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小説・目次

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主に長編の小説を掲載しております(のんびりぼちぼち更新していく予定) 以下、主な長編シリーズ ▶ 三界廻って碗(連載中) 土着の神様と綴るヘンテコ民俗学小説 ▶  ラニーエッグボイラーシリーズ(完結) 空中に浮かんだ卵と、卵が見える人たちの非合法・有暴力・闇鍋群像劇 ▶  共食魚骨・断編集「魚の骨は猫でも食べない」(完結) ラニーエッグボイラー外伝、死神ヨハネこと共食魚骨に関する断片集或いは断編集 ▶  とある竜たちの話(完結) いわゆるファンタジーのドラゴンたちとはちょっと違った竜たちのお話 ▶ 彼女は狼の腹を撫でる (工事中) 狩狼官の少女ウルフリードが失踪した母を探して旅する本格ファンタジー大長編 <二次創作> ▶ ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(完結) 世界樹の迷宮Ⅲリマスター・大航海オンリー二次創作小説、海賊マイラの波乱の航海記! ▶  山田とゴリラ(完結) 世界樹の迷宮Ⅱリマスター・日記風二次創作プレイ記、山田とゴリラの二人旅。  ▶ 三つ首輪の犬と戦斧(工事中) ガンダムの二次創作小説、地球に降下したジーナの辿る数奇な運命とは……!? 

三界廻って碗

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<土着の神様と綴るヘンテコ民俗学小説> ▶  第1話 かみのみそしる ▶  第2話 賽の河原独立宣言 ▶  第3話 道祖神VS夕暮れイエロービースト ▶  第4話 ヤマアラシの山暮らし ▶  第5話 にゃんにゃーどやどやネコと和解せよ ▶  第6話 つちのこのこのこ元気の子 ▶  第7話 こまごました神とゴマゴマ炊き ▶ 

三界廻って碗~第7話 こまごました神とゴマゴマ炊き~

神の身となって優に千数百年、未だお目にかかったことはないけど、米粒には7人の神がいるという。3人と聞いたこともあるし、88人もいるともいうし、一説には100人もいるのだとか。そうなると米粒には3人から100人ほどの神が宿っていることになるけど、八百万の神も実際に800万人いるわけではないので、数の幅はちょっとした物の例えというやつだ。 「だいたい米粒ひとつに100人も神がいたら、この世界、人間より神の方が全然多いことになるじゃないか」 なんて笑いながら今朝も朝ごはんを食べたわけだけど……まさか一眠りして目を覚ましたら、部屋を数十のちちゃい神で埋め尽くされるなんて予想するわけがない。 「……それで、お前らなんなの?」 「あっしらはゴマ粒の神。なあに、ちょいと野暮用があってここに来たんでごぜえやす」 さすが八百万の神々の国、どうやら米粒ではなくゴマ粒の神々なのだそうだ。姿は端的に表すと三度笠を被った豆もやし。縦は私の肘から指先、横幅はぎゅうっと握れそうな細さで、茶色い唐草模様のマントみたいな布切れを羽織っている。実に珍妙な姿をしていて、もしかすると人間の姿のまま神となった私や先代の大食らいの大蛇なんて、神の中ではかなり真っ当で平凡な部類の神なのかもしれない。 「それでゴマ粒の神が、うちに何の用?」 この珍妙な神が小さいとはいえ、我が家はそう広くないのだ。今時珍しい大家に現金手渡し式、家賃2万円の築数十年1DK、ひとりで過ごすには十分だけど客神招くほどの余裕はないのだ。それも数十人、いくらゴマが細々した食材だからって多すぎるだろ、とツッコミのひとつも入れたくなる。 とはいえ私の神だ、客にお茶くらい出してあげる寛容さと礼儀は持ち合わせている。手頃な鍋に麦茶をドバドバッと注いで丸ちゃぶ台の上に乗せると、餌を食べる猫の群れみたいに一斉に鍋に顔を突っ込んでいく。いや、そんなかわいいものではなく、豆もやしの群れなんだけど。豆もやしも見ようによってはかわいく見えないこともないのかな。 あっという間に空になった鍋の前で、豆もやし共は深々とお辞儀をして、 「ありがとうごぜえやす。と言いてえとこなんですが、あっしら愉快な用事ではねえんでげす」 お茶でお腹が張ったからか豆もやしの細の部分が真ん中あたりで丸く膨らみ、その影響なのか雑なべらんめえ口調がさらに崩れている。 「あっしら釘を刺しに来た...

