は実力行使あるのみ。
どうしよう、顎とか割ったら教えてくれるかな。なんて考えながら、じーっとおじさんの顔を見ていると、
「君ってノルドヘイムから来たんだったよな? だったら同郷の者に教わるのが一番じゃないかな」
「え? 私以外にもいるの?」
とてつもなく大きな助言を放ってくれた。


◆❖◇❖◆


スルークハウゼンの郊外、ダンタリアン通りに面した一軒家に同郷の元冒険者がいるらしい。ちょっとケチなおじさんの話だと、その元冒険者は20代の若い女で、見るから色んな意味で恵まれた豊かな体の持ち主で、町を歩けば振り返るような顔をしている。つまりは体格のいい美人ってことなんだけど、それだけではなく仰々しい大きさの鹿角を頭に飾っているというのだ。
「ノルドヘイム、鹿の角、よくある?」
「割と一般的かなあ。熊や狼よりは仕留めやすいし、探せば落ちてたりするから」
とはいえ鹿も大物になると他の肉食獣を踏み倒したり、角で肉を抉ったりするので、仕留めた獲物の角次第では狼や熊よりも力を誇れたりする。私の家族にも色々仕留めたけど、あえて気に入って鹿の角を選んでる兄や姉もいるから、角や毛皮だけでは戦士の強さは測れない。
家族以外のノルドヘイムの戦士は正直あんまり知らないし、なんだったら会ったこともほとんどなかったりするけど、いきなり殴りかかってきたらどうしようってちょっと思ってる。

「ヤミー、通りの向こう、角、大きい」
「あ、ほんとだ。でっかぁ」
買い出しや仕事の人混みに紛れて、一際大きい巨大な角が動いている。角は開いた手を空に向けたような形で、子どもならすっぽり包めそうなくらい大きく、持ち主が振り向くたびに迷惑そうにぶおんぶおんと音を立てて、周りの空気を掻き回している。
私は狼の毛皮が一番かわいいと思って着てるけど、町で暮らす分には角よりも毛皮を選んで正解だったなって改めて思う。あの大きさの角は流石に邪魔だし、建物によってはつっかえそうだもん。
「どう? 教え、習う?」
ルチも角の大きさに圧倒されて、あんまり関わりたくないって顔をしてる。私も同じ気持ちだ、家族だったらいざ知らず、あの大きさの角持ちには近づきたくない。いちいち角がぶつかってきそうだし。

「……んんん!?」
ちょっと気後れしていると、巨大角の持ち主が視線を感じたのか私たちの姿を捉えて、そのまま人波を強引に突き飛ばしたり払ったり、たまに投げ飛ばしたりしながら掻き分けて、真っ直ぐにこっちに向かってくる。ちなみに真っ直ぐというのは、物の例えとかじゃなくて本当に真っ直ぐで、目の前に人がいようと馬が歩いていようと、荷物が置いてあろうと、障害となるものはすべて撥ね除けながら、本当にただただ真っ直ぐ我が道を行くかのように歩いてくるのだ。正直、ちょっと怖い。
「もしかしてヤミーか!?」
そして私の両脇に手を差し込んで軽々と持ち上げて、左右に乱暴に振り回しながら顔をじっと見つめてきたのだ。
向こうも私に見覚えがあるように、私もしっかり見覚えがある。見覚えがあるどころではない、紛れもなく姉のひとりだ。
家族の次女で兄姉の中では5番目、7年ほど前に腕っ節で飯を食うんじゃいと旅に出て、その後たまに顔を見せに戻ってきたけど5年ほど音沙汰の無かった姉のピリラ、25歳。

