もぐれ!モグリール治療院 第15話「地元民しか知らない道はちょっと危ない」
「フィアレアドの騎兵を避けるなら、このルートがいいね」
難民キャンプで加入した踊り子女のロマが、地図の道の描かれていない渓谷を指差す。そこにはクラックデルタ崖道という、切り立った崖に無理矢理作られた道が存在していて、狭いから地元の猟師くらいしか使わないけど、そのおかげで面倒な国境警備の部隊と出くわすことがない。フィアレアド王国の大きな街道には大量に関所と砦、監視塔が築かれていて、通行人から大量の通行税を徴収する山賊顔負けの悪行を働いているので、こういった国の把握していない秘密のルートが幾つも存在しているのだとか。
「旅の一座でよく使ってた道だよ。辺鄙過ぎて山賊も滅多に出ないし、地形が地形だから見張り台も建てれなくて兵士も寄り付かない。その途中に素掘りの隧道があって、そこを抜けたらタンタモルラの貧民街まで行けるはずだよ、ちょっと古い情報だけどね」
ロマ自身、この道を通ったのはもう何年も前になるから、今はどうなっているかわからない。
狭い崖を進むか、兵士にかち合う街道を進むか。私たちの選択肢はもう決まったようなものだ。
「関所を片っ端から潰して大儲けだよね」
決まってる、敵を片っ端から薙ぎ倒して、武器も食糧もお金も全部手に入れる。
「よし、クラックデルタ崖道を進もう」
「ヤミーちゃんの案も魅力的だが、こちらも戦力に乏しいからね」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと準備するぞ」
モグリールたちにあっさりと反対されて、私たちは崖の狭い道を進むことにした。あれ? なんで?
【クラックデルタ崖道】
空白地帯からフィアレアド王国にかけて拡がる渓谷地帯に築かれた断崖の私設道。フィアレアドがこの地を支配し、大街道が整備されるまでは交易道として賑わっていたが、以後は道の険しさに加えて運べる物量の制限、整備の難しさ、交易の中心が王都へと移ってしまったために完全に廃れてしまった。
現在は地図からも消され、地元集落の猟師くらいしか使っていないとされるが、高い通行税を避けるために非合法の密貿易や貧困層の移動等で利用されている。
また素掘りの隧道が幾つか存在し、各地の貧民街や地下勢力の拠点に繋がっているため、カディールェンベ(崖に棲息する肉食の毒虫)の巣などという呼ばれ方もされる。
モグリールが言うには、崖道に限らず狭い場所を進むにはちょっとしたコツがあるらしい。前列と最後尾に不意な襲撃にも耐えられる屈強な者を置き、最前列は気配に敏感で足も速いに越したことはない。荷物を載せた馬車や荷車は隊列の真ん中に置いて、前後左右に警戒しながら指示を出す。先の状況がわからない時には、前列から3人ほど走らせて道の様子や罠の存在を調べに行く。これが基本なのだとか。
つまり私が前列で見まわして走って、よく働けってこと! このヤミーちゃんに任せなさい!
「というわけで、先に行って道の様子を見てくるね!」
「斥候、任せる。彼、連れてく、得意、山岳」
「シュハタ、ノイ・ヌオン! フテベ・ドヌヌ!」
何を言ってるかさっぱりわからないけど、ルチの下に就いているイェホー・シュアっていう腕の長い男はウェデワン族という断崖絶壁で暮らす部族の出身で、びっくりするような壁登りの技を持っている。平らな引っ掛かりのなさそうな壁でもすいすいと登れる彼からすれば、この程度の崖は犬の散歩道も同然なのだとか。ちょっとその例えはよくわからないけど。
というわけで、私、ルチ、イェホー・シュアの3人と馬1頭で斥候をしてくることにしたのだ。
「テデレ! バム・ソワンナ! タンダ、デメンペ・フルフ!」
「なんてー?」
「骨組みの砦、この先、ある。気をつける」
私とルチを乗せた馬、崖の上をクモのように駆けるイェホー・シュアが進んでいると、妙な建物が姿を現した。鉄の棒と板を組み合わせたような簡素な、砦というよりは工事現場の足場に近いもので、道の端っこを少しの上にある窪みを底にして、斜面に沿うように築かれている。さらに骨組みと骨組みの間には、なにやら文字を殴り書きした布とか木の板が嵌め込まれてるけど、なんて書いてあるのかはさっぱりわからない。
「警告。払う、通行料。拒否、射る」
どうやら通行料を払えと脅しているらしい。わざわざ武力による警告も乗せている辺り、これはお願いではなくて、はっきりとした脅迫や恐喝。関所を避けるために街道を通らずにこの道を選ぶ商人や貧民から、どうにかして通行料を徴収してやろうと組んだのがこの足場で、フィアレアドの王党派なのか教会派なのか、それとも悪知恵の働く悪党なのか知らないけど、まったく迷惑な足場だ。
そんな悪い足場はこうだ!
