ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(4) 生意気でかわいいじゃないか

アユタヤ滞在中のこと。
ようやく折れた肋骨も完治したので港の辺りを散歩していたら、満身創痍の海賊たちが運び込まれてきた。アユタヤの住民たちは情に厚いのか、困った人がいれば海賊でも救いの手を差し伸べるという習慣があるようで、彼女たちは手厚く治療してもらって、壊れた船まで直してもらっていた。すっかり怪我と船が直った海賊たちは照れくさそうに住民たちに礼を言い、再び大海原へと乗り出していった。

というのが数日前の出来事。
アーモロードに帰還し、アユタヤへの安全な航路を提出した私たちのところに、どこかで見たような見てないような、見覚えのあるようなないような、とにかく海賊たちが走ってきた。
「あんたたち、最近ここいらで名を上げているメガロドン海賊団だろ? ちょっと一緒に幽霊船退治に繰り出さないかい?」
「幽霊船?」
その海賊たち、女提督のザビィと部下のイビールとガブラーが教えてくれたけど、アーモロードの遥か南東の海域にあるトルトゥーガ島、そこで出現した幽霊船が南海全域を彷徨い、アユタヤの漁師たちにまで迷惑をかけているのだとか。
「アユタヤの人たちが、海兵との戦いで傷ついたあたしらを助けてくれたのは、あんたたちも知ってるだろ?」
「あー、あの時の!」
どこかで見たと思ったら、アユタヤに運び込まれた海賊たちだ。すっかり元気になったようでなによりだ。
「恩を返せないままじゃ、あたしらの名前に傷が付いちまう。そこでだ、一発恩返ししてやろうと思ってね! 幽霊船退治に行くのさ!」
なるほど、アユタヤの人たちは情に厚かったけど、彼女たちは義に厚い海賊たちなわけだ。私も海賊の端くれ、こういう義に厚い連中は嫌いじゃないし、むしろ好きな方だ。それに、

【トルトゥーガ島】
ドクロのような奇妙な形の岩山のある南海の孤島。
かつては多くの海賊たちの根城として使われ、岩山に掘られた洞窟の中には海賊王の宝が隠されている、なんて噂もある。荒々しい海流と岩礁に囲まれた海域にあるため、エル・ドラゴ海賊団は訪れなかったものの、私個人としてはいつか行ってみたかった場所のひとつだ。

「その話、乗った!」
「さすがドレークの娘! 話が早いね!」
女海賊ザビィはなにやら勘違いをしているらしく、私を旧エル・ドラゴ海賊団の船長ドレークの娘だと思っている様子。いや、違うけど、と否定したら、
「おや、そうなのかい? アユタヤで見た姿は親子そのものだったけど、まあどっちでもいいさ! 強くて勇敢な女海賊、いつでもあたしの子分にしてあげるよ!」
なんて返してきた。いや、子分になるつもりもないのだけど、まあ目をかけてくれているのだから悪い気はしない。私も手当たり次第に噛みつく狂犬ではない、行動範囲も広がってきたし、ここいらでひとつ、友好関係を築けそうな勢力は抱えておきたい。
「子分になる気はないけど、同盟なら望むところかな」
「ははっ! 生意気でかわいいじゃないか! イビール、ガブラー、酒を準備しな!」
「へい、おかしら!」
「ただちに!」
そんな具合でトルトゥーガ島までの道中、彼女たちは酒樽を中心に置き、どんちゃん騒ぎを繰り広げたのだった。

しかしそこは勇名を轟かせる海賊団、酒を飲むだけが能じゃない。
深い霧の向こうから巨大な衝角を突き立てて、ボロボロの海賊旗をはためかせる幽霊船が現れるや否や、さっきまで泥酔してたとは思えない鋭い動きで幽霊船へと襲いかかり、部下ふたりの強烈な弩に合わせた絶妙な連携を披露する。私も後れを取るものかと幽霊船の衝角に狙いを定めて、ドレーク船長から譲り受けたレイピアの一撃を食らわせ、ついでにコルセアも両手に抱えた銃を構えて怒涛の3連射を撃ち込む。
幽霊船も目の前に現れた敵が並でないと察したのか、雨のような焼玉式焼夷弾を放ったり、より燃えるように油を噴射したり、さらには船体そのものをぶつけるように強烈な突進を繰り出してくる。
死闘は長く激しく、さらには厳しいものだった。体力が尽きかけたザビィがまず最初に倒れ、イビールの弩が粉々に破壊され、それでも諦めずに刺突を繰り出した。ガブラーが当てずっぽうに放った最後の1本が幽霊船の正面、不気味に青く光る瞳のような箇所を貫くと、幽霊船もとうとう力尽きてくれたのか、だんだんと姿が薄くなり、霧の向こうへと消え去ってくれた。
「……勝った?」
「……みたいだな」
「おかしら、起きてくだせえ! 勝ちましたぜ!」
ガブラーに起こされたザビィは満身創痍になりながらも親指を突き立てて、満面の笑みで再び甲板に引っ繰り返っていく。私も満面の笑みで親指を立て返し、治療はコルセアとガブラーのふたりに任せてトルトゥーガ島に乗り込んだ。
もちろん、お宝探しをするために決まってる。



