もぐれ!モグリール治療院 序章―4―「未開の荒野でマイムマイム」
地理に詳しいスプリガンが加わったので、陸路を進むことになった。以上、あらすじおしまい。
大陸北部ピョルカハイム保護区は、獣の亡骸のような岩肌と果てしない荒野が拡がる、神から見捨てられし土地なんて呼ばれる場所だ。文化の異なる民族を受け入れられずとも尊重したい人間側の理屈と、外部から文明を持ち込まれたくないという原住民側の希望が重なって、といえば聞こえがいいけど、実際は
「開拓価値のある鉱山なんかは確保したから、お前らはここにでも住んでろ野蛮人!」
「なにをー! ふざけんな、よそもん共がー!」
という醜い争いの結果、敗北した原住民族を押し込んだ隔離地だ。なおその争いの被害は人間側が百数十人、原住民側は数千人規模にのぼり、互いに深い禍根を残しているのは言うまでもなく、旅人が襲撃されてそのまま帰らぬ人になった事態が多発、現在では管理者以外の立ち入りは禁止されている。とはいえ原住民側も一枚岩ではなく、中には保護区外の農家や商人と交易する部族もいたりする。
……というのが、地理にも歴史にも詳しいスプリガンのでっぷりが教えてくれた情報。
本来なら避けて通りたい場所ではあるけど、人間以外の種族を嫌う教会の勢力下を通る方が危険なので、多少の危険は仕方ない。まあ森を通れば熊とか狼とか遭難とかあるし、海を進めばサメとか海賊とか遭難とかあるし、私の故郷なんか吹雪と雪崩と熊と狼と飢えと遭難とのフルコースだったので、いつだってどこだって危険と隣り合わせなのだ。
大事なのは危険を避けるだけではない、危険に遭遇した時に切り抜けるだけの腕力と知恵があるかどうかだ。
私はせめて彼らの嫌う側の人間と見做されないように、なおかつ獣の亜人かなにかだと誤解してもらえるように狼の毛皮を纏い、陸上では全く役に立たなくなったタコを荷車に乗せて、えっちらおっちらと荒野を進んでいる。ちなみに荷車もそれを引く数頭の牛も、保護区の傍の牧場から借りてきた。間違っても泥棒ではない、黙って借りてきただけで返すつもりはあるのだ、そのうちにだけど。
「プシュルルル」
「そうだねー、暑いねー」
タコが何を言ってるかわからないので、適当な返事を返す。しばらく我慢しろ、タコよ。いざとなったら非常食としておいしく召し上がってあげるから。
予定だと保護区を抜けるまで最短でも2ヶ月、このまま誰とも遭遇せずに行きたい。もし出くわすとしても、どうせなら、わーこの子毛皮着てるーかわいいー、みたいな好意的な部族がいい。私も大雑把な括りではノルドヘイムの蛮族、そんなに期待はしてないけど案外仲良くなれるかもしれないよ、結局は人によるけど!
◆❖◇◇❖◆
なんて言ってたのが数日前、私たちは荒野のど真ん中で妙な集団に囲まれていた。そいつらは日に焼けた褐色の肌のあちこちに、白い紋様のようなものを描き、顔にドクロを模した模様を塗ったり、部族の中でも地位が高いのか低いのか獣の頭蓋骨で作った面を被っているのもいる。手には狩りのための弓とか槍を構え、攻撃する気配は漂わせているものの、こっちの狼毛皮の美少女、子どものゴブリン3人、スプリガン、タコという並びに戸惑っているのか、今のところは遠間から様子を伺っている。
「バプ・ベーグ・ゴ! ラ・ダゾ!」
なるほど、言葉は一切わからないけど、おそらく身包みを置いて行け、さもなくば攻撃する、みたいなことを言っているのだと思う。山賊や盗賊はだいたいこういうセリフを吐くから、こいつらも多分そうだと思う。
少なくとも、なんて美しい娘なのだ、嫁に来てくれ、とかではない。私も自分の美貌をそこまで過信するような世間知らずではない。むしろ、度を過ぎたかわいさは争いの種になると考える。人々が金塊とか宝石とかを巡って争うように。
そんな荒野に落ちた一粒の白宝玉こと私は、静かに肺いっぱいに息を吸い込み、胸と腹が空気で満たされると同時に、
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
