ルチ・フォナ外伝 第11話「部族の少女が“人間”の町に踏み込む話」
冒険者の町スルークハウゼン、と名前だけ聞くと、いかにも牧歌的で田舎めいた集落のような姿を想像してしまいますが、その実態はまるで正反対です。こんな騎士団の中枢からもラステディン教会の本拠地からも遠く離れた地に、よくもまあこれほど巨大なものを築いたと驚かざるを得ないほど巨大な都市は、人の背丈の優に数倍はある石壁で周囲をぐるりと取り囲み、壁の上には見張り櫓を兼ねた監視塔と軍勢に向けて使うような野戦砲が並ぶ、まさに要塞のような佇まいをしています。こういうのを城塞都市と呼ぶのでしょうか。南のフィアレアド王国との国境線が遠くないとはいえ、これでは最前線の要衝のようではありませんか。
そういえばハルトノー諸侯連合とフィアレアド王国は交戦中でしたね。必然的に守りにつぎ込む予算も増えたのでしょうか、それとももっと強大な別の勢力との衝突に備えてでしょうか。まあ防衛力は高いに越したことはありませんからね。外敵からの脅威が減ってくれる分には文句もありません。
大陸中西部の要所にして冒険者たちの集う町、スルークハウゼンですが、教会で学んだ知識では元々は耕す家の名前の通り、小さな開拓者たちの集落だったそうです。数十年に渡る人間同士の勢力争いと、たまに発生する亜人種族との戦闘の中で大量の移住者が入り込み、増えた人数分だけ土地を開拓して、増えたトラブルの数だけ大地を踏み固めて、いつの間にやらここまでの規模になったのだとか。
ハルトノー諸侯連合の誕生と共に一帯が平定され、シェーレンベルク騎士団の統治下となってからは重要拠点のひとつとなり、オルトア商業連合と教会の影響力も強く及ぶ交易都市として完成しつつあります。
当然ですが騎士団の駐屯地もありますし、開拓者から活動範囲を拡げた冒険者たちを束ねるギルドもあります。商業ギルドや石工ギルド、果ては盗賊ギルドなどもあり、市民生活に深くかかわる類のギルドは行政機関として組み込まれています。
そして教会の支部と大聖堂とまではいきませんが相応に立派な建物もありますし、魔道士育成機関も置かれています。教会支部としての規模としてはかなり大きな部類に数えてもよいでしょう。
「私はノルン・マイグラード、ラステディン教会の研究機関に所属する調査員です。レオーニ・ベルフ教授の調査隊に編入され民族調査の任務に当たっていましたが、ピョルカハイム保護区に入り込んだ無法者の襲撃を受けて、隊は壊滅してしまいました。この町の教会支部の庇護を求めます」
私は身元証明書も兼ねた金属製の認識票、冒険者や騎士団の間ではドッグタグと呼ばれている小さな銅板を掲げながら、城門を警備する衛兵さんに向けて説明しました。半分ほど嘘を含んだ説明ですが、結果は同じなので問題ないでしょう。仮に追及されたら……そうですね、酷く乱暴をされたものの隙を見て逃げ出し、プランドーラ交易道まで逃げ延びたところで彼ら3人に保護された、とでもしておきましょう。3人は年の離れた3兄妹で出稼ぎのためにスルークハウゼンまで向かっていた、そんな感じが現実味があって無難でしょう。長男のアルベルトさんは元炭鉱夫でしたが事故で引退、次男のミゲルさんは家業の畑仕事をする少々やんちゃな若者、妹のエルベシアさんは家事手伝いで村一番と噂の娘、咄嗟に考えたにしては中々の言い訳ですね。
「無法者の襲撃ねえ……どう思う?」
「タグは本物みたいだし、あとは教会に任せようぜ」
衛兵さんたちは多少訝しげにしていたものの、万が一にも教会と揉めると面倒と判断したのか、あっさりと城門を通してくださいました。いいですね、その縦割り行政! 面倒事と負の評価を避ける姿勢、素晴らしい働き方です!
