もぐれ!モグリール治療院 第18話「3歩歩けば全部忘れる」
知らない土地を旅していて一番困るのが食べ物だ。通りがかった町や集落で食糧は買い込むし、途中で森を見つけたら猪や牛を狩ったりするけど、草もろくに生えてない荒野を何日も歩いていると私の我慢にだって限界が訪れる。私の器は海より広い自信があるけど、食べ物だけは話が変わる。もう干し肉は飽きた、捌きたてのぶりんぶりんな噛み応えのお肉が食べたい!
「グリフォンでも雇えばよかった! ぶりんぶりんなお肉が食べたい!」
「うちの馬車、曳いてる。馬、牛、羊、食べる、許される」
隣を歩きながら飢えた獣みたいな目をしているルチの言う通り、うちのパーティーの荷物は馬車が運んでいる。馬車があるということは、すなわち馬も牛もいるということ。さらに牛よりもごっつい羊もいる。こんなに肉に飢えてるんだから、1頭くらい食べても問題ないんじゃないかなあ。
「ねえ、モグリール、牛ちゃん1頭食べてもいい?」
「駄目に決まってるだろ、蛮族コンビ。あと何日かで次の町に着く予定だから、干し肉とパンで我慢してくれ」
……なんてケチな男だ。私のお肉欲と牛、どっちが大切だと思ってるんだ。こうなったらうちの立派な戦力であり非常食でもあるタコ、こいつの出番も地下そうだ。
なんて考えながら荒野をひたすら歩いていると、視界の端に柵で覆われた広場みたいな場所が現れた。
柵の中はかなり広くて、ちょっとした集落ならそのまますっぽり収まりそうなほど。中には崩壊しかけた石積みの砦がかろうじて残っていて、その周りを巨大な鶏みたいな鳥が砂煙を上げながら走り回り、たまに空を飛んだり、鶴嘴のようなクチバシで突き合ったりして元気よく暴れている。
「鶏、大きい。楽しみ、食べ応え」
確かに大きい。いや、大きいなんてもんじゃない。私の知ってる鶏は小さければ両手でもふっと持てるような、大きくても抱きかかえれる程度のものだけど、ここの鶏は背中に寝そべっても全然許されそうな巨体。人間が乗ったままでも余裕で飛んだりも出来そうな立派な体格をしている。
もはや鶏かどうかも怪しい、そんな鶏だ。
「よし、1頭貰っちゃおう! 今夜は鶏パーティーだ!」
私は馬車の荷台から鋼で出来た大斧を取り出し、一撃で首を刎ねてやろうと肩に担ぐように振り被った。その瞬間、砦の中から鶏みたいな赤いトサカのような髪をした男が、明け方の鶏くらい素っ頓狂な声を上げながら走ってきて、私と鶏の間に身を割り込ませた。
「なにやってんだ、お前ら! 俺たちをコックスコーム強盗団とわかってやって……あ」
「あ……」
全速力で突っ走る猪が急には止まれないように、腕力に任せて振り下ろした斧もそう簡単には止まらない。おまけに重たい鋼鉄製の大斧だから、余計に止まってくれない。私の肩越しに弧を描いた斧はそのまま地面を割るように突き刺さり、間にいた男の胴を思い切り斜めに抉ってみせた。
トサカ男はごぼごぼと血を吐き出しながら何やら言っているけど、あいにく私にはさっぱりわからない奇妙な音でしかないし、そんなことより血のにおいに反応したでかい鶏たちがこれまた頓狂な鳴き声を発しながら、どたばたと地面を踏み鳴らし始めた。
「コケエェェェェ!」
「キョエェェェェ!」
どうやら私たちを敵と認識したみたい。それも仕方ないか、さっきのトサカ男が餌係とか飼育係だとしたら、餌を奪われたも同然だから。
「みんな! でかい鶏が来るよ! 戦闘準備!」
「お肉、食べ放題、頑張る」
背中に妙に冷たい視線を感じるけど、私は悪くない。あえて悪いのが誰か決めるとしたら、私の前に飛び出してきたこのトサカが悪い!
