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小説・目次

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主に長編の小説を掲載しております(のんびりぼちぼち更新していく予定) 以下、主な長編シリーズ ▶ 三界廻って碗(不定期連載中) 土着の神様と綴るヘンテコ民俗学小説 ▶ もぐれ!モグリール治療院(連載中) 変な職業がいっぱい出てくるファンタジー小説 ▶  彼女は狼の腹を撫でる (完結) 狩狼官の少女ウルフリードが失踪した母を探して旅する本格ファンタジー大長編 ▶  ラニーエッグボイラーシリーズ(完結) 空中に浮かんだ卵と、卵が見える人たちの非合法・有暴力・闇鍋群像劇 ▶  共食魚骨・断編集「魚の骨は猫でも食べない」(完結) ラニーエッグボイラー外伝、死神ヨハネこと共食魚骨に関する断片集或いは断編集 ▶  とある竜たちの話(完結) いわゆるファンタジーのドラゴンたちとはちょっと違った竜たちのお話 <二次創作> ▶ ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(完結) 世界樹の迷宮Ⅲリマスター・大航海オンリー二次創作小説、海賊マイラの波乱の航海記! ▶  山田とゴリラ(完結) 世界樹の迷宮Ⅱリマスター・日記風二次創作プレイ記、山田とゴリラの二人旅。  ▶  「ダーラボンの娘は話が長い」 聞いて聞いてFFT面白いよプレイ記小説

もぐれ!モグリール治療院

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  <変な職業がいっぱい出てくるファンタジー小説>(連載中!) ▶ 序章1「かわいい子には旅をさせろ」   ▶ 序章2「ゴブリンは5回までなら殴ってもいい」 ▶ おまけ「ゴブリン隊の日記」 ▶ 序章3「求む、水先案内人」 ▶ 序章4「未開の荒野でマイムマイム」 ▶ 序章5「筋肉とかわいいはいつだって正義」 ▶  おまけ「豚って何種類いるの?」 ▶  データフェチに送るモグリール治療院データ集 ▶ クラスチェンジ表(縦軸・主に戦闘系) ▶ クラスチェンジ表(横軸・アイテム発見系) ▶   クラスチェンジ表(横軸・回復系) ▶   クラスチェンジ表(横軸・準戦闘系) ▶   クラスチェンジ表(横軸・補助系) ▶   クラスチェンジ表(横軸・その他) ▶ クラスチェンジ表(亜人・モンスター系) ▶ 装備品リスト ▶  アイテムリスト ▶  ※恥ずかしながら途中でぶん投げちゃった旧note版はこちらから  ▶  潜れ!!モグリール治療院

もぐれ!モグリール治療院 おまけ「豚って何種類いるの?」

筋肉大聖堂とかいう妙な場所から戻ってきた翌日のこと、さんざん豚豚と罵り合う醜い争いを見たせいか、テントの前を1匹? 1頭? ひとり? とにかく野性味のある猪のような頭をした、首から下は甲冑を着込んだ兵士のような恰好をした生き物が通り過ぎていった。 「わあ、豚が歩いてる……!」 「あれは豚ではないぞ、狼のお嬢さん」 「あれはオークという亜人種族だ」 テントから頭を出した私の両隣で、甲冑のようなたくましい肉体を持つヒゲマッチョと、甲冑ではないけど分厚い脂肪を纏ったズゥ・モー族の豚大将が説明してくれる。いや、なんでお前ら、ここにいるの? テントの外にいるにしても、あっちのでっぷりたち男のテントの傍にいるべきじゃない? 「……なんで?」 「吾輩たち、実はあの後で肉肉同盟を結成したのである」 「より強い肉体を得るために手を組むことにしたのだ」 いや、そんなことは聞いてないの。聞きたいのは、なんで乙女のテントの横にいるんだってことなんだけど? 「そんなことより狼のお嬢さん、これはちとやばいことになりそうだ」 「どっちかというと、お前らの方がやばいけど?」 ヒゲマッチョが筋肉言語で説明し、その後で豚大将が翻訳してくれた解説によると、オークというのは亜人種族の中でも人間たちと協力体制というか一部雇用関係にある種族で、武装したオーク兵が騎士団の遠征部隊に組み込まれていることが多い。 時々、女騎士がオークに蹂躙されるなんて話を耳にするけど、あれは人間たちの高圧的な態度に誇りを傷つけられたオークによる典型的な仕返しなのだそうで、あくまでもオークと人間の間には上下はなく、金品のやり取りのために繋がっている、というのがオークの主張。本来オークという種族は誇り高く友好的で、戦士として丁重に扱えば相応の態度で接するし、不躾に扱えばお前らの女を孕ませるぞ、ということなのだとか。 人間からしたら迷惑な話だけど、中にはオークの雌をなんやかんやするゴミ野郎みたいな騎士もいるとかで、もうお前らだけで好きにやってろって話だったりもする。 「ぬぅん! せいぃっ! ふぅんぬっ!」 「そしてオークの兵隊が歩いているということは、彼は斥候かもしれない。ということは、この近くで戦闘が起きるかもしれないということ。我ら肉肉同盟、オーク風相手に後れは取らぬが、鍛えた肉体もさすがに刃物は痛い。ここは逃げるが最良の手である。...

