もぐれ!モグリール治療院 おまけ「どっちが強いの?」
それは私の些細な疑問から始まった。
竜戦士たちを束ねる戦士長にして火竜というドラゴン種族のヴァルカンとマール。短髪でギョロリとした目の背の高い男がヴァルカンで、荒野の枯草を乗せたような四角い顔をした分厚い男がマール。オルム・ドラカの王ドラゴンによると、火竜というのはドラゴン種族の中でも純粋な戦闘種族で、人間に近い姿を取るような現在においても腕っ節や吐く炎の温度、体の頑丈さ、そういう強さこそが最も重要だと考えているらしい。
わかる、ノルドヘイムでも大事なのは強さだ。かわいさや知恵も大事だけど、それもこれもまず最初に強さを持っていてのこと。弱い者は獣の餌になるしかないように、強さというものはなによりも重要だ。
そこで私はさらっと聞いてしまったのだ。
聞いてしまった、というよりは口走ったって感じだけど。
「で、どっちが強いの?」
ふたりの火竜は当然のように、一切悩むこともなく自分の方が強い。もっというと自分こそが現存する火竜の中でも最上位、ドラゴン同士の戦争に生きのこった火竜の王とその娘を除く第1位、さらに王のドラゴンも含めたら4位なのだと。
4位自慢かーって一瞬思ったけど、私もノルドヘイムの家族と比べたら10本指に入るか入らないか。そう考えたらドラゴン種族で4位は大変に立派だと思う。すごいことだ。
「もちろん俺の方が強い! それに比べてこいつは塩漬けのマールなんて呼ばれて、強いことは強いが、ひたすら地面に寝かせて判定なんてつまらない勝ち方ばかりしてる、塩試合しか出来ない野郎だ!」
「ふん、よく言ったもんだ! そういうお前こそ威勢の割にはカウンター待ちの、後手後手な打撃戦なんて見世物にもならん勝ち方ばかりのくせに!」
ちなみにふたりとも馬鹿みたいに声が大きい。隣同士に立っているのに、通りの端と端で呼びかける時の大きさで話すから単純に迷惑だ。
「いいんだよ! 俺は判定なんてしょっぱいことしねえから! お前と違って糖分高いんだよ、塩漬け野郎!」
「はっ! ろくに寝技も出来ないくせに、関節全部バキバキに折ってやろうか、雑魚が!」
そして当然、ふたりとも負けず嫌いだ。
「上等だ、今から試合してぶっ潰してやるよ!」
「おうおう、やってやるよ、ごらぁ!」
そんなわけで収穫祭も終わったばかりのポルトデールで急遽、火竜の戦士を交えた格闘大会が始まったのだ。
◆❖◇❖◆
「大会、出る、ヤミー。頑張る、応援、私たち」
「オヤブン、ガンバッテ!」
「骨ハ拾ウカラ!」
相棒のルチとゴブゴブズたちが鼻息荒く送り出してくれる。
……どうしてこうなったのか。いや、単にドラゴンが「折角だからお前も出れば? ノルドヘイムの戦士だから注目度も高いし」なんて言ったから、急遽私も出ることになっちゃったんだけど。
ドラゴン相手にあの様だったから、これ以上心が折れるのは勘弁して欲しいけど、私もあの時の私ではない。日々これでもかってくらい鍛錬は積んでるし、円月輪の扱いも体に馴染んできた。
「まあ、頑張ったで賞くらいは取ってくるよ」
突貫工事で築かれた壁の中には、火竜だけじゃなく、将来有望な竜戦士や暇な力自慢なんかもいる。いきなりヴァルカンとマールに当たらない限りは、そこそこ勝ち抜けるかもしれないし、巡り合わせによっては優勝の可能性もゼロではない。
みんなにはああいったけど、狙うはもちろん優勝だ! 私こそが最強な上に最もかわいいのだと、ここら辺で汚名を挽回だか返上だか、とにかく雪辱をばぁーんってしてやるもん!