三界廻って碗~第6話 つちのこのこのこ元気の子~

神の身である私にも苦手なものは存在する。 冷めてカチカチになったお供え物のおにぎりやお饅頭ではない。いや、あれはあれで辛いものがある。せっかくなら食べ物はふわっふわな美味しい姿のものを食べたいものだ。でも今は冷めたお供え物の話はしていない、見世物小屋の蛇女のことを言ってるのだ。 見世物小屋そのものは別に苦手ではない。どちらかというと好奇心旺盛な神である私は、土地の民に混じって見世物小屋の出し物に一喜一憂した。お化け屋敷でぎゃーぎゃー喚いてみたり、機械仕掛けのからくりを眺めたり、海外からやってきたというふれこみの珍しい鳥や獣を意外とかわいいなって思ったり、私の倍ほどもありそうな巨人や私の半分ほどの背丈の小人、腕のない缶児の器用な芸達者ぶりに感心したものだ。もちろん見世物小屋なので、大鼬と称して戸板に血を垂らしたものなんかを出してきたりもするので、その時は酔っ払いに混じってありったけの罵声を浴びせたりもした。 そういうわけで見世物小屋そのものには割と好意的なんだけど、蛇女だけはちょっと苦手なのだ。 蛇女とはその名の通り、生きたままの蛇を食べる女のことで、蛇の皮を剥いだり生き血を啜ったり、その身を齧ったりする。こういうと大したことなさそうに聞えるけど、私を飲み込んで神にした先代が大食らいの大蛇だった影響か、蛇が食べられてる姿だけはなぜか苦手で、見てると背中がぞわぞわとしてしまうのだ。 ちなみに蛇小僧という全身が魚のような鱗に覆われた見世物もあるけど、そっちは別になんとも思わない。しいて言えば服着る時に大変そうだなーくらいで。 ◎ ◎ 「おい、あんた。そこのあんた」 「……なに?」 ある日のこと、私がいつものように蕎麦でも食べようかとプラプラ歩いていると、見世物小屋の蛇女が声を掛けてきた。蛇女は年の頃でいえば若くて30手前、年嵩に見ても40には届かないくらいで、1000年以上を生きる私からしたら小娘の部類だ。見た目は私が小娘にしか見えないのだけど、それは生贄に捧げられた年齢が年齢だったので仕方ない。50を過ぎた腰痛い膝痛い動くだけでつらい老体で神になってたら、もう長生きって考えただけで嫌になる。見た目ご老人な他の神は、その辺どうなってるんだろうか。神同士が道端でばったり会うことはそうそう起こらないけど、もしご老人の神に遭遇した時のために針でも持っておこうかな。 いや、今はそ...

三界廻って碗~第5話 にゃんにゃーどやどやネコと和解せよ~

この世で最も可愛いものは猫である、もしかしたら犬かもしれない、人によってはハムスターだという人もいるだろう……とにかく人間という生き物は、あの柔らかい毛に包まれた愛くるしい姿に、どうしようもなく魅了されてしまう生き物なのだ。 という一文を先日手に入れた古本で目にした。まったくもって異論はない、土着の神である身の私も、犬や猫をかわいいと思う人間らしさは残っている。というより神は誰しも人間以上に俗っぽいところがあるものなので、信じられないくらい些細なことで喧嘩をしたり、呆れるほどしょうもない理由で神の座を降りたり、どうしようもないくらい怠惰でものぐさだったり、だから当たり前に地べたに寝そべって猫の視線で猫を見つめていたりするものなのだ。 そう、いま私は路地裏で地べたに寝そべって、目の前にいる野良の割にはふっくらした姿の野良猫を見つめている。理由などない、かわいいからだ。遠くから眺めたり、近くで上から見下ろしたり、しゃがんで観察したりして、どの瞬間でもかわいい生き物なのだから、同じ目線で見てしまいたくなるのは仕方ない。通行人からしたら、中学生くらいの小娘が地べたに寝そべってはしたないと思うところだけど、私はかれこれ優に千年以上を生きている神だ。神が人目なんて気にしてどうする、むしろ人間はもっと神の目を気にしろ。お天道様は見ている、という言葉は忘れたのか? 「にゃあー」 これは猫の鳴き声ではない、私が猫に向かって鳴いてみせただけだ。猫は猫語で喋るのだから、こちらも猫語で喋ってあげるのが礼儀というものだ。昨今は日本に来ておいて日本語を喋らない外国人が増えているそうだけど、私はそんな愚かな人間たちとは違う。神なのだから当然猫には猫語で語りかける。ちなみに猫語はまったくわからない。神が全知全能だと思うな、神にだってわからないことはある。 そんな神である私の視界に、ふと奇妙な看板が入り込んだ。 『ネコと和解せよ』 猫と揉めた覚えは無いし、むしろ私は猫に好かれる方だと思うけど、どうやらこの看板によると猫と和解しなければならないらしい。和解せよ、という命令口調はどうかと思うものの、猫と和解することに不満はない。和解してみせよう、おそらくかなり末席の、神の端くれの隅っこのついででおまけの数合わせくらいのものだろうけど、八百万の神を代表して。 ᗦ↞◃ ᗦ↞◃ ᗦ↞◃ ᗦ↞◃ ฅ(=✧ω✧=...