「おりゃあぁー!」
背中に担いでいたウォーハンマーを握り締めて、足場の支えとなる一番下の段の柱を思い切り横殴りにする。ガァンと大きな音を響かせながら鉄の柱は大きくひしゃげて、そのまま上の天板や繋ぎ目の金具ごと吹き飛んで、あっという間にガラガラと崖の下へと落ちていく。
「うわぁー!」
「おやかたぁー!」
「たすけてくれぇー!」
鉄屑に混じって何人か落ちていったけど、通行料を払わせようとする奴に情けなど不要。落ちていった山賊紛いの連中、当然ただでは済まないだろうけどこいつらには明日だって無用なのだ。
「もういっちょー!」
続けて奥にある足場も粉砕する。どうやらこの足場、ある程度の風や揺れには強いようだけど、根本ごと吹き飛ばすような一撃に耐えられるほどの物では無い。あくまでも、ちょっとした威圧感と上から狙いやすくするためだけの障害物でしかない。
「おうおうおうおう! かぁーっ! とんでもねえじゃじゃ馬娘が来たもんだぜ、たまんねえなあ!」
崖の上から全体的に四角い、顔も四角だし髪型も庭木みたいに四角く切り揃えた中年男が、崖の上から軽々と降りてきて私とルチと馬の前に立ちはだかった。
「おうおう、お前さんよぅ! 世の中には道理ってもんがあるんだぜ! 道を通りたけりゃ金を払う、金がねえと道だって整備が出来ねえ、それくらいはわかんだろ!?」
「じゃあ、おじさんが道の整備してるの?」
「俺じゃねえよ! 俺じゃねえけど、俺が足場を組んでだなあ、徴収した金の一部が道の整備代に使われるって仕組みよ!」
四角い顔と四角い目をさらに四角くしながら、男は胸を張って堂々と言ってみせた。
なるほど、つまりこいつは通行料を巻き上げて暮らしていて、その一部は整備に使われているらしいけど、こんな崖沿いの道の、一体どこをどんな風に整備しているのかは、見える範囲ではさっぱりわからない。
「だったら山賊じゃんか!」
私はウォーハンマーを振り回して、さらに足場を殴り壊す。またひとりふたり、四角おじさんの部下らしき連中が落ちていったけど、下で獣の餌でも虫の餌でも好きな方になってしまえ。
「てめえ馬鹿野郎この野郎、違うって言ってんだろ、わかんねえ小娘だなあ! タンタモルラのゲンナジーっていえば、ちったぁ名の知れた職人だ、山賊なんかじゃねえ! みんなからはゲンさんって慕われてる男でよぉ!」
って言われても私たちタンタモルラの住人じゃないし。そもそも整備代を集めたいんだったら、崖道の入り口と出口に募金箱でも置けばいいって話だし。
「かぁーっ! わかってねえなあ、お嬢ちゃん様はよぉ! いいか、このクラックデルタ崖道はあっちゃこっちゃに隧道があるのは知ってんだろ!? 入り口と出口で徴集しようにも、馬鹿正直にそこから入る奴なんて滅多にいねえってわけよ! ってーことはだなぁ、ここみたいな関所をあっちゃこちゃに用意しなきゃいけねえわけだ! それには金がかかんだろ!? だから俺の懐に足場代と人件費を入れてるって寸法よ!」
「ふーん。で、どれくらい整備代に回したの?」
ゲンさんとやらはカッカッと馬鹿みたいな笑い声を発しながら、自信満々な顔で答えてみせた。
「まだ採算取れてねえから銅貨1枚も渡しちゃいねえな! まったく世の中ってのはせちがれ……ごへぇっ!」
ゲンさんの四角い顔の一部がへこんで、妙な形の五角形に歪む。もちろん原因は私の振り回したウォーハンマーの一撃だ。
世の中には許してもいい山賊と許してはいけない山賊がいる。許してはいけない山賊、それは自分たちを正当化するためにうだうだぐだぐだ語る奴らだ。だったら許してもいい山賊は? そんなものは存在しない!
