もぐれ!モグリール治療院 序章―3―「求む、水先案内人」

前回までのあらすじ≫
エスカルチャ村で船と手下を手に入れたから、スルークハウゼンに向けて川を下ってる。以上、あらすじおしまい。


船のおかげで歩くよりは随分と楽に進めているけど、ひとつ困ったことがある。ノルドヘイムからほとんど出たことのなかった私はもちろんのこと、元々活動範囲の広くないゴブリンたちも、ついでに道中で返り討ちにしたでっかいタコも、誰ひとりとしてスルークハウゼンまでの道を知らないのだ。
海岸沿いにある町だったら進めばいずれ辿り着くだろうけど、村で見せてもらったかなり大雑把な地図では内陸にあったし、そもそもこんな船で海を渡れるとも思えない。どこかしらで陸路へと切り替えないといけないのだけど、どこで陸に上がればいいのかもよくわからない。
私たちの旅に必要なのは地理に詳しい人材だ! なぜなら私は文字が読めないし、地図も正直よくわからない!

というわけで、通りがかった川岸にどんよりとした古ぼけ具合で佇む桟橋に船を留め、船の警備はタコに任せて村なり集落なりを探すことにした。
ちょっとだけ人間文字が読めるゴブリンたちによると、ここはレインディア桟橋という名前らしい。覚えておこう、レインディア桟橋、レインディア桟橋……よし、覚えた。念のためゴブリンたちにも覚えておいてもらう。だって忘れるのは人間の特権だから。
覚えておく自信がないわけじゃないよ、そんな腕っ節だけしか取り柄がない脳筋じゃあるまいし。ほんとだよ。

「たのもーう!」
まず手始めにと、桟橋からそれほど離れていない、開けた場所に築かれた集落に立ち寄ってみる。集落はそれほど規模が大きくなくて、ぐるっと囲んだ柵の中に家屋らしき建物がいくつか、真ん中ら辺に村長とかが住んでそうな広めの建物。あと、集落の奥の森の中に神殿? 遺跡? とにかく随分と古そうな石造りの建物がある。
大型の獣の気配は無いけど人の気配はある。そんなに数は多くない。けれど、不思議なことに集落にいる数と視線の数が合っていないような、そんな違和感がある。
身に纏った狼の毛皮の内側で、背中の生えてもいない毛が逆立つような感覚が駆け抜けた瞬間、雪玉でもぶつけられるかのような冷たい気配を察して、くるりと身を翻しながらその場から2歩3歩分ほど飛び退く。
すると、村長の家らしき場所からひとり、ずんぐりとした大柄の人影がその姿を露わにしてきた。

「こんな人里離れた場所に珍しい。獣の獣人……いや、毛皮を纏った人間か。それと向こうにゴブリンが3人、桟橋にオクトパスが1匹、なんというか不思議な組み合わせだな」
足手まといにならないようにと外で待たせているゴブリンだけでなく、桟橋のタコまで見えている。私も結構目が利く方だけど、そこまで遠くを見ることは出来ない。どうやらこいつ、だけでなくこの集落に住む連中は人間よりもずっと目がいいようだ。
「それで獣皮のお嬢さん、このサイクロプスの集落に何の用だ? 攻め落とそうという気がないのは見ればわかるが、こっちも人間には警戒しているのでね」
ずんぐりや建物の影に潜んでいる連中をよく見ると、種族的な特徴なのか体は縦にも横にも大きく、腹はでっぷりとしていて太めで脚は短い。さらに特徴的なのは頭で、それぞれ1本とか2本とか牛の角みたいなものが生えていて、顔の真ん中には大きな目がひとつ、その下に穴だけ開いた起伏のない鼻と横に拡がった口がひとつ。サイクロプスって言ってたっけ? どうやらこの一つ目の連中をサイクロプスと呼ぶらしい。
「一つ目を見るのは初めてかな? そういった目は、こちらは慣れているが」
「いや、そのおなか見てたら、なんだか腹が減ってきて……」
ぐうーと恥ずかしい音を立てながら、私はサイクロプスの瞳ではなく太った腹をじっと見つめていた。みんなしてあれだけの腹模様、きっとここには食べ物が沢山あるに違いない。