三界廻って碗~第4話 ヤマアラシの山暮らし~

「ここから先は神の居場所だ。村の子は村へ、山の子は山へ、君たちは君たちの居場所に帰りなさい」 この世界は三つに分かれている、なんていうと言い過ぎかもしれないけど、少なくとも私のような土着の神が住まう山は三界に区切られている。 ひとつは山のふもと、人間たちが住まう農村。ひとつは村と山の境に飾られた辻切りよりこちら側、神や物の怪、そういった類の住まう世界。その狭間、人の縄張りでも神の領域でもない山。この三つは開拓したり禁じたり、朽ちたり、滅びたり、雨で濡れた地面に生えた水溜りのように時代時代で形を変えて、大きくなったり小さくなったり歪んだりしながら、全国津々浦々……津も浦も海のものだから、この場合は山々岳々? いや、ちょっと響きが強いな。林々森々? いやいや、大陸で最近見つかったパンダとかいう生き物じゃないんだから。とにかく全国各地の山々は、どこも似たような形に分かれて成り立っている。 ここしばらく私が過ごしているお山もその例に漏れず、山道を下った先には貧しいながらも農村があり、山へ入ると土地神を祭る祠や屋代があり、あちこちに山暮らしの親子連れや集団がいたりするのも、まさにそうだ。 彼らは家を持たない代わりに木々の間に天幕を張って雨を凌ぎ、普段は川魚や山菜を食べているけど、時折人里に下りて竹や蔓でこしらえた籠や農具を売って、金の代わりに米や麦を手に入れてくる。あと服とかも。その時は村はずれの神社や寺に泊まっていることもあって、たまに神のために作られた屋代や祠に身を寄せることもある。 そんじょそこらのケチな神なら追い出すのだろうけど、私は土地の民に優しい心の広い神である。それに元は人間だった身、雨風を凌ぐぐらいの許しは与えてやっても罰は当たらない。そもそも神だから罰は当たらないけど、気分的な言い回しというやつだ。 それに、そもそもの話、 「……ちく? なみ? 読めん」 この山に住まう神は元々私ではない。じゃあなんで私がこの山にいるのかというと、私が本来祀られていた土地は随分と昔に飢饉と戦で滅んでしまい、土着の神ならぬ根無し草の神となってしまったからだ。祀る神がいなくては土地は滅ぶ、かといって祭ってくれる人がいなくても土地は滅ぶのだ。それに食べ物がなくては腹も減る。神の身なので飲まず食わずでも死ぬことはないのだけど、私を神へと変えた先代は生贄を貪る大蛇、それも底なしのうわば...

三界廻って碗~第3話 道祖神VS夕暮れイエロービースト~

「いたぁい!」 人間の発明したものの中で最も偉大なものは車輪だといわれているけど、ところでこの世で最も車に轢かれているのは、猫でも狸でも人間でもなく、道祖神だ。彼らは明け方ないし夕方、或いは真夜中に道路の真ん中に鎮座する祠からひょっこりと出てきては、右見て左見て手を上げて道を横断しようとして、ちゃんと絵に描いたような轢かれ方をしている。 彼らも神なので車に轢かれたところでどうってことはないし、神はこの世のものともあの世のものともいえない存在でもあるので、人間から見えなければぶつかった車もへこんだりとかしないのだけど、こうも見事にムギュッと圧し掛かられたりポンポン飛ばされたりする姿を見ていると、いじめられる犬みたいでちょっと可哀想になってくる。 私の近所にいる道祖神は、まあまあ通行量の多い大きめの道の真ん中に建てられた、剥き出しのちっちゃい祠に祭られている。ちっちゃくてかわいらしい祠に相応しい柴犬くらいの大きさで、球体に短い4本足と2本の手が生えた小鬼のような姿をしている。古くは江戸時代からそこに祭られているそうだけど、飛脚に撥ねられ、馬車に蹴散らされ、車に轢かれて、時にはマラソンランナーの集団に揉みくちゃにされているのだ。 その都度、痛い痛いと嘆きながらぴえーんと大きな声で泣くものだから、別に小鬼が好きでもないけど愛着が湧いてきて、会えばパンの耳を食べさせたり、缶ジュースを奢ってあげたりしている。 「ひどい! 人間、スピード出し過ぎ! ゆるせない!」 「引っ越したら? ほら、道路脇の空き地に祭られてる子もいるわけでしょ?」 「駄目なの! あれは元々祠があった場所の近くに道路が出来たパターンなの!」 道祖神が短い手をパタパタと振り回しながら力説する。手が上下する度に缶の中身の果汁20%オレンジジュースがビッシャビッシャと撒き上がってるので、すっと手を添えて上下の動きを押さえる。 「祠を動かすと土地に封じた地霊が出てきちゃうの! やばい! たいへん! 無理! ってなるの!」 「やばいって具体的には?」 「土地が滅ぶ!」 わあ、そいつは大変だ。じゃあ、せめてこの道祖神が車に轢かれないように手を打たないと。 もちろん神の身である私が、人間のためにそこまでしてあげる義理はない。しかしこの道祖神のいる通り沿いには、24時間営業の牛丼屋とかコンビニとか、老舗の洋菓子店とか、こだわ...