「まったく、うちのヤミーちゃんは仕方ないな。ヤーブロッコ、そこのトサカ、まだ息があるからこっちに運んでくれ。クアック・サルバーはヤミーちゃんの援護。あとの連中は……余計な怪我だけは負ってくれるなよ」
モグリールが鳥の巣みたいな頭を掻きながら溜め息混じりに指示を出し、迫りくる鶏の群れに対して機械弓を構えて待ち受ける。
「やれやれ……3、2、1、今だ」
正面から砂煙を上げて走ってくる鶏の群れに対して、モグリールは馬車と荷車の側面を向けて、中で控えていた義足兵たちに一斉に機械弓を放たせた。すっかり忘れてたけど、モグリールの輸送隊は馬車と荷車と、そこに隠れた義足兵たち、荷車を曳くウォードッグスっていう傭兵上がりの連中で構成される。その真価は運べる荷物の量ではなく、騙し討ち同然の奇襲と手数、そして圧倒的な攻撃範囲だ。
鶏の群れは予想外の攻撃をまともに受けた形になり、全身を弓矢で射抜かれ、反対側に向けて走り去っていく。どうやら一撃で仕留める程の火力は無かったけど、追い払うには十分な傷を与えたみたい。
「さてと、あとはゆっくり治して」
モグリールは馬車の荷台から1本の銀製の杖を取り出し、ぶつぶつと呪文のような物を唱えながら杖の尖端をトサカの傷口にかざす。杖は淡い温かな光を帯びて、ゆっくりと流れ出る血を止めて、切り裂かれた胴の傷を塞いでみせた。
この杖はラステディン教会の聖職者が主に用いる回復用の杖で、それなりの魔力さえあれば別に聖職者じゃなくても、神への信仰心とか持っていなくても効果を発揮する。モグリールに信仰心があるかは知らないけど、普段の言動からして、彼に信仰心があるなら大抵の人にはあると思うっていうくらいには、信仰心の薄さに関しては説得力がある。
ちなみに私が使っても擦り傷を治すくらいしか効果が無かったから、私はモグリールより信仰心が薄いのか、それとも単純に魔力が少ないのか。確実に信仰心はないよね。神からお肉とか貰ったこともないし。
「……かはぁっ! 死ぬかと思った!」
傷が塞がったトサカ男が、意識を取り戻して起き上がる。あれだけ大怪我してたのにもう動けるとか頑丈な鶏だ、いや鶏人間だ。普通は血が足りなくてしばらく横になっていたり、ダメージが残ってて動けなかったりするけど、
「あんたたちなあ、いきなりなんなんだ!? 天からお迎えが来たかと思ったぜ!」
見ての通りすっかり元気だ。おそらくもう1回ぶった切っても、しぶとく生き残ってると思う。
「俺たちをコックスコーム強盗団とわかって喧嘩売ってきたんだろうなあ! おおぅ……ぎゃんっ!?」
またしても素っ頓狂な声を発しながらトサカをピンと立てて威嚇してきたので、大斧の柄の部分を叩き込んでおこう。もう叩き込んだけど。
コックスコーム強盗団は頭目のピッコロ・ガロを中心とした野盗の一団で、人間ひとりとコカトリス数頭というちょっと不思議、というかかなり特殊な構成をしている集団。大街道に設置された関所を避けるために、あえて荒野を進む旅人や商隊を襲って金品や食糧を奪っている。金は活動費と飼育費に、捕まえた人間は餌にしているそうで、コカトリスという生き物は見た目こそ鶏に似た生物だけど、食べ物も生態もずいぶんと違うみたい。
コカトリスは元々オルム・ドラカの方角から寒季になると飛んでくる渡り鳥の一種で、ダチョウのように大地を駆け抜けて、そんな体格なのに一時的にだけど空を飛ぶことも出来て、クチバシにはついばんだ生き物を石にしてしまう魔力を秘めている。長く生きたコカトリスは炎を操る魔力や毒の沼を生み出す呪いまで扱うともいわれていて、意外と人懐っこい性質と併せて、フィアレアド王国ではグリフォンと並んで飼育が盛んなんだとか。
ってトサカがわあわあ喚きながら説明してた。
「そして俺がコカトリスを率いる頭目、ピッコロ・ガロ様その人よ!」
コカトリスは肉としても優秀で、1頭当たりの収獲量も多く、さらには肉質も良い。骨も上質な出汁が取れるし、卵も栄養価が高い。量的な意味では完全に鶏の上位互換だ。
「そもそもなんでこんな場所で強盗団やってるかっていうとだなあ」
コカトリスの肉の中でも特に人気なのが、もも肉だ。重たい体を支えるために発達したもも肉は、絶妙な柔らかさとしっかりとした歯応えがあり、焼けば熱々の肉汁が滴り、揚げれば噛んだ瞬間に閉じ込められた旨みが口の中で爆発する。今まさにルチが目の前でコカトリスを捌いているけど、やはり目を引くのはもも肉だ。もちろん胸肉や手羽先も美味しいと思うけど、鶏で最も美味しいのはもも! コカトリスも例外ではないのだ!
