もぐれ!モグリール治療院 第36話「ドラゴン暗殺計画」

秘密結社オルム・ドラカ解放同盟は、いわゆる反ドラゴン主義を掲げる連中だ。オルム・ドラカをドラゴンの支配から解放して、独自に崇める神を頂点とする真に平等な国を作ろう、というのが目的らしい。

「ふーん、そういうのもいるんだね」
「世の中そういうもんだぞー。たとえ完璧な王であっても、それに忠誠を誓ったり支持したりする者たちはどれだけ増やしても7割、反感を抱く者はどれだけ減らそうとしても1割、そもそも興味を持たない層が最低2割は存在する。この7対1対2の割合から、私はナイフの法則って呼んでるんだけど、今度こいつを学会で発表しようと思ってるんだ」
目の前のドラゴンは地面に大雑把に数字や民の絵を書き記しながら適当に答えて、やれやれだとでも言いたげな顔を向けてくる。ドラゴンは普段は人に近い姿を取っていて、それはそれは私と比べても中々にかわいらしい顔をしてるのだけど、そんなドラゴンでも1割から嫌われてしまうらしい。本当かどうかは知らないし、私のことじゃないからどっちでもいいんだけど。

「で、そのオルム・ドラカ解放同盟がドラゴン暗殺を企んでるんだって」
「正直まったく記憶にない連中だが、思い切ったことを考えるもんだな」
ドラゴンが他人事みたいに言い放ち、せっかくだから狙われてやるかーと気楽に言ってのけた。
解放同盟にどれだけの手練れが揃ってるか知らないけど、実際にドラゴンと手合わせした私の感覚だと、この生き物を正攻法で倒すのは無理だ。人に近い姿でさえ膂力はまるで巨人のようで、それこそ完全に油断しているところに死角から奇襲して最強の一撃を食らわせるとか、そんなのでもしないと。それが通用するのかも疑問が残るけど。
もし自分だったらいつ狙うか……それこそ呑気に道端を歩いてるところとか? 楽しい雰囲気で油断させておいて、背後からグサーって刺すと思う。

辺り一帯は収穫祭の準備中で、あちこちで屋台を組み合ってたり、食糧を運んだり、鉄板や炭に火を入れたりと忙しない。竜戦士たちも見回りをしながら目を光らせているけど、いつものポルトデールよりも確実に慌ただしく、往来の流れも目まぐるしい。
それこそ不穏分子なんかが混じってもわからないような、そんな雰囲気が漂っている。
警戒心を強めて周囲を見回していると、ドラゴンの手にいつの間にか焼き立ての豚串が握られていた。
「どしたの、それ?」
「そこで貰った。おっ、旨いな、これ」
あっという間に串刺しの肉が胃袋に消えていく。ずるい! 私も食べたい!

そのまましばらくドラゴンと私たちとで街中を歩いていると、ドラゴンのかわいらしい少女の姿は母性をくすぐるのか、一歩歩けばあれも食べなさい、二歩歩けばこれも食べなさいと、次から次に屋台飯が集まってくる。
「ドラゴン様、相変わらず細いねー! もっと食べなきゃ駄目だよ!」
「あらー、ドラゴン様! いつ見ても小さいねえ、もっと食べないと背が伸びないわよ!」
「ドラゴン様、これうちの子が焼いたんです! 毒見……味見してみてください!」
確か1万年以上生きるドラゴンのはずだけど、おばちゃんたちからは子供みたいな扱いをされている。見た目が見た目だから仕方ないけど、これはこれで暗殺より問題なのでは?
「ヤミー、貰った、私も」
「オヤブン! オ肉、モラッタ!」
「オヤブンノモアル!」
「ミンナデ食ベル!」
ルチとゴブゴブズの手にも、からりと揚がった肉の塊や炒めた肉の乗った皿が握られている。

なんで!? なんで私にはお肉来ないの!?