三界廻って碗~第2話 賽の河原独立宣言~

まだ人間だった頃、今でこそ振り返ったら取るに足らないような小さな失敗をして、怒られるのがすごく嫌いで、その度に集落の近くの林の中に身を隠したりした。でも結局は父や母に見つかって怒られたりしたわけだけど、それがまた言葉で言い表せないくらい嫌で、私は同じように隠れてやり過ごそうと繰り返した。そんなだったから神への生贄に選ばれたりしたのかなと思うけど、その悪い癖は未だに治っていなくて…… 「……て? あし? いぬ? わからん!」 私を祭る祠に届いた【督促状】と書かれた矢文を眺めながら、読めないながらも内容に心当たりはあるので眉をひそめて、はぁーっとめんどくささを含めた溜息を吐き出す。 差出人には【地獄・閻魔堂】と書かれているけど、もちろんなんて書いているかは読めない。私を誰だと思ってるんだ、元田舎集落の下っ端の家の小娘だぞ。出自のいい神と同じように扱われたら困る、私にも読めるように全てにふりがなを振れ、平仮名も読めないけど。 以前、地獄からの使いに閻魔堂まで出頭するように言われて、かれこれ……まあ結構な歳月。めんどくさいとか怒られそうという理由で後回しにし続けて、ついに矢文まで送られてしまった。地獄の使いとして来た鬼が言うには、まず世界には神や仏だけが暮らす天上の世界、私のような土着の神や人間たちの暮らすこの世、死者の魂が辿り着く地獄とか天国のあるあの世があって、人間や動物の数はちょっとくらい書類と実際の数とで誤差があっても構わないのだけど、神の数に関しては相当厳しく管理しているらしい。なので新しく神が生まれたり代替わりが起きた時は、すぐに登録しないといけないのだとか。 「……しょうがない、行くかー」 結局なんだかんだと祠の周りをうろうろしたり、小屋の中をごろごろと転がって時間を潰すこと数ヶ月、いよいよ観念して一張羅の旅装束に着替えて外套を羽織り、やっぱりめんどくさいと脱いだり着たりを繰り返しながら死出の旅路を歩き始めた。 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ところで地獄というのは、意外と遠いようで近くにある。 古代より死者の国があると知られているのは熊野だけど、別に地獄の釜を通らずとも地獄へ行く道などいくらでもある。なにせ死んだら誰しも1度は地獄の閻魔堂に向かわないといけないので、すぐに行けない場所にしかなかったらこの世の死者もあの世の使者も困ってしまう。それこそ地理に疎い、集落か...

三界廻って碗~第1話 かみのみそしる~

いただきます、の歴史は古い。 時間をさかのぼったわけじゃないから知らないけど、人間が最初に作りだした信仰は食べ物への感謝だと思う。もしくは自然への感謝、太陽への畏怖かもしれないけど、その辺りはどうでもいい。大事なのは食べ物への感謝だ。 食べるものがあるというのはありがたい。長く生きてると飢饉や天災は避けて通れない、やつらはいつだって人間の前に立ちふさがるし、畦道に現われる猪のように通せんぼしてくるのだ。遠い将来、もしかしたら世の中から飢えという概念が消え去る日が来るかもしれないけど、それでも人も獣も魚や虫でさえも生きている限りはおなかが空くし、食べ物への感謝を忘れることはないと信じている。仮に食べ物を粗末にするような愚か者が現れたら、そんなやつは滅んでしまえばいい、すべからく。 ところで人間が最初に作りだした信仰は食べ物への感謝だと思うってさっき思ったけど、人間の最初の発明は食べ物を組み合わせることだと思う。思うというか違いない。おそらく最初は蛇か鳥かなにかの生肉に果物か野草を混ぜた、とかそんなだと思う。海の方に住んでたらそれが魚と海藻に変わるけど、そこら辺の地域差は似たようなものなので気にしない。どちらにせよ、きっとそこに大きな感動があったはずだ。 さらに塩とか醤とか味噌なんて開発しちゃったものだから、それを肉や野草に塗りつけた時の感動なんて、もはや驚愕とか驚天動地とか天変地異とか、それくらいの圧倒的な強さがあっただろう。 『肉、うめぇ……!』 おそらく誰しもがそんな言葉を頭に思い浮かべ、涙を流しながらがっつくように頬張ったに違いない。頭の中でなにか爆発したというか、変な汁とか出てそうな、それくらいのうまさを感じたはずだ。食べ物を単体でしか食べない獣たちでは手に入らない特権だ。顔も知らないご先祖さまたち、おいしい食べ方を開発した人たち、今日も私たちの腹と心を満たしてくれる食べ物たち、ありがとう。 そういう連々と紡がれた糸のような歴史もひっくるめて、この言葉が発せられるのだ。そういう意味ではこれは儀式であり、あらゆるものへの祈りであり、人間としての正しい所作ともいえよう。 「いただきます」 碗に盛りつけた三分ほどに搗いた米、その上に乗せられた数切れの漬物、焼いた猪肉、ノビルと豆の味噌汁。 これが神の供物として適切かどうかは、それこそ神のみぞ知るところだけど、私的には...

