もぐれ!モグリール治療院 序章―6―「列車は鉄の塊だから盗んでもいい」
≪前回までのあらすじ≫
ピョルカハイム保護区をようやく抜けたところ。以上、あらすじおしまい。
プランドーラ交易道。大陸北部から中西部を繋ぐ大規模な交易道路で、人間が無理矢理に人力と根性と労働力で森を切り開いて煉瓦と石畳で固めた巨大な一本道。近年、蒸気機関車という移動手段が発明され、それを走らせるために道幅を広げて、石畳の隣に駅舎と、駅舎同士を繋げてスルークハウゼンまで続く線路を設置したのだとか。ちなみに線路というのは、鉄の柱と枕木と砂利を地面に埋め込んで、その上を鉄道が走らせる専用の道のことだ。
元々鉄道には、車輪のついた貨車を馬に引かせる馬車鉄道、トロッコを改造したトロッコ列車、人が後ろから押し続けて動かす人車鉄道等があったのだが、蒸気機関車とこれまでの鉄道の最大の違いは、石炭を燃やし続けることで人間や牛馬の労力を使わずに済む、本来途中で止まってしまうような上り坂であっても進める、筋骨たくましい労働者でなくても石炭さえ放り込めれば動かせる、という3点だろう。
人間という、楽をするためならどこまでも貪欲になれる種族は、実に面白いものを開発したものだ。
「はいはい、要するにすごいものなわけね。はいはい、すごいすごい」
でっぷりの回りくどくて厭味ったらしい説明を聞き流して、私は煙の出そうな頭を両手で挟みながら、改めてプランドーラ交易道とそこにででーんと佇む駅舎を眺めてみた。
まともに舗装された道など無いようなピョルカハイム保護区を歩いてきた私たちからすると、なんだなんだ王様でも歩くのか、ってくらい綺麗に整然と敷き詰められた石畳、武骨ながら目を引いてしまう不思議な魅力を放つ線路、よくもまあこんな仰々しい道を作ったなって感心しちゃう。褒めてないよ、感心はしてるけど。
そして何より目を引くのが、駅舎の奥に停まった黒い鉄の塊。煙突みたいな棒と車輪がついたでっかい筒みたいな塊で、すぐ真後ろに大量の石炭を積んだトロッコみたいなのと、さらにその後ろに屋根のついた客車が何個も繋がっていて、どうやらあれが噂の大陸縦貫鉄道とかいうやつらしい。
ちなみに結構お高いらしく、スルークハウゼンまでの乗車賃、でっぷりやゴブゴブズたち亜人種族とでっかいタコを乗せるために貸し切った客車代、それの口止め料、道中の飢えを凌ぐ水と食糧、あと座りっぱなしで尻を痛めないようにと勧められた毛布、そういったなんやかんやで金塊は全て吹き飛んでしまい、笑っちゃうくらいの貧乏集団になってるけど、そんなことはどうでもいい。金なんて無くなったらまた奪えばいいんだから。
なんて気楽に構えて座席に座っていると、
「ああ、厄介な時期に乗り合わせちまったな」
「まったく迷惑な話だぜ」
向かいの席の商人らしき連中が、物騒半分辛気臭さ半分に話しているのが聞こえてきた。厄介事には関わらないのが一番だから寝たふりをしながら耳を澄ませていると、どうやら近頃この辺りで列車強盗が出るそうで、警備のために乗った衛兵も含めて、何人も怪我人が出ているらしい。それなのに鉄道は休まず走り続けるんだから、みんな働き者というか命が安いというか。
「とにかく出くわさないように祈っとこうぜ」
「そうだな。俺、この出張が上手くいったら故郷で幼馴染と結婚するんだ」
「よし、無事にスルークハウゼンに着いたら一杯やろうぜ」
「いいや、もう今から飲んじまおう。どうせ道中暇なんだ」
「不吉なこと言わないでくださいよ! 出発!」
聞き耳を立てている内に商人たちは不安を拭い去りたいのか酒瓶を開けて、車掌の掛け声と共に鉄道は甲高い音を鳴らして動き始めた。
「なるほどね……」
うん、乗り心地は悪くない。動き始めた時はびっくりして心臓止まるかと思ったけど、慣れるとどうってことはない。小刻みに揺れ続けるから胸がムカムカするというか、気持ち悪くて何回か吐きそうになってるというか、まあ乗ってみたらどうってことはない。ほんとだよ、強がりじゃないよ……ちょっと吐いてきていい?
