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8月, 2025の投稿を表示しています

ラニーエッグボイラー

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<空中に浮かんだ卵と、卵が見える人たちとの非合法・有暴力・闇鍋群像劇>  ▶  第0話「宇宙飛行士は半熟茹で卵の夢を見る」 ▶  第1話「安藤幸子の固うで卵の流儀」 ▶  第2話「主人公になれないモブキャラはタマゴサンドを頬張るしかない」 ▶  第3話「パパとオムレツ」 ▶  第4話「死神といくら盛りのルール」 ▶  第5話「ジャイアントパンダがダチョウの卵をホールドして500メートルシャトルラン」 ▶  第6話「陰謀論者はフラメンカエッグを食べたら脳が破裂するという信憑性の高い噂」 ▶  第7話「銃と刀と爆発卵」 ▶  第8話「雨の日はエッグノックに限る」 ▶  第9話「毎日健康卵生活のすゝめ」 ▶   第Ⅹ話「宇宙人と人類と卵の三角関係」

共食魚骨・断編集「魚の骨は猫でも食べない」

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<ラニーエッグボイラー外伝。死神ヨハネこと共食魚骨に関する断片集或いは断編集> ―1―【オメラスの地下牢】 ―2―【ゾアントロピーの儀式】 ―3―【アセノスフィアからの降雨】 ―4―【レミングの巣雲】 ―5―【アンゴルモアの墜落】 ―6―【ミシュコルツベイの沈没船】 ―7―【ピカレスクモールを照らす太陽】 ―8―【ギュラサノバの花弁】 ―9―【グレイヴヤードの祝祭】

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記

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「本日を以って、我らエル・ドラゴ海賊団は解散する!」 船長が突然そう告げて、我らがエル・ドラゴ海賊団は散り散りとなった。 危険な海と凶悪な敵対海賊、執拗な警備隊と隣り合わせな日々から解放されたものの、元々海賊なんてやってるのは真っ当な仕事に就けないロクデナシ共。もちろん未来の大海賊(予定……そして予定はなくなった!)たる私だって例外ではない。でっかい儲けを求めて海に飛び出したのに、大したお宝も手に出来ないまま故郷に帰ることなんて出来ない! そもそもこの海都周辺の海域は百年前の大異変で地形が激変、各地の商人や海賊はそれぞれ開拓した航路を持っているものの、肝心の海図は船長が沈めた海賊船と一緒に今頃は海の底。 なんてこったい! おかげで国に帰ることも出来ないじゃん! 仕方ないから一から海賊団立ち上げようって思ったものの、そもそも肝心の船もなければ、仲間は一緒に海都に流れ着いた下っ端水兵ひとり! こんなんじゃ海に出るどころか港で釣り竿垂らす以外に出来ることがない! そんな私たちにインバーの港の主らしきじーさんが、こんな提案をしてきた。 「どうだね、君たち。船を1隻譲り渡す代わりに、航海ルートの復活に協力しないかね?」 どうやら色んな冒険者に声を掛けてはいるものの、どいつもこいつも近場の漁師に混じって、小銭稼ぎに熱中している始末なんだとか。 はぁー、小さい小さい! そんな雑魚の稚魚なんて狙ってないで、ここは海賊らしく一攫千金、でっかい得物を狙おうじゃないの! 「もちろんやる!」 荒れ狂う大海に大海賊マイラあり! そう呼ばれるような偉業とでっかい得物を手にしてみせようじゃないの! そうと決まれば、まずは名前。何事も名前が必要なのだ。 エル・ドラゴ海賊団にも負けないような、強くてかっこいい名前を掲げなきゃ! 「本日ここに、メガロドン海賊団を結成する!」 私、マイラ・フーカは腰に提げたフルーレを掲げて、大海原にそう宣言したのだ。 処女航海   ボロでも板切れよりゃマシだろ! 第2航海   今夜は焼き鳥パーティーだ! 第3航海   なんでやめちゃったんですか? 第4航海   生意気でかわいいじゃないか 第5航海   まだ自慢し足りないんだよ 第6航海   もう全員強いでいいんじゃないかな 第7航海   ちょっと実家寄ってく? 第8航海   ドラゴン玉砕を見せてくれ 第9航海   試し...