「それで、お宝はあったのかい?」
「いやー、なんにも無かったね。しいていえば船の残骸に積まれてたカルバリン砲と、洞窟の中に転がってた骸骨が持ってたサンゴの首飾りくらい?」
そう、トルトゥーガ島の海賊王の隠した宝は伝説のままとなった。もしかしたら根城にしてた他の海賊団が持ち出したのかもしれないし、あの幽霊船が抱えたまま海の藻屑と化したのかもしれない。カルバリン砲と土産物屋で売ってそうな首飾りが手に入っただけマシだといえる。
むしろカルバリン砲が手に入ったのは大きい。これまで色んな場所で航海の邪魔をしてきた海賊連中、奴らを一掃できると考えたら下手なお宝よりもずっと価値がある。
「ねえ、あんた。今すごく悪い顔してるけど、大砲が打ちたくて仕方ないんじゃない?」
「わかる?」
私はどうやら悪い顔をしているらしい。ザビィたちはやれやれといった様子で酒を飲みながら、砲弾が欲しかったらここを訪ねるんだねと馴染みの武器屋の場所を教えてくれた。
「そうだ、お嬢。アユタヤの大工とインバーの港の主が、幽霊船退治の礼に新しい船を用紙してくれるってよ」
「ほんと!? ガレオンかな? 海賊っていったらガレオン船だよねー」
私は新しい船に淡い期待を抱いたけど、さすがにガレオン船は無理だと後日きちんと突っ撥ねられ、それでも新造のキャラベル・ラティーナを受領することとなったのだった。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


グンデル&イニミラウ


海賊グンデルといえば、それなりに名の知れた海賊だ。少数精鋭でやってるせいで、大海賊と比べたら一段落ちるなんて言われることもあるが、そんなわけはない。一騎討ちなら、あのドレークやザビィにだって後れを取らない自負がある。そんな俺、海賊グンデル様は効率よく稼ぐために、縄張りを南北の海の中継地点アユタヤ近海へと移し、商船相手に悪名を轟かせいていた。
先日も薄汚れた小さな雑魚みたいな船が通ったので、ちょいと一発脅かしてやろうと近づいたら、その雑魚船ビビり散らかしたのか脱兎みたいな速さで逃げていきやがった。それを肴にラム酒を飲み、俺は最近引き入れた副官のイニミラウとゲラゲラと大笑いしたりしてたのさ。

ところがだ、その雑魚船、漁船みたいなナリしておいてカルバリン砲なんて積んでやがった。おまけに夜中、こっちが寝静まってるのを確かめるように慎重に近づいてきて、まだ何もしてない善良な海賊相手にいきなり砲弾を撃ち込んできた。とんでもない奴らもいたもんだ。
俺は髪の毛が逆立つくらい激怒して、当然こう命令を出した。
「野郎共、撃ち返せ! 雑魚が舐めた真似しやがって、容赦する必要はねえ!」
ってな。
しかしだ、砲弾を撃ち込んできた連中、よりにもよって次弾に鉄釘だの小さい鉛玉だのをこれでもかってくらいパンパンに詰め込んでいやがった。おかげで慌てて甲板に出た部下たちは、雨のように降り注ぐ釘だの破片だので瞬く間に壊滅。あまりの出来ごとに呆然としてる隙を突かれて、イニミラウは銃で狙撃されて昏倒。俺も剣を抜いて応戦しようとしたところを、焼夷弾を次から次へと撃ち込まれて、為す術もなくやられちまった。
海の飛び込んでようやく尻にまでくっついてた火を消したところで、雑魚船の船長らしき女に捕まってしまった。

「やあやあ、グンデル君。景気が良さそうでなによりだねー」
「……てめえ、ドレークのとこのクソチビじゃねえか……ぐぇっ!」

その後のことは思い出したくもない。
金玉が無くなっちまうんじゃないかってくらい蹴り上げられて、頭が禿げ上がるくらい土下座して命乞いを強要された挙句、せっかく溜め込んだロック銀を欠片1枚残さず持っていかれて、まさに身ぐるみ剥がされてしまった。
そうなったら海賊としては終わり。小娘に負けた挙句に股座をパンパンに腫らして、みっともなく小鹿みたいな頼りなさで歩いた日には、あっという間に巷の笑いものだ。
どうにかこうにか逃げ延びたアーモロードでしょぼくれていると、
「やあやあ、グンデル君。暇そうでなによりだねー」
「も、もう勘弁してくれ! なんでもするから!」
思わずそう叫んでしまったが運の尽き。今ではメガロドン海賊団の水夫として、馬車馬よりも扱き使われてるって寸法さ。

笑いたければ笑ってもいいぜ。でも金玉が3倍くらいに腫れ上がったら、きっと俺の気持ちもわかるだろうよ。


グンデル
【年 齢】41歳
【クラス】ウォリアー+パイレーツ
【所 属】メガロドン海賊団(水夫)
【出 身】交易都市アイエイア
【装 備】特になし
【適 性】測量士


イニミラウ
【年 齢】29歳
【クラス】モンク+パイレーツ
【所 属】メガロドン海賊団(水夫)
【出 身】商業港アユタヤ
【装 備】特になし
【適 性】操舵手

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