嘘というのは吐けば吐くほどボロが出やすいですから、こちらの情報は無闇に渡したくありません。特にルチさんたちが保護区の部族と知られると面倒です。真実を明かすのは協力者、理想としては平等主義者のヨアヒム・ヘイルワード氏ですが、誰にせよルチさんたちの力に成り得る人物と会ってからです。
「ですが、出来ることはしておきましょう」
「出来ること?」
ルチさんが見慣れない都会の風景に驚いたまま、私の方に向き直りました。せっかくの顔と髪が長旅のせいで随分と薄汚れていますし、まずは宿と風呂と洗濯ですかね。
「まずは安宿に泊まるためにギルドに登録してをきましょう」
「ギルド?」
「冒険者ギルドです。冒険者として登録すればスルークハウゼンの市民として認められ、街中で行動する自由と多少の役得が得たりできます。冒険者用の安宿への宿泊もそのひとつですね」
他にも禁止区域への立ち入りや仕事の紹介、基礎的な教練なんかもありますが、その辺りの細かい役得、それと併せて発生する義務関係については後で説明しておけばいいでしょう。まずは登録と宿と風呂です、私も久しぶりにベッドの上で寝たいですからね!
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冒険者ギルド、正式名称はスルークハウゼン開拓部都市計画課冒険者管理係事務所。スルークハウゼンの行政機関のひとつで、主に冒険者の管理と周辺の開拓、それに伴う利益の徴集と配分を担う組織です。その性質から騎士団とも教会とも相互に協力し合っていますが、所属としてはオルトア商業連合になるのでしょう。そのため他の組織と比べて自由度が高く、利益と結果を重視する傾向が強いと聞いています。
私は教会内での身分が確立しているので登録する必要はありませんが、ルチさんたちはこのままだと身元不明の侵入者ですからね。騎士団に加わるには生まれも含めて相当厳しい条件が課せられますし、教会に保護されるにしても似たようなものです。総意として保護区を敵視する彼らの世話になるのはルチさんの逆鱗に触れかねません、冒険者としての登録というのは妥当な落としどころでしょう。
「ルチ・フォナさん、カラ・ネハシュさん、ヤクシさんですね。お疲れさまでした、これで登録完了ですよ」
ギルドの美人受付嬢が書類をカウンターに押し付けながら束ねて、笑顔で微笑みました。保護区の部族でも登録できるか懸念もありましたが、どうやら冒険者ギルド的には開拓の役に立ちそうなら受け入れる方針のようです。予想通り教会よりは柔軟というか融通が利くようで安心しました。
「ノルンさん、あなたも登録しておきますか? こちらとしては教会との掛け持ちも厭いませんよ」
「では、お言葉に甘えて」
もしかしたらこの先、選択肢次第では教会の所属から外れてしまう可能性もあります。そうはならないように立ち回るつもりですが、私自身あまり教会を信用していませんし、ルチさんたちと教会を天秤に乗せる際に迷わない自信もありません。
もちろん最悪の場合はルチさんたちを見捨てる、という選択肢も捨ててはいませんけども……。
「お姉さん、冒険者向けの安宿ってこの辺にありますか?」
「宿代、勿体ない。野宿、構わない」
「……私が泊まりたいんです」
ルチさんたちは野宿も平気なんでしょうけど、私はもう野宿は勘弁願いたいですし、水でもいいから浴びたいのです。そもそも治安も状況もわからないのに初めての町で若い女の子を野宿させるとか、選択肢としてありえませんから。
「それと、明日からでも出来そうな仕事ってありますか? 町内清掃でも狩猟でもいいんですけど」
ギルドは所持金の少ない冒険者向けに仕事の斡旋もしています。その代表例が町内清掃や近辺での狩猟で、前者は名前の通り町の掃除全般、後者は猪狩りや鹿狩りを指しています。掃除くらいなら体力と根性と汚れる覚悟さえあれば誰でも出来る仕事ですし、狩猟もルチさんたちであれば余裕でしょう。他にも夜明け前に依頼人を起こして回るノッカーアップや手紙の配達、金持ちの老人の召使のような仕事もあるようなので、滞在している間にひととおり済ませておきましょうか。
即金で貰えて危険も少ない仕事なんて、紹介してもらえるだけでもありがたいですから。
「おい、見ろよ、あっちの若いの。あれは将来有望だぞ」
「うちのパーティーに入ってくれねえかなあ」
「俺、ちょっと便所に行ってくるわ」
ルチさんの姿を視界に捉えた冒険者たちが、勝手に品定めを始めました。日の高いうちからほろ酔いになっているようですし、さすが冒険者のみなさんですね。点数をつけるなら100点満点の社会不適合社っぷりです。本来であればそういう品性に欠ける発言は、相手に聞こえないように小さい声で喋るのがマナーですが、冒険者にそんなものを求めてはいけません。彼らは他人の家に土足で上がって隅々まで物色し、そのまま勝手に住みついて、更にここは自分の家だと言い張るような図々しい人種なのです。残念ながらそういう人たちこそ、冒険者に向いているとされています。