もぐれ!モグリール治療院 序章―5―「筋肉とかわいいはいつだって正義」

≪ 前回 までのあらすじ≫ ピョルカハイム保護区をうろうろしている。以上、あらすじおしまい。 突然だけど人類の夢は酒池肉林だと言われている。 酒池肉林、素晴らしい言葉だと思う。お酒が池のように溢れ、肉がまるで樹木のようにそびえ立つ。故郷のじいちゃんやおかーさん、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが見たら、眼を輝かせながら涎を垂らして走っていくに違いない。私だったらそうする、我慢できる自信がない。 他のどんな神々しいものよりも、例えば山のような黄金とか神をも凌ぐ叡智とか、それこそ永遠の生命とか、そういうものさえも上回る、圧倒的に甘美な響きが酒池肉林にはある。もし並ぶものがあるとすれば、それはきっと食べても食べても減らない丼と、飲んでも飲んでも無くならない酒樽だけ。無限の丼、無限の酒樽、酒池肉林、それが人類の目指すべく三種の神器なのだ。 だから当然、人類の夢と言われていることに異論などない。ええ、ないのだとも。 ないんだけどさあ……。 「キレてるよっ! キレてるよぉっ! 二頭の新時代来てんのかいっ!」 「仕上がってるよっ! 仕上がってるよぉっ! その足、ゴリラみたいだよっ!」 いや、確かに肉林ではある。紛れもなく屈強な肉の塊が林のように立ち並んでいるのだけど、私が思ってた肉は食べ物としてのお肉、串に刺した肉が積み重ねて樹木みたいになってる、それのいっぱい版なのであって、筋骨たくましいおじさんたちではないのだ。 『この先、酒池肉林』などと書いてある看板を、うちのスプリガンのでっぷりが見つけ、もしかしたら古代の遺跡かもしれないと歴史好きの血が騒いだのか、ぽよんぽよんと勢いよく駆け出し、仕方ないなあって涎を堪えながらついて行ったらこれだ! 人間の歴史はいつだって裏切りの歴史! 許し難い屈辱だ! 心に風穴が空いたような私たちの目の前では、岸壁に築かれた神殿のような場所で、オバケみたいなマッチョたちが謎にポーズを取り、その度に他のマッチョが妙な掛け声を発している。 一体何なのだろう、この謎の筋肉大博覧会は……。 「いよっ、ナイスバルク!」 「腹筋が地割れ起こしてんのかいっ!」 それにしても腹が立ちそうなくらい楽しそうである、この筋肉たちと来たら。 「ねえ、ルチ。あいつらもなんかの部族なの?」 「知らない。ピョルカハイム保護区、広い。部族、たくさん。私、知ってる、ほんのちょっと」 ピョルカ...