「随分と大きくなっ……いや、そんなに大きくないね。かわいそうに満足にごはんも食べれてないなんて、よし、お姉ちゃんが今から肉をたらふく食べさせてあげるからね。おい、そこの馬。ちょっと妹の飯になれ」
「ちゃんと食べてるから大丈夫だよ」
「ぬぅ? にしては体が細いけど、まあそれはそれとして腹は減ったから肉は食べよう」
ピリラ姉ちゃんは私を降ろして、ずかずかと馬に近づき、持ち主らしき騎士に強引に銀貨を何枚か握らせて、そのまま強引に馬を担いで戻ってきた。
「というわけで、今日は馬肉を食べよう!」
馬と騎士が悲しそうな目を向けてくる。ごめん、ピリラ姉ちゃんは一度言い出したら聞かない性格だから。猛吹雪の中でも熊が食べたいと言い出して熊を狩りに行ったり、酒が飲みたいと言い出してふもとの村まで買いに行ったり、なんていうか全てにおいて思い立ったら即行動な姉なのだ。そして邪魔する者は親兄姉であっても押し退けて進むような、これまた行動派な姉でもあるのだ。

「そっちはヤミーの友達? 妹がお世話になってます、お礼に君も馬を食べなさい」
「馬、旨い。感謝」
断ったらどうなるかわからないからか、それとも本当に馬肉が好きなのか、ルチも素直に従って私と並んで姉の後を歩いている。
それにしてもピリラ姉ちゃんは大きい、おかーさんと並ぶ体格で背丈は私より頭ふたつ近く大きく、太すぎず、かといって十分に力強い筋肉を纏っていて、長い黒髪を腰まで伸ばして、顔は語るまでもなく美人。スルークハウゼンで今最も強そうな美女を出せ、と言われたら迷わず指差すくらい強そうで器量よしなのだ。
単純なかわいらしさでは私に分があるけど、それは姉と比べたら子犬や子猫がかわいいのと同じ意味なので、あまり調子に乗ったり張り合ったりしないでおく。
「ヤミー、母さんたちは元気?」
「うん。じいちゃんはあと50年は生きそうなくらいだよ」
おかーさんとじいちゃんが命尽きるとしたら、その時は寿命だと思う。といっても私が生まれてこの方、風邪を引いてる姿さえ見たことがないので、もしかしたら不死身の肉体を持っているかもしれない。エルフ並みに長寿の可能性もあるし、獣を食べる度に生命力を奪ってるとか、そんな特殊能力があるのかもしれない。どっちみち私がおばあちゃんになっても全然生きてそうなのが、うちの家族のいいところだ。
「そいつは良かった。いやー、そろそろ顔見せなきゃとは思ってたんだけど、うちも忙しくてねー。それにノルドヘイムは子連れだとなかなか帰れないから」
……子連れ? お姉ちゃん、子供いるの?


「びええええええ!」
「おまえ、だれだ! てきか!?」
「やっつけてやる!」
ピリラ姉ちゃんの家では、なんかちっちゃいのがいっぱい待っていた。上は4歳、下はまだ半年くらいだとかで、双子なんかも含めて全部で6人ほど。おかーさんは私含めて10人の子を産んだけど、一番上のお兄ちゃんとは22も離れている。厳しい環境でぽんぽこ産んでられないノルドヘイムとの違いもあるんだろうけど、それにしても5年ほの間に6人はすごい数だ。最終的には40人くらいまで増えそうな気がする。
あとみんな母親似なのか、揃いも揃って好戦的で、さっきから私の足元をばしばしと遠慮なしに蹴っている。蹴り返してもいいんだけど、姉と喧嘩しても勝てるわけがないからやめておこう。私も命は惜しいもん。
ちなみにルチは部屋の隅にいる猫から、うーうーと低い鳴き声で威嚇されてる。どうやら猫に好かれないらしい、きっと全身から漂う血の匂いのせいだ。もしくはヒルチヒキ族の精霊と猫との相性が悪いのか。
「お前ら! お客さんに無礼するんじゃない!」
私が蹴り返すまでもなく、チビたちは姉の腕力で引き離されて、ぽいぽいと犬っころでも放るように隣の部屋に押し込まれていく。その隣の部屋では、顔の半分がモッサモサの髭で覆われた姉に劣らず体格のいい男が、姉の角飾りを受け取りながら私たちに小さく頭を下げてくる。年齢はよくわからない、とにかく髭が多い。あと角はやっぱり家の中では邪魔みたい。そういえば故郷にいる三番目のお姉ちゃんも、毛皮か角かでいえば角派だったけど、家にいる時は角を入り口の横に立てかけてたっけ。
「彼はゴルドン、元海賊の傭兵。好きな食べ物は豚肉!」
豚肉好きのゴルドンさんが、紹介されて再び小さく頭を下げる。無口な元海賊の傭兵、つまりは猛者だ。髭もモサモサしてるし、まさしく髭モッサとでも呼ぶべき男だ。
「そして私がヤミーちゃんの姉、人呼んで鹿角のピリラ!」
知ってる。そして私は末の妹のヤミーちゃん!

