もぐれ!モグリール治療院 第19話「自由より重い足枷など無い」

スルークハウゼンのあるハルトノー諸侯連合領は、元々敵対していた者同士でくっついて出来た国だから、お互いの火種にならないように奴隷制は廃止しているけど、このフィアレアド王国では領主の裁量にもよるけど、大前提として王も教会も奴隷の所有を認めている。もちろん誰でも彼でも持てるといっても、実際に奴隷の所有者は奴隷の食い扶持も用意しないといけないし、奴隷の仕出かしたことは所有者の責任にもなるので、よっぽどの金持ちでもない限りは身の丈に合った数の奴隷しか持たない。
奴隷はほとんどは南方から連れてきた民とその子孫で、あとは王や教会に歯向かった囚人とか行く当てのない孤児とか。奴隷のほとんどが南方民で占められる理由は、見た目からして人種が違うから。彼らは一般的なフィアレアド人の白い肌と比べて暗く黒く、薄くても褐色、濃ければ黒に近い茶色の肌を持っている。うちのパーティーだと、ダークエルフのクアック・サルバーが近い色の肌をしているけど、別に南方民というわけではなく、エルフが持って生まれる魔力の性質でダークエルフが誕生するとか言ってた。ついでにこれまでの説明も全部クアック・サルバーに教えてもらったことだけど、要するに肌の色程度のことで奴隷かどうかを決めているのだ。

そして私たちが辿り着いたエルアラッドの町は、今もなお奴隷制が色濃く続いている町なのだ。


「わあ、めちゃくちゃ物騒」
いつものようにゴブゴブズやサイクロプスのでっぷりたち、あとこの辺りでは見かけない部族のルチたち、顔を隠しているものの肌の色から誤解されるかもしれないクアック・サルバーには外の森とかに待機してもらって、私とモグリール、ヤーブロッコ、案内人の踊り子のロマの4人で町に入ってみたわけだけど、早速目の前に現れたのは騒々しさと暴力だった。
南方民の奴隷と思しき男が棍棒でぶん殴られて、血まみれになりながら這いつくばって逃げる。そこを腕っ節だけが取り柄のならず者みたいな連中が取り囲んで、手当たり次第に殴る蹴るを繰り返していた。
「そういう町だからね。奴隷はなにかと理由をつけて、ああされるのさ。雇い主から逃げた、仕事が遅い、なんか気に入らない……理由なんてなんだっていいのさ。本当に嫌な国だよ」
「おい、ヤミーちゃん、変に首突っ込むなよ。まだ情報も状況もわからない内は……って、おい!」
モグリールが制止したような気がしたけど、私はその光景を見た瞬間に迷わず走り出していた。勢いよく石畳の道を蹴りながら走る足の動きを速めて、大きく跳び上がって男のひとりの顔面に膝を叩き込んでやった。
「モグさん、あいつがおとなしくするわけないでしょ。やっぱり外に待たせた方がよかったっすね」
「仕方ないな。今からでも他人のふりでもするか」
「賛成だよ。あたしたちはあの狂犬とは他人、そうしよう」
ヤーブロッコとモグリールとロマの、なんとも失礼な会話が聞こえてきたけど、今はそっちはどうでもいい。なによりも優先するのは、この棍棒とか鉈とか手にした連中をぶちのめして、無力化して安全を確保すること。誰のって? もちろん私のに決まってる!
蹴り倒した男から棍棒を奪って、地面に転がっている足へと振り下ろす。呻き声の混じった悲鳴を上げる男を盾にして鉈を受け止め、体越しに棍棒を振り回してふたりめ、落とした鉈を足で蹴って顔の高さまで飛ばして、そのまま掴んで3人目の武器を叩き落して、すかさず股間を蹴り上げる。棍棒と鉈を投げつけて残りを怯ませた間に、腰に潜ませたナイフを抜いて4人目の手足を切り裂いて、完全に竦み上がっている残りを片っ端から殴り倒した。