もぐれ!モグリール治療院 序章―4―「未開の荒野でマイムマイム」

≪ 前回 までのあらすじ≫ 地理に詳しいスプリガンが加わったので、陸路を進むことになった。以上、あらすじおしまい。 大陸北部ピョルカハイム保護区は、獣の亡骸のような岩肌と果てしない荒野が拡がる、神から見捨てられし土地なんて呼ばれる場所だ。文化の異なる民族を受け入れられずとも尊重したい人間側の理屈と、外部から文明を持ち込まれたくないという原住民側の希望が重なって、といえば聞こえがいいけど、実際は 「開拓価値のある鉱山なんかは確保したから、お前らはここにでも住んでろ野蛮人!」 「なにをー! ふざけんな、よそもん共がー!」 という醜い争いの結果、敗北した原住民族を押し込んだ隔離地だ。なおその争いの被害は人間側が百数十人、原住民側は数千人規模にのぼり、互いに深い禍根を残しているのは言うまでもなく、旅人が襲撃されてそのまま帰らぬ人になった事態が多発、現在では管理者以外の立ち入りは禁止されている。とはいえ原住民側も一枚岩ではなく、中には保護区外の農家や商人と交易する部族もいたりする。 ……というのが、地理にも歴史にも詳しいスプリガンのでっぷりが教えてくれた情報。 本来なら避けて通りたい場所ではあるけど、人間以外の種族を嫌う教会の勢力下を通る方が危険なので、多少の危険は仕方ない。まあ森を通れば熊とか狼とか遭難とかあるし、海を進めばサメとか海賊とか遭難とかあるし、私の故郷なんか吹雪と雪崩と熊と狼と飢えと遭難とのフルコースだったので、いつだってどこだって危険と隣り合わせなのだ。 大事なのは危険を避けるだけではない、危険に遭遇した時に切り抜けるだけの腕力と知恵があるかどうかだ。 私はせめて彼らの嫌う側の人間と見做されないように、なおかつ獣の亜人かなにかだと誤解してもらえるように狼の毛皮を纏い、陸上では全く役に立たなくなったタコを荷車に乗せて、えっちらおっちらと荒野を進んでいる。ちなみに荷車もそれを引く数頭の牛も、保護区の傍の牧場から借りてきた。間違っても泥棒ではない、黙って借りてきただけで返すつもりはあるのだ、そのうちにだけど。 「プシュルルル」 「そうだねー、暑いねー」 タコが何を言ってるかわからないので、適当な返事を返す。しばらく我慢しろ、タコよ。いざとなったら非常食としておいしく召し上がってあげるから。 予定だと保護区を抜けるまで最短でも2ヶ月、このまま誰とも遭遇せずに行きたい。...

もぐれ!モグリール治療院 序章―3―「求む、水先案内人」

≪ 前回 までのあらすじ≫ エスカルチャ村で船と手下を手に入れたから、スルークハウゼンに向けて川を下ってる。以上、あらすじおしまい。 船のおかげで歩くよりは随分と楽に進めているけど、ひとつ困ったことがある。ノルドヘイムからほとんど出たことのなかった私はもちろんのこと、元々活動範囲の広くないゴブリンたちも、ついでに道中で返り討ちにしたでっかいタコも、誰ひとりとしてスルークハウゼンまでの道を知らないのだ。 海岸沿いにある町だったら進めばいずれ辿り着くだろうけど、村で見せてもらったかなり大雑把な地図では内陸にあったし、そもそもこんな船で海を渡れるとも思えない。どこかしらで陸路へと切り替えないといけないのだけど、どこで陸に上がればいいのかもよくわからない。 私たちの旅に必要なのは地理に詳しい人材だ! なぜなら私は文字が読めないし、地図も正直よくわからない! というわけで、通りがかった川岸にどんよりとした古ぼけ具合で佇む桟橋に船を留め、船の警備はタコに任せて村なり集落なりを探すことにした。 ちょっとだけ人間文字が読めるゴブリンたちによると、ここはレインディア桟橋という名前らしい。覚えておこう、レインディア桟橋、レインディア桟橋……よし、覚えた。念のためゴブリンたちにも覚えておいてもらう。だって忘れるのは人間の特権だから。 覚えておく自信がないわけじゃないよ、そんな腕っ節だけしか取り柄がない脳筋じゃあるまいし。ほんとだよ。 「たのもーう!」 まず手始めにと、桟橋からそれほど離れていない、開けた場所に築かれた集落に立ち寄ってみる。集落はそれほど規模が大きくなくて、ぐるっと囲んだ柵の中に家屋らしき建物がいくつか、真ん中ら辺に村長とかが住んでそうな広めの建物。あと、集落の奥の森の中に神殿? 遺跡? とにかく随分と古そうな石造りの建物がある。 大型の獣の気配は無いけど人の気配はある。そんなに数は多くない。けれど、不思議なことに集落にいる数と視線の数が合っていないような、そんな違和感がある。 身に纏った狼の毛皮の内側で、背中の生えてもいない毛が逆立つような感覚が駆け抜けた瞬間、雪玉でもぶつけられるかのような冷たい気配を察して、くるりと身を翻しながらその場から2歩3歩分ほど飛び退く。 すると、村長の家らしき場所からひとり、ずんぐりとした大柄の人影がその姿を露わにしてきた。 「こんな人里離れ...