「話すと長くなるが、俺はこの先にあるエルアラッドの町の出身なんだが、あそこは典型的な王党派の町でよお。要するに身分制度がめちゃくちゃ厳しいわけよ」
ルチがコカトリスを器用に、もも、手羽、胸、尻、さらに背肉と首、モツと分けていく。今まさに聞いた話によるとコカトリスの心臓は絶品で、味もさることながら薬効もあり、貧血から虚弱体質まで大抵なんとかしてくれるらしい。私も健康といえば健康だけど故郷の家族に比べたら全然弱いので、これも食べておきたい部位のひとつ。
「あの町にいたら一生日の目を見れない、俺はそう考えてコカトリス牧場を作り、数年かけてコカトリスの軍団を作り上げたのさ!」
ルチが火を起こして、その上で金属製の杭をぶっ刺した肉を焼き始めた。滴る肉汁、燃え盛る脂、香ばしく漂う香り。もう我慢できない、いっそちょっとくらい生でもいいんじゃないかなあ?
「それがこのコックスコーム強盗団ってわけよ! どうだ、俺のコカトリス軍団の恐ろしさは……って、なに勝手に食ってんだコラァ!」
鶏のような赤いトサカが一瞬にして頭上から消えた。ルチがナイフで横に払って、根元から刈ってみせたのだ。根本というにはちょっと皮と肉を削ぎ過ぎてる気がするけど。
「生贄、大事。感謝」
精霊への感謝の気持ちとして捧げるみたい。うん、感謝は大事だよね。感謝の気持ちを忘れずにコカトリスのお肉もいただいてしまおう。
「うあぁぁぁぁぁぁっ!」
「騒ぐな、すぐに治してやるから」
血を噴き出す頭を押さえてのた打ち回る元トサカに、モグリールが再び回復の杖を向ける。傷はゆっくりと癒されて傷口は再生した皮で塞がり、どうにか人間の頭の形を保っている。トサカ? トサカは炎の中に投げ込まれた。
「なんなんだよ、あなたたちはさあ!? 俺が一体なにしたっていうんだよお!?」
トサカが目に涙を浮かべて喚いている。いや、君はなにもしてないよ。ただちょうどお腹が空いた頃合いでコカトリスが現れてくれたってだけで。
「そう嘆くなよ。コカトリス代なら払ってやるから」
ちょっと、モグリール、無駄遣いは駄目だよ。旅の路銀だってタダじゃないんだから。
「そういうことじゃねえんだよ、俺の努力を返してくれって話なんだよ!」
「でもなあ、お前が金を受け取っても受け取らなくても、うちの蛮族二人もう止まらないぞ」
それはそうだ。私はおなかが空いている、ルチもおなかが空いている。なんだったら口にしないだけで、みんなおなかは空いてる! コカトリスの香ばしい匂いにつられて、ゴブゴブズやウェンディゴのウストムィ、サイクロプスのでっぷりやオークのピギー、他にもタコに羊にチンピラふたりに踊り子にバリスタにノッカーアップ。みんな手にフォークとかナイフとか握り締めて、コカトリスの肉を物欲しそうに見ているのだ。
「なんだなんだ、この集団! もしかしてあなた様方は……オルム・ドラカの軍勢!?」
「そうだよー。オルム・ドラカ、オルム・ドラカ」
もちろん嘘だ。あえてどこの誰だと名乗るならノルドヘイムのヤミーちゃん、もしくはスルークハウゼンのかわいい新米冒険者のヤミーちゃんだ。でも誤解されても構わない、むしろこっちが有利になる誤解はいくらでもしてくれて構わない。オルム・ドラカはフィアレアド王国をすでに陰から掌握している。つまり腕力や戦力で劣らない限り、もうなんでもアリってことだ。
そういう誤解はお肉の次に大歓迎だ!
「もう終わりだぁ……このまま死ねっていうのかよぉ……!」
「そんなことないよ、元トサカ頭。君には大事な使命がある」
私は目一杯の優しさを声に乗せながら、四つん這いで泣き叫ぶ元トサカの肩にポンと手を置いた。
「私が用事を済ませて帰る時に、またコカトリスを食べさせてくれないとね」
「うわあぁぁぁぁぁぁ……!」
大の大人が泣き叫ぶのなんて珍しい光景だけど、そんなことより今はコカトリスだ。みんなに全部食べられる前に、私も心臓ともも肉を食べるんだから!