「ヤミー、目の前、何かいる。大きい」
私の横で興味深そうに線路の先を眺めていたルチが、道を塞ぐように立ちはだかる巨大な何かを捉えた。吐くだけ吐いて涙を拭った私の視界にも、確かにそれはいた。
一言でいえば巨人だ。背丈は私の倍くらい、横幅や厚みに至っては倍どころじゃないほど太い。全身を鉄の鎧で覆い、鎧の隙間から見える肌は石そのもの、兜の奥の瞳だけ不気味に赤い光を発している。おおよそ人間には見えないその巨人は、目の前に迫る列車に正面からぶつかって、足下の枕木を砕いて鉄の柱をぐにゃぐにゃに歪め、鎧の隙間から蒸気のような白い煙を吐き出しながら、いとも容易く動きを止めてしまった。
「今だ! 野郎共、かかれ!」
森の奥から合図が発せられた直後、客車の横っ腹に大量の矢が襲いかかり、目の前の席に座っていた商人たちに容赦なく突き立てられた。板を抜けて威力が削られてるから死ぬほどの怪我ではないけど、突然の奇襲に心は完全に折られて、呻き声を上げながら床を転げ回っている。
しかし私たちはそんなことで折れるほど、お上品な育ちはしてないのだ。
私は森と反対側に身を乗り出して、すぐさま屋根の上に登って矢の放たれた場所を確かめる。同時に座席の厚みを盾にしたルチはすぐさまルェドリア銃を撃ち返して、茂みに身を隠していた人影に鉛玉を浴びせた。
さらに大きく跳ね上がった後ろの客車から飛び出したゴブゴブズが、小走りに茂みの中に切り込んでいき、小柄を活かして敵の足下に刃を叩きつける。さすがにでっぷりとオークのピギーはそんなに機敏じゃないから、少々無様に地面に転がったけど、すぐに体勢を立て直し、盾を構えて攻撃に備えている。タコ? タコはまあ、陸ではただのタコでしかないけど、それでも囮くらいにはなってくれる。
こんな感じで敵の狙いがあちこちに散ってくれたら、もう恐るるに足らず。大きく跳躍して森の中に飛び込み、途中で木の枝を掴んで体勢を変えて、相手の背後を取る形で飛び掛かった。
「おりゃあっ!」
振り抜いた斧で強盗の頭を砕く。こいつらがどこの誰かは知らないけど、狙ってかどうかはさておき私に矢を向けたからには、それなりの仕返しはさせてもらう。それなりっていうのは、まあ頭を叩き割るってことなんだけど。
「待て! 俺たちは人間が狙いなだけで!」
「知らん!」
呼びかけてきた強盗の頭を兜越しに殴り飛ばすと、衝撃で外れた兜の奥から目を回してだらしなく口を開けた犬のような顔が露わになった。強盗はコボルドという犬頭の獣人種族の一団で、私たちが人間以外の種族を含んだ、しかも想像以上に好戦的な集団と判って交渉を試みたのだ。その結果は、まあ当たり前にこれなわけで。
◆❖◇◇❖◆
「俺たちは開拓反対同盟、清らかな大地と恵みの会の者だ! 木を伐採して道を拡げる人間たちの横暴に怒り、こうやって反対運動を行っているのだ! 自然大好き、人間マジ嫌い!」
後からのこのこと降りてきた衛兵たちに後ろ手に縛られて、それでもコボルトたちは威勢よく吠えている。弱い犬ほどよく吠えるなんてことわざがあるけど、まさにそれだなあって考えながら醜態を眺めていると、
「貴様も獣人ならわかるだろうに。なぜ人間の味方をするのだ!」
「そうだそうだ、このコボルトもどきめ! 獣人の風上にも置けん!」