もぐれ!モグリール治療院 おまけ「ゴブリン隊の日記」

ウチノオヤブンハ、悪名高イのるどノ蛮族ダ。 村ノ長老カラのるどノ蛮族ハトテツモナク恐ロシク、長老ハ若イコロ鉄兜ゴシニ頭ヲ殴ラレテ、ばけつミタイニヘコマサレタ。ホカニモにんげんノ村ヲ焼イタトカ、海賊団ヲ乗ッ取ッタトカ、にんげんモごぶりんモ関係ナク略奪スルトカ、恐ロシイ話ハ数エキレナイクライ聞カサレタ。 のるどノ蛮族ハ獣ノ毛皮ヲマトイ、目ヲランラント輝カセテ、狂ッタヨウニ笑イナガラ殴ルラシイ。オレタチノ前ニ現レタオヤブンモ、笑イナガラりーだーノほぶごぶりんノ頭ヲ叩キ割リ、返リ討チニシタごぶりんノ頭ヲ数ヲ数エナガラ殴リハジメタ。ウワサドオリノのるどノ蛮族ダ! オレタチイガイノごぶりんノオトナタチハ夜ノウチニ逃ゲ出シタカラ、テッキリ粛清シニイクト思ッタラ、ナントナニモシナイデ許スノダトイウ! モシカシタラ長老カラ聞イタのるどノ蛮族トハ、チョット違ノカモシレナイ。 オヤブンハ特ニ殴ッテクルコトモナケレバ、釣ッタ魚モワケテクレルシ、オヤブンヨリ遅クマデ寝テイテモ怒ッタリシナイ。昨日モおくとぱすノ襲撃カラ守ッテクレタシ、ケガノ手当テモシテクレタ。降参シタおくとぱすモ見逃シテアゲタ。オヤブンハ聞イタのるどノ蛮族トカナリ違ウ。ムシロソノヘンノごぶりんヨリモズット優シイヨウナ気ガスル。 オヤブンニソノコトヲ話スト、 「だって君たち、まだ子どもでしょ。うちの故郷では子どもは大事にするんだよ、15歳になったらナイフ1本持って熊と戦ってもらうけどね」 トイウ死刑宣告ミタイナ言葉ガ返ッテキタ。のるどノ蛮族ハ15サイニナルト、ソウイウ試練ガ与エラレルラシイ。 オレタチハ13サイ、アト2年ノウチニないふ1本デくまト戦エルマデ強クナラナイトイケナイ。くまニないふ1本デ挑ムトカムリ、のるどノ蛮族ヤッパリ恐ロシイ。 「オヤブン、モシくまト戦ッテ負ケタラ」 「んー? その時は死んじゃうんじゃない?」 「逃ゲルノハ、アリ?」 「最終的にひとりで熊を狩れるんだったらいいけど?」 「無理ッテイッタラ?」 「むり? 知らない食べ物だなあ、おいしいの?」 オヤブンハ魚ヲジックリト焼キナガラ答エテ、焼キタテノ魚ヲ渡シテキタ。デキタテノ焼キ魚! オヤブン、優シイ! 魚、オイシイ! デモ死ニタクナイ! するーくはうぜんニツイタラ逃ゲヨウ。オレタチハコッソリソウ決メテ、今日モオヤブント旅ヲシテイル。 とぅーびーこんてぃにゅ...