山田とゴリラ

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日記の最初のページにはこう記されていた―― 「お前たちの中で最も活躍したものを次代の当主とする」 父上が神妙な面持ちでそんなことを言い出した。当主も何も我らが山田家の家業はそう遠くない内に途絶えてしまうことは決まっていて、せいぜい副業でやっていた薬の卸売しか継げるものは無いのだ。 しかし私もこの家に拾われて十数年世話になった身、一宿一飯の恩義を忘れぬのが武士道であるというならば、お家再興が叶う程の名声を持ち帰るのが恩返しかもしれない。いや、まだ潰れてないけれどもね。 そう秘かに心に決めた私は、大陸北部にそびえ立つ全人未踏の世界樹に挑むことにした。道中で耳にした噂によると、世界樹の上には天に浮かぶ城とやらがあり、行く手を阻む難攻不落の迷宮が拡がっているのだとか。 面白い。当主の座など義姉上たちに譲り渡しても全く構わないけれど、吹けば飛ぶようなあばら屋に住まわせるより立派な城持ちになってくれた方がいいはずだ。よし、城を奪ってしまおう。そして山田家ここにありと世界に知らしめてみせよう。 そうと決まれば、のんびりしている暇などない。早速世界樹に登る許可を得なければ……! 聞けば世界樹に登るためには冒険者として登録せねばならず、とはいえ特段難しいことでもなく、誰でも気軽になれてしまうものらしい。下手な鉄砲でも数撃ちゃ当たる、世界樹に挑む手駒は多いに越したことはない、といったところか。 私はハイ・ラガード公国の広場へと踏み込み、冒険者ギルドを探すことにした—— ▶ ギルド名は『山田』(OP~第1迷宮1F) ▷ ボウケンシャー紹介1(浅) ▶ 山田とクロガネさん(第1迷宮2F~3F) ▶ ヌエの鳴く夜は恐ろしい(第1迷宮3F~5F) ▶ ゴリラ率いる(ペット加入) ▷ ボウケンシャー紹介2(剛莉羅) ▶ 火事場泥棒とサラマンドラ(第2迷宮6F~8F) ▶ 銃士と少女とデブおかっぱ角笛魔人(第2迷宮9F~10F) ▷ 義姉からの手紙(落葉入手) ▶ 氷の花と天に魅入られた姫君(第3迷宮11F~15F) ▶ 桜の花の満開の下で(第4迷宮16F~18F) ▶ 燕は舞いゴリラは踊る(第4迷宮19F~20F) ▷ 妖刀ニヒルは活躍したい(幕間) ▶ 天の城と心を持たぬ兵(第5迷宮21F~23F) ▶ 山田とゴリラと終わらない旅(第5迷宮24F~END) ▶ 日記を閉じる?  YES ...

とある竜たちの話

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竜と六畳間  ▶▶▶(こちらから) ドラゴンを信奉する国とそこに君臨する魔竜の王の実態とは…… 竜と霏霏雪  ▶▶▶(こちらから) ひっそりと暮らす氷竜ベレゾフカとディーマは今日もわずかなスープで過ごす 竜と鉱石貨  ▶▶▶(こちらから) 商人となった地竜の王ノルベルグが次の取引相手に選んだのは…… 竜と点灯夫  ▶▶▶(こちらから) 火竜の王ボルカノと人間の神 バスコミアナの長きに渡る因縁とは……

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(12) 用があるならそっちから来い!

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古代都市ウガリートの北の海域、ぐるぐると結界のように渦巻く海流の中心、そこには空中に巨大な島が浮かんでいる不可思議な場所がある。そこは空中樹海と呼ばれているそうで、これまでは航海に疲れた海兵の見た蜃気楼や幻覚なんかだと思われていたけど、私たちメガロドン海賊団が辿り着いたことで実在を証明してしまった。きっと近い将来、公にも存在を認められることになると思う。 初めて到達した時に、世界を見守り続けてきた者と称する謎の声が語りかけてきて、 「か弱き人間たちよ、汝らが大いなる力を欲するならば三界の王たる竜に挑むがよい。さすれば我のいる地まで招き入れよう」 なんて、なんだか物語や伝承に出てきそうなことを言いだした。 しかし私も暇ではないのだ。そんな空中樹海だかなんだか知らないけど、そんなことよりも大事な用がある。 「ちょっと待て、人間。この竜の神たる我よりも大事な用とは一体なんなのだ? そんなものが存在するはずがない」 「あるんだからしょうがないじゃん。竜の神でもなんでもいいけど、私は忙しいの! 用があるならそっちから来い!」 「ぐぬぬぬぬぅ」 といった具合に竜の神とやらは放置して、私たちは珍しい魚がいそうな海域をひたすらに巡っていった。 そう、この世には竜より大事な生き物がいる。それこそがダイマオウイカだ! 【ダイマオウイカ】 この海のどこかに生息する伝説の巨大イカ。 伝説の猟師が一生涯費やしても釣れないとされる一方で、たまたま船に乗り合わせた新米漁師がビギナーズラックで遭遇してしまうこともある。そのため海都アーモロードに運び込まれることは年に数回あることもあれば、10年の間に1度として姿を現さないこともある。まさに海の気紛れを形にしたような生き物なのだ。 ちなみに味はほっぺたが墜落して、以後の人生でもう他の階産物では満足できなくなるくらい濃厚で美味しいとされる。 南北の海の航路を完成させた私は、実家の漁師風居酒屋【シルバーソードⅢ】で盛大に宴会を開こうと考えた。すると娘の偉業を限界まで祝いたいと思ったうちの両親と祖父母と犬が、折角なのでダイマオウイカを用意しようと言い出したのだ。 「というわけでマイラ、ダイマオウイカを釣ってきてくれ」 「頼んだよ、マイラ」 「ダイマオウイカを食べずにあの世には行けん」 「私も死ぬまでに食べたいわあ」 「わん!」 長いこと心配かけた家族に頼ま...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(11) よし、出来たぁー!

