もぐれ!モグリール治療院 おまけ「名乗れ!モグリール治療院」
「カニ? ふふふっ、まあ私の敵じゃなかったよね。このノルドヘイムのヤミーちゃんからしたら、あの程度のカニなんて所詮ただの食材に毛が生えたようなものだよ。だったら毛ガニが食べたいなって話になっちゃうけどね」
得意気に鼻をふふんと鳴らしながら、普段とは違う雰囲気、ひとことで表現するならば『いい女感』とでもいうのかな。そんな雰囲気を醸し出しながら、目の前でペンを走らせるリザードマンに答えてみせる。
頭? 頭はおかしくなってない、私はちゃんと求められる私をやっているのだ。ここでいう求められるヤミーちゃん像というのは、いうまでもないモンスターガニを退治した英雄の姿そのもの。普段の私は英雄と呼ぶにはちょっとかわいさが過ぎるので、こうやってかしこまって大人の余裕みたいなものも振りまいてるわけなのだ。
15歳が大人を語るなって? うるさい、頭をかち割るぞ。
「いやあ、さすがですね。ヤミー様からすれば、かの殺戮の巨大ガニも敵ではないと。いやあ、素晴らしい。一体どういう訓練を積み重ねたら、そんな強さが得られるのです?」
「訓練というよりは生活がまさに修行そのものだね。私の故郷ノルドヘイムは、君たちリザードマンでは冬眠してしまうような極寒の環境に耐えながら、集落の中に入ってくる狼や熊と戦う。もちろん最初はただの足手まとい、だけど何度も親兄姉の狩りを見て学んでいくうちに、自分に必要な技術や敵の弱点を覚えていく。そうして成長していく内に一端の戦力となり、15歳になるとナイフ1本で獲物を狩りに行く。これはノルドヘイムでは一般的な成人の儀式でね、だからノルドヘイムの外で見るノルドの戦士はみんな、ナイフの1本もあれば熊を狩れるということなのだよ」
メモを取るリザードマンが驚きの余り、目を丸くする。
「つまりノルドヘイムでは生まれながらにして戦士として育てられる、そういうわけですね!」
「まあ、そういうことになるかな? 今私が纏ってる狼の毛皮、これは私がナイフ1本で狩った群れの女王だったものだよ。これに比べたらカニ如き、ちょっと頑丈な程度の食糧でしかないと言えるね」
少し離れた場所では、相棒のルチと子分のガルムが呆れたような目を向けてくる。いやいや、これも仕事なんだから。私の名を知らしめるためにも、取材はちゃんと受けないといけないじゃない。
そう、これは必要な仕事なのだ。
私たちはみんなより一足先にオルム・ドラカに辿り着いた。もちろんゴブゴブズたち子分たちも、私のパーティーとレイドを組んでるモグリールたちも追いついてくれると信じてるけど、なんせオルム・ドラカは広いし、同じルートで来るとは限らない。むしろ馬車移動のモグリールたちは、私たちが通った乾いた大地の断崖を越えるルートは選ばず、平坦な道とか運河を選ぶはず。
そうなると一箇所に留まってても、待てど暮らせど合流できないかもしれないので、こんな風に立ち寄る先々で名前を売って、私が通ったことを伝えていかないといけないのだ。
「すごいですね! オルム・ドラカも中々厳しい地域はありますが、まさかナイフ1本で熊と戦わせるのは、ちょっと聞いたことがありません!」
で、名前を売るのにうってつけなのが、このオルム・ドラカの各地で定期的に販売されている週刊ラガルティッハ通信とかいう、定期的に各地の町や村に届けられる新聞。中身は主に各地域で起きた事件とか事故に始まり、いつどこでお祭りがあるとか、こんな新発見があったとか、干しマンドラゴラの通販ページとか、暮らしに役立つものから得体のしれない寄稿文まで様々。中でも人気があるのが【今週の英雄さんインタビュー】というもので、その週に活躍した者を大々的に取り上げるというもの。
そう、さっきから受けているのがまさにそれ。あいにく新聞の顔でもある1面は【ドラゴン様の最近のおやつ】とかいう、いかにもドラゴン信仰者向けのものだけど、2面か3面に掲載される確率が高いということで、こうして取材を受けているのだ。
ちなみに発行も取材も編集も全部リザードマンたちがやっているみたいで、時々暴走気味にドラゴンへの愛と忠誠がほとばしってしまうのが玉に瑕。
「では最後に、今後戦ってみたい相手なんていますか?」
「ふむ、そうだね。まあ私も修業中の身だからあまり大きなことは言えないけど、最終的には魔王、そういった格上の存在には挑んでみたいね。強者を目指す者のサガ、とでもいうのかな? そこはやっぱり避けて通れない道だね」
リザードマンのメモを取る手に力が籠もる。いいねいいね、さすが私、ちゃんと仕事してる。いつかこの新聞を読んだモグリールたちは、きっと私の活躍と元気そうな姿に安心してくれるに違いない。そしてヤミーちゃんに追いつけと全速力で追いかけてくれるはず。完璧だ、完璧な作戦過ぎて怖い! もちろん自分が!