ラニーエッグボイラー

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<空中に浮かんだ卵と、卵が見える人たちとの非合法・有暴力・闇鍋群像劇>  ▶  第0話「宇宙飛行士は半熟茹で卵の夢を見る」 ▶  第1話「安藤幸子の固うで卵の流儀」 ▶  第2話「主人公になれないモブキャラはタマゴサンドを頬張るしかない」 ▶  第3話「パパとオムレツ」 ▶  第4話「死神といくら盛りのルール」 ▶  第5話「ジャイアントパンダがダチョウの卵をホールドして500メートルシャトルラン」 ▶  第6話「陰謀論者はフラメンカエッグを食べたら脳が破裂するという信憑性の高い噂」 ▶  第7話「銃と刀と爆発卵」 ▶  第8話「雨の日はエッグノックに限る」 ▶  第9話「毎日健康卵生活のすゝめ」 ▶   第Ⅹ話「宇宙人と人類と卵の三角関係」

共食魚骨・断編集「魚の骨は猫でも食べない」

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<ラニーエッグボイラー外伝。死神ヨハネこと共食魚骨に関する断片集或いは断編集> ―1―【オメラスの地下牢】 ―2―【ゾアントロピーの儀式】 ―3―【アセノスフィアからの降雨】 ―4―【レミングの巣雲】 ―5―【アンゴルモアの墜落】 ―6―【ミシュコルツベイの沈没船】 ―7―【ピカレスクモールを照らす太陽】 ―8―【ギュラサノバの花弁】 ―9―【グレイヴヤードの祝祭】

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記

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「本日を以って、我らエル・ドラゴ海賊団は解散する!」 船長が突然そう告げて、我らがエル・ドラゴ海賊団は散り散りとなった。 危険な海と凶悪な敵対海賊、執拗な警備隊と隣り合わせな日々から解放されたものの、元々海賊なんてやってるのは真っ当な仕事に就けないロクデナシ共。もちろん未来の大海賊(予定……そして予定はなくなった!)たる私だって例外ではない。でっかい儲けを求めて海に飛び出したのに、大したお宝も手に出来ないまま故郷に帰ることなんて出来ない! そもそもこの海都周辺の海域は百年前の大異変で地形が激変、各地の商人や海賊はそれぞれ開拓した航路を持っているものの、肝心の海図は船長が沈めた海賊船と一緒に今頃は海の底。 なんてこったい! おかげで国に帰ることも出来ないじゃん! 仕方ないから一から海賊団立ち上げようって思ったものの、そもそも肝心の船もなければ、仲間は一緒に海都に流れ着いた下っ端水兵ひとり! こんなんじゃ海に出るどころか港で釣り竿垂らす以外に出来ることがない! そんな私たちにインバーの港の主らしきじーさんが、こんな提案をしてきた。 「どうだね、君たち。船を1隻譲り渡す代わりに、航海ルートの復活に協力しないかね?」 どうやら色んな冒険者に声を掛けてはいるものの、どいつもこいつも近場の漁師に混じって、小銭稼ぎに熱中している始末なんだとか。 はぁー、小さい小さい! そんな雑魚の稚魚なんて狙ってないで、ここは海賊らしく一攫千金、でっかい得物を狙おうじゃないの! 「もちろんやる!」 荒れ狂う大海に大海賊マイラあり! そう呼ばれるような偉業とでっかい得物を手にしてみせようじゃないの! そうと決まれば、まずは名前。何事も名前が必要なのだ。 エル・ドラゴ海賊団にも負けないような、強くてかっこいい名前を掲げなきゃ! 「本日ここに、メガロドン海賊団を結成する!」 私、マイラ・フーカは腰に提げたフルーレを掲げて、大海原にそう宣言したのだ。 処女航海   ボロでも板切れよりゃマシだろ! 第2航海   今夜は焼き鳥パーティーだ! 第3航海   なんでやめちゃったんですか? 第4航海   生意気でかわいいじゃないか 第5航海   まだ自慢し足りないんだよ 第6航海   もう全員強いでいいんじゃないかな 第7航海   ちょっと実家寄ってく? 第8航海   ドラゴン玉砕を見せてくれ 第9航海   試し...