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北大陸との航路を完成させた私たちメガロドン海賊団は、海都周辺で航路が確立されていない最後の都市を目指すことにした。これまでは鉄張りの黒い海賊船やひとつ間違えたら渦潮に巻き込まれる潮流に阻まれて、あと一歩のところで諦めるしかなかったけど、今のメガフカヒレ号は勝利の塔で拿捕したガレオン船に鉄板装甲、鋼刃衝角にラティーンセイルを装備し、さらにカロネード砲を搭載した完璧な状態。ついでに近海を縄張りにする最大の障壁、巨大勇魚ペンドラは討伐済み。もはやどんな難所だろうと、どんな海賊だろうと負ける気はしない。もし私たちが敗れるとしたら、それは慢心が故の油断だけだ。 「というわけで、私たちメガロドン海賊団は、最後の都市ウガリート到達を目指すことにした!」 「おー!」 ペンドラ討伐の成功もあって、船員たちの士気も高い。副官のコルセアやマキアはもちろん、コバンザメズやこれまでに引き入れてきた水夫たち、ガレオン船に乗り換えたことで急ごしらえで集めた港の暇人たち、全員が偉業の達成を間近に控えて心を躍らせているのだ。 【古代都市ウガリート】 海都を含む南北の海と西方諸国を結ぶ古代都市。百年前の大異変で海竜が出現し、以後そのまま海都との交易が途絶えている間に海賊たちの根城と化した、という噂も広まっている。事実、あの場所は来る者拒まず去る者追わずなところがあって、旧エル・ドラゴ海賊団も何度も補給を受けたことがあり、海賊の根城といえば根城だし、単に受け入れてるだけといえばそれだけだし、海全体で見れば微妙な立ち位置を取っている。 「マイラ、前方に海流! 進む? 避ける?」 「それは乗っても大丈夫! 全速前進!」 「お嬢、前方に海賊船だ! どうする?」 「先手必勝、カロネード砲で撃沈する!」 私は気を張り詰め続けながら指示を出し、海流を見極め、海賊を蹴散らし、慎重さと大胆さを上手く使い分けながら船を進めた。同時に海図に進路やその時その時に遭遇した海流も書き込む。もちろん海賊が潜んでいそうな場所や、反対に海賊を罠に嵌めれそうなポイントを記すことも忘れてはいけない。海図は私だけがわかればいいものではない。アーモロードに渡す際に他の海兵や商人たちも無事に辿り着けなければ、それは海図とはいえないのだ。 なので船長は結構忙しい。忙し過ぎて海図の作成は誰かに任せておきたいところだけど、間違いがあっては信用に関わる...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(10) ただいま!

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「そういえば、お嬢。アイエイアに行くのはいいけど、あそこはあそこで一癖も二癖もあるとこだぜ」 望遠鏡を片手に北大陸の海岸を眺めながら、副官のコルセアが溜息を漏らす。私たちが向かっている北大陸はこいつの故郷で、かつては多くの海賊を輩出した場所だ。旧エル・ドラゴ海賊団にもアイエイア出身者は結構たくさんいて、不漁で食えなくなった連中や街の不良、前科者、訳あり者はこぞって海へと飛び出して海賊となった。コルセアもそんな感じで海賊となり、屈強な元死刑囚たちと一緒にドレーク船長の船に乗り込んできたクチだ。 「ねえ、コルセア。アイエイアに付いた途端に一緒にお縄、なんてことないよね?」 「お嬢は俺をなんだと思ってんだよ」 なんとも思ってないけど、こいつのことだから有力貴族のお嬢様を孕ませたとか、そういう因縁のひとつやふたつ抱えていてもおかしくない。なんせ早撃ちクラスパーとして名の通った……通ってるかどうかは知らないけど、とにかく女に手が早い。夜のあっちの方も早いらしい。でも早かろうが遅かろうが、出来る時は出来るのが男女というものだ。 「前も言ったけど、俺のは大した犯罪じゃねえの。親が政治犯ってだけで、俺は別に何もしてねえ」 「そうだったっけ?」 言われてみたら聞いた覚えがあるような……いや、やっぱりないな。あったとしても、どうでもよ過ぎて忘れちゃったか。まあいいや、海に生きる大海賊は小さいことは気にしないのだ。 【交易都市アイエイア】 北大陸の玄関口で、代々女王が統治する港湾都市。女王はキルケ―の名と共に不思議な力を授かり、住民たちは女王の庇護の下、豊かな営みを送っている。はずなんだけど、港に繋がれた船は小型の漁船ばかり。かつての栄華はどこへやら、街には雪と一緒に寂しい北風が吹いている。 到達したアイエイアの港は随分と殺風景で、周辺都市との交流が少ないとはいえ独自の文化と狭いなりの豊かさで発展していた故郷、海上都市シバとは違い、寂れた港町という言葉がぴったり当てはまりそうな風格を醸し出している。見渡す限り廃墟、廃墟、廃墟、倒壊した建物もそのまま放置されていて、どこの街にもひとりやふたりはいるはずの物乞いすら見当たらない。 うちの両親もこんな場所で店やらなくてもいいのに、と思ったけど、実際ここまで寂れてるとは考えもしなかった。交易都市アイエイアといえば、シバにもその名を轟かせる大都市で...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(9) 試してみる価値はある!