◆❖◇❖◆


ポルトデールには収穫祭の日にだけ振る舞われる名物料理、マンムートのセルネットがある。これはマンモスという野生象の内臓を取り出した後に、残った身を巨大な紙で包み、塩で固めた巨大な釜に閉じ込めて蒸し焼きにしたもので、その大きさと豪快さから普段は作られることがない。
野生的で独特な臭みはあるものの、濃厚で歯ごたえのある肉は絶品で、一度食べたら次の収穫祭が待ちきれない、なんて言われている。この町に来て日が浅い私たちはもちろんまだ食べたことがないし、ドラゴンの暗殺を防いだ暁には好きなだけ食べさせてもらおうと思っている。
ちなみに取り出した内臓はモツ鍋にして振る舞われるんだけど、そっちも胃もたれしそうなくらい重たく脂っこくて、酒飲みには涎が止まらない逸品なのだとか。もちろんこっちも楽しみにしている。

「マンムートなあ、私も楽しみだぞ。なんせこういう時にしか食べれないからな」
ちなみに焼き上がった塩釜は収穫祭の会場の真ん中に運ばれて、ドラゴンと町の代表者たちがハンマーで叩き割ることで祭りが始まり、そのまま住民全員が酔い潰れるか食べ潰れるまで終わらない宴に突入するらしい。いいな、私もハンマー係やりたいな。
「ん?」
「どしたー? 待ちきれなくて腹でも減ったか?」
いや、おなかはちょっと空いてるけど、我慢できないほどじゃない。ふと頭の片隅を嫌な想像がよぎったのだ。

「ドラゴンを暗殺する……ことが出来るかどうかはさておき、ドラゴンに攻撃を当てるには奇襲しかないと思うわけ」
「まあ、そうだな。自画自賛するわけじゃないが、警戒してたら銃弾でも小さな針でも余裕で避けれる」
他のドラゴン種族まではわからないけど、目の前のドラゴンなら至近距離からでも難なく避けるだろう。それくらい他の種族と能力に差がある。
「でも目の前に待ちに待った料理があって、今か今かと急かすような雰囲気が周りにもあって、おまけに祭りで浮かれているその時に、目の前の塩釜から攻撃されたら……?」
「そいつは許しがたいな。私と料理への冒涜だ、万死に値する」
ドラゴンが真面目な顔をしながら会場に運ばれてくる巨大な塩釜を見つめる。
未だに不穏分子は見つかっていない。もしかしたらヴァルカンとマールが何人か見つけてるのかもしれないけど、ドラゴンに報告が上がってないということは、まだ全員を探し出せたわけではないと思う。

「まあ、そんな馬鹿な仕掛けはないだろうな。暗殺どうこうの前に蒸し焼きになって死ぬし、完成後に運ぶのは竜戦士たちだ。中に入り込めるような隙は無い」
「だよねー、さすがに無いか」
竜戦士が買収されたら話は別だけど、リザードマンたちの信仰心と性格を考えると金に転ぶような真似はしない。ドラゴンへの信仰心の為なら命だって捨てれそうな種族だ。
「ドラゴン様のために死ねるかって聞かれたら、まあ余裕っすね! むしろ、名誉の殉死者として後世に名が残るなら自作自演してでも死んでやる、ってのがリザードマンっすから!」
後ろを歩いていた竜戦士のライリーが平然と答えてみせた。こいつ普段は気のいい兄ちゃんって感じなんだけど、ことドラゴンの話となると瞳が完全に狂ってて怖い。リザードマン、中でも竜戦士に選ばれるような戦士は、大体全員こんなところがあるので、別に珍しくもないんだけど。

「仕掛ける、効果的、もっと、爆弾」
確かに塩釜の中に入るよりは爆弾を仕掛けた方が確実だ。その爆弾が熱で壊れなかったらの話だけど。
「どっちみち銃でも避けられるなら、爆弾使っても無理だろ」
「かといって毒や魔法が通じるなら、暗殺なんてとっくに出来てるでしょうし。ドラゴン種族が1万年生きてるということは我々が思いつく方法ではどのみち無理でしょうね」
「っすねー。ドラゴン様を倒せる可能性があるのは、それこそ他のドラゴン種族の方々だけっすよ」
身も蓋もない話だけど確かにそうだ。そんな思い付きでどうにか出来るなら、それこそフィアレアド王国あたりがとっくにやってるだろうし。