ちなみに冒険者ギルドはそういった世間一般の良識に欠ける駄目な人向けに、受付には酒場が併設されています。これはどの町のギルドでも共通でしょう、冒険と酒は付き物です。
「なあ、そっちの黒髪のお嬢さん。俺たちと一緒に飲まねえか?」
もちろんそんな人たちとあえて関わる必要はありません、この場は無視する一択です。
「ルチさん、面倒事は避けましょう」
「わかった」
ルチさんが小さく頷いたかと思うと、そのまま冒険者のテーブルまで歩み寄り、少年くらいなら簡単に落とせそうな笑顔を浮かべてみせました。
「仲良くする、面倒起こらない」
まあ、理屈でいうとそうですけど……。
「おっ、わかるねえ、お嬢ちゃん。って、なんで髪の毛掴んでんの? って、なんでナイフ? って、なんで突きつけてるの!?」
ルチさんが一切の無駄のない動きで冒険者その1の髪を掴み、抵抗する間もなく額にナイフを押し当てました。
「仲良し、一緒に生贄捧げる、一番早い」
「生贄? 生贄ってなに? もしかして俺!?」
ルチさんが楽しそうに笑っています。ああ、もう駄目です、完全に生贄を捧げる気分になっています。そういえば保護区を出てから今日まで、生贄を捧げる儀式をやっていませんでしたからね。儀式の頻度は知りませんが、精霊への信仰心が高ければ高いほど頻度も多いでしょうし、生贄をある程度の周期で捧げなければという意志も強いはずです。
「し、失礼します!」
もうこうなったらやけくそです。慌ててルチさんと冒険者その1の間に割り込み、カラさんとヤクシさんの協力も得て彼を押し出してもらいました。最悪、生贄に捧げるのは仕方ないとしましょう。でも衆人環視の状況では駄目です。今後、協力を得る際に確実に致命傷になってしまいます。
「外で! 外で仲良くしましょうね!」
「確かに。ギルドの中、火、使えない」
ギルドの建物ごと燃やしかねませんからね、ルチさんの常識に合わせてしまうと。
大慌てでギルドの外へと駆け出して、冒険者その1に「とっとと逃げなさい、死にますよ」と警告を告げながら意図的に自分の足をもつれさせました。
「わあー、転んでしまいましたぁー。うわー、大変だぁー、逃げられましたぁー」
自らの大根芝居っぷりに恥ずかしくなりそうですけど、これでいいんです。私が恥を掻くくらいで丸く収まるなら、いくらでも恥をかいてやりますよ。猪のような勢いで走り出す冒険者その1を見送りながら、私たちを追い抜いて走っていく冒険者その2とその3も当然見逃します。
「仕方ないですね、生贄はまた今度にしましょうか」
振り向くのは怖いですが、出来るだけ頑張って作った笑顔をルチさんに向けます。今まで見たこともないくらい不満そうな顔をしていますが、後できちんと説明すればきっと理解してくれるでしょう。私も逃がしたくて逃がしたわけじゃないんです、ヒルチヒキ族への支援を得るため、延いてはより多くの生贄を捧げるためですから。
「さあ、気を取り直してお風呂入りましょう!」
未だに不満が顔から落ちてくれないルチさんの手を引きながら、私たちは安宿へと向かったのでした。
ちなみに宿代のため、次回の町内清掃への参加を申請しておきました。大した収入にはなりませんが、宿代と服代、食事代くらいにはなると思います。ヘイルワード氏との面会に備えて、きれいな服でも新調しておきましょうかね。
▶▶▶「せっかく都会に来たから下水道のワニを捕まえる話」
≪NPC紹介≫
アンナ・バレンティエラ
種 族:人間(女、24歳、属性:雷)
体 格:160cm、50kg
クラス:受付嬢(レベル10)
移 動:4↑2↓3(歩兵)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力
能力値 23 6 4 4 5 12 10 2 18 26
【スキル】
【個人】看板娘(ギルド内にいる時、魅力+10)
【種族】貴族の嗜み(撃破した敵ユニットから少額の金を入手する)
【兵種】天使の微笑み(金では買えないレベルの微笑み、特に効果はない)
【??】
【??】
【??】
【技能】
短剣:C 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 鞭術:E 弓術:E 銃砲:E
体術:E 探索:C 魔道:D 回復:C 重装:E 馬術:E 学術:B
【装備】
鋼の短剣 威力11(5+6)
リトルエンジェル 魅力+4
【所持品(3)】
なし