山田とゴリラ

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日記の最初のページにはこう記されていた―― 「お前たちの中で最も活躍したものを次代の当主とする」 父上が神妙な面持ちでそんなことを言い出した。当主も何も我らが山田家の家業はそう遠くない内に途絶えてしまうことは決まっていて、せいぜい副業でやっていた薬の卸売しか継げるものは無いのだ。 しかし私もこの家に拾われて十数年世話になった身、一宿一飯の恩義を忘れぬのが武士道であるというならば、お家再興が叶う程の名声を持ち帰るのが恩返しかもしれない。いや、まだ潰れてないけれどもね。 そう秘かに心に決めた私は、大陸北部にそびえ立つ全人未踏の世界樹に挑むことにした。道中で耳にした噂によると、世界樹の上には天に浮かぶ城とやらがあり、行く手を阻む難攻不落の迷宮が拡がっているのだとか。 面白い。当主の座など義姉上たちに譲り渡しても全く構わないけれど、吹けば飛ぶようなあばら屋に住まわせるより立派な城持ちになってくれた方がいいはずだ。よし、城を奪ってしまおう。そして山田家ここにありと世界に知らしめてみせよう。 そうと決まれば、のんびりしている暇などない。早速世界樹に登る許可を得なければ……! 聞けば世界樹に登るためには冒険者として登録せねばならず、とはいえ特段難しいことでもなく、誰でも気軽になれてしまうものらしい。下手な鉄砲でも数撃ちゃ当たる、世界樹に挑む手駒は多いに越したことはない、といったところか。 私はハイ・ラガード公国の広場へと踏み込み、冒険者ギルドを探すことにした—— ▶ ギルド名は『山田』(OP~第1迷宮1F) ▷ ボウケンシャー紹介1(浅) ▶ 山田とクロガネさん(第1迷宮2F~3F) ▶ ヌエの鳴く夜は恐ろしい(第1迷宮3F~5F) ▶ ゴリラ率いる(ペット加入) ▷ ボウケンシャー紹介2(剛莉羅) ▶ 火事場泥棒とサラマンドラ(第2迷宮6F~8F) ▶ 銃士と少女とデブおかっぱ角笛魔人(第2迷宮9F~10F) ▷ 義姉からの手紙(落葉入手) ▶ 氷の花と天に魅入られた姫君(第3迷宮11F~15F) ▶ 桜の花の満開の下で(第4迷宮16F~18F) ▶ 燕は舞いゴリラは踊る(第4迷宮19F~20F) ▷ 妖刀ニヒルは活躍したい(幕間) ▶ 天の城と心を持たぬ兵(第5迷宮21F~23F) ▶ 山田とゴリラと終わらない旅(第5迷宮24F~END) ▶ 日記を閉じる?  YES ...

とある竜たちの話

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竜と六畳間  ▶▶▶(こちらから) ドラゴンを信奉する国とそこに君臨する魔竜の王の実態とは…… 竜と霏霏雪  ▶▶▶(こちらから) ひっそりと暮らす氷竜ベレゾフカとディーマは今日もわずかなスープで過ごす 竜と鉱石貨  ▶▶▶(こちらから) 商人となった地竜の王ノルベルグが次の取引相手に選んだのは…… 竜と点灯夫  ▶▶▶(こちらから) 火竜の王ボルカノと人間の神 バスコミアナの長きに渡る因縁とは……

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(12) 用があるならそっちから来い!

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古代都市ウガリートの北の海域、ぐるぐると結界のように渦巻く海流の中心、そこには空中に巨大な島が浮かんでいる不可思議な場所がある。そこは空中樹海と呼ばれているそうで、これまでは航海に疲れた海兵の見た蜃気楼や幻覚なんかだと思われていたけど、私たちメガロドン海賊団が辿り着いたことで実在を証明してしまった。きっと近い将来、公にも存在を認められることになると思う。 初めて到達した時に、世界を見守り続けてきた者と称する謎の声が語りかけてきて、 「か弱き人間たちよ、汝らが大いなる力を欲するならば三界の王たる竜に挑むがよい。さすれば我のいる地まで招き入れよう」 なんて、なんだか物語や伝承に出てきそうなことを言いだした。 しかし私も暇ではないのだ。そんな空中樹海だかなんだか知らないけど、そんなことよりも大事な用がある。 「ちょっと待て、人間。この竜の神たる我よりも大事な用とは一体なんなのだ? そんなものが存在するはずがない」 「あるんだからしょうがないじゃん。竜の神でもなんでもいいけど、私は忙しいの! 用があるならそっちから来い!」 「ぐぬぬぬぬぅ」 といった具合に竜の神とやらは放置して、私たちは珍しい魚がいそうな海域をひたすらに巡っていった。 そう、この世には竜より大事な生き物がいる。それこそがダイマオウイカだ! 【ダイマオウイカ】 この海のどこかに生息する伝説の巨大イカ。 伝説の猟師が一生涯費やしても釣れないとされる一方で、たまたま船に乗り合わせた新米漁師がビギナーズラックで遭遇してしまうこともある。そのため海都アーモロードに運び込まれることは年に数回あることもあれば、10年の間に1度として姿を現さないこともある。まさに海の気紛れを形にしたような生き物なのだ。 ちなみに味はほっぺたが墜落して、以後の人生でもう他の階産物では満足できなくなるくらい濃厚で美味しいとされる。 南北の海の航路を完成させた私は、実家の漁師風居酒屋【シルバーソードⅢ】で盛大に宴会を開こうと考えた。すると娘の偉業を限界まで祝いたいと思ったうちの両親と祖父母と犬が、折角なのでダイマオウイカを用意しようと言い出したのだ。 「というわけでマイラ、ダイマオウイカを釣ってきてくれ」 「頼んだよ、マイラ」 「ダイマオウイカを食べずにあの世には行けん」 「私も死ぬまでに食べたいわあ」 「わん!」 長いこと心配かけた家族に頼ま...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(11) よし、出来たぁー!