地鳴りのような大声を発して集団を威圧し、そのまま真正面にいる槍持ちの頬めがけて鞘に入ったままの短剣を突き出し、思い切り顎を打ち抜く。槍持ちは糸が切れた人形のようにぐにゃりと地面に横たわり、そのまま蹴り起こして他の槍持ちとの壁に利用して、肉壁の影から飛び出してこめかみに短剣の柄尻を打ち込む。
「でっぷり! ゴブゴブズ! 無力化して!」
何事も先手を取るに越したことはない。私の切り込みに併せて、でっぷりも瞳を光らせて魔法を使い、槍持ちの意識を深く沈めて眠らせる。暇な時間に鍛えさせた甲斐もあって、ゴブリンたちも3人がかりとはいえ槍持ちをひとり組み伏せることに成功した。
「ルベ・ゾ・ワドコ!」
「ケエク・ベタネ! グメ!」
言葉はわからないけど、骨を被った弓持ちがドクロ化粧の弓持ちを止めたようにも見える。実際、ドクロ化粧は鼻息荒く滾ってはいるものの、促さるままに弓を下ろし、こちらを睨むように見つめている。
「待て、敵対、ない。言葉、これでわかるか?」
骨を被った弓持ちは、ノルドヘイム含めて広く使われる一般的な標準語が少し喋れるようで、敵意がないことを伝えていた。頭上に持ち上げた骨から覗く頬に白い横線だけ塗られた顔は、私と似たような年頃の女で、私ほどではないけど目鼻立ちの整った愛嬌のある顔をしている。
「うんうん、わかるよー。で、君たち何なの?」
「私たち、ヒルチヒキ族。妙な集団、出てきた。獣人、ゴブリン、ひとつめ、タコ、なにこれ? 調べる。こうなった」
どうやらヒルチヒキ族という部族で、私たちが気になったから調べにきたらしい。確かに妙な集団ではある、と言えなくもないのかな……人間だけの組み合わせのほうが普通といえば普通だし。
で、調べようとしたら急に殴りかかられて、返り討ちに遭った形になったと。いや、私は悪くないよ。こういうこともあろうかと首を切り落としたり、頭を勝ち割ったりしてないし。
「私たち、人間、嫌い。教会、もっと嫌い。ゴブリン、獣人、そうでもない。ひとつめ、よくわからない。人間、嫌い、理由ある。私たち、仲間、教会、連れていく」
「連れていくってどこへ?」
「鉱山。仲間、帰らない。他の部族、鉱山行く、帰らない。戦う、何度かした。敵、強い、銃使う。だから言葉、覚えた。商人、毛皮売る、武器買う。力、蓄える」
おおよその歴史はでっぷりから聞いてて知ってたけど、今もなお禍根は生まれ続けていて、特に鉱山に連れて行って働かせていることへの恨みは大きく深い。そりゃそうだ、もし私だったら鉱山を迷わず焼き討ちしに行くし、連れて行こうとする奴の首を刎ねる。当然、生きてる仲間がいるなら奪い返す。
「よし、じゃあ鉱山潰しに行こっか?」
「……助ける、くれる? なぜ?」
なんでと聞かれても理由なんてひとつだ。鉱山ということは金や宝石、でなくても金に換わる価値のある鉱石があるに決まってる。鉄道代もなくて困ってたし、恩も売れて金も手に入るなんて願ったり叶ったりだ。
「私の故郷には、こんなステキなことわざがある。困った時はお互いさまってね!」
でっぷりとゴブリンたちが冷ややかな目線を送ってくる。もう、そんな目で見るんじゃない。これは紛れもなく善意から生まれた手助けなんだから。
鉱山はピョルカハイム保護区の周辺に点在していて、誰がどこの鉱山に連れていかれてるのかはわからない。ただ鉱山のような体力仕事で、労働力をいちいちあっちこっちへ移すとも思えないので、ヒルチヒキ族に限っては最も近い位置にある金鉱山で働かされてると思う。
ヒルチヒキ族で数少ない標準語が喋れる女、ルチ・フォナによると、鉱山は教会と商業ギルドが共同管理していて、そこに警備として騎士団から兵力が派遣されたり、腕自慢のならず者みたいなのが雇われたりしている。鉱山は昼夜を問わず稼働していて、それでも夜間は効率も悪いため最少の人数で働いているので、攻めるなら夜の内がいいらしい。ひとつの鉱山にいる労働力は100人以上、それを10人くらいの鉱山師が指揮していて、更に少数の監督官が見張っている。坑道入り口の手前には労働者が寝泊まりする簡素な造りの寮と、鉱山師や監督官が使うそこそこ立派な宿舎が何棟か建っていて、夜盗や盗掘を警戒して常に数人の警備兵が辺りを巡回している。