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ダマバンドの南東、藻海と海流に囲まれた海域にひとつ巨大な塔がある。 荘厳な石造りの塔の天辺は雲の上にあり、下からではそれほどの高さなのか見当もつかないほどに高く、一体どこの誰か何のために作ったのか一切不明。灯台でもなければ要塞でもない、人が住んでいるとも思えない。そんな不可思議な塔なのだ。 【勝利の塔】 登り切った者に栄光を与えるといわれる塔で、建造者も設計者も不明。宗教建築とも考えられているし、はたまた暇な金持ちの道楽という説もある。ちなみに内部は登れるように螺旋階段になっていて、雲の上まで延々と続いているのだとか。 海都の発行した年代記によると世界中に同名の塔があるらしいので、ますますなんなんだかわからない。 「よし、登ってみよう!」 こういう塔にはお宝が付き物、きっと未だ誰も手にしていない金銀財宝なんかが隠されているに違いない。それこそ伝説大海賊の秘密のお宝なんかもあるかもしれない。 「えー、これ登るのー?」 「マキアさん、お嬢が登ると言い出したら登るしかねえんですよ。昔から言うじゃないですか、馬鹿と煙は高いところが好きって」 なにやら副官のコルセアが失礼なことを言った気がするけど、今は聞かなかったことにしよう。でも、天辺まで登った暁には蹴落としてやるんだけど。 私はめんどくさがるマキアと最初から諦めた様子のコルセアを従えて、党の内部、果てしないほど続く螺旋階段へと足をかけた。螺旋階段は塔の内壁を這うように設置されていて、その途中途中に踊り場があり書架になっている。あいにく本は劣化してどれも読めた状態ではないけど、時々まだ朽ち果てていない羊皮紙も残っていなくもない。壁には無数の立体的な像が彫られていて、そのどれもが人間ではなく魚と人間が混じった奇妙な姿をしている。 もしかしたらこの塔は、海都アーモロードの地下に存在する深都、その深都の王が争っているフカビトなる魔の勢力が築いたのかもしれない。人間はなにを信仰するかわからないところがあるので、もしかしたらフカビト信仰なんかがあったのかもしれない。まあ、考えても仕方ないのでひたすら登るんだけど、延々と歩いていると心がすり減っていくので、こういう無駄な考察も必要なのだ。 「おかーさん、疲れたー。おんぶー」 「嫌です、おかーさんも疲れてんです」 疲れすぎてわけのわからない冗談を言い出したマキアに冗談で返しながら、ぜえぜ...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(8) ドラゴン玉砕を見せてくれ

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シバの北、暗礁海域を越えた先に位置する小島を経由して、南北を遮る大海流を迂回しながら東に進んだ先、ちょうど北海の真ん中あたりに巨大な都市が佇でんいる。その都市は大異変の前までは北と南の海をつなぐ中継点だったそうで、遥か昔に封印された竜の力で栄えてきたのだという。竜の力が本当かどうかは私たちに知る由もないけど、旧エル・ドラゴ海賊団もグンデルたちも他の名立たる海賊たちも竜の力を警戒してか、あの場所には決して近づこうとしなかった。海賊にとっては渦潮や巨大勇魚、古強者の海賊とはまた違った意味での難所だ。 【交易都市ダマバンド】 英雄スラエータオナが封じた三つ首の竜の力で繁栄する都市で、以来1度として侵略を受けたことのない難攻不落の地。 と聞くとおぞましい場所を想像してしまうけど、外から見る限りは風車が立ち並ぶ牧歌的な雰囲気で、耳を澄ませば海岸でバグパイプを奏でる漁民たちの暮らしの音が聞こえてきたりもする。でも、街の中に竜がいるかもしれないから、気を引き締めるに越したことはない。もちろん私たちが冒険者の雰囲気を醸してるとはいえ、れっきとした海賊だという意味でも。 「いいか、お嬢、マキアさん。私たちは善良な冒険者ですよーって顔しながらダマバンドに乗り込むんだ。海賊? なにそれ、食べれるの? おいしいの? そのくらい海賊感を消すんだ。マキアさんは着飾れば貴族の令嬢にしか見えないし、俺もそれなりの若商人に見えるからいいとして、問題はお嬢だ。お嬢からにじみ出る野良犬感というか、人食いザメ感というか、こればっかりは隠しようがねえ」 ああ? 私のどこが野良の人食いザメだ? と副官のコルセアを睨み上げていると、だったらこうしようと近くで雑用をしていたコバンザメズの1人が、ひとつ提案してきた。マキアがシバを出立時に船倉に持ち込んだあれこれの中から、フルフェイス型の鉄兜、それに板金鎧に籠手に具足を着せることで、人食いザメ感を隠しつつ、隠し切れない部分は護衛ということで誤魔化そう、というのだ。 そういうわけで、ダマバンドに交易に訪れた若手でやり手の商人と恋人の貴族令嬢、おまけに全身甲冑の小柄な護衛、という奇妙な三人組で無事に上陸を果たした。船には以前アーモロード近辺の海賊から奪った交易品が積まれているし、それ以外のカルバリン砲だとか銃や剣の類は、護身用とでも言っておけばいい。一番怪しまれそうなメ...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(7) ちょっと実家寄ってく?

