ぷかぷか!メガロドン海賊団航海記(12) 用があるならそっちから来い!


古代都市ウガリートの北の海域、ぐるぐると結界のように渦巻く海流の中心、そこには空中に巨大な島が浮かんでいる不可思議な場所がある。そこは空中樹海と呼ばれているそうで、これまでは航海に疲れた海兵の見た蜃気楼や幻覚なんかだと思われていたけど、私たちメガロドン海賊団が辿り着いたことで実在を証明してしまった。きっと近い将来、公にも存在を認められることになると思う。
初めて到達した時に、世界を見守り続けてきた者と称する謎の声が語りかけてきて、
「か弱き人間たちよ、汝らが大いなる力を欲するならば三界の王たる竜に挑むがよい。さすれば我のいる地まで招き入れよう」
なんて、なんだか物語や伝承に出てきそうなことを言いだした。

しかし私も暇ではないのだ。そんな空中樹海だかなんだか知らないけど、そんなことよりも大事な用がある。
「ちょっと待て、人間。この竜の神たる我よりも大事な用とは一体なんなのだ? そんなものが存在するはずがない」
「あるんだからしょうがないじゃん。竜の神でもなんでもいいけど、私は忙しいの! 用があるならそっちから来い!」
「ぐぬぬぬぬぅ」
といった具合に竜の神とやらは放置して、私たちは珍しい魚がいそうな海域をひたすらに巡っていった。

そう、この世には竜より大事な生き物がいる。それこそがダイマオウイカだ!

【ダイマオウイカ】
この海のどこかに生息する伝説の巨大イカ。
伝説の猟師が一生涯費やしても釣れないとされる一方で、たまたま船に乗り合わせた新米漁師がビギナーズラックで遭遇してしまうこともある。そのため海都アーモロードに運び込まれることは年に数回あることもあれば、10年の間に1度として姿を現さないこともある。まさに海の気紛れを形にしたような生き物なのだ。
ちなみに味はほっぺたが墜落して、以後の人生でもう他の階産物では満足できなくなるくらい濃厚で美味しいとされる。

南北の海の航路を完成させた私は、実家の漁師風居酒屋【シルバーソードⅢ】で盛大に宴会を開こうと考えた。すると娘の偉業を限界まで祝いたいと思ったうちの両親と祖父母と犬が、折角なのでダイマオウイカを用意しようと言い出したのだ。
「というわけでマイラ、ダイマオウイカを釣ってきてくれ」
「頼んだよ、マイラ」
「ダイマオウイカを食べずにあの世には行けん」
「私も死ぬまでに食べたいわあ」
「わん!」
長いこと心配かけた家族に頼まれては私も断れない。助っ人としてアユタヤのドレーク船長や偶然寄港していたザビィたち、それにスミトモやトライルーキーズ、シグナル三姉妹、キリカゼさん、手当たり次第に声をかけて、みんなでダイマオウイカ探しに繰り出したのだ。



それがかれこれ3ヶ月ほど前……

「お嬢、もういいんじゃねえか?」
「そうだよ、マキア。諦めるのも立派な選択肢だよー」
「ギョギョギョ!」
副官のコルセアとマキア、それに護衛のペンドラがもう釣りには飽きたって顔を向けてくる。アンドロのペンドラの表情は正直わかんないけど、たぶん釣りには完全に飽きている。その証拠に甲板に寝転がって、ガッシャンガッシャンと全身を泳ぐように動かしている。
「ま、あえて時間を空けてみるってのも一つの手だな。追えば逃げる、ならばこっちから遠ざかるってのも海賊の戦い方だ」
「そうだねえ、とりあえず1回仕切り直しってのもアリだね」
ドレーク船長やザビィまで同情混じりに言い聞かせてくる。こうなったらもうお仕舞いだ、私の師匠でもある船長と先輩海賊に言われたら引き下がるしかない。悔しさで涙を浮かべながらも、藻の漂う海面に向かって叫んでみせた。

「覚えてろよ、ダイマオウイカ! 絶対釣りあげてやるからな!」

心の中ではもうサンマとかオコゼでいいと思ってる。家族を喜ばせたい気持ちも正直なくなってる。でも海賊としての意地と生来の負けず嫌いな性分が、再びこの海に戻ってきてやると誓わせるのだ。
ダイマオウイカを釣り上げるまでは遊んでいる暇はない。竜の神? そんなものよりダイマオウイカだ。奴を釣らないと海賊としての誇りが許さない!

「うおぉぉぉぉー! イカめぇー!」

私の横でコルセアやマキア、他のみんなが半ば呆れたように笑っている。みんなには悪いけど、もう少し私の挑戦に付き合ってもらう。
だってダイマオウイカ、航路を完成させるよりも竜退治よりもずっとずっと難しい偉業だから……!


(おしまい)

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