狼の毛皮を纏う私を近い種族と勘違いしたのか、それとも犬っぽい毛皮はだいたい友達な価値観で生きてるのか、このれっきとした人間の、しかも相当なかわいらしさを持つ私に向かって、わあわあきゃんきゃんと吠え始めた。
もう説明するのもめんどくさいから、頭に被った狼の部分を捲って、顔と髪の毛を晒すと、
「なんて卑怯な人間だ! コボルトに化けるなんて!」
「これだから人間は嫌いなんだ! 畜生とは貴様らのことだ!」
それはそれで文句を繰り出すんだから、もう何をしても無駄だなって気持ちになる。そういう気持ちになった時の対処法はいつだってひとつ、そう、斧の背の部分で横殴りにする、だ。
「ぎゃいんっ!」
顔が犬だからちょっと心苦しさはあるけど、でもまあ顔が犬ってだけで犬ではない。犬はかわいいと思うけど、頭だけ犬だからといって、それがかわいいと直結するわけではない。なので2発目を振るう頃には心苦しさなど消え去ってしまった。
「ぎゃうんっ!」
ほらね。もう1発いっとく?
「ご協力、感謝する! ゴブリンとか連れてるのは、ちょっとアレだけど!」
「おら、きりきり歩け! なにが清らかな大地と恵みの会だ! 強盗団に名を改めろ!」
敬礼をしながらコボルトの背中を蹴りつける衛兵たちを見送り、そういえば何か忘れてるようなと鉄道に視線を移すと、線路の上には例の鉄鎧の巨人が立ちはだかったまま。鉄道を撥ね除けた時の衝撃でしばらく麻痺してたようだけど、ダメージも回復したのか再び瞳を赤く光らせて、ゆっくりと頭を起こして拳を握り締めている。
「おお、あれはゴーレムだな」
「ゴーレム?」
でっぷりが珍しいものでも見たかのように、少し息を荒くしながら一気に捲し立てる。
「ゴーレム、かつて人間が戦争用に開発した魔道巨兵だ。魔法石を核に動く石の巨人で、主に大陸南部フィアレアド王国との戦争に導入された他、国境線付近の都市の防衛にも使われた。全部で88体が作られたが、その大半は戦争で破壊され、現存するのは両手で数えられるくらいしかないと聞いていたが、まさかこんな辺鄙な場所で見れるとは思わなかったな。ちなみにゴーレムの元々の素材は石だが、あんな風に金属で補強することも出来て、最前線のゴーレムにはロンダリア鋼やランバール銀で覆われた重装巨人もいたそうだ。言うまでもないが頑強さは俺たちの比じゃない、力任せに倒すのはかなり大変だろうな。噂によると対ゴーレム用に魔道士の部隊が結成されたとも聞いたぞ。それにしてもゴーレムに出くわすとはな。集落のジジイたちも1度か2度しか見たことがないのに、まさかこんなに早く見れるとは、いや、これさっきも似たようなこと言ったな。そんなことはどうでもいい、とにかくゴーレムだ。ゴーレムは契約者の指示に従って動くそうだが、おそらく本来の契約者は連れていかれたコボルトか、その辺で土に還るのを待ってる奴らのどれかだろうな。ということは契約は解除されたとも考えられる。どうする? 誰が契約する? 俺か? 俺でもいいぞ」
……なんかすごい喋るな、こいつ。どうしたの、そんなにゴーレム欲しいの? でっぷりの中の年頃の男の子でも急に目覚めたりした?
でも残念だったな! ゴーレムと契約するのは私! なぜなら私の中にも、そんじょそこらの男に負けないくらいの冒険心と好奇心が眠っているから!