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アユタヤの港から北へと抜けた海域、ぽつんと浮かぶ小島の東西には奇妙な海域がある。 東には複雑な潮流に囲まれた海上都市が、西には広範囲を藻や船の残骸に侵略された魔の海域とそこに浮かぶ島があり、そのどちらも並大抵の船では到達出来ない難所として知られている。特に東の海上都市シバは並大抵の小舟で漁に出た小娘が、そのまま海流に流されて帰れなくなったという不幸な出来事もあった。その小娘こそ私、マイラ・フーカの若かりし頃なので、いや、まだまだ全然若いけど、とにかくあの海域の難しさは身をもって知っているのだ。 けれど、あの海上都市には実は抜け道があり、都市の築かれた島の西岸に蔓延る大量の藻さえどうにかしてしまえば、正面から入ることも出来る。シバの交易には航海日数を減らすために藻海を突っ切る装備を施した女王の船団と、そんなものは持っていないので船室と積載量を可能な限り増やした民間の商船があって、もし実家が女王の船団に組み込まれるような名家だったら、私の運命もまた違ったのだと思う。いや、実家が細くて小さいことに別に不満はないし、海賊になったことは天運くらいに思ってるけども。 【海上都市シバ】 複雑な渦潮で他国との交流が断たれている、実質鎖国状態にある都市。 都市といいつつ実態は代々女王が統治する独立国家で、女王は絶世の美女であるとの噂が南北の海に届いていたりもする。ちなみに私の出身地で、特産品は乳香とロック銀、あと近海で穫れる白銀サンマ。サンマを綺麗に焼けて一人前の国民とされるけど、まあそれは完全に余談だ。 「お嬢、どうする?」 「もちろん正面突破! 藻を突っ切ってシバの西岸に取りつくよ!」 私たちメガロドン海賊団の旗艦メフカヒレ号には、女王の船団と同じように藻を切って進む鋼刃衝角を備えている。激しい潮の流れを無視して、幼い頃から何度も訪れた港へ向けて船を近づけた。 「そういえばお嬢ってシバの出身だったよな? 女王様とお知り合いだったりしねえの?」 上陸早々、副官のコルセアがまた馬鹿みたいなことを言い始めた。こいつの女好きはもう病気みたいなものだから仕方ないとして、私が女王と知り合いという可能性を考えるとか、病気が脳にまで到達してるのかもしれない。まったく、駄目なのは下半身だけにして欲しい。せめて上半分はまともであれ。 そんなことを考えながら馬鹿な副官をじろりと睨み、アホを諭すように答...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(6) もう全員強いでいいんじゃないかな