◆❖◇❖◆
「じゃあ、またね! 元トサカ!」
「もう嫌だあぁぁぁぁぁぁ……!」
こうして満腹になった私たちは元トサカに別れを告げて、ついでに非常食兼戦力にとコカトリスをオスメス1頭ずつ譲ってもらって、銅貨の1枚も払わずに次の町へと向かっている。コカトリスが私たちに懐くか心配だったけど、どうやら3歩歩けば全部忘れるのは鶏と一緒で、今では私とルチを乗せて楽しそうに歩いている。
「ヤミー、同じ」
「なにが?」
「3歩、忘れる。鶏、ヤミー、一緒」
いやいや、私がそんなすぐに忘れるような言い方して。そんなねえ、私に限って何か忘れるなんて無いから! こう見えてもねえ、ヤミーちゃんは天才なんだから!
「使者、捕まえる、オルム・ドラカ。道案内、忘れた」
「……ん?」
そういえばそんな予定立てていたような……あー、タンタモルラにいた醜い生き物! あいつにオルム・ドラカまで連れて行かせる計画だった! いや、あれは相手が悪い。あんな臭い生き物、記憶が飛んでも仕方ない、
「私、自信ある、記憶力。任せる」
確かにルチは妙に記憶力がいい。私が忘れがちな人の名前とか通りの名前もよく覚えている。その割に言葉はさっぱり上達しないけど。
「ところで次の町ってどんなところ?」
「逸らした、話」
そんなわけないじゃん、次の町が気になるだけで。さっきの元トサカは身分性が厳しとか言ってたけど、私たちにはあんまり関係なさそうかな。だって私たち町の住民でもなければ、この国の民でもないし、そもそも自由の身だし。でも旅人には水も飲ませない、とかだったら嫌だな。私だってむやみやたらと死体を増やしたいわけじゃないのだ。
「エルアラッドの町か……ヤミーちゃんが暴れないことを祈るよ」
馬車の荷台からクアック・サルバーが肩をすくめながら告げた。馬車の隣でモグリールも諦めたような顔をしている。同じくヤーブロッコもだ。
なんだなんだ、人を狂戦士みたいに言ってくれちゃって。私だっていつも殴って解決するわけじゃないんだから。
「エルアラッドは奴隷制の町なんだよ」
なるほど? よくわかんないけど、なんだか今から暴力が飛び交う予感でいっぱいだ!
▶▶▶「自由より重い足枷など無い」
≪加入ユニット紹介≫
ココ
種 族:コカトリス(オス、6歳)
クラス:コカトリス(レベル16)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 34 15 5 7 3 7 11 9 2 5 5↑4↓5(飛行)
成長率 40 40 10 20 15 30 20 35 10 15
【技能】
短剣:- 剣術:- 槍術:- 斧鎚:- 弓術:- 体術:D
探索:D 魔道:- 回復:- 重装:- 馬術:- 学術:E
【装備】
装備不可能
【スキル】
【個人】デストリッチ(移動マス分のダメージを追加するキック。腕力%でノックバック発生)
【固有】クチバシ(嘴による格闘攻撃を可能にする)
【固有】騎乗(人間、一部の亜人種族を乗せる)
【固有】石化クチバシ(クチバシ攻撃時に低確率で石化を付与する)
【??】
【??】
リコ
種 族:コカトリス(メス、6歳)
クラス:コカトリス(レベル16)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 34 14 5 8 3 6 12 6 2 7 5↑4↓5(飛行)
成長率 40 40 10 20 15 30 20 35 10 15
【技能】
短剣:- 剣術:- 槍術:- 斧鎚:- 弓術:- 体術:D
探索:D 魔道:- 回復:- 重装:- 馬術:- 学術:E
【装備】
装備不可能
【スキル】
【個人】デストラウス(高低差分のダメージを追加する落下攻撃。腕力%でスタン発生)
【固有】クチバシ(嘴による格闘攻撃を可能にする)
【固有】騎乗(人間、一部の亜人種族を乗せる)
【固有】石化クチバシ(クチバシ攻撃時に低確率で石化を付与する)
【??】
【??】
≪NPC紹介≫
ピッコロ・ガロ
種 族:人間(男、23歳)
クラス:密猟者(レベル17)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 27 8 3 6 3 9 20 12 13 4 4↑2↓3(歩兵)
成長率 35 25 10 20 15 25 30 15 20 15
【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 弓術:D 体術:E
探索:D 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:D 学術:C
【装備】
アンゴディア式散弾銃 威力17(9+8)
革のマント 回避+10
【スキル】
【個人】ルースターズ(隣接するコカトリスの腕力・魔力+2)
【基本】幸運+5
【発見】皮剥ぎ(倒したモンスターや動植物を素材に変える)
【発見】マタギの心得(銃装備時に必殺+10)
【??】
【??】