「弱い者いじめはよくない! ほら、大丈夫? 立てる?」
手を差し伸べた先に倒れていた奴隷の男は、息も絶え絶えで、口からは血と息を吐く音だけが漏れてくる。あー、これは放っておくと死んじゃうな。早く手当てしてあげないと、と思ったものの、モグリールたちはとっくに姿を消してるし、周りは彼に見向きもしない。むしろ突然現れて、ならず者たちを成敗した私に警戒しているみたいで、かなりの距離を開けてこっちを見ている。
「ねえ、助けてあげないの? こいつ死んじゃうよ」
「だって、ほら、奴隷だし」
遠間から答えた住人っぽい男を反射的に睨みつける。なるほど、ここはそういう流儀でやってるわけね。うんうん、わかったわかった。じゃあ、私も自分の流儀ってやつを押し付けるね。
奴隷の男を肩に担いで、そのままさっきの男の目の前にまで駆け寄り、そのまま目玉に刺さりそうな距離でナイフを突きつける。
「医者のところ、案内して」
「いや、なんで俺が?」
「だって、ほら、目が合ったし」
胸ぐらを掴む腕に力を込めて、男を強引に持ち上げる。案内してくれるなら手を放してあげる、案内しないなら目玉が無くなるけど、それは自分で決めたことだから恨まないで欲しい。

「案内する! 案内する! でも、奴隷を診てくれる医者なんて、この町にはいねえ!」
「いいよ、脅してなんとかするから」
私は奴隷を男に背負わせて、邪魔が入らないように睨みを利かせながら医者の元へと向かうことにした。


◆❖◇❖◆


「わかりました、診ます! 治します! だから、その短剣しまってください!」
「え? 金を払え……払う! 払うから殴らないで!」

医者を1発2発殴って奴隷の男を預け、治療費はさっきの男に丸投げして治療院を後にした私は、まずは腹ごしらえをすることにした。本来の目的のオルム・ドラカへの行き方はモグリールに任せて、となると私のやることは今のところは何もない。戦闘にでもなったら私が大活躍する予定だけど、別に争いに来たわけじゃないし、そういうのは仕方なしの最後の手段みたいなものなのだ。
たまには最後の手段が最初に出る時もあるけどね。たまにだけどね!

「食堂か酒場か、パン屋でもいいけど」
改めて街中を見回してみると、奴隷云々はさておき、割と豊かできれいな場所ではある。タンタモルラの貧民街とは当然だけど、他の町と比べても道も建物も整っていて、郊外には大きな川にでっかい農園なんかもある。あの川の幅なら船が出ているかもしれないし、オルム・ドラカまでの近道になりそうだけど、この国からして船賃はめちゃくちゃ高そう。となると奪ってしまうのが一番手っ取り早いし、外で待たせてるみんなもそのまま川べりで拾ってしまえばいい。
よし、まずは船を奪おう。そうと決まれば、やっぱり腹ごしらえだ。お腹が空いてたら勝てる勝負も勝てないもん。
「たのもーう」
私は目に着いた食堂の扉を開けて、なんかパンに肉を挟んだ旨そうなやつを注文した。

「……この前も奴隷狩りが……」
「……解放運動……困るんだよな……」
食堂の端っこでなにやら物騒な話が聞こえてきた。耳を澄ませて集中して音をかき集めたところ、どうやら最近奴隷狩りが盛んに動いていて、町の治安が悪くなっているみたい。奴隷狩りっていうのは、逃亡奴隷を捕まえる専門家たちのことで、体力と暇を持て余した労働者とか兵隊崩れのならず者が小遣い稼ぎにやってるらしい。
それで、なんで奴隷狩りが盛んになってるかというと、王都や大きな町では何年も前から奴隷解放が叫ばれていて、その波が最近になってここエルアラッドにも来ているのだとか。元々奴隷制に反対する人も結構いるようで、まあそういう側の気持ちもわかる。肌の色程度の違いで他人が殴られるのは、見てて気持ちのいいものではない。むしろ殴る側を殴った方がずっと気持ちいいのだ。悪党を殴るほど楽しい娯楽は、そんなに多くない、それはまともな娯楽がない辺境はもとより、酒も本も賭博も溢れている都会でもそうなのだ。
というわけで私はこれからも悪党を、それこそ山賊とか野盗とかごろつきとかならず者とか、そういう連中のあばらを折っていこうと思う!
「……地下組織……先日も……」
数日前にも奴隷商人の屋敷が燃やされる事件があったという。それには奴隷解放運動の地下組織が関係しているみたいなんだけど、そいつらがどこの誰かはわからないし、衛兵も町の警備部も尻尾を掴めていない。この町の産業、特に農園とか工場は奴隷ありきで成り立ってるから、外に逃がされる前にどうにかしたい。なので見せしめも兼ねた奴隷狩りを盛んに行って、地下組織への牽制にしているのだとか。