「とりあえず全滅させるとして、建物内で寝てる奴らは外に出てくる前に家ごと燃やそう。警備兵を先に排除したいけど、どうしようかな。誰か潜り込んで騒ぎでも起こす?」
ヒルチヒキ族の斥候があらかじめ調べておいた見取り図を眺めながら、なにか良い方法はないか考えていると、ルチが剣よりは長く槍より短い、木と鉄で出来た棒状の道具を抱えてみせた。それは銃という名前の狩猟道具で、ノルドヘイムのような最果ての地では見かけないけど、人口の多い騎士団領や教会統治地ではそこそこ普及しているのだとか。
火薬を使って金属の弾を飛ばし、射程は弓と同程度に長くて遠い。大きく分けて、単発式で比較的安く手に入るルェドリア銃と、標的の手前で筒が裂けて小さな弾に分かれるアンゴディア式のふたつがあって、商人から手に入れることが出来たのはルェドリア銃。安いといってもヒルチヒキ族が入手できたのは一丁のみ、まさに虎の子とでも呼ぶべき得物だ。
「これ、弓より強い。兜ない、一撃」
おまけに威力は弓よりも強く、頭を撃ち抜くなら弓よりも効果的ときた。なるほど、いい武器だ。私も一丁欲しいな、あとで譲ってくれないかな。
「じゃあ、こうしよう。ルチが警備兵を撃ったら、それを合図にゴブゴブズは家に火をつけて回る。私とでっぷりで外に出てきた奴らの頭を片っ端からかち割っていくから、あとの細かいところの指示はルチに任せた。連れていかれた連中の保護は、そっちで勝手にやっといて」
私は大雑把な作戦を立てながら、油を染み込ませた布や火打石をゴブリンたちに振り分けて、表情に硬さを漂わせるヒルチヒキ族に向けて余裕の笑みを浮かべてみせた。こういうのは心の余裕が重要になってくる。気負い過ぎは良くない結果をもたらしかねない。
ちょっと気晴らしに焼き討ちしに行って、ついでに全滅させる、くらいの心のゆとりが大切なのだ。
数日後、鉱山がひとつ陥落した。
鉱山の警備ははっきりといえばザルそのもので、まさか襲撃されるだなんて思いもしなかったかのような体たらく。一応、それなりの腕利きの警備兵はいたけど、監督官は弱り切った奴隷に鞭を振るうのは得意でも正面から殴り合うのは苦手で、敵になるかもと想定してた鉱山師たちは疲れ果てていて、争いなんて勝手にやってくれといった具合。結局、数人の監督官と警備兵、それも半数は眠っているのを、タコを除く私たち5人と、ルチとヒルチヒキ族の戦士4人で襲う形となり、数においても勝負は始まった瞬間に決着していたのだ。
それにしても銃という武器、あれは中々に便利だ。鬨の声となったルチの狙撃は、甲高い音と共に警備兵の頭に風穴を開けていた。音が出るという点では弓矢に劣るかもだけど、むしろ音が出ることで相手を驚かせて慌てさせることだって出来る。ほとんど音の出ない弓矢と併せて使うのが、最も効果的なのかな。いいなー、私も欲しいなー。私も長距離からばーんってしたいなあ。
なんて感想はさておいて、私は警備兵の胴を薙いできっちりととどめを刺して回り、ゴブゴブズは手当たり次第に宿舎を燃やし、集められていた金塊を片っ端から奪って回った。ついでに捕らえられていた部族たちも解放した私たちは、そのままヒルチヒキ族の集落へと大戦果と共に戻ったのだった。
「で、こいつらどうするの?」
ヒルチヒキ族の戦士たちは、まだ息のある警備兵や監督官まで連れ帰っていた。仲間を連れていかれた仕返しなのかなと思っていたら、彼らは手際よく丸太を地面に立てて、その下に枯れ木や枯れ葉を積み重ね、さらにはぐるっと円を描くように獣の骨を置いて回った。
「なるほど、これは彼らの儀式のようだな。俺たちにはそんな風習はないが、例えばゴブリンは狩った得物をひけらかして輪になって歌を歌うし、確かノルドヘイムも獣の皮を村の広場に飾る習慣があったよな」
あー、そういえばそんなのあったあった。じいちゃんやおかーさんたちが熊の皮を囲んで宴会とかしてた。あれ、捨てるのも勿体ないからって飾ってたんだけど、外にはそんな風に伝わってるのか。
「メフ・セテ!」
「ヤボ・ジ・テリガホビ!」