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方々の港では「ラムは古酒、寝るなら年増」なんて言われているけど、船に限れば新しいに越したことはない。それも古船より大きければ尚よしってやつで、新造のキャラベル・ラティーナの乗り心地は実に快適だ。元の持ち主いわく「ボロでも板切れよりマシな」バルシャより船体はひと回り大きく、それだけ積み込める荷物も増えるし、装備の組み合わせも自由が利く。 私は意気揚々と帆を張って、カルバリン砲を積み込み、これまでの航海で踏み込めていなかった南東の海域へと向かうことにした。 南東の海域に行く道中には、狭い範囲で執拗に獲物を狙う海賊がいれば、その先には入り組んだ島々の隙間で渦巻く潮流があり、旧メガフカヒレ号で挑むのは自殺行為に等しかったけれど、新メガフカヒレ号となったからには今までとは勝手が違う。そう、ケチな海賊なんかの勝手は許さないのだ。 「メガロドン海賊団に逆らった馬鹿が、どんな目に遭うか、金玉が縮み上がるまで叩き込んでやる!」 私は行く手を阻む海賊船にありったけの砲弾を撃ち込み、海の放り出された海賊共を1回拾い上げて、改めて叩きのめしてから海へと帰し、その先の潮流を冷静に見極めながら奇妙な島へと辿り着いた。 その島は、なんていうかぬらっとした顔に見える巨大な人面岩が訪れた者を出迎えるように佇み、さらに岩の真下の縦穴を覗くと広大な空間が拡がっていて、人面岩の首から下が懲罰を受けている時のような、いわゆる正座の姿で収まっていて、おまけに島中の至る所に同じような人面岩が幾つも並んでいるのだ。 「つまりこれは罰を与えられた下っ端の姿だね……!」 「違うと思うぜ、お嬢」 副官のコルセアが、そんなわけねーだろと言いながら首を横に振り、かといってこいつも学があるわけではないので、この人面岩がなんなのかさっぱりわからない。 「どうせなら美女でも彫っててもらいたいもんだ」 「それは違うと思うぜー」 私は意趣返しでコルセアの口調を真似ながら言い返し、とにかく一度アーモロードへと戻ることにした。 【巨人の遺跡】 大異変前の古代技術によって作られた巨人たちが並ぶ孤島。地下空間は石の巨人を整備するための格納庫みたいな場所らしく、早速調査に向かった連中が石で出来た人面岩とはまた別の巨人に襲われたのだという。 「へー、それはまた厄介な」 「そう、厄介なことが起きてるんです!」 港の主からそんな話を聞いていたところ...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(5) まだ自慢し足りないんだよ

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「そこでだ、あたしゃ言ってやったんだよ! 海王かなんか知らないけど、人間様を舐めるんじゃないってね!」 私の目の前では、ばーさんが水でも飲むような勢いでアラックを流し込みながら、少し前に倒した海王だかなんとかって魔物との武勇伝を語っている。 「あん? 海王ってのはどんなんだって? そうだねえ、見た目は馬鹿でかい勇魚で、全身真っ白、まさに海の王を名乗るにふさわしい風格だが、あたしの敵じゃあなかったね! あたしは奴の全身にナイフを突き立てて、その真っ白い体を赤く染めてやったのさ!」 完全に酔っぱらっているのか、適当に相槌打ってたら問いかけに答えるような形で捲し立てる。どうやらばーさんは勇魚のような魔物を倒したと自慢したいようだけど、勇魚はまあまあな頻度で獲ってるから素直に驚いたりも出来ない。 「なんだい、その目は! 勇魚なんて珍しくもないって顔してるね、だったら深都を見つけた話をしてやろうじゃないか! いいかい、世界樹の下にはだね、深都があるんだよ。さらに驚くなかれ、そこの王はあたしが産まれるよりもっと昔に失踪した海都の王子だったわけさ……なんだい、この話も喰いつかないのかい? って、寝るんじゃないよ、この小娘! ほら、起きな! あたしゃまだ自慢し足りないんだよ!」 ばーさんが酒の回った私の頭を掴み、万力のような力で持ち上げて、ぐわんぐわんと揺すってくる。これもばーさんと飲んでるといつもの出来事だけど、それにしても腕力も酒も強いばーさんだ。きっとあと50年は余裕で生きるだろう、今いくつなのか知らないけど。 こんな具合で、ばーさんことギルド【マッドハニー】のリーダー、バーバラは月に1度は私やコルセアを酒場に呼び出し、私たちが興味が無いからと完全に放置している世界樹での冒険譚を語ってくる。ばーさんも仮にも未亡人だ、泥酔して海に落ちて帰らぬ人となった旦那の代わりに、誰でもいいから話し相手が欲しいのだろう。もしかしたら旦那が泥酔してたのは、ばーさんに付き合わされてたからかもしれないけど、そこは別にどうでもいいというか、あっちもあっちでものすごく酒を飲む人だったらしいから、似たもの夫婦だったのだと思う。 ばーさんからすると、私たちは旦那の形見のボロ船を譲ってあげた仲、つまりは孫のようなものらしくて、なんで孫になるのかはわからないけど、酒を飲むぞといわれたら首を横には触れない。首と...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(4) 生意気でかわいいじゃないか