逃がすということは、船だと思う。陸路で大勢逃がすのはどうしても目立つし、まず町の出入り口には衛兵がいて、街道沿いには関所が幾つもある。荒野を進むにはそれだけの装備と食糧がいるから、何十人も何百人も逃がすのは、それこそ大災害とか戦争とかでも起きない限り難しい。その点、船だったら積み荷に混ぜても目立たないし、陸路よりは取り締まりも緩い。いざとなったら川岸で降ろして、そのまま逃げてもらうことも出来る。私だったら迷わず船を選ぶ。
ということは、奴隷解放運動に首を突っ込んだら、船が貰えるかもしれない。別に貰えなくても途中まで乗せてもらえるかもしれないし、目的地が同じな可能性だってある。
奪うよりもずっと簡単で、おまけに後腐れもなく、なんだったら感謝までされる。ありがとうヤミーちゃん、ヤミーちゃんありがとう! よし、船を手に入れる目処は立った! あとは奴隷解放運動の地下組織とやらを探し出すだけ。

「ごちそうさま!」
私は店主にお金を払って、町の外へと駆け出した。


◆❖◇❖◆


「賛成、奴隷、よくない。自由、大事」

ルチならそう言うと思った。ルチや部族連合のみんなは、ピョルカハイム保護区に閉じ込められる形でひどい目に遭っていた。部族の仲間が鉱山労働を強制されていたりしていて、名前は違うけど扱いは奴隷とそう変わらない。世の中は弱肉強食だけど、かといって寄ってたかって弱いものをいじめるのは醜いし、食べもしなければ危険もないのに命を奪うのは正しくない。それにそういうのは身の丈に合ってない程に得てしまうので、そいつの為にもならない。
自分の力で身の丈に合った量を食べて、身の丈に合った数を狩って、身の丈に合った力の範囲で生きる。それを軽々しく飛び越えるから世の中は争いばかりなのだ。必要以上に奪って食べても意味が無いのだ。
「襲撃、雇い主、奴隷。奴隷、なる、自由。地下組織、感謝、出てくる」
「それが一番早いか」
私は背中にトマホークと火炎瓶とポーションを詰め込んだ鞄を担いで、ルチたちは顔が隠れるようなフード付きの外套を羽織って、まず手始めに郊外の奴隷をいっぱい抱えてそうな農園から訪ねてみることにした。

「たのもーう」
「おや、いらっしゃい。かわいらしいお嬢さんだねえ、どこの子だね? ああ、もしかして見学の学生さんかい? はじめまして、農園主のブリッグ・アンテロープです」
農園の主を名乗った中年男は、物腰柔らかく優しそうな雰囲気で、鞭よりはお菓子でも持たせた方が似合いそうな風貌の男だ。でも農園で働いてるほとんどは褐色の肌の男女で、大量の葉っぱを摘んでは運びを繰り返している。
あと私は学生でもなんでもないけど、この辺りの農園は見学の受け入れが日頃からあるみたい。きっと子供の頃から奴隷の働く姿を見せて、これを当たり前だと信じ込ませているのだ。ひどい教えだ、そんなことより猪の狩り方とか熊の攻撃から生き残る方法とか教えた方が、ずっと役に立つのに。
「うちは煙草農園でね。見ての通り規模はそんなに大きくないし、それほど多くの奴隷は持てないけど、彼らはよく働いてくれるからね。おかげでそれなりに順調だよ」
エルアラッドの農園は煙草と綿花、それに砂糖が中心で、特に煙草と綿花はフィアレアド王国内でもかなりの量が、この町から南に広がるブラックベルトと呼ばれる地域で栽培されている。ちなみにブラックベルトは農園で働く奴隷の数と、過酷な労働環境で流される血の量からそう呼ばれているらしい。