「おい、そこの野良ゴーレム! 君の新たな主はこの私、ヤミーちゃんである!」
「ヤ……ミー……?」
ゴーレムが私の呼びかけに反応している。どうやら私を新たな主と認めたらしい。
「攻撃目標ヲ確認……アトラアトラ起動……攻撃シマス」
ゴーレムの背中から鉄製の原始的な投擲機が姿を現し、そのまま前方に運ばれて腕まで到達するや否や、鎧から取り出した鉄の槍を装填した。鉄の槍は大きく勢いをつけて放たれ、私のすぐ真横を思い切り走り抜けて、そのまま客車の側面を貫通した。
前言撤回、私を攻撃対象と思ったらしい。
「この聞き分けのないゴーレムめ!」
いくら物珍しかろうと、敵対するなら容赦する筋合いはない。私に攻撃してくるようなクズは、貴重なゴーレムであろうと鉄くずに決定だ。身を屈めて獣のように走り、ゴーレムの側面を通り抜け様に斧を振り回す。
「……硬っ!」
金属同士がぶつかり合った音が響き、叩き切るどころかわずかに表面がへこんだだけの腕を横目で確かめる。どうやらゴーレムの強度は説明通りの頑強さで、頑張れば倒せないこともないと思うけど、ゴーレムが砕けるのが先か、使い込んだ鉄の斧が折れるのが先か。出来れば温存しておきたいけど、そうも言ってられないか。いや、でもここで折るのも勿体ないし。
「ヤミー、ゴーレムの腹だ! 腹の部分に魔法石があるはずだ! それに触って契約を上書きしろ!」
「よくわかんないけど、やってみる!」
繰り出されるゴーレムの拳を身を屈めて避けて、そのまま全身を伸ばすように懐に潜り込む。腹部には確かに装甲の真ん中に穴が開いていて、その奥にはぼんやりとした光を発する鉱石が見えた。私は身をよじって反動を加えて、どてっぱらを貫くように拳を繰り出し、その石を壊しかねない勢いで掴んだ。
「改めて命令する! 君の新たな主はこの私、ヤミーちゃんである!」
「……契約者ノ更新……完了、戦闘ヲ停止スル」
ようやく私が主だと理解したのか、ゴーレムは動きを止めて地面に座り、躾けられた犬のように私の方を向いて命令を待っている。
「よし、君はさっきまで野良ゴーレムだったから名前はノーラだ! ノーラ、最初の命令、引っ繰り返した列車を起こせ!」
「……了解シタ!」
ゴーレムのノーラは地面に転がった客車を掴み、そのまま次々と抱え起こしていく。おお、さすがゴーレム! でかくて強いだけある! いいぞ、どんどん起こしていけー。あ、客車の屋根が千切れた。こら、石炭を撒き散らしたら駄目だって! うわっ、先頭の車両が爆発した!?
「……ノーラ、無事な客車を引っ張ってこのまま逃げるよ!」
「了解シタ!」
急いで客車にタコと荷物を乗せて、私たちはひたすら線路を走ったのだった。それこそ列車強盗のように……。
いや、私は強盗じゃないんだけど!
To be continued……
≪加入ユニット紹介≫
ノーラ
種 族:ゴーレム
クラス:アイアンゴーレム(レベル10)
HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 35 12 4 14 7 6 0 6 6 4 2↑2↓3(歩兵)
成長率 50 30 20 40 30 15 5 10 10 10
【技能】
短剣:- 剣術:- 槍術:- 斧鎚:- 弓術:- 体術:D
探索:E 魔道:E 回復:- 重装:C 馬術:- 学術:-
【装備】
装備不可能
【スキル】
【個人】堅牢堅固(未行動で待機時、次のターンまでダメージ半減)
【基本】ブラスナックル(拳部分の装甲を使った格闘を可能にする)
【補強】アトラアトラ(投擲砲による射程5の物理攻撃)
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