出された干し肉を齧る私を見下ろしながら、あるいは見下しながら、でっぷりはわかりやすいくらい大きな溜息を吐いた。
「……つまり獣皮のお嬢さんは道に迷ったと?」
「まだ迷ってないよ! 迷う前に先手を打って道を尋ねに来ただけで!」
事情を説明すると、でっぷりは呆れた顔? 一つ目で表情がわかりにくいけど、なんかそれっぽい顔をして棚から茶色く変色した地図を取り出し、テーブルの上に拡げてみせた。さらに地図が見えやすいように、テーブルの真上に金属製のランタンを吊るして灯し、地図の横にミミズがのたうったような文字が書いてある紙を何枚も取り出して、地図の上に振り分けていく。
「古い地図だから現在もそのままか判らないが、まずここが今いる場所。で、こっちがお前たちが来たエスカルチャ村」
でっぷりが地図の端っこの方をトントンと指で叩く。
「この辺りから南に向かって、まあ大体この辺りまでがハルトノー諸侯連合領」
「はるとのーしょこ? なに?」
「ハルトノー諸侯連合領。簡単にいえば、この範囲にあった色んな勢力が手を組んで出来た連合国ってやつだな。主にシェーレンベルク騎士団、ラステディン教会統治地、オルトア商業連合、ピョルカハイム保護区、ナクトラタ独立領、ヴェルトマー監獄島、オシストロ地下評議会が中心だ。あとは雑多に点在するゴブリンの生息域とか、この辺りみたいな人間の手が入っていない独立領なんかも一纏めにされている。加わった覚えは無いが、囲まれてるから仕方ない、といった具合だ」
知らない名前がいっぱい出てきてさっぱりわからないけど、とにかくこのでっぷり、どうやら地理に詳しく知識も豊富だ。中々に得がたい人材というやつだ。私もかわいいという点では非常に得がたい人材という自信があるけど、このでっぷりのおなかもかわいいから、私のかわいいの座も危うい。強敵だ!

「おい、聞いてるか?」
「聞いてるよ、ちょっとよくわかってないだけで」
こんなことなら、もうちょっと勉強しとけばよかったな。いや、私も真面目に勉強してたんだよ。熊は額と鼻が弱点だとか、狼に腕を噛みつかれたら引くのではなく押し込めとか、ナイフで突いた後に手首を返すと内臓を傷つけて仕留めやすくなるけど、腸を破ると肉が臭くなるから気をつけろとか。あと人間は顎を叩くとバランスを崩すいやすいとか、関節は逆方向に曲げると折りやすいとか。
「それで、お前たちの目指しているスルークハウゼンはシェーレンベルク騎士団の統治下にあるが、ラステディン教会統治地とも隣接している上に、オルトア商業連合の交易路とも重なっている。3方囲まれた地点にあるわけだ」
「なるほど?」
なにが成程なのかわからないけど、とりあえずわかった風の返事をしておく。世の中、はったりの使い時が大事なのだ。今がその使い時かは知らないけど。

でっぷりは地図の上にガラス製のペンを3本転がし、
「よってルートは大きく3つ。海に出てラティメリア港まで向かい、シェーレンベルク騎士団を抜ける。このまま南に森を抜けてラステディン教会統治地に入り、クリュスタロス雪道を越えてディエーリアナ林道を進む。遠回りになるが森を迂回してピョルカハイム保護区に入り、そこからプランドーラ交易道に出て大陸縦貫鉄道に乗る」
と説明してくれたけど、どれを選んでいいのかさっぱりわからない。
わからないけど、ひとつだけはっきりしていることは、この意外と親切なでっぷりを旅に同行させると色んな問題が解決しそうということだ。
「ねえ、スルークハウゼンまで一緒に行かない?」
「行くわけないだろ。俺は騎士団も教会の連中も商人も大嫌いなんだ」
ということは私のことは嫌いではない、と。参ったなあ、私の魅力がまたひとり男を虜にしてしまったじゃないか。かわいさも度を過ぎると罪とは、こういうことを言うのか。