言葉の意味は全くわからないけど、丸太に括りつけられた監督官が燃やされる中、警備兵たちが次々に皮を剥がれて叫び声を上げる。どうやら一番地位の高いやつを火炙りにして、それ以外は皮を剥ぐのが基本のようだ。さらに戦士ではないヒルチヒキ族は両の掌を組んで地面に跪き、これまた言葉はわからないけど、たぶん感謝とかを捧げているのだと思う。
「私たち、精霊、敬う。祈り、生贄、捧げる。生贄、敵、獣、色々。精霊、喜ぶ。ヤミーたち、加護ある」
どうやら私たちにも精霊の加護があるらしい。いいぞいいぞ、もっと生贄捧げろ。また鉱山潰しに行っちゃう? あと10人くらい捧げちゃう?
……こら、でっぷりとゴブゴブズ、野蛮人を見るような目を向けるんじゃないよ。これだってヒルチヒキ族の立派な文化、お互いを尊重してこそ平和というものは生まれるのだ。いや、こいつら、私の方を見てるな。おい、その目はどういう意味だ?
「今回のこと、感謝、足りない。私、しばらく一緒。他の部族の言葉、わかる、そこそこ。役立つ」
「うん、よろしくね」
私たちは新たな同行者と金塊を抱えて、晴れやかな気持ちで再び荒野を進み始めた。まだ冒険者じゃないけど、すでに強盗団になってる気はする。いーや、きっと気のせいだ。気のせい気のせい。
To be continued……
≪加入ユニット紹介≫
ルチ・フォナ
種 族:ヒルチヒキ族(女、17歳)
クラス:ヒルチヒキ族(レベル6)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 21 8 5 1 4 27 9 15 1 6 3↑3↓3(山岳)
成長率 25 35 20 10 15 35 30 15 10 20
【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:D 斧鎚:E 弓術:D 体術:E
探索:D 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:D
【装備】
ルェドリア銃 威力14(6+8)
狩人の弓 威力11(3+8)
照準器 命中+10
【スキル】
【個人】復讐心(戦闘不能の味方が出ると確定で狂戦士化し、腕力+3する)
【固有】血の祈り(攻撃を命中させる毎に命中+5%、最大+50%)
【固有】傷の祈り(攻撃を受けるごとに回避+3%、最大+30%)
【??】
【??】
【??】
≪NPC紹介≫
ヒルチハンター
種 族:ヒルチヒキ族
クラス:ヒルチヒキ族(レベル5)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 21 7 4 1 4 11 6 10 1 - 3↑3↓3(山岳)
成長率 20 25 10 10 20 30 20 10 5 5
【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 弓術:D 体術:E
探索:D 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:E
【装備】
狩人の弓 威力11(3+8)
【スキル】
【個人】白色の染料(戦闘開始時、確定で狂戦士化する)
【固有】血の祈り(攻撃を命中させる毎に命中+5%、最大+50%)
【??】
【??】
【??】
【??】
ヒルチスピアー
種 族:ヒルチヒキ族
クラス:ヒルチヒキ族(レベル5)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 21 7 4 1 4 11 6 10 1 - 3↑3↓3(山岳)
成長率 20 25 10 10 20 30 20 10 5 5
【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:D 斧鎚:E 弓術:E 体術:E
探索:D 魔道:E 回復:E 重装:E 馬術:E 学術:E
青銅の槍 威力12(5+7)
【スキル】
【個人】白色の染料(戦闘開始時、確定で狂戦士化する)
【固有】傷の祈り(攻撃を受けるごとに回避+3%、最大+30%)
【??】
【??】
【??】
【??】