もぐれ!モグリール治療院 第23話「迷いの森の道しるべ」
右を見ると吸い込まれそうな深くて暗い森、左を見ると鬱蒼と生い茂った先の見えない密林、前を見ても後ろを見ても旅人を惑わせるような緑の領地が延々と続いている。 「これは完全にあれだね」 「迷子、遭難、行方不明」 「ルチ、言っちゃ駄目! 言ったら事実としてそうなっちゃうから!」 私たちはまだ迷子ではない。人が迷う時、それは迷ったと認めた時だって誰かが言ってた気がする。誰も言ってないような気もしてきたけど、今はそんなことはどうでもいい。大事なのは、私たちは迷っていないという折れない心、強い気持ち、冒険者としての自負、そういう誇りみたいなものなのだ。誇りとは違うからしてあしからず、とにかく私たちは迷子でもないし、遭難もしていないし、行方不明にもなっていない。 いざとなったら木を切り倒して、森を滅ぼしてしまえば集落なり村なりに辿り着けるのだ。本当の意味での危機はまだ訪れていない。 「だから近道なんてやめようって言ったんだ……」 子分のガルムが森よりも深い溜め息を吐いてみせる。私たちは森の奥に滞在しているノルドヘイムの戦士を訪ねようと進んでいたんだけど、そこにいくには森を大きく迂回しなきゃいけなくて、そのまま向かうと到着には数日かかる。でも、まっすぐ進めば1日2日で着けそうだからと、森をひたすら真っ直ぐに進むことにしたってわけ。 そして本当に真っ直ぐ方位磁石に従って進んでいたはずなんだけど、行けども行けども何処かで見たような森の中。そんな馬鹿なと思いながらも、念のためナイフで目印をつけて進んでみたら、私たちの目の前に現れたのは何処かで見たようなナイフ傷だった。 どうやら本当に同じ場所をぐるぐると歩かされているみたいで、木々の間の獣道を進んでみたり、草に埋もれた廃道跡を歩いてみたり色々試してみたけど、結局このナイフ傷の木に戻ってきてしまうのだ。 「認める、迷子、確実」 「しょうがない、最後の手段だけど木を切っちゃうかー」 「最初の手段に使うのかよ、まあいいけどよ」 私は鞄から鉄の斧を取り出し、目の前の木に向けて力強く振り下ろした。 「お前ら、なにやってんだ!」 木を切り倒そうと斧を撃ち込んでいた私たちの目の前に、子どもくらいの背丈のネズミのような細長い尻尾の生えた女がひらりと舞い降りてきて、ポンチョからのぞく手足をバタバタと動かしながら、しゃがれた声で怒鳴りつけてきた。 「ここは我...