もぐれ!モグリール治療院 おまけ「豚って何種類いるの?」

筋肉大聖堂とかいう妙な場所から戻ってきた翌日のこと、さんざん豚豚と罵り合う醜い争いを見たせいか、テントの前を1匹? 1頭? ひとり? とにかく野性味のある猪のような頭をした、首から下は甲冑を着込んだ兵士のような恰好をした生き物が通り過ぎていった。
「わあ、豚が歩いてる……!」
「あれは豚ではないぞ、狼のお嬢さん」
「あれはオークという亜人種族だ」
テントから頭を出した私の両隣で、甲冑のようなたくましい肉体を持つヒゲマッチョと、甲冑ではないけど分厚い脂肪を纏ったズゥ・モー族の豚大将が説明してくれる。いや、なんでお前ら、ここにいるの? テントの外にいるにしても、あっちのでっぷりたち男のテントの傍にいるべきじゃない?
「……なんで?」
「吾輩たち、実はあの後で肉肉同盟を結成したのである」
「より強い肉体を得るために手を組むことにしたのだ」
いや、そんなことは聞いてないの。聞きたいのは、なんで乙女のテントの横にいるんだってことなんだけど?
「そんなことより狼のお嬢さん、これはちとやばいことになりそうだ」
「どっちかというと、お前らの方がやばいけど?」

ヒゲマッチョが筋肉言語で説明し、その後で豚大将が翻訳してくれた解説によると、オークというのは亜人種族の中でも人間たちと協力体制というか一部雇用関係にある種族で、武装したオーク兵が騎士団の遠征部隊に組み込まれていることが多い。
時々、女騎士がオークに蹂躙されるなんて話を耳にするけど、あれは人間たちの高圧的な態度に誇りを傷つけられたオークによる典型的な仕返しなのだそうで、あくまでもオークと人間の間には上下はなく、金品のやり取りのために繋がっている、というのがオークの主張。本来オークという種族は誇り高く友好的で、戦士として丁重に扱えば相応の態度で接するし、不躾に扱えばお前らの女を孕ませるぞ、ということなのだとか。
人間からしたら迷惑な話だけど、中にはオークの雌をなんやかんやするゴミ野郎みたいな騎士もいるとかで、もうお前らだけで好きにやってろって話だったりもする。

「ぬぅん! せいぃっ! ふぅんぬっ!」
「そしてオークの兵隊が歩いているということは、彼は斥候かもしれない。ということは、この近くで戦闘が起きるかもしれないということ。我ら肉肉同盟、オーク風相手に後れは取らぬが、鍛えた肉体もさすがに刃物は痛い。ここは逃げるが最良の手である。そうヒゲマッチョは言っている」
どーでもいいけど仲が良いなこいつら、強くなるっていう共通の目的があるから? あんなに罵り合ってたのに……。
オークとでも仲良くなれそうな肉の怪物共はさておき、戦場になるとめんどくさいのは事実だ。さすがの私も軍隊相手に喧嘩して勝てるほど無敵な美少女ではない、とてつもない美少女には違いないけど。
「ルチ、みんなを起こしてきて。移動するよ」
「わかった。その前に、肉、撃つ。乙女のテント、近づく、抹殺」
テントの中でヒルチヒキ族の少女が銃を構えて、肉肉同盟のふたりに向けている。もちろん止めはしない、と言いたいところだけど、銃は音が出るから弓にして、と断りを入れておく。今この場では余計な物音は危険の種だ。

「あのー、ちょっとよいですか?」

よくよく考えれば、これまで散々ヒゲマッチョが余計な物音を立てているので当然なんだけど、武装したオーク兵が戻ってきて、私たちに声を掛けてきた。それも思いのほか丁寧というか紳士的に。
なのでこちらも丁寧に答えてみる。
「はい、なんでしょう?」
「はっ! 自分はシェーレンベルク騎士団第57警備兵団に雇われているオークなのですが、実は5日ほど前に行軍していた部隊から逸れ、食糧も尽きたのであります!」
装備品からして野良オークでないのはわかってたけど、まさか斥候兵ではなく迷子兵だったとは。騎士団がどんなところか知らないけど、5日も迷子になってたらさぞかし侮蔑的な言葉で罵られたり、素肌を鉄の棒で殴られたり、食事を泥粥だけにされたり、挙句の果てには逆さ吊りにされて沼に浸けられたりするんだろうな。
などと同情しながらオークの顔を眺めていると、同情したルチから干し肉をわけてもらったオークが、肉を食みながら不思議そうに見つめ返してくる。
「あの、どうされました?」
「いや、5日も迷子になってたらさぞかし侮蔑的な言葉で罵られたり、素肌を鉄の棒で殴られたり、食事を泥粥だけにされたり、挙句の果てには逆さ吊りにされて沼に浸けられたりするんだろうなって思って」
「はっ! もちろんそういう目には遭うのであります! しかしそれもすべて自分の不始末が原因、甘んじて罰は受ける覚悟であります!」
あー、ほんとにそういう目に遭うんだ。まったく人間共もオーク共も、そんなのは捕まえた捕虜にすることであって、味方にすることじゃないというのに。いや、捕虜に対してもダメなんだっけ? 捕虜とか捕まえたことないからわかんないや。

「君、そんなところ辞めて私たちと来なよ」
「いや、しかし自分の一存ではなんとも」
それもそうだ。しかし私には私の世界の譲れないルールというものがある。
「でも君、うちの干し肉食べたよね……?」
受けた借りは四肢を失ってでも返せ、与えられた恩には死体になってでも報いよ、というのが故郷ノルドヘイムに伝わる伝統的な価値観だ。要するに仕留め損なった獲物を逃がすんじゃねえぞってことと、助けてもらったままで調子に乗るんじゃねえぞってことなんだけど、そのまま言葉にすると身も蓋もないのでこういう忠義みたいな言い回しになっている。

「……一緒に行きます」

わかればよろしい。私たちは素直なオークに更なる干し肉を与え、ちょっとした歓迎の宴で持て成したのだった。
ちなみに肉肉同盟は暑苦しいから、そのまま置いて行った。


つぇい! はぁっ! ずぇぇい……
(翻訳:とぅーびーこんてぃにゅーど……)


≪加入ユニット紹介≫
ピギー・ワイルドボー
種 族:オーク(男、27歳)
クラス:トゥルウィス(レベル8)
    HP 腕力 魔力 守備 魔防 命中 回避 必殺 幸運 魅力 移動
能力値 29  8  5  8  7 12  4  4  2  4  3↑2↓3(歩兵)
基本値 26  6  3  6  5 10  3  2  2  3 
補正込          10
成長率 40 30 25 30 25 30 20 25 10 15

【技能】
短剣:E 剣術:E 槍術:D 斧鎚:D 弓術:E 体術:E
探索:E 魔道:E 回復:E 重装:D 馬術:E 学術:E

【装備】
ナイトキラー 威力15(7+8) 騎馬系に威力30
鉄の盾    守備+2

【スキル】
【個人】単独行動(周囲5マス以内に味方がいない時、命中・回避+10)
【基本】蛮勇兵の行進(移動時に幸運%で青銅~鉄クラスの武器を発見)
【下級】凌辱者の行進(攻撃後、移動経路に隣接する敵に腕力%で追加攻撃)
【??】
【??】
【??】

このブログの人気の投稿

三界廻って碗

小説・目次

もぐれ!モグリール治療院