もぐれ!モグリール治療院 序章―7―「ようこそ、冒険者の町スルークハウゼンへ」

前回までのあらすじ≫
プランドーラ交易道をひたすら進んでる、徒歩で! 以上、あらすじおしまい。


果てしないくらい続く交易道を延々と進んで、途中で山賊に襲撃されて返り討ちにしたリ、駅舎と宿も兼ねた小さい街で喧嘩をしている商人を拳で仲裁したり、腰を痛めた農夫のおばあさんから馬を譲ってもらったり、でっぷりやルチから地理について学んだりすること数十日、ようやくそれは見えてきた。
よくもまあこんな大仰なものを作ったなって呆れるくらい巨大な、人の背の数倍はある石壁で周囲をぐるっと隙間なく囲んだ城塞都市。大陸中西部の要所にして冒険者たちの集う町、スルークハウゼン。元々は耕す家の名前の通り、小さな開拓者たちの集落だったそうだけど、数十年に渡る人間同士の勢力争いとたまに発生する亜人種族との戦闘の中で大量の移住者が入り込み、増えた人数分だけ土地を開拓して、増えたトラブルの数だけ大地を踏み固めて、いつの間にやらここまでの規模になったのだとか。
シェーレンベルク騎士団の統治下で城塞都市として完成し、終戦後はハルトノー諸侯連合の重要拠点のひとつとして教会や商人たちの影響も強く受ける、いわゆる交易都市になりつつある。
はい、ちゃんと説明できた! どうだ、私のお勉強の成果は!

自慢気にふふんと鼻を鳴らしながら、道中で手に入れた望遠鏡でスルークハウゼンの壁を観察してみると、壁の上の見張り台の上では衛兵が暇そうに欠伸をしていたり、東西南北のあちこちに構えた城門では衛兵がこれまた暇そうに立って、出入りする人たちと呑気に立ち話なんかしてたりする。
つまりは今これといった差し迫った脅威もなく、急な戦争とかは起こりそうにもない状況。南の隣国との国境線はまだまだ遠いし、ハルトノー諸侯連合が出来てからは現在に至るまで停戦中。実際にはちょっとした小競り合いこそ起きたりしてるけど、それよりは領内の治安維持とか開拓とか、あと勢力同士のバランスの取り愛とか、そっちの方が忙しいっぽい。

「要するに適度に暮らしやすく、冒険者としての仕事もありそう!」
「いや、暮らしやすいのはどうですかね?」
鼻息をふんと噴き出す私の横で、元オーク兵のピギーが疑問の声を上げる。ピギーは元々騎士団に雇われていたから、人間たちの社会を私たちの誰よりも肌感覚としてわかっている。いや、私もれっきとした人間なんだけどね、ちょっと育った場所が最果ての土地ってだけで。あとルチも種族的には人間だけどね、ピョルカハイム保護区の部族で、そもそもの文化が大幅に違うってだけで。
「人間の町はあくまでも人間が住む町ですからね。ぼくらオーク兵は遠征でこそ騎士団と野営を共にしますけど、オークはあくまでオークの町で別個に暮らしてるんですよ。スラム街にゴブリンやコボルトが住み着いてた、なんて話は聞かなくもないですけど、人間と同じ町で暮らしてるのはドワーフとエルフくらいです」
なるほど。確かに人間がかなり大雑把に亜人種族と呼んでる種族には、ドワーフみたいに見た目がほとんど人間と変わらない種族から、サイクロプスのような明らかに一線を画す外見の種族、オークやコボルトみたいに見た目ほとんど獣な獣人まで幅があり過ぎる。人間はちょっとケツの穴が小さいところが強いので、あくまで自分たちと近しい種族しか受け入れないらしい。
「尻に丸太でも打ち込んでみる?」
「それで受け入れてもらえたら、そこに住んでるのは人間じゃなくて天使とかですね」
もしくは危ない宗教団体とか。

私は人間だけどノルドヘイムの民なので、見た目だけで判断したりはしない。敵対するなら人間が相手でも頭は砕くべきだし、手下になってくれるならモンスターであっても使うべき、って考えている。私は懐も広いのだ、優れているのが顔と武力と勘の良さと賢さだけだと思ったら大間違いだ!
「私の良さが顔と武力と勘の良さと賢さだけだと思ったら大間違いだ!」
ついでに思ったことを言葉にしちゃう素直さも私の魅力だと思ってる。
「ヤミーちゃんの良さは置いておいて、スルークハウゼンの近くには冒険者が使う休憩小屋も放棄された砦跡もあるから、ぼくは当面の間はそっちを借りることにします。でっぷりさんとゴブゴブズとタコとゴーレムもそっちですね」

え? 一緒に行かないの?