「あなたも奴隷に鞭を振るうの?」
「ん? もちろん必要とあらばね。他の農園は何かあれば鞭を振るうけど、うちはあくまでも必要最低限だよ。遅刻したり、手を抜いていたり、反抗的な態度を取ったりしたら、その時は叩かせてもらうよ」
必要最低限の鞭ってなんだよ、と訊きたくなるけど、まだ黙っておこう。ぶっ叩くのは情報を聞き出した後でも遅くない。
それにしてもなんか腹の立つ男だ。必要とあらばとか、最低限とか、なんか暴力は嫌いだけど仕方なくやってますっていう言い訳っぽい口調もむかつくし、自分は荒っぽい奴とは違って善人ですとでも言いたげな感じも、また嫌な感じに拍車をかけていて腹が立つ。いっそのこと、奴隷なんざ何百発叩いてもいいんだよ、馬鹿が、とでも言ってくれた方がまだ潔さがある。それはそれで歯が全部なくなるまで殴るけど。
「おい、そこ休むんじゃない! 昼の休み時間まで頑張りなさい!」
畑の中で倒れた奴隷に鞭が飛ぶ。疲れて倒れた上に鞭で叩いても休まるわけがないんだけど、おそらく見せしめにすることで周りに休むなって伝えているのだと思う。
よし、聞きたいこと聞き出したら歯と手足とあばらを全部折ってしまおう。それくらいが、いわゆる必要最低限ってやつだ。

「ちなみに奴隷解放運動については?」
「ああ、もちろん大反対だね。あんなものは働いたことのない学者の戯言だよ。この世は平等ではないし、そもそも我々と南方民は人種が違う。もちろんハルトノーの民なんかともね。我々には清らかな血が流れているけど、ハルトノーの民は汚らわしい神人を名乗る不届き者の血が流れている。彼ら南方民なんかはもっと最悪だ、彼らは悪魔の子孫だからね。そんな奴らが私たちと同じ大地で暮らすことを許されるんだ、十分すぎるほどの譲歩だよ」
強烈な差別意識が口から洩れてるけど、たぶんこのフィアレアドではこいつみたいなのが一般的なのだ。自分たちこそが選ばれた神の子孫であり、それ以外の人種は汚らわしい生き物だと信じている、といったところかな。馬鹿じゃないかなって思うけど、彼らにとってはそれが事実であり考え方の柱なのだ。
そういう柱は脛でも蹴って圧し折ってしまうべきだけど。
「ルチ! もういいや、撃っちゃえ!」
「我慢、限界」
ルチが外套の下から狙撃銃を取り出して、畑の中で鞭を振るう男めがけて弾丸を放つ。まっすぐに飛んでいった弾は男の頭にぶつかって、そのまま頭蓋に穴を開けて貫き、瞬く間に敵を仕留めてみせる。突然の発砲に驚かされた農園主の顎に向けて、大きく軌道を描きながら遠心力を乗せたトマホークを打ちつける。予定通りに左右の歯を全部吹き飛ばされて、口の幅を倍以上に広げてしまった農園主は、ぐるんと向いた白目まで赤く染めながら地面に転がった。

突然の襲撃に驚いた奴隷たちは慌てて農園から逃げ出して、散り散りに我先にと町の方へと逃げていく。
これで話を聞きつけた奴隷解放運動の地下組織が、私たちに感謝を伝えるために接触してくるに違いない。立て続けに他の農園もふたつみっつ襲撃しておいた
仮に接触してこなくても、ここまでやっておけば奴隷狩りや衛兵たちは地下組織を血眼になって探すに違いない。奴らが勝手に見つけてくれたら、その情報を基に接触することもできる。
どうだ、この完璧すぎる二段構えの作戦! 自分でも自分の賢さが怖い!


夕方、予定通りに食堂で肉を挟んだパンを食べていた私とルチのところに、地下組織の男が接触してきたのだった。


▶▶▶「血よりも命よりも重い自由のために」


≪NPC紹介≫
ブリッグ・アンテロープ
種 族:人間(男、47歳)
クラス:ファーマー(レベル18)
    HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 26  9  7  6  3  9  7  5 14 14  4↑2↓3(歩兵)
成長率 30 25 30 20 20 25 15 20 20 25

【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:D 弓術:E 体術:E
探索:D 魔道:D 回復:D 重装:E 馬術:E 学術:C

【装備】
大ナタ 威力13(4+9)

【スキル】
【個人】煙草農園(待機時、ランダムで煙草か葉巻を入手)
【基本】魅力+5
【発見】二毛作(アイテムを入手したマスからでも幸運%で再びアイテムを入手する)
【発見】村の大収穫祭(周囲同時攻撃、敵ユニットがいないマスからアイテムや素材を入手)
【??】
【??】

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