「親方、大丈夫っすか!?」
「こいつらよくも親方を!」
「四角い顔と頭が台無しじゃねえか!」
道の向こうからゲンさんとやらの弟子というか子分というか雇われというか、なんかそういうのらしき連中が、手に剣や斧を握り締めて走ってくる。見た目は山賊にしか見えないけど、四角いのと同じく職人かもしれないし、やっぱり単なる山賊かもしれない。
まあ、どっちでもいいや。職人も山賊も殴れば血反吐を撒き散らせる的なんだから。
「我らタンタモルラ足場鳶組合! こんな小娘たちに舐められちゃあ仕事になら……ぐえぇっ!」
「うるさい、不快、ずっと」
名乗りを上げた男の顔を半分ほど、ルチが放った銃弾が削り取った。武器を構えておいて、ごちゃごちゃ喋ってる暇があるなら1発でも多く撃った方が話が早い。
「ヌメ・ワラハ・ゾンフ!」
さらにルチの銃撃を合図に崖の上にいたイェホー・シュアが、ほぼほぼ墜落のような軌道で降りてきて、頭上から職人のひとりを棒を振り回して叩き伏せる。なにを喋ってるかはわからないけど、上半身がひとまわりもふたまわりも大きく膨れ上がった姿での一撃は、決して見かけ倒しでないことを結果が物語る。
あとはもう語るまでもないというか、いつも通りというか、職人が振るった武器はクモのように崖を垂直に駆け上がるイェホー・シュアには届かず、がら空きの背中を見せた傍からルチが次々と銃弾を浴びせた。私は私で、まだ動けそうな奴の頭を1個ずつ丁寧に叩き割っていると、あっという間に残りはゲンさんとやらひとりになった。
「おいおい、一体どういう状況だ?」
「ヤミーちゃん、敵がいるならいったん戻って知らせてくださいよ」
私たちが悪党を叩きのめしている間に、何かあったのかもと斥候2番手を引き受けたサイクロプスのでっぷりとオーク兵のピギー、ゴブゴブズの3人が追いついて、歪な五角形な顔をしたゲンさんとやらを見下ろす。
「おいおいおいおいおいおい! サイクロプスにオークにゴブリンだぁ! まさかあんたたち、いや、あなた様方、オルム・ドラカの方々ですかい!? かぁーっ! こいつはやっちまったぜ!」
うちの子分たちを見て、なにやら誤解をしているみたい。でも私はかわいさだけでなく天才的な閃きも持ってるので、この勘違いを利用してやることにした。
「そのとおり! 我らはオルム・ドラカの戦闘部隊、ヤミーちゃん隊であーる!」
でっぷりたちの冷たい視線が背中に突き刺さる。そこはもっと温かい目で見守るか、賢さに感心するとこじゃないのかな、まったくこいつらは。
「すいませんでしたすいませんでしたすいませんでした! どうか命だけは、命だけはぁ! かぁーっ! 俺も焼きが回っちまったもんだぜ!」
ゲンさんとやらが土下座の体勢で頭で地面を擦り続ける。このまま火起こしでもするのかなって勢いだし、頭の形が五角形からまた別の形に変わりそうだ。
「おい、五角形! 私たちはタンタモルラに向かっている。幌馬車もあるから通りやすいようにしろ。そうすれば命だけは助けてやらんでもない」
「へいっ! 全身全霊で頑張らせていただきます! かぁーっ! こいつは大仕事だぜ!」
五角形は崖下に落ちた鉄の棒や板を拾いに降りて、てきぱきとした手際で隧道までの段差を器用に埋めたり、無理な場所は橋を作って迂回させたりと工夫を凝らしていった。職人としての腕はなかなか大したものみたいで、モグリールたちが追いついてた頃には結構立派な即席の足場道が組まれていた。
こうして私の活躍と閃きと強さで、本来なら狭くて厄介な崖道を攻略できたというわけなのだ!
「活躍、私も。敵、倒した、いっぱい」
「ハディ・カンプ、ゾア!」
「活躍、俺も、言ってる」
しょうがない、ルチとイェホー・シュアも活躍したことにしてあげよう。まあ実際に多くの敵を撃ち抜いたし、皮もいっぱい剥いだみたいで、仕事を終えた五角形を丸太に括りつけて、足元に敷き詰めた焚き木を燃やしている。周りには崖下から拾ってきたのも含めて、山賊だったものが丸太を囲むように並べられた。全員頭や顔の皮を剥がされているのは、わざわざ言うまでもない。
「おいおいおいおい! こいつはいったい何なんですかい!?」
「祈り、捧げる、精霊。感謝、大事」
「メフ・セテ!」
「ヤボ・ジ・テリガホビ!」
燃え盛る焚き木と丸太を囲んで、ルチと部族のみんなが両の手を組んで祈りを捧げている。久しぶりに見た気がするけど、これで精霊の加護があるんだからありがたいよね。モグリールたちは完全に引いた顔で眺めてるけど。
「かぁーっ! こいつは人生最大のピンチだぜ!」
ちなみに途中で火が消えちゃったため、五角形は全然生くらいの焼き加減で終わり、どうにか一命を取り留めたのだった。
▶▶▶「ボロは着てても心は錦」
≪NPC紹介≫
ゲンナジー・ゲンブリッジ
種 族:人間(男、44歳)
クラス:鳶師(レベル20)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 39 14 3 7 5 16 14 15 7 4 4↑4↓5(山岳)
成長率 35 25 10 20 20 30 20 20 15 10
【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:D 弓術:D 体術:E
探索:D 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:D
【装備】
ガストラフェテス 威力24(10+14)
クリフモンキー 跳躍(↑↓)+1
【スキル】
【個人】高所作業(高さ5以上の位置にいる時、命中+10)
【基本】HP+5
【下級】弓矢装備(弓・弩・吹き矢を装備時、腕力+1)
【補助】足場鳶(幅3×高さ2~4の階段状の足場を設置する)
【補助】橋梁鳶(長さ3マスまでの簡易的な橋を設置する)
【??】