◆❖◇◇❖◆


「よし、行こっか」
「人数、急に減った。戦力、心許ない、ちょっと」

歩いて半日ほどの場所にある砦跡にでっぷりたちをまとめて残し、かろうじて町に入れそうな私とルチの正真正銘人間コンビで、スルークハウゼンに向かうことにした。狼の毛皮を纏った美少女と獣の頭蓋骨を被ったそれなりの美少女、さすがに邪険に扱われない自信はあるし、そうなったらそうなったでぶん殴る心づもりは出来てる。
とはいえルチの言う通り、ふたりで衛兵たちと戦うのは頭数が足りないし、ペット枠みたいな言い訳でゴーレムとタコだけでも連れてくればよかったかも。
「いざとなったら冒険者登録だけさせてもらえばいいし」
「どっちみち、お金、ない。部屋借りる、無理」
そうだった、暮らしやすさの前に暮らすための金がないんだった。早く登録済ませて、お金枷がなきゃ。


「おつかれさまー!」
「はい、ちょっと待ってねー」
城門の前に立つ衛兵たちににっこりと笑いながら声を掛け、そのまま勢いで通り過ぎようとしたら、やっぱり勢いと愛嬌だけでは見逃してくれなかったのか、衛兵に首根っこを掴まれてしまった。なんだなんだ、賄賂か? 賄賂が欲しいのか?
「それとも体目当てか!?」
「いや、そうじゃなくて通行証」
つーこーしょー? なにそれ、食べ物かなにか? それともそういう名前の賄賂?
「……君たち、ちょっと職業はわかんないけど、見るからに外からやってきた人たちでしょ。通行証がないと入れないことになってんの」
だからつーこーしょーってなに?

衛兵が言うには、スルークハウゼンの住人は住民登録証として木札を持っていて、役場なんかの公共機関や外の出入りに必要となるので、大抵の人が紐で結んで首から掛けたり、ベルトに括りつけてポケットに入れたりしているらしい。で、住民以外の外部からやってくる商人や旅人がスルークハウゼンに入るためには、通行証を発行してもらう必要があり、それがどこで貰えるかというと他の町の商業ギルドとか組合とか、旅人向けには町役場とか教会とか騎士団の詰め所とか、あと旅行会社のツアーに申し込んでも貰えたりする。
さすがに市長とか議員とか誰もが知るような有名な資産家なんかだと顔パスも出来るけど、よっぽどの人でもない限りは顔見知りでも札無しでは通さないんだとか。まったく勤勉にも程がある、もうちょっと仕事は手を抜いても罰は当たらないと思う。

「そういうことなら、ほら。これでいい?」
私は荷物袋からくっしゃくしゃになった紹介状を取り出す。この紹介状は、ピョルカハイム保護区内で出会ったスルークハウゼン出身のヒゲマッチョが書いてくれたもので、本来は冒険者ギルドへの紹介状だけど、中に用がある証明みたいなものなんだから、きっと通行証の代わりにもなってくれるに違いない。
「えーと、どれどれ。『スルークハウゼンの諸君、久しぶりだね。私だ、諸君らの愛する筋肉の友、モスト・マスキュラーである。今日も鍛錬に励んでいるかね、ぎゅぁっふぁっふぁっふぁっふぁ。さて、こちらの狼のお嬢さん御一行、冒険者になりたくてスルークハウゼンを訪ねるはずだ。彼女は少々肉の量は足りないが、中々に素晴らしい筋肉を持っている。例えるならば、しなやかで力強い狩人のような、そう猟犬のような肉質の持ち主だ。筋肉は万人の支えであり友である、この素晴らしい筋肉の持ち主に力を貸してあげたまえ。その礼として、諸君らが筋肉大聖堂を訪れた際には、ささやかならがらではあるが上腕二頭筋を倍ほどに鍛えてあげよう。なあに、この程度、お安い御用というものだよ。もちろんお望みであれば大腿四頭筋と広背筋と僧帽筋も鍛えて差し上げよう。ぎゅぁっふぁっふぁっふぁっふぁ、もちろん構わないに決まってる、なぜなら筋肉は万人の友であるのだから。では、よろしく頼んだよ。諸君らの敬愛する筋肉ことモスト・マスキュラー』……あー、あのマッチョ、まだ生きてたんだ」
わざわざ喋り方まで真似して読み上げた衛兵が、はあーっと深々とした溜息を吐き出して、
「まあ、それはそれとしてこれは紹介状であって通行証ではないから」
紹介状を意外ときれいに折り畳んで、私に突っ返してきた。