「お姉ちゃん、いつの間にそんなことになってたの?」
「話せば長くなるんだけどね……この町に来た! ゴルドン雇った! 子供出来た! 以上だね」
全然長くなかった、むしろあっという間に終わった。ピリラ姉ちゃんは昔から10説明するのに1で済ますところがある。反対に戦いとなれば1で十分なところを10叩くようなところもある。良くも悪くも両極端で、しかも下の弟妹には激しく甘い、そんな姉なのだ。私に甘いのは兄姉全員そうなんだけど。
「で、ヤミーたちはこんなところで何してるの?」
そうだった、そっちが本当の用事なのだ。まさかの姉との再会と、まさかの子沢山なのと、まさかの旦那さんが髭モッサなのに驚いて忘れるところだった。
「奥義を教えてもらおうと思って、同郷の冒険者を訪ねてみたらって言われたの」
「私たち、挑む、禁域。戦力、必要、高める」
「なるほど! よし、だったら私がとっておきの技を教えてあげよう!」
繰り返すけど、姉は思い立ったら即行動な姉だ。私とルチの首根っこを猫を捕まえるように掴み、巨獣の頭蓋骨をそのまま加工した大鎚を担いで、ドカドカと子どもたちを蹴散らしながら庭へと向かった。

どうやって手に入れたのかはさておき、姉の家の庭はかなり広くて、隅っこには木で作った子どもの訓練用の案山子が置いてあって、かなり使い潰されているようで頭と喉と心臓部分が集中的に削られている。もしかしたら子供を沢山産んで傭兵団とかにするつもりかもしれない。20年後に困ってたらお世話になろう、20年後も冒険者してるかわからないけど。
庭の中心には、どこかの採石場から運んできた人より遥かに大きい岩が置いてあって、その周りには砕かれた石が幾つも転がっている。おそらく姉が気分転換で叩き割っているんだと思う。故郷ノルドヘイムは娯楽が少なく、捕まえた熊の頭を何回で叩き割るかとか、でっかい岩を面白い形に削るとか、そんな遊びしかなかったけど、まさかスルークハウゼンのような都会に来てまで岩削りしてるのかな。
姉は強度を確かめるようにゴツゴツと鳴らしながら岩を叩き、何度か繰り返してから大鎚を振りかざした。

「ヤミー、私たちノルドヘイムの戦士には故郷の慣れ親しんだ冷気が宿ってる。それをふんって高めて、ぶわって拳に移動させて、ぐっと力を込めながら武器の先にまで行き渡らせる」
肝心なところが全部感覚だからなにも伝わらないけど、とにかく体内に宿る冷気をたぶん魔力や闘気と一緒に流し込んで、武器にまで伝えてしまうのだと思う。
「そして全力で打つ! これが母さんから教わったノルドヘイムの伝統的必殺技、その名もベルゲルミール!」
ピリラ姉ちゃんの振り下ろした大鎚は目の前の岩を軽々と粉砕して、それと同時に雪崩のような冷気が前方の空間を覆い尽くした。雪煙で真っ白になった視界が晴れる頃には、雪の降らないスルークハウゼンに似つかわしくない凍り付いた地面が露わになった。
「ま、ざっとこんなもんだね。あとは練習すれば出来るようになるから頑張りなさい」
「ねえ、ピリラ姉ちゃん。なにをどう練習しろと……?」
「だから、ふんってやって、ぶわってやって、ぐっとやってドン! これだけだから」
なるほど、なんにもわからない。10説明するのに1で済ます姉だけど、その1を擬音にされたらもはや0と一緒なんだけど……。
「そっちのヤミーのお友達。私たちに限らず、誰もが体内に宿るものがあるはずだから、同じ要領で頑張りなさい。コツはふんってやって、ぶわってやって、ぐっとやってドン!」
「習得、困難」
ルチもなにがなんだかって顔をしている。わかる、私もまったく一緒の気持ちになってるから。

