義姉からの手紙(落葉入手)

手帳の中に1枚の紙片が挟まっていた。
そこには酷く歪で読み難い大きさも向きもバラバラになった文字が並び、書き手の精神状態の異常さを表しているかのようだ。


愛しい愛しい藻汐ちゃんへ

やっほー、お義姉ちゃんですよー。嬉しい? 嬉しい?
このメモを見つけたということは、藻汐ちゃんは迷宮中層にいる頃だと思います。日光と月光からハイ・ラガードに向かったって聞いた時は、お義姉ちゃんびっくりしちゃった! かわいい子には旅をさせろっていうけどさあ、藻汐ちゃんに旅をさせるなんて父上もよくないと思うのよね。義妹ちゃん危険な目に合わせちゃった罪で首を刎ねなきゃ! 父上の首、刎ねたら楽しいだろうなあ。茶の間に飾って、一緒にお酒を酌み交わそうね! 約束ね! もう決めたから! あ、でも藻汐ちゃん、まだ成人してなかったよね。じゃあ、成人の日まで待ってあげる! お義姉ちゃん、我慢も出来るんだよ。えらすぎない? えらすぎてもはや神なんじゃない?

えーと、なんだっけ? そうそう、藻汐ちゃんが世界樹に挑むと聞いて、お義姉ちゃんも下見がてら登ってみることにしました。いやー、なかなかに面白いね、この迷宮。たまには魔物を斬るのも悪くないね! 罪人の首も魔物の首も似たようなものだけど、斬り応えってのが大事だから。わかる? わかるかなー? まだ藻汐ちゃんにはわからないかなー? お義姉ちゃんの気持ちを理解するために、朝昼晩1日3人、誰でもいいので首を斬りましょう。そしたら壱年ほどでお義姉ちゃんに追いつけるよ、がーんばれっ!

がんばれで思い出した。お義姉ちゃん、かわいいかわいい藻汐ちゃんが心配だから、道中困らないようにお義姉ちゃんの愛刀の中から三振りほど置いておきました。

脇差『豚殺し』(ちゃんと拾ったよね?)
落葉『骸野晒』(今ここ!)
数珠丸『無縁仏』(今後のお楽しみ!)

さすがに波文蛭巻大太刀『黄泉醜女』は渡せないよ。だってお義姉ちゃんの刀が無くなっちゃうじゃない。四刀を一刀まで減らしてあげてるんだから、世界は私に感謝するべよね。弱くなってくれてありがとうございますって。

そういうわけで感謝の気持ちを忘れず、お義姉ちゃんや妹たちの代わりだと思って、大事に使いなさい。それと怪我や病気には気を付けてね。腕とか斬り落とされたら大変なんだから! だって藻汐ちゃん、ただでさえ腕はようやく免許皆伝、さあこれからだぞーってところなのに、それ以上弱くなったら、将来お義姉ちゃんと斬り合う時にやりがいが無くなっちゃうじゃない! 父上もまだ私と五分五分でいてくれるけど隠居を考えるくらい年老いちゃったし、日光と月光もまだまだ目録止まりでしょ。この先のこと考えたら嫌になっちゃう。強者の憂鬱ってやつ?
だから私の将来の楽しみのためにも五体満足で進みなさい! これ、お義姉ちゃん命令だから! 守れなかったら首を刎ねちゃうんだから!

お義姉ちゃんと渡り合えそうかなーってところまで腕を上げたら、また会いましょう。その時は素敵な斬り合いが出来るといいなあ。お義姉ちゃん今から楽しみ! 楽しみで楽しみで、もう誰でもいいから斬っとかないと、頭がおかしくなっちゃいそう!

それじゃ、まったねー。

山田浅右衛門侘助


紙片の裏にはかわいらしい兎とおぞましい髑髏が描かれている。どうやら記し手は気が触れているようだ。

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