冗談はさておき、聞けばサイクロプス族、かつてはもっと人間の領地に近いところに住んでいたけど、亜人種族を人間の劣等種と考える教会と当たり前の流れで敵対した。戦力的には割と五分だったそうだけど、そこに教会から要請を受けた騎士団に挟撃されて痛手を負い、居住地を放棄。そんな状況下で、一つ目を珍しがるコレクターに高く売れると踏んだ悪徳商人から執拗に追い回されたこともあって、基本的に人間をかなり嫌っている。
というより、人間という種族は大陸の中でも圧倒的に大多数の勢力だけど、かなり色な種族から恨みを買っているらしくて、何十年か前に大陸東部に落ち延びた多数の亜人種族が国を作ったらしく、それに対抗するために連合領を作ったのだとか。
共通の敵が現れないと手も組めないとか、人間ってやつはまったくもう、って話だ。
「まあ、じいさんばあさんの世代の恨み節だが、人間には警戒した方がいいと考えても不思議ではないだろ?」
「でも、でっぷりは意外と外の文化は好きっぽいね」
そう、このでっぷりの家の中には外部から持ち込まれた製作物のにおいがするのだ。金属製のランタン、ガラス製のペン、大陸のかなりの範囲を記した地図、棚に大量に押し込まれた本、他にも真新しい鉄製の鍋とか包丁とか。この集落に鉄やガラスを作るような大規模な窯は見当たらないし、人里離れた場所に真新しい道具があるのは少々不自然なのだ。
ということは、でっぷりたちは外の商人と交易をしているのだ。私の勘がそう言っている。

「俺たちは頭の固い馬鹿じゃないんでね、便利なものはそりゃ使うだろ。ちなみにこの家の物は月に1回、ドワーフのキャラバンから買ってる」
「だったらさあ、買い出しのついでに途中まで道案内してよ」
「あのなあ……」
でっぷりが今度ははっきりと呆れた表情を向けたその時、奥の扉が開いて、より太ましく丸い体型の老でっぷりたちが現れた。でっぷりと比べると質素というか大雑把な作りの服を着ていて、やはりこのでっぷり、外の文化が好きなサイクロプスのようだ。
「アイオリデスよ、お前ももう20歳。そろそろ外の世界を見に行くのも悪くないと思うがね」
「そうじゃよ。わしらの蓄えた銅貨もだいぶ減ってきたし、独り立ちしてもいいんじゃないかのう」
「そこの獣皮のお嬢さん、どうやら悪い人間でもないようだし、ノルドの蛮族なら腕も立つじゃろ。一緒に連れてってもらなさい」
「知識ばっかりの頭でっかちが許されるのは20代までだから、今のうちに実地を積みなさい」
「あと、お前の新し物好きなとこ、正直ちょっとめんどくさいから独り暮らしとかして欲しい」
「ところで飯はまだかのう?」
ははーん、なるほど、ごくつぶしってやつだ! 一瞬でこのでっぷりの立場が判明して、交渉の天秤は私に大きく傾いた。もはや勝ったといっても過言ではない、誰に何に勝ったわけでもないけど。


◆❖◇◇❖◆


「じゃあ改めて説明するぞ」
「おう、わかりやすく頼むよ」
私たちは船まで戻って、改めてでっぷりからルートを聞くことにした。さっきまでは親切な村人扱いだったから、お行儀よく座って背筋を伸ばしてたけど、仲間になったのだから気を遣う必要も無し。私はぐでんと寝そべった姿勢のまま、でっぷりのおなかと一つ目を見上げる。
そして立場がなんとはなしに決まってしまったからか、でっぷりもわかりやすく、先程よりも砕けた説明をし始める。