応援ってわけでもないけど使え、って渡された三日月刃の円月輪を手に試合場に乗り込むと、火竜ふたりを含めた15人の戦士が、それはもう聞くに堪えないような暴言を撒き散らして、お互いに罵り合っている。
どうやらオルム・ドラカでは試合前にこうやって罵り合ったり、挑発したりして、なんていうの? 因縁とか機運? そういうのを作るのがオルム・ドラカ式みたい。もしノルドヘイムでやるとしたら、みんな間髪入れずにナイフで突くとか殴り倒すとかすると思うから、なんか新鮮だなあ。
(おい、ヤミー。お前もなんか言え、煽れ)
観客席にいるドラゴンが口パクで告げてくる。いやいや、煽れって言われてもね、こう見えても私は育ちのいい家庭で、しかも末っ子でみんなからかわいいかわいいって褒められて育った娘だよ。そんな暴言なんて急に思いつくわけないじゃん。
「どしたぁ、ノルドの田舎小娘! ビビッてションベン漏らしてんのかぁ!」
弱い者いじめのつもりなのか、それとも気を利かしてるのか、サハギンの戦士が私を煽ってくる。初対面のはずだけど、とにかくこんな風に煽って因縁のひとつでもを作っておけば、いざ試合で当たった時に盛り上がりに繋がるのかもしれない。
よし、ここはひとつ、私なりにちょっとだけ嫌味を込めつつ、優しく気品よく煽ってあげよう。
「うるせえな、ゴミカス! そうやって喚いていられるのも今だけだからな! 試合になったらお前の手足全部千切ってケツ穴から突っ込んで、喉から引っ張り出してやるから覚悟しとけよ、この鱗野郎! あとねえ、さっきからおめーが喋る度に、ずっと顔の前でちっちゃいコバエみたいな虫がぼとぼとぼとぼと落ちてんの! 戦士じゃなくて虫除け業者にでもなって、殺虫剤の訪問販売でもやれよ、きっと大金持ちになれるからさあ! あ、駄目だ、お前マジで臭いもん。一週間寝かせた下利便みたいな臭いしてんだよ、冗談はそのふざけた顔面だけにして、とっととママの子宮から出直してこい、この産廃ハゲカッパ!」
そう言い終わると、思ったより心を抉っちゃったのかサハギンがめそめそと泣き出した。いや、このくらいで泣かないでよ、私が悪いみたいじゃない。加減が難しいなあ、もう。
ちなみにサハギンはこの後、別の戦士と戦ってあっさりと負けた。いや、私のせいじゃないよ。私は悪くないもん。強いていえば煽れって言ったドラゴンが悪いもん。
え? 私? 私はもちろん初戦でつまずくわけがない。長剣を振り回すコボルトの戦士を軽く一蹴して、次に勝ち上がってきそうな戦士の戦いを見物したり、体力を回復させるために豚串を頬張ったりしているのだ。戦いは勝負の場に立つ前から始まっている、栄養補給も立派な戦い!
ところでヴァルカンとマールだけど、その強さはさすがの一言。つまらないとか見世物にもならないとか罵り合ってたけど、そこはドラゴン種族、他の種族とは明らかに一線を画す力だ。倍以上も大きいトロールを真正面から殴り倒したり、歴戦のライカンスロープを縛り付けたように抑え込んで殴り続けたり、まともに素手で戦ったら私でも勝ち目がない。
幸いこのふたりは決勝まで上がる前に潰し合ってくれるようで、今まさに目の前で死闘を繰り広げている。
ヴァルカンが強烈な一撃を叩き込んで膝から崩れたかと思ったら、そのままマールが前傾姿勢で腰にしがみつき、膝の裏に足を掛けて器用に転がしてみせる。そのまま蛇のようにしつこく絡みつきながら、要所要所で思い切り振り被った拳を叩き込んで、地味だけど確実にダメージを返していく。それでも殴り返された隙に立たれてしまい、再び寝かせようとしたところに死角からの拳を打たれ、倒れる前に再び組み付いて転がして休んだり、とにかく地味なのか派手なのかなんともいえない戦いを延々と繰り広げているのだ。
そしてふたり以外の試合がすべて片付いて、なんだったら怪我と疲れを回復できるくらいたっぷりと休んだ頃、ようやく火竜の戦士たちの決着がついた。
決着はヴァルカンの放った、首をがっちりと掴んでからの顔面への膝で、マールの岩みたいに頑丈そうな顔が跳ね上がり、そのまま両手を拡げて転がったところに拳を何発も叩き込んで、ようやく勝利を手にしたのだった。
「うおおおーっ! どうだ、俺が最強だ!」
「いいや、一番強いのは私だ!」
血塗れになりながら雄叫びを上げたヴァルカンに向けて、自慢の狼の毛皮を空中に放りながら闘技場に舞い降りて、その流れで大きく遠心力を乗せた円月輪を叩きつける。この武器は切れ味と投擲のふたつの強みがある、さらに刃部分の面積による切り返しと攻撃範囲の広さにも優れている。体重と膂力を上乗せすれば威力はさらに高まるし、自分の体を回転させながら遠心力を乗せ続ければ、まさに絶え間ない連続攻撃を可能にする。
疲れた体でありながら両腕を前方で折り畳んで、この切れ味と威力を凌いでるのはさすがだけど、私の攻撃はまだまだこんなもんじゃない。