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北大陸との航路を完成させた私たちメガロドン海賊団は、海都周辺で航路が確立されていない最後の都市を目指すことにした。これまでは鉄張りの黒い海賊船やひとつ間違えたら渦潮に巻き込まれる潮流に阻まれて、あと一歩のところで諦めるしかなかったけど、今のメガフカヒレ号は勝利の塔で拿捕したガレオン船に鉄板装甲、鋼刃衝角にラティーンセイルを装備し、さらにカロネード砲を搭載した完璧な状態。ついでに近海を縄張りにする最大の障壁、巨大勇魚ペンドラは討伐済み。もはやどんな難所だろうと、どんな海賊だろうと負ける気はしない。もし私たちが敗れるとしたら、それは慢心が故の油断だけだ。 「というわけで、私たちメガロドン海賊団は、最後の都市ウガリート到達を目指すことにした!」 「おー!」 ペンドラ討伐の成功もあって、船員たちの士気も高い。副官のコルセアやマキアはもちろん、コバンザメズやこれまでに引き入れてきた水夫たち、ガレオン船に乗り換えたことで急ごしらえで集めた港の暇人たち、全員が偉業の達成を間近に控えて心を躍らせているのだ。 【古代都市ウガリート】 海都を含む南北の海と西方諸国を結ぶ古代都市。百年前の大異変で海竜が出現し、以後そのまま海都との交易が途絶えている間に海賊たちの根城と化した、という噂も広まっている。事実、あの場所は来る者拒まず去る者追わずなところがあって、旧エル・ドラゴ海賊団も何度も補給を受けたことがあり、海賊の根城といえば根城だし、単に受け入れてるだけといえばそれだけだし、海全体で見れば微妙な立ち位置を取っている。 「マイラ、前方に海流! 進む? 避ける?」 「それは乗っても大丈夫! 全速前進!」 「お嬢、前方に海賊船だ! どうする?」 「先手必勝、カロネード砲で撃沈する!」 私は気を張り詰め続けながら指示を出し、海流を見極め、海賊を蹴散らし、慎重さと大胆さを上手く使い分けながら船を進めた。同時に海図に進路やその時その時に遭遇した海流も書き込む。もちろん海賊が潜んでいそうな場所や、反対に海賊を罠に嵌めれそうなポイントを記すことも忘れてはいけない。海図は私だけがわかればいいものではない。アーモロードに渡す際に他の海兵や商人たちも無事に辿り着けなければ、それは海図とはいえないのだ。 なので船長は結構忙しい。忙し過ぎて海図の作成は誰かに任せておきたいところだけど、間違いがあっては信用に関わる...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(10) ただいま!

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「そういえば、お嬢。アイエイアに行くのはいいけど、あそこはあそこで一癖も二癖もあるとこだぜ」 望遠鏡を片手に北大陸の海岸を眺めながら、副官のコルセアが溜息を漏らす。私たちが向かっている北大陸はこいつの故郷で、かつては多くの海賊を輩出した場所だ。旧エル・ドラゴ海賊団にもアイエイア出身者は結構たくさんいて、不漁で食えなくなった連中や街の不良、前科者、訳あり者はこぞって海へと飛び出して海賊となった。コルセアもそんな感じで海賊となり、屈強な元死刑囚たちと一緒にドレーク船長の船に乗り込んできたクチだ。 「ねえ、コルセア。アイエイアに付いた途端に一緒にお縄、なんてことないよね?」 「お嬢は俺をなんだと思ってんだよ」 なんとも思ってないけど、こいつのことだから有力貴族のお嬢様を孕ませたとか、そういう因縁のひとつやふたつ抱えていてもおかしくない。なんせ早撃ちクラスパーとして名の通った……通ってるかどうかは知らないけど、とにかく女に手が早い。夜のあっちの方も早いらしい。でも早かろうが遅かろうが、出来る時は出来るのが男女というものだ。 「前も言ったけど、俺のは大した犯罪じゃねえの。親が政治犯ってだけで、俺は別に何もしてねえ」 「そうだったっけ?」 言われてみたら聞いた覚えがあるような……いや、やっぱりないな。あったとしても、どうでもよ過ぎて忘れちゃったか。まあいいや、海に生きる大海賊は小さいことは気にしないのだ。 【交易都市アイエイア】 北大陸の玄関口で、代々女王が統治する港湾都市。女王はキルケ―の名と共に不思議な力を授かり、住民たちは女王の庇護の下、豊かな営みを送っている。はずなんだけど、港に繋がれた船は小型の漁船ばかり。かつての栄華はどこへやら、街には雪と一緒に寂しい北風が吹いている。 到達したアイエイアの港は随分と殺風景で、周辺都市との交流が少ないとはいえ独自の文化と狭いなりの豊かさで発展していた故郷、海上都市シバとは違い、寂れた港町という言葉がぴったり当てはまりそうな風格を醸し出している。見渡す限り廃墟、廃墟、廃墟、倒壊した建物もそのまま放置されていて、どこの街にもひとりやふたりはいるはずの物乞いすら見当たらない。 うちの両親もこんな場所で店やらなくてもいいのに、と思ったけど、実際ここまで寂れてるとは考えもしなかった。交易都市アイエイアといえば、シバにもその名を轟かせる大都市で...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(9) 試してみる価値はある!