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アユタヤ滞在中のこと。 ようやく折れた肋骨も完治したので港の辺りを散歩していたら、満身創痍の海賊たちが運び込まれてきた。アユタヤの住民たちは情に厚いのか、困った人がいれば海賊でも救いの手を差し伸べるという習慣があるようで、彼女たちは手厚く治療してもらって、壊れた船まで直してもらっていた。すっかり怪我と船が直った海賊たちは照れくさそうに住民たちに礼を言い、再び大海原へと乗り出していった。 というのが数日前の出来事。 アーモロードに帰還し、アユタヤへの安全な航路を提出した私たちのところに、どこかで見たような見てないような、見覚えのあるようなないような、とにかく海賊たちが走ってきた。 「あんたたち、最近ここいらで名を上げているメガロドン海賊団だろ? ちょっと一緒に幽霊船退治に繰り出さないかい?」 「幽霊船?」 その海賊たち、女提督のザビィと部下のイビールとガブラーが教えてくれたけど、アーモロードの遥か南東の海域にあるトルトゥーガ島、そこで出現した幽霊船が南海全域を彷徨い、アユタヤの漁師たちにまで迷惑をかけているのだとか。 「アユタヤの人たちが、海兵との戦いで傷ついたあたしらを助けてくれたのは、あんたたちも知ってるだろ?」 「あー、あの時の!」 どこかで見たと思ったら、アユタヤに運び込まれた海賊たちだ。すっかり元気になったようでなによりだ。 「恩を返せないままじゃ、あたしらの名前に傷が付いちまう。そこでだ、一発恩返ししてやろうと思ってね! 幽霊船退治に行くのさ!」 なるほど、アユタヤの人たちは情に厚かったけど、彼女たちは義に厚い海賊たちなわけだ。私も海賊の端くれ、こういう義に厚い連中は嫌いじゃないし、むしろ好きな方だ。それに、 【トルトゥーガ島】 ドクロのような奇妙な形の岩山のある南海の孤島。 かつては多くの海賊たちの根城として使われ、岩山に掘られた洞窟の中には海賊王の宝が隠されている、なんて噂もある。荒々しい海流と岩礁に囲まれた海域にあるため、エル・ドラゴ海賊団は訪れなかったものの、私個人としてはいつか行ってみたかった場所のひとつだ。 「その話、乗った!」 「さすがドレークの娘! 話が早いね!」 女海賊ザビィはなにやら勘違いをしているらしく、私を旧エル・ドラゴ海賊団の船長ドレークの娘だと思っている様子。いや、違うけど、と否定したら、 「おや、そうなのかい? アユタヤで見た...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(3) なんでやめちゃったんですか?

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灯台を攻略してからというもの、私たちの行動範囲は劇的に拡がった。 新たに取り付けたフォアマストが風を受けて、我らがメガフカヒレ号の進む距離は圧倒的に増し、同じ時間で倍近い距離を移動することが出来るようになったのだ。この勢いでまず私たちはアーモロードの東、交易都市と名高いバタビアを発見した。 【交易都市バタビア】 百年前の大異変までは最も海都との交易が盛んだった都市。 北と西側に激しい海流、南には海賊船と、それぞれが商人たちの訪問を阻むように待ち構え、近い距離にありながらも航路は閉ざされたままの状態にある。 「お嬢、海賊船がいるぜ。どうするよ」 「粉砕しろ! と言いたいところだけど、大砲がないからね……ここはひとつ、足の速さでどうにかしよう!」 海賊船はいわゆるジャンク船と呼ばれる種類のもので、船体は私の船より一回りも二回りも大きいものの、速度はそれほどでもない。大砲を積んでいる可能性は捨てきれないけど、海戦で逃げに徹する相手に大砲を当てるのは中々に至難の業、必要以上に怯えることも無い。 私は巧みに舵を左右に動かし、コルセアが器用に帆を操る。海賊船を避けるように進路を変え、追いかけてくるノロマを翻弄するように船を旋回させ、進行を阻む岩礁に誘いこんで海賊船の足を止めてやった。座礁した海賊船からは悔しそうな罵声が飛んできたけど、こんな稚拙な罠に引っ掛かる奴の方が悪い。その程度の腕でよく海で稼ごうと思ったなあと正直呆れてしまう。 「顔洗って出直して来い、バーカ!」 私は間抜けな海賊船に向かって怒鳴り返し、晴れやかな気持ちでバタビアへの航路を開拓してみせた。 「へー、ここがバタビア! なかなか賑やかなとこじゃん!」 バタビアの町は人でごった返し、海賊船が阻んでいた割には大勢の商人が市場に集まっている。 「どうやらあの海賊船、通行料を取って稼ぐせこい奴らだったようだぜ」 「なんだよ、雑魚の稚魚かよー。だったら乗り込んでぶちのめしても良かったね」 海賊にも種類があって、一番名高いのは大砲をぶっ放し、ラムで敵の横っ腹をぶち抜き、激しい海戦を繰り広げるパイレーツ。そこに並ぶのが、所属する国や都市から私掠免許を貰って敵対勢力の船を退治するプライベーティア。その下に商船などの非武装の船を狙う海賊らしいっちゃらしい連中がいて、一番下にいるのが港の前に陣取って通行料をせしめるカス。奴らは大半...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(2) 今夜は焼き鳥パーティーだ!

