ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(11) よし、出来たぁー!
北大陸との航路を完成させた私たちメガロドン海賊団は、海都周辺で航路が確立されていない最後の都市を目指すことにした。これまでは鉄張りの黒い海賊船やひとつ間違えたら渦潮に巻き込まれる潮流に阻まれて、あと一歩のところで諦めるしかなかったけど、今のメガフカヒレ号は勝利の塔で拿捕したガレオン船に鉄板装甲、鋼刃衝角にラティーンセイルを装備し、さらにカロネード砲を搭載した完璧な状態。ついでに近海を縄張りにする最大の障壁、巨大勇魚ペンドラは討伐済み。もはやどんな難所だろうと、どんな海賊だろうと負ける気はしない。もし私たちが敗れるとしたら、それは慢心が故の油断だけだ。
「というわけで、私たちメガロドン海賊団は、最後の都市ウガリート到達を目指すことにした!」
「おー!」
ペンドラ討伐の成功もあって、船員たちの士気も高い。副官のコルセアやマキアはもちろん、コバンザメズやこれまでに引き入れてきた水夫たち、ガレオン船に乗り換えたことで急ごしらえで集めた港の暇人たち、全員が偉業の達成を間近に控えて心を躍らせているのだ。
【古代都市ウガリート】
海都を含む南北の海と西方諸国を結ぶ古代都市。百年前の大異変で海竜が出現し、以後そのまま海都との交易が途絶えている間に海賊たちの根城と化した、という噂も広まっている。事実、あの場所は来る者拒まず去る者追わずなところがあって、旧エル・ドラゴ海賊団も何度も補給を受けたことがあり、海賊の根城といえば根城だし、単に受け入れてるだけといえばそれだけだし、海全体で見れば微妙な立ち位置を取っている。
「マイラ、前方に海流! 進む? 避ける?」
「それは乗っても大丈夫! 全速前進!」
「お嬢、前方に海賊船だ! どうする?」
「先手必勝、カロネード砲で撃沈する!」
私は気を張り詰め続けながら指示を出し、海流を見極め、海賊を蹴散らし、慎重さと大胆さを上手く使い分けながら船を進めた。同時に海図に進路やその時その時に遭遇した海流も書き込む。もちろん海賊が潜んでいそうな場所や、反対に海賊を罠に嵌めれそうなポイントを記すことも忘れてはいけない。海図は私だけがわかればいいものではない。アーモロードに渡す際に他の海兵や商人たちも無事に辿り着けなければ、それは海図とはいえないのだ。
なので船長は結構忙しい。忙し過ぎて海図の作成は誰かに任せておきたいところだけど、間違いがあっては信用に関わる。それも最後の最後、完成間近でミスは許されない。嫌でも他人任せにするわけにはいかない。
「よし、出来たぁー!」
「ウガリート着いたぁー!」
海図を書き終えた私と港にロープを投げたマキアが同時に声を上げる。
古代都市ウガリート。明らかにこれまで訪れた都市とは文化そのものが違い、海都ではまず見かけない独特の矢印を組み合わせたような文字に、見たこともない造形の神々の像、と思わせておいて瓦を重ねて並べた東方の都市のような建築も並んでいれば、明らかに海都の影響を受けた街の作りをしていたりもしていて、なんていうか混沌としているのだ。
初見だったら意味不明過ぎて頭を抱えてたかもしれないけど、幸いにも私もコルセアも初見ではない。むしろ宿屋の場所と酒場の場所くらいは覚えている。なもんで、顔見知りの海兵もいれば、あくどい商人の知り合いだっている、当然その中には海賊なんかもいるわけで、
「あれ? お前さん方、確かエル・ドラゴ海賊団の……」
「今はメガロドン海賊団だよ」
その海賊は鷹のような瞳をした長い黒髪の男で、周りの連中からはスミトモと呼ばれていた。主に西の海を縄張りとしていて、旧エル・ドラゴ海賊団とはウガリート以外での接点はなかったけど、ドレーク船長とは海の男同士で通じるものがあるのか、性格こそ水と油だったけど不思議と馬が合った。
「メガロドン海賊団……また滑稽で愉快な名前をつけたものだな」
「えー、かっこいいじゃん。強そうだし」
「ふむ。確かに強そうではあるが、サメの名前を冠するとは海賊らしからぬ、いや、むしろ海賊らしいからこそなのか……?」
スミトモはしなくてもいいのに勝手にメガロドン海賊団の名前について考え込み、しばらく海を眺めてみせた後に、どうでもよくなったのか中空へと放り出した。この男はこういう海賊なのだ。行動するのを第一とする海賊の世界の中で、じっくりと考え込んで答えを導き出す。それがどうでもいいような、心底くだらない疑問であっても。
「そんなことよりメガロドンの頭よ、どうせ暇だろう。ちょっと手伝ってくれ、海竜退治だ」
そして勝手に自己完結して勝手に次に進んでしまうのも、またこの男のこの男らしいところなのだ。
スミトモに強引に連れられて向かったのはウガリートから西に位置する海域で、そこには海都から派遣された海兵隊ふたりが待ち構えていた。ふたりとも海上戦はお手の物らしく、これから始まる海竜レヴィアタンとの一戦に備えている。そこにスミトモ、さらに私とコルセアを加えた5人で、大異変以来この海の支配者のように振る舞う海竜に挑むことになった。