こうなったら選択肢はふたつ
・どこかの町まで赴いて、どうにか通行証を発行してもらう
・衛兵をぶちのめしてでも通る
……私としても不本意だけど仕方ないか。不意を突くためにも衛兵から死角になる位置で拳を握り、一撃で昏倒させるタイミングを計る。ルチも私の意図を読み取ったのか、いつでも背負ったルェドリア銃を構えられるように、わずかに重心を前に傾ける。
視線が私から外れてくれたその瞬間、顎か眉間、もしくは股間、どこを狙ってもいいけどどうしようか。
「おい、衛兵くん、話は聞いていたがそれは少々頭が固すぎるんじゃないか」
隣でやり取りしていた別の衛兵の隣から、妙にくぐもった性別のわからない声が放たれた。
声の主は頭から黒ずんだ外套をすっぽりと被り、顔を鴉の嘴みたいな仮面で覆っていて、おまけに内側は手足まで厚手の素材で作った装備で包まれているせいで、性別どころか年齢も体格さえもよくわからない姿をしている。唯一わかる背丈は私より幾らか高く、人間の男であればちょっと小柄で、女だとしたら背は高い方になる。もしかしたら別の種族化もしれないから、人間かどうかもわからないけど。

「でも、通行証がない人通しちゃうと、俺らが怒られるんだって」
「だったら通行証があればいいわけだ」
嘴面は外套の内側から1枚の紙切れを取り出して、指先に挟んでくるりと回し、衛兵の手の上にそっと置いた。なんて書いてあるかはわからないけど、衛兵はそれに目線を落とした途端に渋い顔をして、コホンと少しわざとらしく仕方なさそうな咳払いをしてみせた。
「通っていいそうだよ、お嬢さん方」
「あー、うん、通行証もあるようだし、次から忘れないようにね」
どうやら嘴面は自分のものか他人のものか、それとも限りなく本物に近い偽物なのか、とにかく通行証を用意してくれたみたい。

……なんで? 見ず知らずの私に? なんの得があって?
不思議と疑念の混じった目を向けていると、鴉面はくぐもった笑い声を吐き出しながら、
「先行投資というやつだよ。お前たちが冒険者になったら、手伝ってもらう場面もあるかもしれないだろう」
と、まあなんとなく理解出来なくもない理由を伝えてくれた。

「ようこそ、冒険者の町スルークハウゼンへ」

鴉面が一礼するように外套を拡げて手を体の前へと差し出した。
なんだか腑に落ちない点はあるけど、私とルチは晴れてスルークハウゼンへと辿り着いたのだった。


To be continued……


≪ゲストユニット紹介≫
謎の鴉面
種 族:不明、亜人種族?(性別不明、年齢不明)
クラス:偽造師(レベル14)
    HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 24  6 11  5 10 18 24  7 24 17  4↑2↓3(歩兵) 
成長率 35 25 40 20 35 45 50 15 30 50

【技能】
短剣:D 剣術:E 槍術:E 斧鎚:E 弓術:D 体術:E
探索:C 魔道:C 回復:D 重装:E 馬術:C 学術:B

【装備】
アウルゲルミル秘術書 威力16(6+10/氷属性)
隠密の外套      攻撃対象になる確率ダウン

【スキル】
【個人】口八丁手八丁(話術系スキル成功時、次ターンまで全ての攻撃対象から外れる)
【基本】ワタリガラスの呪文(戦闘開始時、敵ユニットをランダムでひとり状態異常を付与)
【特殊】偽りの大義名分(書類を偽造して、書類系・話術系スキルの効果を高める)
【特殊】人身売買許可証(指定ユニットを強制的に3ターン寝返らせる、複数人不可)
【??】
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