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まずは新しい中古の漁船【メガフカヒレ号】に慣れようとアーモロードの近海を進んでは帰るを繰り返して何度目かの航海、沿岸とは呼べない程度に離れた西の海域を進んでいると、私たちの目と鼻の先、といっても望遠鏡で覗いて目と鼻の先なので実際には海戦に突入する間合いよりも更に遠間に、古びてはいるものの立派な灯台が姿を現した。 「お嬢、あれってあれじゃねえ?」 「アレじゃわかんない」 「あれだよあれ、港のじーさんが言ってたなんとかって灯台じゃねえの?」 【スカンダリア大灯台】 大異変の前の古代技術で築かれた、かつての交易の道しるべ。地形が変わって陸から切り離され、人が通えなくなって放置されてしまった。 以前のような船を導く灯火は、安全な航路と共に失われたままなのだとか。 さらには灯台には怪鳥が棲みついてるのだとか……。 確かに灯台のレンズのあたりに黄金色に輝く煌びやかな翼の、やたらと馬鹿でっかい鳥がいる。港の主の話だと、幾人もの海兵や漁師たちがこの鳥に襲われ、船を壊されて涙を流したのだという。そして灯台が無ければ航海の安全も無く、西の海域の調査はさっぱり進んでいないのだとも。 要するに遠洋を進むには道しるべとなる灯台の修理が必要で、そのためには怪鳥退治も当然必要で、さらにそのためには怪鳥に襲われずに灯台に上陸する航路を探さなければならないってわけ。怪鳥なんかカノン砲で粉砕しちゃえばいいのに、と思わないでもないけど、こんな漁船同然の船にそんな都合のよい物は搭載されていない。かといって白兵戦用の火槍銃では距離が遠すぎる。銃の射程まで引き付けるには、このボロ船ではちょっと……いや、だいぶ心許ない。私たちが怪鳥に蹴散らされる前に、この船が海に沈む方がずっと早いかもしれない。そんな博打みたいな真似は出来ない、私もコルセアも海の恐怖は嫌ってほど理解しているのだ。 「よし! いったん港に帰って、食糧詰んで出直し!」 「賛成だぜ、お嬢! 取舵一杯、帰還する!」 私たちは後日、改めて灯台攻略を試みることにした。 「というわけで我々メガロドン海賊団は、灯台を攻略するためにもっと保存の利く食糧とカノン砲を要求する!」 と叫んでカノン砲が手に入るなら世の中苦労などしない。食糧は海兵に乾燥えんどう豆を分けてもらったり、羊飼いのじーさんにアモロ羊のチーズを分けてもらえたりしたけど、さすがにカノン砲は誰も心当た...

ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(1) ボロでも板切れよりゃマシだろ!

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「で、お嬢。ほんとに船なんて貰えんの? 詐欺じゃねえの? なあ?」 「あのねえコルセア、私たちは仮にも海賊だよ。貰えなかったら奪えばいいの!」 私は隣を歩く旧エル・ドラゴ海賊団の下っ端水兵のコルセアを嗜めながら、港の主に教えられた住所を訪ね歩いていた。 私とコルセアが命からがら流れ着いた海都アーモロードは、巨大な世界樹を要する交易拠点、もとい元交易拠点で、洋の東西を問わず流れ着いた冒険者たちが集う港町だ。その中のほとんどは世界樹の方に夢中で、海の方に目を向ける冒険者は少なく、人手不足もあって航海ルートの復活はまだまだ遠い。 しかし考えようによっては一獲千金のチャンス。世界樹がライバルたちと鎬を削り合う赤い海とするならば、航海ルートの開拓は競争相手のいない青い海。そして私たちは航海経験豊富な海賊、それも南北の海で名を馳せた旧エル・ドラゴ海賊団の一員だ。 そんなお宝みたいな話が目の前にぶら下がっていたら、いつまでも港で沖仲仕をやっている場合ではない。そのためにもまずは船、船がなければ私たちなど陸に上がった河童みたいなものだ。奪ってでも手に入れなければならない。 とはいえ、その心配、私は杞憂だと思っている。というのも船の持ち主が持ち主だから。 港の主が言うには、そこには美しい未亡人がいるらしく、亡き旦那さんが漁で使っていた船が遺されているのだとか。漁師の旦那は漁師を引退していたものの、海の男らしく豪快な酒飲みだったところは引退していなかったようで、泥酔して港の岸壁で小便をしようとして海に墜落、そのまま帰らぬ人となってしまった。海ではよくある事故で、酒を飲む時はロープとカラビナを忘れるなというのは鉄の掟として各地の海賊団で徹底されていたりする。中にはカラビナを腰に提げて、ロープの片側をしっかり括りつけて、もう片方を結んでなくてサメの餌になった間抜け野郎もいるので、そんなに珍しくないどころか本当によくある話だ。エル・ドラゴ海賊団でもうっかり酔って海に落ちて、船長に顔の形が変わるまで殴られた奴もいる。何を隠そう、隣で歩いてるこいつがそうだ。 「美人の未亡人ねえ、どう思う?」 「どうってなにが?」 「だからさあ、どんなタイプの美人かって話だろ。薄幸の美女なのか、海都らしいエキゾチックな美女なのか、それとも良家の令嬢だったりするのか」 コルセアは船よりも未亡人が気になっているらしい...