……というわけで私の推測はまさかの話として可能性を捨てたんだけど、まさかは起きてしまうからまさかなのだ。


会場中央に運ばれた家屋ほどもある巨大な塩釜、それがドラゴンのなんだか力の抜けた適当な挨拶と共に砕かれたその時、しっとりと焼かれたマンムートと一緒に、肉汁と脂にまみれた老人が現れたのだ。
資料に載っていた写真の老人で、肉汁まみれでテカテカと光っているものの、鎧は古く表面は暗く色褪せていて、腰には左右に1本ずつ、これまた古そうな鞘に納まった年季の入った長剣を提げている。脂まみれで禿げ上がった老人の顔には歴戦の勇士を思わせる深い傷痕が走り、鋭い眼光は老いてもなお衰えずといった雰囲気を醸し出そうとしている。結局、肉汁と脂に塗れた妙な状態のせいで、肝心の凄みは一切出て来てくれなわけだけど。
「ドラゴンよ、オルム・ドラカの王よ! 我はオルム・ドラカ解放同盟のリーダーにして元リンガーベル王国の騎士、銀腕のミカエル・ゴッドフリーであ……ぶへぇっ!」
老人の顔めがけてドラゴンの拳が飛んだ。それはそうだ、折角の料理からおじいさんが出てきたら、拳のひとつやふたつ振るいたくもなる。おまけに頭から肉汁を被ったもんだから、もともとあんまり無いような王の威厳が台無しになってしまうくらい、かわいそうな姿になっているのだ。
ドラゴンのあの力で殴って、おじいさんが無事かどうかは知らないけど、暗殺者なんだから殴られても仕方ないよね。
「……がはぁっ……待て、ドラゴンよ」
「なんだ? 命乞いか?」
「別に命は惜しくないが、まずは落ち着け。わざわざこんな回りくどい方法を使ったのだ、話を聞くくらいしてくれてもよいだろう?」

ドラゴンが拳を収めると老人は語り始めた。

オルム・ドラカ解放同盟は、ドラゴンからの解放を目指す組織だ。その目的は多種族が一緒に暮らすこの国を真に平等な国へと変えることで、そのためにドラゴンからの解放、つまりはドラゴンを支配者の地位から降ろすことにある。
彼の生まれ育ったリンガーベル王国は、100年ほど前まで存在したオルム・ドラカに隣接する人間の小国で、オルム・ドラカに挑んだものの絶望的な軍事力の差で瞬く間に滅ぼされた。彼は騎士であったにもかかわらず、他の人間たちと共に他国にフィアレアドや南方領に落ち延びることはなく、オルム・ドラカの民となることを選んだ。
そして50年前、ドラゴンに戦いを挑んで当たり前のように敗れ、それでもなおドラゴンに従わないことから側近たちから危険視されることとなった。もちろん武力ではなく思想的な意味で。

「つまりに負けたままだと悔しいから、今になって復讐しにきたってこと?」
「そんな俗な理由ではない! 我々はもっと崇高な理念の下、行動しているのだ!」
私の問いかけに鼻息荒く返してくるけど、そんな強い言葉を使うとドラゴン信仰者たちの琴線に触れちゃうよ。ただでさえ祭りを邪魔されて殺気立ってるというのに、住民も竜戦士たちも更に敵意を強めて、見るからに怒りの感情を顔に浮かべてるじゃん。
ちなみにドラゴンは飛び散った肉汁を洗い落としに行って、ついさっき戻ってきた。今は竜戦士のライリーがお世話係として髪を拭いている。

「我らが崇高な理念! それはオルム・ドラカを解放して、我らが掲げる神の下ですべての種族が平等となり、ドラゴンを他の種族と同じ地位にまで落とすこと! そしてその暁には、我らの中で一体誰がドラゴンの伴侶として相応しいか、ドラゴン自らに選んでもらうのだ!」

……はあ?

ドラゴンも含めてこの場にいる全員が呆れた顔を老人に向けると、どこからともなくオルム・ドラカ解放同盟の仲間たちが駆けつけて、それぞれ花束だの宝石だの牛の角だのそこら辺で拾った猫だのを差し出して、一斉に跪いてドラゴンへの求婚を申し込み始めた。
つまりオルム・ドラカ解放同盟っていうのは、ドラゴン信仰者の中でも特に熱烈な過激派で、ドラゴンを王や神ではなく性欲や情欲の対象として、もしかしたら愛とかそういうのかもしれないけど、とにかく不敬極まりない慕い方をする集団だったのだ。
「この50年、様々な方法でドラゴンに近づこうとしたが、その都度その都度、あのヴァルカンとマールとかいう邪魔者共に阻まれ……」
「よくやった、同志ミカエル! 貴公のおかげで我らもドラゴンの前に来ることが出来た!」
「ありったけの耐火装備を持たせて、大量の塩の中に潜ませた甲斐がありましたな!」
「それもこれも偽情報を流して、警備の目を市街地や郊外に向けさせたおかげだべ!」
「わーっしょい! わーっしょい!」
謎に老人の胴上げが始まった。そういえば今日は祭りだもんね、胴上げのひとつもしたくなっても不思議ではない。いや、今すぐ帰れって思うけど。