円月輪の勢いをそのままに手を放して身を地面スレスレまで屈めて、ヴァルカンの足下にまで潜り込む。奴の腕はまだ円月輪を凌いだまま、状態は勢いを削ぐために踏み込んだ前傾だから、蹴りを出すには一度引く必要がある。
「おりゃあぁー!」
私は腕に嵌めた化石の腕輪に力を込める。うちの忍者が貰ってきた恐竜の術具、ザウルロック。闘志と戦意を込めることでその身に恐竜を降ろし、姿を恐竜そのものへと変えることが出来る。
私が使った場合はゾウほどの大きさの三本角の恐竜の姿になるけど、その破壊力と突進力は人間の姿の時とは比べ物にならない。もちろん大きくなるってことは小回りが利かないってことなので、単純に強くなるだけではないけど、こういう隙を突いて一撃で決めたい時にはこれほど頼りになる武器もない。
「くそがっ……術具だと!?」
ヴァルカンの体に体当たりしてそのまま壁にまで押し込んで、さらに後ろ足で大きく地面を蹴って2度3度と突進を繰り返す。まともに受け止めた戦士の体は大きく壁の向こうへと吹き飛び、力のほとんどを使い果たした私は術具を解いて、人間の姿へと戻ってみせた。
「場外! 勝者、ヤミー!」
勝利宣言を受けて私が大きく拳を突き上げると、辺りからどっと歓声が起った。祝福の声、拍手、たまに賭けに負けた連中からの罵声、そのすべてを全身で受け止めていると、あれでもまだ意識が飛んでいないヴァルカンが置き上がって、
「待て! 俺はまだ戦えるぞ! おい、場外なんて無しだろ! そもそも恐竜の術具を持ってるなんて、話が変わってくるぞ!」
なんて物言いを放り込んでくる。いや、まあそうなんだけど、場外を無しにしちゃったら体力が尽きるまで逃げ回るとかそういうことも出来ちゃうわけだし、ここは私の勝ちってことでよくない? 駄目かなあ?
ちらりと観客席のドラゴンに視線を向けると、他のみんなも困った時はドラゴンに任せようってことなのか、同じように目線を向けている。火竜もドラゴン種族だし、ドラゴンの揉め事は同じドラゴンに抑えてもらうのが一番だよね。
「場外に出されるのが悪いし、術具を使っちゃ駄目なんてルールもないだろ?」
鶴の一声ならぬ竜の一声で、あっさりと決着はついた。
こうして私はちょっと疑問が残る勝ち方とはいえ、一応は火竜に勝った人間として名を轟かせて、優勝賞品としてドラゴンが最近どこぞから手に入れたという魔法銀で出来た籠手を手に入れたのであった。
ちなみにルチとゴブゴブズは全財産を私の勝ちに賭けてたみたいで、財布にちょびっとの銅貨を袋いっぱいの金貨にしてみせた。私の勝利を信じてるなんて、まったくいい相棒と子分たちだ。なんで銅貨がちょびっとだったのか気になるけど。
取得:クレセント×1、アガートラム×1
▶▶▶「竜の騎士と闇医者と」
≪NPC紹介≫
ヴァルカン
種 族:火竜(男、??歳)
クラス:ドラゴン(レベル46)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 59 40 24 30 25 30 35 27 21 17 4↑2↓3(歩兵)
成長率 60 65 30 45 35 40 45 35 20 25
【技能】
短剣:C 剣術:C 槍術:B 斧鎚:B 弓術:C 体術:S
探索:A 魔道:B 回復:E 重装:B 馬術:C 学術:A
【装備】
プロメテウス 威力37(13+24/炎属性、魔法武器)
ルビーアイ 炎耐性上昇、火竜の術具
【スキル】
【個人】高糖度打戦撃(格闘での攻撃時、腕力%で追撃発生)
【固有】重装竜戦士の雇用(竜戦士・重の傭兵を呼び出す)
【固有】竜の血(毎ターンHP25%+状態異常回復)
【固有】逆鱗(HPが100%でない時、必殺+30)
【戦闘】素手格闘(素手での格闘を可能にする)
【戦闘】火竜爪撃(射程2の格闘攻撃、炎属性)
マール
種 族:火竜(男、??歳)
クラス:ドラゴン(レベル46)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 59 32 23 37 30 37 27 23 23 21 4↑2↓3(歩兵)
成長率 60 50 30 55 40 50 35 25 25 30
【技能】
短剣:C 剣術:A 槍術:C 斧鎚:C 弓術:C 体術:S
探索:A 魔道:B 回復:E 重装:B 馬術:C 学術:A
【装備】
プロメテウス 威力36(13+23/炎属性、魔法武器)
ルビーアイ 炎耐性上昇、火竜の術具
【スキル】
【個人】塩漬け戦闘術(格闘での攻撃時、守備%でスタン発生)
【固有】重装竜戦士の雇用(竜戦士・重の傭兵を呼び出す)
【固有】竜の血(毎ターンHP25%+状態異常回復)
【固有】逆鱗(HPが100%でない時、必殺+30)
【戦闘】素手格闘(素手での格闘を可能にする)
【戦闘】火竜炎壁(間接攻撃を25%の確率で防ぐ炎の壁)