「スミトモさんさあ、せめてメンバーはちゃんと選ぼうよ」
「そうですぜ、俺とお嬢に竜退治任せるなんて、自殺行為だって笑われちまいますよ」
なんて皮肉を投げかけてみせたりしたのだけど、
「いや、それなりにちゃんと選んだぞ。お前たちの実力、佇まいから推し量るにかつてのドレークと比べても遜色ない、もちろん俺と比べてもだ。南北の海での経験が大いに育てたのであろうよ。もし不足する点があるとすれば、それは経験値といったところだ」
こうも大真面目に返答されると、こちらも手を抜くわけにも途中で逃げ出すわけにもいかない。覚悟を決めて海を割って姿を現した巨大な竜に向けて、剣を抜いてみせた。
「で、命からがら帰ってきたと……マイラの強さは悪運かもねー」
全身打撲でミイラのような包帯ぐるぐる巻きの姿で運ばれてきた私とコルセアを出迎えながら、マキアが呆れたように溜息を吐いた。ちなみにレヴィアタンとの激闘は、もう語ると日が暮れて夜が明けてしまうほど長く過酷なもので、今回ばかりは死ぬかと思ったけど、こうやってしっかり生き残れた。海兵隊ふたりも大怪我を負いながらも無事に海都へと帰還し、スミトモも割とシャレにならない重症を負いながらもウガリートの治療院へと歩いて行った。
ギリギリの勝負ではあったけど、これで晴れて海都と周辺海域の都市すべてが航路を結ぶことが出来たのだ。随分と長い航海だったような気もするし、そんなでもない短い時間だったような気もするけど、この偉業でメガロドン海賊団の名は海に轟くに違いない。
アユタヤにいるドレーク船長や海のどこかを進んでいるクロスジャンケ団、シバに戻った私の家族、他にも海で出会った色んな人たちの耳にも届くはず。帰ったらみんなに褒めちぎってもらおう。そうだ、その時は実家のシルバーソードⅢでめちゃくちゃ豪華な宴会を開いてもらおう。
そんなことを考えながら、私はメガフカヒレ号の甲板の上に寝転がり、ゆっくりと目を閉じたのだった。
ちなみに岩礁にぶつかって船が大きく揺れて、衝撃で海に落ちちゃったけど、その話は聞かなかったことにして欲しい。
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ペンドラ
深都で製造される機兵アンドロには冒険者の脳が使われている。
元々は海底に沈んだ人間たちが魔と戦えるように、そして過酷な環境でも生き延びれるように開発された技術、人間の体が使われていても不思議ではない。実際、うちの船員にはかつて人間だったアンドロの男もいるし、深都発見以降、海都アーモロードでもアンドロが普通に出歩くようになった。町の住民たちも港の人たちも特に気にしていないのは、海都という各地から冒険者が集まってくる土地柄なのかもしれない。さすがにゴリラとかが現れたら焦ると思うけど、機兵くらいでは驚いたりしないのだ。
というわけで私もアンドロを作ってみようと、先日討ち取った巨大勇魚ペンドラを蘇らせることにした。蘇らせる理由は特にない、強いていえばそのまま眠らせるには惜しい勇魚だったから。なんというかペンドラの纏っていた歴戦の怪魚の王のような気配が、このまま死んでなるものかと伝えてきているような、なんかそんな気がしたから。
「マキア、そっちのBパーツを取って」
「えーと、Aパーツを持ち上げて、Bパーツを差し込んで、その上からCとDで挟む……細かいの苦手なんだよねー、魔法でパパっと出来たりしないの?」
「しないの。早く、Bパーツ」
私たちは港近くの空き地でアンドロの設計図を見ながら、どうにかこうにか半日ほどかけて組み上げてみせた。アンドロの設計図はかなり大雑把な書かれ方をしていて、こんなブリキの玩具レベルの設計図で本当にアンドロが出来るのかと不安になったけど、何事もやれば出来るものでペンドラの脳は保護溶液で満たされたAパーツ(頭部)に格納され、無事に起動することに成功した。
「ギョ! ギョ!」
肝心のペンドラは元々が勇魚だから仕方ないけど、人間の言葉は喋ってくれず、おまけに表情も変わらないからこっちの指示を理解してるのかどうかもわからないけど、いざ海戦となると本能がそうさせるのか、我先にと敵船に乗り込んで海賊をロケットパンチでバッタバッタと薙ぎ倒し、かつて自らを仕留めた捕勇魚砲を彷彿とさせる巨大な弩で敵の船長を狙撃したりと、期待以上の働きをしてくれる。
そして雑に作られたせいか、戦闘で粉砕されたとしてもパーツを組みなおすだけで直るから実に便利だ。
「いけ、ペンドラ! 前陣迫撃砲術だ!」
「ギョギョ!」
こんな具合で今日もペンドラは働いている。これから戦闘も苛烈になっていくだろうし、メガロドン海賊団の切り込み隊長として頑張って欲しい。
【年 齢】0歳
【クラス】アンドロ+バリスタ
【スキル】暗視、抗体培養、他
【所 属】メガロドン海賊団(戦闘員)
【出 身】古代都市ウガリート近海
【適 性】戦闘員