「さあ、肉を食べるよ! 好きなだけおかわりしな!」
「わーい」
「馬肉、好物、食べ放題!」
私たちは考えるのも悩むのも諦めて、その日は姉と一緒に馬肉をお腹いっぱい食べたのだった。


◆❖◇❖◆


「それで必殺技は?」

次の日、拠点に帰ったらでっぷりたちが冷たい目を向けてきた。さてはこいつら、私とルチがなんの成果もなく帰ってきただけだと思ってるな。
「まあまあ慌てずに聞いてよ、君たち。馬肉を食べた後、私たちはピリラ姉ちゃんの教えの通りに色々試してみた。もちろん感覚的なものだからコツを掴むまで大変だったけど、夜が明ける頃にようやく感覚を掴んだの!」
「コツ、掴んだ。精霊、感謝」
私は真っ直ぐ手を前に突き出し、体内の感覚を研ぎ澄ませて、さらに指先に意識を集中させる。雪玉を作るような感覚で拳を握ると内側が冷気で急激に冷たくなり、そのまま氷のような拳を訓練用の案山子に向けて叩き込む。丸太で作った案山子は打ち込んだ部分を起点に隅々まで凍り付き、そのまま硝子のように甲高い音を立てて砕け散り、さらにその後ろ、弓で狙うような距離まで冷気が真っ直ぐに走り抜けた。
「すごいでしょ! これが私が習得したノルドンパンチなのだ!」
でっぷりが威力と効果そのものには感心しつつも、呆れたように一つ目を細めて、
「姉の技はベルゲルミールなのに、なんでノルドンパンチなんだよ」
名前が気に入らないのか、チクリと針を刺すような口ぶりで言い放った。
ノルドンパンチのどこがダメなんだ! わかりやすいし強そうじゃんか!


ちなみにルチは手刀に精霊を宿して首を落とす技を会得したけど、生贄に捧げた数だけ強くなるとのお告げがあったそうで、今はまだそれほどの切れ味はないらしい。


NEXT「禁域調査に向かおう」


≪習得スキル≫
ヤミー
▶ノルドンパンチ(直線4マスに腕力=魔力換算の氷属性魔法攻撃)

ルチ
▶生贄と流血(射程1の固定ダメージ、数値は撃破人数÷4 ※最大で50)


≪NPC紹介≫
鹿角のピリラ(25)
種 族:人間(女、25歳)
クラス:ハスカール(レベル41) 
    HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 52 31 11 20 17 36 21 25 12 14  4↑2↓3(水上)
成長率 60 40 25 35 40 45 30 30 20 25

【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:B 弓術:C 体術:C
探索:D 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:D

【装備】
巨獣骨の鎚  威力41(10+31)
巨人族の盟約 腕力+2

【スキル】
【個人】氷塊よりも重い愛(雇用ユニットのレベルを自分と同じにする)
【基本】腕力+2
【下級】ウォークライ(1ターンの間、自身と隣接ユニットの腕力+2)
【中級】海賊傭兵の雇用(ヴァイキングの傭兵を呼び出す)
【奥義】ベルゲルミール(威力+魔力の氷属性物理攻撃、さらに3×3の地形を氷雪に変化)
【??】

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