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ダマバンドの南東、藻海と海流に囲まれた海域にひとつ巨大な塔がある。 荘厳な石造りの塔の天辺は雲の上にあり、下からではそれほどの高さなのか見当もつかないほどに高く、一体どこの誰か何のために作ったのか一切不明。灯台でもなければ要塞でもない、人が住んでいるとも思えない。そんな不可思議な塔なのだ。 【勝利の塔】 登り切った者に栄光を与えるといわれる塔で、建造者も設計者も不明。宗教建築とも考えられているし、はたまた暇な金持ちの道楽という説もある。ちなみに内部は登れるように螺旋階段になっていて、雲の上まで延々と続いているのだとか。 海都の発行した年代記によると世界中に同名の塔があるらしいので、ますますなんなんだかわからない。 「よし、登ってみよう!」 こういう塔にはお宝が付き物、きっと未だ誰も手にしていない金銀財宝なんかが隠されているに違いない。それこそ伝説大海賊の秘密のお宝なんかもあるかもしれない。 「えー、これ登るのー?」 「マキアさん、お嬢が登ると言い出したら登るしかねえんですよ。昔から言うじゃないですか、馬鹿と煙は高いところが好きって」 なにやら副官のコルセアが失礼なことを言った気がするけど、今は聞かなかったことにしよう。でも、天辺まで登った暁には蹴落としてやるんだけど。 私はめんどくさがるマキアと最初から諦めた様子のコルセアを従えて、党の内部、果てしないほど続く螺旋階段へと足をかけた。螺旋階段は塔の内壁を這うように設置されていて、その途中途中に踊り場があり書架になっている。あいにく本は劣化してどれも読めた状態ではないけど、時々まだ朽ち果てていない羊皮紙も残っていなくもない。壁には無数の立体的な像が彫られていて、そのどれもが人間ではなく魚と人間が混じった奇妙な姿をしている。 もしかしたらこの塔は、海都アーモロードの地下に存在する深都、その深都の王が争っているフカビトなる魔の勢力が築いたのかもしれない。人間はなにを信仰するかわからないところがあるので、もしかしたらフカビト信仰なんかがあったのかもしれない。まあ、考えても仕方ないのでひたすら登るんだけど、延々と歩いていると心がすり減っていくので、こういう無駄な考察も必要なのだ。 「おかーさん、疲れたー。おんぶー」 「嫌です、おかーさんも疲れてんです」 疲れすぎてわけのわからない冗談を言い出したマキアに冗談で返しながら、ぜえぜ...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(8) ドラゴン玉砕を見せてくれ

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シバの北、暗礁海域を越えた先に位置する小島を経由して、南北を遮る大海流を迂回しながら東に進んだ先、ちょうど北海の真ん中あたりに巨大な都市が佇でんいる。その都市は大異変の前までは北と南の海をつなぐ中継点だったそうで、遥か昔に封印された竜の力で栄えてきたのだという。竜の力が本当かどうかは私たちに知る由もないけど、旧エル・ドラゴ海賊団もグンデルたちも他の名立たる海賊たちも竜の力を警戒してか、あの場所には決して近づこうとしなかった。海賊にとっては渦潮や巨大勇魚、古強者の海賊とはまた違った意味での難所だ。 【交易都市ダマバンド】 英雄スラエータオナが封じた三つ首の竜の力で繁栄する都市で、以来1度として侵略を受けたことのない難攻不落の地。 と聞くとおぞましい場所を想像してしまうけど、外から見る限りは風車が立ち並ぶ牧歌的な雰囲気で、耳を澄ませば海岸でバグパイプを奏でる漁民たちの暮らしの音が聞こえてきたりもする。でも、街の中に竜がいるかもしれないから、気を引き締めるに越したことはない。もちろん私たちが冒険者の雰囲気を醸してるとはいえ、れっきとした海賊だという意味でも。 「いいか、お嬢、マキアさん。私たちは善良な冒険者ですよーって顔しながらダマバンドに乗り込むんだ。海賊? なにそれ、食べれるの? おいしいの? そのくらい海賊感を消すんだ。マキアさんは着飾れば貴族の令嬢にしか見えないし、俺もそれなりの若商人に見えるからいいとして、問題はお嬢だ。お嬢からにじみ出る野良犬感というか、人食いザメ感というか、こればっかりは隠しようがねえ」 ああ? 私のどこが野良の人食いザメだ? と副官のコルセアを睨み上げていると、だったらこうしようと近くで雑用をしていたコバンザメズの1人が、ひとつ提案してきた。マキアがシバを出立時に船倉に持ち込んだあれこれの中から、フルフェイス型の鉄兜、それに板金鎧に籠手に具足を着せることで、人食いザメ感を隠しつつ、隠し切れない部分は護衛ということで誤魔化そう、というのだ。 そういうわけで、ダマバンドに交易に訪れた若手でやり手の商人と恋人の貴族令嬢、おまけに全身甲冑の小柄な護衛、という奇妙な三人組で無事に上陸を果たした。船には以前アーモロード近辺の海賊から奪った交易品が積まれているし、それ以外のカルバリン砲だとか銃や剣の類は、護身用とでも言っておけばいい。一番怪しまれそうなメ...