そうそう、ついでに言っておくと、本当かどうか定かじゃないけど、この大陸の言葉と文字は数千年以上前にドラゴンが作り出した言語を基にしているので、オルム・ドラカもスルークハウゼンもノルドヘイムも他の地域も、大体同じような言葉になってるみたい。じゃあルチの使ってる部族語はなんなのって思わなくもないけど、多分それはそれとして独自の文化を作ったのでは、ってリザードマンの記者が取材前に言ってた。
「なあなあ、ヤミーちゃんよ」
「んー? ガルム、どうかした?」
取材を終えたばかりの私に、ガルムがそっと右手を小さく上げて提案してくる。
「あんた、仲間と合流するために名前を売りたいんだよな?」
「もちろん」
「でもこの辺って、あんた以外にもノルドの戦士がいるって話だよな」
「みたいだね」
どうやらこの辺りにはノルドヘイムから来た戦士で、しかも熊の毛皮を纏ったビョルンセルクがいるみたい。話を聞いてる限りだと私のお兄ちゃんの誰かの可能性が高いけど、もしかしたら違う集落の人かもしれない。どっちみち会いに行こうとは思ってる。
「あんたの活躍、その戦士とごっちゃになるんじゃないか?」
私は予想もしていなかった指摘に、思わず相棒のルチの顔に目線を向ける。ルチも同感なのか、そういえば、みたいな顔をしながら、静かに首を縦に振ってみせた。
「いや、でもあっちは熊の毛皮のビョルンセルクだし! 私は狼の毛皮のウルフヘズナルだから!」
「そんな専門用語出されても、俺なんかはピンと来ないから。おそらくこの辺のリザードマンやトロールなんかもそうなんじゃないか?」
さっきまでの私の努力、返して! 結構頑張って大人の女を演じてたんだから!
「でだ、ちょっと思いついたんだけど」
がっくりとうなだれる私に、ガルムは更に言葉を投げかけてくる。やめろ、もう正論なんて聞きたくない! 内容次第ではガルムの顎が砕けることになっちゃう!
「顎は砕くなよ。あんたの仲間、モグリールなんとかってパーティーなんだろ? その名前を名乗ったらどうだって思ってだな」
んー? 私がモグリール治療院を名乗るの?
……まあ確かに一理ある。モグリール治療院を名乗っておけば、仮にゴブゴブズたちがモグリールと別行動で動いていても、とりあえずその名前を頼りに向かってくれるし、モグリールたちは自分たちと同じ名前を名乗ってる相手が少なくとも知り合い、勘が冴えていたら私たちだって気づいてくれるはず。
一理どころか大いにありだな。おい、ガルム、私より名案を出したら私の威厳が無くなるじゃんか!
「……うぐぐぐ、一理ある」
「いや、なんで悔しそうなんだよ」
「図星。知恵、劣る、ガルムより」
劣ってないから! 少なくとも強さと愛嬌とかわいさでは圧勝してるから!
「というわけで、私の名前はモグリール治療院のヤミーって記しておいて」
取材を終えたリザードマンにそう告げて、私は若干の悔しさを覚えながらも空を見上げたのだった。泣いてない! 泣いてないもん!
▶▶▶「迷いの森の道しるべ」
≪NPC紹介≫
サウラー・チェパロ
種 族:リザードマン(男、24歳)
クラス:読売(レベル16)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 30 7 8 7 5 13 16 10 13 10 5↑2↓3(水兵)
成長率 30 15 30 20 15 25 40 10 30 20
【技能】
短剣:D 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 弓術:E 体術:E
探索:C 魔道:D 回復:D 重装:E 馬術:E 学術:B
【装備】
ロンダリアダガー 威力18(11+7)
ラビットフット 移動+1
【スキル】
【個人】張り込み(パンを消費して戦闘中に罠や埋もれた財宝の情報をひとつ入手する)
【基本】ドラゴン信仰(味方にドラゴン系ユニットがいる場合、命中・回避+10)
【補助】聞き込み(町や集落にいる間に噂話を入手できる)
【補助】情報戦(戦闘前に入手した噂話などを利用して敵陣を撹乱する)
【??】
【??】