「あの鎧、よく見たら背中にポータルがついてるな」
「それで急に彼らが出現したわけですか。技術の無駄遣いですね」
呆れた顔で成り行きを見守っていたでっぷりとピギーが、実は意外と高度な戦術が取られていたことに気づく。なるほど、ポータルってああいう使い方も出来るんだ。ひとりに敵陣に忍びこませておいて本隊で一気に強襲する、なんて使い方も出来るわけだ。いや、だったらこんなくだらないことに使うな。
「それと、不思議、長生き、ジジイ。伸びる、寿命、わからない」
確かに国が100年ほど前まであって、その時にはすでに騎士で、オルム・ドラカに亡命したわけだから、若く見積もっても120は超えている。はずなんだけど、あの老人は見たところ70歳くらいにしか見えないし、オルム・ドラカには生命力を高めるような長寿食でもあるのかもしれない。
「ふっ、それはだな、部族っぽい少女よ。栄養のある食事と適度な運動、それと毎日欠かさぬドラゴンへの愛の儀式でこの肉体を維持しているのだ」
老人が笑みを浮かべながら握った拳を上下に動かす。前に冒険者の猥談の最中に見た動きだけど、どうやら年齢の割に下半身も元気らしい。
「オルム・ドラカでは寿命以上に長生きするのはよくあることっす。あの不届き者の寿命は今日で終わるっすけどね」
そしてその動きが、忠誠心の強い竜戦士の琴線にしっかりと触れたらしい。

「一応聞いておくが、なんで私を王の座から降ろしたいんだ?」
「なんでもなにも、平民風情がドラゴンとまぐわいたいなんて言ったら、狂人扱いされるだろう? だったらドラゴンを普通の女にしてしまえばいいと思いついたわけだ。あと国の運営などしている暇はない、そんな時間があるたら1回でも多く交わ……ぐあぁっ!」
ドラゴンの怒りにも気づかずにべらべらと答えていた老人の顔が踏まれて、明らかにおかしな角度で腰が折れ曲がった。そのまま他の同志たちも片っ端から奇妙な形に折り曲げられて、こひゅうこひゅうと妙な音を発するだけの塊と化して、竜戦士たちに何処かへと運ばれていった。


「……さすがに不愉快だから、祭りのやり直しだ! 明日改めて収穫祭をするけど、いいよな!?」
もちろんドラゴンに反対する者はいない。ドラゴンが強いからとか逆らえる者がいないとか、そういう理由ではない。なんていうか、今日に限ってはさすがにちょっと不憫だから。


▶▶▶「竜の騎士と闇医者と」


≪NPC紹介≫
ミカエル・ゴッドフリー
種 族:人間(男、138歳)
クラス:教祖(レベル38)
    HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 41 15  7 14  9 16 22  5 14 10  3↑2↓3(歩兵)
成長率 30 20 10 20 15 30 20 15 20 15

【技能】
短剣:D 剣術:B 槍術:C 斧鎚:C 弓術:E 体術:D
探索:D 魔道:E 回復:E 重装:C 馬術:C 学術:C

【装備】
ランバール銀の剣 威力26(11+15/死霊系に威力×2)
ランバール銀の剣 威力26(11+15/死霊系に威力×2)
耐火マント    回避+10、炎属性半減

【スキル】
【個人】銀腕の騎士(威力50%のサブウェポンによる追撃発生)
【基本】市民兵の招集(市民兵を呼び出す)
【下級】パリィ(幸運%で物理攻撃無効化)
【中級】騎士道(従者及び非戦闘系ユニットと隣接している時、守備+2)
【宗教】偽りの神(独自の創造神を呼び出して魅力を高める)
【宗教】信徒勧誘(魅力%で勧誘したユニットを信者にする)

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