【ルートその1、海路】
ラティメリア港からシェーレンベルク騎士団領を抜けるルート。
利点はしばらくの間は人間と出くわさないから、のんびり気ままに旅が出来る。難点は海に出た瞬間に筏船が藻屑と化す。どこかで船を買うか奪うかしないといけない。
【ルートその2、陸路】
森を抜けてラステディン教会統治地に入り、雪道と林道を進むルート。
利点は人間の管理された場所を進むから比較的危険が少ない。特にモンスターの出現率は低いと思われる。難点は教会の連中が強烈な反亜人種族主義なこと。メンバー的に狙われる危険が高い。
【ルートその3、迂回路】
ピョルカハイム保護区から交易道まで出て、大陸縦貫鉄道に乗るルート。
利点は日数的に最も早く辿り着ける。特に鉄道に乗ってからは食って寝てるだけでいい。
難点は保護区に暮らす未開の原住民族と鉄道代。

「ルート1と3は金が問題だな。2は人間からの危険が大きい、1も騎士団領から先は心配といえば心配だが、情報によると騎士団は他種族も雇うことがある。教会ほど偏見は強くないと思いたいな」
でっぷりが説明を終えた頃には、ゴブリンたちがすっかり怯えて、海怖い教会怖いお金ないと繰り返し呟き続けている。まったく心配性だなあ、ゴブリンは。密航とか強奪とか恐喝とか戦闘とか、対処する手段はいくらでもあるのに。
とはいえ私は手下たちの意思を尊重するタイプなので、ここはひとつ多数決を取ることにする。
「よし、君たち。これだけは嫌だーってルートをひとつ選んで!」
いわゆる消去法ってやつ。どれも大変なんだったら、まず一番不安なルートを潰す。私はどれでもいいので、みんなの意思を汲んであげることにした。

「2! 教会コワイ!」
「2! 人間ヤダ!」
「2! 行キタクナイ!」
「ブシャアァァァ!」
「サイクロプスの経緯を考えたら当然2だな」
タコはなに言ってるかわかんないけど、多数決の結果、教会とは関わらないことにした。話を聞く限り、私も仲良く出来そうにない相手と関わるつもりはない。そんな奴らと上手くやるために手下を捨てるほど薄情でもないのだ。

さて、残るルートはふたつ、海路か鉄道か。
「ねえ、でっぷり、どっちがいいと思う」
「どうでもいいけど、俺の名前はアイオリデスな。そうだな、一概にどちらとも言えないが……あえて選ぶなら鉄道じゃないか。どっちみちそれなりの大金が必要になるが、船を買うのと鉄道に乗るのだったら乗車代の方がまだ安い」
なるほど、一理ある。船を奪うのと密航するのだと奪う方が話が早いけど、船が海に行く着くまでに現れてくれる保証はない。でも鉄道はどうやら確実にその場所にあるから、奪うにしても鉄道の方が楽かもしれない。鉄道ってなに、というのはさておき。
いや、ほんと鉄道ってなに? 馬車は見たことなくても想像はつくけど、鉄の塊が動くってなに? 巨人と牛がずっと後ろから押してるの? それとも大量の馬が引っ張るの? どういうこと?

「お嬢、どうすんだ? 海路か陸路か?」
「どーでもいいけど、私の名前はヤミーちゃんな。よし、決めた! 陸路で行く!」
私はでっぷりや手下たちの前で高らかと拳を掲げて、大声で宣言してみせた。


To be continued……

≪加入ユニット紹介≫
アイオリデス
種 族:サイクロプス(男、20歳)
クラス:サイクロプス(レベル5)
    HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 30 10  6  6  5 12 12  1  4  6  3↑2↓3(歩兵)
成長率 40 30 25 15 20 45 10 15 20 25

【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:E 斧鎚:D 弓術:E 体術:E
探索:D 魔道:D 回復:D 重装:E 馬術:E 学術:C

【装備】
フレイル  威力18(8+10)
革のマント 回避+10

【スキル】
【個人】炯眼人射(距離が近いほど瞳系魔法の成功率を上昇させる)
【固有】重たい瞼(射程3 単体に睡眠を付与)
【固有】冷たい瞳(射程3 単体に混乱付与)
【??】
【??】
【??】

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