もぐれ!モグリール治療院 序章―2―「ゴブリンは5回までなら殴ってもいい」

≪ 前回 までのあらすじ≫ 辿り着いたエスカルチャ村がゴブリンに占領されてたので、討伐隊を手助けして一旗上げることにした。以上、あらすじおしまい。 討伐隊を手助けするとは言ったものの、私の目的は遥か遠くの冒険者の町スルークハウゼンまで行くための船であって、ゴブリンとこの村との争いにはそんなに興味が無い。なんとなく同種族の人間に協力した方が都合が良さそうなのと、奪われた土地や食糧は奪い返すのが習わしなので助けはするけど、狩りの理屈でいえば取られる方が悪いといえなくもない。おまけにこの討伐隊、結成してから今日まで中々重い腰が上がらずにいたのだから、あまり戦闘の役に立つとも思えない。でもまあ肉壁くらいになってくれたらいいので、私はあくまでも別行動で彼らと大きく距離を取りつつ、側面から回り込む形で茂みの中を移動している。 人見知りというわけじゃないよ? いくら小さな村から出てきたからって、私ほどの者ともなると人見知りなどしないのだ。単に知らない人にいちいち自己紹介して、よく知らない相手と上手くいくかもわからない連携を取るのがめんどくさいだけで。ほんとだよ、人見知りじゃないよ。 私は気迫を込めるためにも狼の毛皮を纏う。私の故郷ノルドヘイムの戦士は、一人前の証にナイフ1本で獣を狩る。仕留めた獣は余さず食べ尽くし、毛皮は人生の相棒として身に纏う。お兄ちゃんは熊の毛皮を纏っていたし、お姉ちゃんは巨大な角鹿の頭蓋骨を被っていたし、じいちゃんもセイウチの毛皮を着ていたし、おかーさんも見たことのない魔獣の毛皮を身に着けていた。 雪の女王のふたつ名を持った老狼の毛皮を頭から背中に掛けてすっぽりと被り、体の芯から湧き上がる戦意を爪先から頭の天辺の隅々まで巡らせて、眼を鋭くして敵地を睨む。 元々ただの平凡な村だっただけあって、障害物になりそうなものは壊れた家屋と牧場や広場の柵くらい。高い建物は村役場かなにかだった3階建ての廃屋のみ。その屋根の上に弓持ちの小柄な姿がちらっと見える。 下では松明を持った見張り数名がうろうろしてるけど、見たところ罠らしい罠もなく、むしろバタバタと歩き回るおかげで、わざわざ踏んでも大丈夫ですよって目印まで付けてくれている。バリケードを壊しにかかる討伐隊の姿を捉えたようで、ぎゃあぎゃあと喚きながらバタバタと足音を立てて向かっていった。 さて、どうしたものか。 選択肢はふ...

もぐれ!モグリール治療院 序章―1―「かわいい子には旅をさせろ」

大陸の北の最果て、分厚い雪と氷に閉ざされた……といえば幻想的な響きもあって聞こえはいいけど、要は寒過ぎて移住してくる人すらいないド辺境のド田舎の、さらに超絶的な限界集落。人間よりもトナカイの方が多く、人に会いに行けば先に熊と出くわし、これといった遺跡や観光地もないから都会の生活に疲れた現実逃避趣味の人たちも自分探しの暇な若者も訪れない。周辺にはトナカイ、トナカイ、狼、トナカイ、セイウチ、トナカイ、狼、トナカイ、熊、トナカイ、海賊、トナカイ、トナカイ、セイウチと見せかけてうちのじいちゃん、家族、村人、そして私! 最北端の村ノルドヘイムとはそんな場所だ。 そんな最果ての地に、かつて一度だけ冒険者の一団がやってきたことがある。 おかーさんが言うには、冒険者というのは自らの腕っ節に人生を賭けた奴らのことで、人々のために魔獣や魔物を狩ったり、古代の遺跡を見つけ出したり、珍しい薬草なんかを探したり、というのはほんの上澄みで、大抵は早々に諦めて田舎に帰ったり、定住した町で労働者になったり、手足を失って物乞いに落ちぶれたり、酒場で嘘の武勇伝を並び立てる酒カスになったりするらしい。限られた上澄み連中は、どこかの貴族の教育係や護衛として雇われたり、傭兵団を結成したり、騎士として取り立てられたり、伝記なんかを書いてみせたり。中でも、特に世のため人のために働いた者は勇者や英雄と呼ばれるようになり、故郷の町に立派な銅像とか石碑が建てられて、ついでに絵本や小説の題材になったりなんかするのだとか。 ノルドヘイムの中心にはセイウチの毛皮を纏った戦士の像があるけど、これはじいちゃんが勝手に最寄りの町まで出向いて作らせたもので、モデルもじいちゃんその人だ。ちなみにじいちゃんも、かつては冒険者として名を上げようと頑張ったそうだけど、気づけば海賊の一団を率いる賞金首となり、さんざん各地で略奪と襲撃を繰り返した末に、部下たちと一緒にノルドヘイムに帰ってきたのだとか。今年で86歳、今は村の長老として主にトナカイを狩っている、ナイフ一本で。 話を戻すね。 その冒険者たちは村から更に山奥の岸壁を棲み処とする魔獣に狙いを定め、じいちゃんから売りつけられた分厚い毛皮を纏い、おかーさんから売りつけられた魔除けの木彫り人形を握り、雪深い山奥へと進んでいった。そのまま雪の女王の異名を持つ真っ白い狼に襲われて全滅、それが私の...